地雷
ーー爺さんの導きで俺は北のほうへと歩みを進めていた。
「……しまった。爺さんに相場を確認すべきたっだか。」
俺は爺さんにこの世界のことを聞いとけば良かったとそう考えていた。
今の手持ちは10万5000G。果たして何分コースで入れるだろうか。
俺は元の世界でソープに行ったことがある。その時は只60分間好きなアニメの話を熱弁して時間が終わってしまった……俺には覚悟が足りなかった。
だが今は違う!俺はヤル気に満ち溢れている。なにせ童貞を卒業しないと元の世界に帰れないからな。
来週のマジカルキュアキュアを見逃す訳にもいかないし、まあ爺さんのこともあるしな。
「今のうちにシミュレーションしておくか……」
相場がわからない以上失敗は許されないかもしれない。
俺はそう考え一連の流れをシミュレーションすることにした。
「まず……アニメの話や余計な会話は避けよう……とりあえず髪の匂いを嗅いで雰囲気を作ろう。その流れで一緒に体を洗いっこして挿入……完璧じゃないか!!」
シミュレーションは完璧だ。のちの三順まで今の俺には見えている。
もう恐れるものは何もない。俺は軽い足取りで目的の地まで向かっていった。
「っ!!……おお。これは遊郭か!?」
目の前に広がっているのは華やかな光景。
通りは人だかりで賑わっており建物も派手な感じで大人な雰囲気を醸し出している。
「……本当にあった!!……爺さん俺ヤルよ……爺さんの夢俺が叶えるよ!!」
決意を胸に俺は遊郭へと足を踏み入れた。
「……それにしても凄いな。亜人専門店、サキュバス店まである……」
「そこの旦那!!本日は何をお探しで?」
俺が通りを見渡しながら歩いていたら、チャラそうな金髪の青年が俺に話しかけてきた。
恐らくキャッチだろう。
「お、女と一発ヤリに……」
「でしたらうちの店はどうでしょう!!人間、亜人、魔族何でも揃ってますよ!!」
「そ、そうですか……ちなみにおいくらほどで?」
「そうですね……60分コース5万Gでどうでしょうか?」
悪くないか……どのみち童貞を卒業すればこの世界の金なんて不要だしな。
ここは大人しく彼に任せてみるとするか。
「わかった。それで頼む。」
「はい!!ではご案内しますね!!ついてきてください!!」
「ああ。」
そうして俺はチャラ男の後に続き目当ての店へと向かっていった。
道中チャラ男は俺に世間話のような軽い話を投げかけてきたが俺はそれどころじゃない位に緊張していたため会話の大半は耳に入ってこなかった。
「着きました!!こちらになります!!受付には念話で話してあるのでお会計だけ済ましてお好きな子をお選び下さい!!」
「ああ。わかった。ありがとう。」
チャラ男は爽やかな笑顔をこちらに向けその場から去っていった。
「よし……行くか。」
俺は覚悟を決め店の中へと足を踏み入れた。
受付にはスーツ姿で鬼のような見た目をした生物が仁王立ちしていた。おそらく魔族というやつだろうか。俺は恐る恐る近づき話しかけてみた。
「あ、あのー……」
「いらっしゃいませ。スタンリーから話は伺っています。お先にお代のほうをお支払いください。」
「わ、わかりました!!5万Gですね!!」
意外にも丁寧に対応してくれたので俺の緊張は少し解れた。
俺は小袋の中に入っていた5万Gを取り出し、受付の男に差し出した。
「……たしかに。それではこちらへどうぞ。ーーではお好きなのをお選びください。」
受付の男は代金の確認をした後、奥の扉へと俺を案内し、扉を開きながらそう告げた。
扉の向こうでは10人程の女性が正座をしてこちらを見つめていた。
「こ、この中から好きなの選んでいいんですか!?」
「はい。ご自由にどうぞ。」
正直驚いた。どの子もかなりレベルが高い。俺は10人全員を見渡し少し考えることにした。
ケモ耳が5人、魔族っぽいのが2人、普通の人間が3人か。
正直ケモ耳にはかなり興味が惹かれるが初めての相手としてはハードルが高い気がする。それに初体験エピソードを話す機会があったとして、相手にケモ耳が生えていたとか言った日には……ここは普通に人間の中から選ぶことにしよう。
