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じいちゃん


 じいちゃんが死んでからもう何十年も経つけど、ここ最近、実はじいちゃんは刑務官をしていたということを知った。


 公務員だったってことと、戦争に行って肘を銃で撃たれたってのは知っていた。


 じいちゃんから聞いた話で覚えてるのは、兄弟がたくさんいたけど、貧しかったせいで、何番目と何番目の妹が死んでしまったとか、そういう話だった。


 じいちゃんの兄弟はほとんど生まれてすぐか、病気や衰弱で死んでしまったらしい。



 戦争の話はあまり話さなかった。


 肘にある古傷のことは、鉄砲の玉が当たったんだってことだけ、本当にそんなくらい簡単に教えてもらったくらいだった。


 じいちゃんが刑務官をしてるとき、家は刑務所のすぐ裏にあったらしい。

 というより、刑務所に勤めている職員の人たちはだいたいその辺に住んでいたらしい。


 完全に物理で目と鼻の先の職場なのに、塀をぐるっと回らなきゃいけない分、距離はそれなりにあったらしい。


 散髪代は受刑者の人に切ってもらっていたから、すごく安く済んでいたとか。


 父も小さい頃は刑務所で散髪してもらっていたそうだ。


 出所すると、わざわざ自宅まで挨拶をしに来てくれる元受刑者さんもいたらしい。


 自宅が割れてるって怖くない? って家族に聞いたけど、昔はそういうもんだったって言っていた。


 今はきっと違うのだろう。




 俺は経験がないけど、昔は学校の先生ってやつは、勉強についていけないやつの面倒をみるために、休日とか夜とかでも自宅で勉強を教えてくれる人がいたらしい。

 んで飯とかも食わせてくれたりするらしい(昭和のドラマ情報)


 俺の友人も大学落ちたときに、塾やってる近所の先生から『お前はまずは中1レベルからおさらいだ』と言われ、1年かけてしごき倒され国立大へ合格させてもらっていたやつがいる。


 毎日ずっと1日中通っていたらしい。

 それこそそこの家族と飯もよく食ってたらしい。

 しかも、ほとんどボランティアみたいな金額で面倒をみてもらったそうだ。


 個人塾の先生らしいが、『あいつ大学に受からせるとか神かよ!』ってマジで感動したのを覚えている。

 なぜなら俺もそいつに勉強を教えたことがあったけれど、話にならなくてマジ無理ゴメンと挫折したことがあったからだ。



 なんか今ってそういうの、なくなったなって思う。



 なんかヤバいのが紛れてて怖いから、お互いがお互いを疑って、ビクビクして近づかないようにしてるって感じがする。


 でも気持ちはわかる。

 もし俺が教師だったら、自衛のためにも絶対に住所なんか漏らさないと思うし、絶対に生徒を家に呼んだりしない。


 生徒が嫌なんじゃない。

 そいつらの背後から出てくる親が嫌だからだ。


 昔はガキだったから気づかなかっただけなのか、最近の親に親らしくない親が増えたのかは分からないけど、お前らの方がよっぽどガキじゃね? って思うやつが結構あちこちにたくさんいる。

 心の底から関わりたくないと思う。



 そういえば昔、薬局利用者の婆さんに気に入られてしまい、友だちになってくれ、住所を教えてくれ、個人携帯の番号教えてくれって毎日しつこく電話攻撃されたことがあって業務に支障が出たことがあった。


『会社の規定で禁止されています(嘘)』の定型文を使用し、何度もお断りをした。


 もう完全にこっちのプライベートが崩壊する未来しか見えなかったから、絶対に何も教えないでくれって職員全員に箝口令(かんこうれい)も敷いた。


 俺にボランティアはできない。


 たとえ金をもらったとしても、赤の他人が自分のテリトリーに侵入してくるのは嫌だった。


 人に優しくできるのは、心に余裕があるときだけだ。


 俺は大切な人に対しては優しくいたいと思っている。

 だけどあまりキャパが大きなわけでもないから、優しさを配る相手は厳選するしかない。

 その件につきましては誠に遺憾に思います。


 遺憾には思うけれど、溺れた人間を助けるために自分が溺れたら元も子もないので、他人に対しては気まぐれでたまーにね♪ くらいの頻度で優しさをこぼせばいいと思ってる。

 もちろん自分が薄情な人間だという自覚は持っている。



 人間対人間の心の通い合いが減ったのって、卵と鶏どっちが先かって論になりそうだけど、他人に対して敬意とか尊敬とかを持てなくて、自分の便利な道具だとか勘違いしてるやつが増えたせいなんじゃないのかなって思う。


 最近の流行りだと、俺の多様性は認めろ、でもお前らの多様性は認めない、みたいなやつらかな。



 適切な距離感をつかめない人間が増えた気がする。


 そういうやつらを片っ端から排除して、平和で静かな世界を築きたい衝動にかられるときもあるけれど。


 そういう攻撃的な自分に気づいたら、ダメだな良くないなって思い直して、じいちゃんのことを考えるようにする。



 じいちゃんは優しかった。


 家族で唯一、いつでも俺の味方だった。


 弟と比べて、要領が悪くて、成績も悪くて、器量も悪い。そんなだめな俺の味方でいてくれた。


 ふてくされて反抗する俺に、いつでも優しかったじいちゃん。


 でもムカついてふすまを蹴り飛ばしたら、すげえ怖い顔で俺にお尻ペンペンしてきたじいちゃん。


 あれは痛かったし怖かったなあ……。

 なんでだか、すげえそのこと覚えてる。

 めっちゃ泣いたわ。




 懐かしいな。


 じいちゃんと、もっと話がしたかったなあ。


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