奴隷を買う
ーー俺は途方に暮れていた。
「失敗した失敗した失敗した失敗した俺は失敗したーー」
結局5万Gを支払って何の戦果も挙げられずに撤退してしまった。
これじゃあ元の世界の頃と何も変わらないじゃないか……
「あー。どうすっかなー。」
俺はうわ言のようにそう呟いた。
結局のところ俺に風俗はハードルが高かった。そもそもそんな簡単に童貞を卒業できるのなら元の世界でも苦労することはなかった。
それに元の世界では素人童貞という言葉もあるわけで……
「ん?……あれは?」
失意の中にいる俺にとある店のある単語が目に入ってきた。
それは元の世界では見慣れないものだった。
「奴隷……奴隷か。」
異世界らしいと言えば異世界らしい単語だ。
実は俺も考えていない訳ではなかった。ただ、手持ちの金で果たして買えるのか……
「まあ、行ってみるか」
俺はとりあえず店の中に入ることにした。
もし買えなくても相場を知ることはできるし無駄ではないだろう。そう考えたからだ。
「……いらっしゃいませ。」
店の中に入ると一人の男が俺を出迎えてくれた。
男は少し小太りで背が低くサングラスのようなものを掛けた胡散臭い感じの人物だった。一応見た目は人間のようだった。
「本日はどのような奴隷をお探しで?」
「……女だ!!女の奴隷を探してる!!」
「……なるほど。種族はどちらに??」
「人間だ!!人間の奴隷が欲しい!!」
「左様でございますか。予算はいかほどでございましょうか?」
「……5万Gだ。」
「……なるほど。5万Gですと人間の奴隷は少し厳しいですね……亜人などはどうでしょうか?」
「……そうか。まあこの際亜人でもいい!!とにかく女の奴隷を売ってくれ!!」
「わかりました。ではこちらへどうぞ」
奴隷商の男はそう告げ店の奥へと歩いて行った。俺はその後ろについていくことにした。
店の奥には細い通路があり通路の両端には檻のようなものがあった。中には人間が全裸で捕らえられていて女の姿も見受けられた。くそ……金さえあれば。
そんなことを考えながら歩いていると奴隷商の男が足を止めその場に立ち止まった。
「5万Gですとこの辺でしょうかね。」
「……わお。」
……悪くない。……いやむしろいい!!
正直俺は足元を見られ在庫品を押し付けられると思っていた。
だが、目の前のケモ耳は実に魅力的で俺好みだ。顔も可愛いし、胸もデカい。正直文句のつけようがない。
「戦闘力は低いですが鼻が利きます。中々に便利かと。」
「ふーん。そうなんだ。」
そんなことはどうでもいい。
見た目良ければ全て良しだ。
「他の奴隷も見てみますか?」
「まあ……そうだな。一応見せてもらおうか。」
まあ即決でも良かったがせっかくだし他のも見せてもらおうとするか。焦る必要もないしな。俺はそんな呑気な事を考えていた。
だが俺はここで即決しなかった事を後々後悔することとなるーー
「……なあ、おっさん。この隣にいる奴は死んでるのか?」
「ああ、それですか……それはもう駄目ですな。本日中に処分する予定ですよ。」
「……そうなのか」
「お客様これが気になるので?…………やはりお客様は魔法使いでしたか。」
「っ!!!!、は?ちょ、おま、何言ってーー」
「ここに来た時から薄々と気づいておりました。たしかにそれは獣人の中でも希少なガルディア族の末裔です。高い戦闘能力に魔法まで使える有能な商品ですがご覧の通り……とても売り物にはなりませんな。」
「……病気にでも感染してんのか?」
「おっしゃる通りで。貴重な商品ですから一応知り合いの魔法使いにも見せたのですが手の施しようがなく……まったく手間だけかけおって。」
奴隷商は少し不機嫌な様子でそう言い放った。まあ俺もこいつのせいで少し不機嫌なわけだが。
……しかし少し可哀想だな。檻の中でボロボロの姿で横たわっている少女を見てそんなことを思った。まだ10歳位だろうに。
「そういえばさっき『知り合いの魔法使いに見せた』って言ってたな?回復魔法とか使ったのか?」
「はい。南の町にいる大魔法使いに回復魔法をお願いしたのですがどうにも治らなくて」
「南の町の大魔法使い??」
もしかしてあの爺さんではないのだろうか。俺は南の方角から来たわけだし……まあそんなことはどうでもいいか。
「因みに回復魔法ってどう唱えるんだ?」
「……そなたに翼を授ける……ヒール!!……たしかそう唱えておりましたね。」
「そのキャッチコピーみたいなやつ本当に必要なのか!!??」
『ヤサイマシマシニンニクアブラカラメ』といいこの世界の魔法は一体どうなっているんだ……。
お前らはそれでいいかもしれないが元ネタを知っている身としてはどうにも緊張感にかける。
「……でもまあ翼は授からなかったんだよな。ならもうそいつは助からないのか。」
「……大魔法使いによると彼女に名付けを出来るものになら救えるかもしれない、そう言っておりましたね。」
「名付け?そいつに名前を付けてやればいいのか?」
「はい。まあ名付けを出来る魔法使いなど見たことがありませんが。」
「名付けか……」
猫耳が生えているし、もし名前を付けるなら『タマ』とかだろうか。いや、少し安直すぎるか。
そうだな……俺なら中学生の時好きだった子の名前を付けるな。たしか……
「ユキ」
俺が中学生の時に好きだった子の名前を呟いたその時だったーー突如檻の中にいた少女が発光した。
「ーーっ!!!!……こ、これは……」
しばらくすると発光は治まり、檻の中には先ほどと少し様子が異なる少女の姿があった。
少し成長?健康的になったような……一体どういうことだろう?
俺は何が起きたのか理解できず檻の中を眺めていた。
「……どうやら名付けに成功したようですね。」
「は!!??俺はただ初恋の子の名前を……」
「クスクスクス……これも運命……なのですかね」
「お前何言ってんだ……?」
「その子はあなたに差し上げましょう。」
こいつは何を言ってやがるんだ。どう見たってこれ未成年だろ。
この世界の法律は知らないが流石に未成年に手を出してはいけないという常識位、俺だって持ち合わせている。ロリが許されるのは2次元だけだ!!
「いや、いらなーー」
「まさか生きてる間に勇者様に会えるとは……長生きはするものですな。」
「ゆ、勇者……??」
「クスクスクス……私は今、伝説に立ち会っている。」
……どうやらさっきの子が欲しいなどと言える雰囲気ではないようだ。
俺は場の雰囲気に流され結局『ユキ』を引き取ることになってしまった。
「……クソがぁーーーー!!!!」
この作品に初めてのブックマークが付きました。マジ感謝