「……この子で!!」
俺は人間の女性の中から一人を指差し受付の男に告げた。
選ばれたのは少し地味目だが胸がデカく綺麗な黒髪の眼鏡っ子だった。
3人ともめちゃくちゃタイプだったので正直誰でもよかったのだが、その中でも一番おとなしそうな子を選んだ。
「承知しました。ーーアリス!!お客様を部屋まで案内しろ!!」
「はい。お客様私についてきてください。」
「う、うん!」
アリスちゃんと言うのか。実に可愛い名前だ。俺の初めての相手にふさわしい。
俺は興奮を抑えアリスちゃんの後ろをついていった。
アリスは扉の前で立ち留まりドアノブに手をかけ一緒に中に入るよう促してきた。
俺はアリスと部屋へと入り一緒にベッドへと腰かけた。
「お客様、私なんかを選んでいただきありがとうございました。」
「ま、まあ亜人は抱き飽きてるし、人間はき、君以外全員ブスだったし!!」
「……そうですか。ありがとうございます。」
「……」
どうやら想像以上に根暗なようだ。少し地雷臭がするな。
いきなりがっつき過ぎても良くないし少し会話を試みることにした。
「ア、アリスちゃんはいつからここで働いてるの??」
「5年前くらいからです。」
「そ、そうなんだ!!結構長いんだね!!どうしてここで働いてるの?」
「……私の両親は5年ほど前に魔族に殺されました。生き残った私はこの店へと売られ今に至ります。」
「……」
空気が重い……ここは俺がリードしていかなくては!
そう思い俺はシミュレーション通りに事を進めていくことにした。
「……綺麗な髪だ……『クンカクンカ』……いい匂いがする……『ニチャア』」
「……ありがとうございます」
「……君もしかしてボ、ボクのこと嫌い??」
「……そんなことないです」
……参ったな。とてもそんな雰囲気になれない。
ここは少し場を盛り上げなくては、そう思い俺は彼女に少し話題を振ってみることにした。
「な、なんか趣味とかある?アニメとかゲームの話でもいいよ!!」
「……アニメ??……ゲーム??ごめんなさい……わからないです。」
「……そうかこの世界には存在しないのか。だ、だったら本はどうかな?好きなお話とかあるかな?」
「本……ですか。ごめんなさい、そんな高価なものは見たこともありません。」
「本が高価……そうなのか……じゃあさ、俺が書いてた小説……本の話を聞いてもらってもいいかな?」
「本をお書きになられているのですか??ーーす、すごいです……」
アリスは驚いた様子で俺を見つめていた。どうやらこの世界では本は珍しく高価な物らしい。
俺は少し得意げになり、アリスに元の世界で書いていた自分の小説について語り始めた。
まあ元の世界では散々な評価で途中で書くのを辞めてしまったのだが……
「ーーど、どうかな?」
「つ、続きは!!??。その後、アリアナはどうなるんですか!!??。私気になります!!」
「え、まあ……続きはまだこれから書くところだけど……」
「……そ、そうなんですね……ありがとうございます……とても、とても楽しかったです。」
どうやらアリスは俺の書いた小説をえらく気に入ったようだった。
元の世界でもこれほど絶賛してもらえたことはない。わかる人にはわかるものだと俺は関心をしていた。その時だったーー
「あ、あのお時間が来てしまったみたいです……」
「え!!??」
どうやら念話?とやらで指示を受け取ったアリスが俺にそんなことを告げてきた。
俺はまだ何も成し遂げていないのにーー
「とても……楽しいひと時でした……ありがとうございました。」
「え、うん……な、ならよかった……」
「あの、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ゆ、ゆうただけど。」
「ゆうたさん……あなたのことは一生忘れません……ーーーー」
アリスは最後に何かを呟いていたがよく聞き取れなかった。
こうして俺の挑戦は失敗に終わったーー
ーーゆうたが部屋を去った後アリスは部屋の天井を見つめながら物思いにふけっていた。
「ゆうたさん……あんなに優しい人初めて会った……私の王子様。必ずーーーー」