魔法使い爆誕
――1月1日俺は初詣に来ていた。
「今年こそは……」
俺がこの神社に来たのはこれで9回目だ。
二十歳の頃から通い未だに叶えられていない願いがある。
そう……童貞を卒業することだ。
世間では三十超えても童貞だと魔法使いになれるという。
俺はそんな不名誉な称号はいらない。
実際に魔法使いになれるのか興味もあるが、そんなことはまあ……ありえないだろう。
そうこうしているうちに参拝の順番が回ってきた。
この神社は人こそ少ないが恋愛運気上昇のパワースポットで地元では結構有名だ。
俺の願いもきっと……多分……叶えてくれるはず!
そして財布から5円玉を取り出し俺は目を瞑り神に祈りを捧げた。
『神様!今年こそは童貞を卒業させてください!お願いします!』
『……いや、祈ってばっかじゃだめだな……。俺も最大限努力致します!どうかお願いします!』
「よし!これで大丈夫!」
ーーそれから1年が経った。
俺は童貞のままだった。
この1年俺は頑張った。
ゲームのオフ会にも参加したし、出会い系アプリで何人かの女性と会ったりもした。
しかしオフ会では気の合う女性はいなかったし、出会いアプリで会った女性は俺のタイプではなかった。
俺は何も悪くない。強いて言えば少しぽっちゃりでニートなだけだ。
俺はとてつもなく運が悪かった。結局神頼みなど何の意味もなかった。
1月1日、今年は初詣に行かず俺は眠りについたーー
「ーーーさん……ーーたさん」
「……なんだ?誰の声だ?」
「ゆうたさん」
「……誰だ?」
「神です」
「……神?」
「あなたは魔法使いになってしまいました……」
「……馬鹿にしてんのか?そもそも神ってどういうことだ?」
「……あなたの祈り届いていましたよ……すみません叶えてあげられなくて」
「……胸糞悪い夢だな」
なぜか神が夢の中に出てきたので俺は文句を言うことにした。
「毎年毎年参拝しに行ったのにどうして駄目だったんだよ!俺は頑張ったのに!」
「……そうですね……本当に申し訳ないと思っています。」
「……そういえばさっき魔法使いになったって言ってたな?馬鹿にして言ったんじゃないなら本当に俺は魔法使いになったのか?」
さっきの神の言葉に苛ついた俺は皮肉を込めて神に問いかけた。
「はい……本当のことです。なのであなたには異世界に行ってもらいます。」
「異世界?なぜそうなる?」
「あなたのいる世界に魔法という概念はありません……あなたはこの世界では異質な存在になってしまいました。」
「魔法使いになったらこの世界にいられなくなる……?なんだそれ……」
「あなたにはこれから魔法が存在する世界に行っていただきます。そこで童貞を卒業して来てください。」
「……童貞を卒業……詳しく聞こうか?」
「童貞を卒業すればあなたは魔法使いではなくなります。そうすればこちらの世界に帰ってこられます。」
「……なるほど悪い話じゃないな。異世界にも少し興味がある。」
「それと、もう一つの帰還方法があります。」
「なんだ?」
神は少し照れたような声で告げた。
「魔王を討伐してもこちらの世界に帰ってこられます。」
「魔王を討伐?童貞卒業と関係ないじゃないか?」
「……もしあなたが魔王を討伐してくれたら私が童貞を卒業させてあげます」
「おお!まじか!?……いや、なかなかいい声をしているがお前見た目はどうなんだ?」
「どうとは?」
「俺はかわいくて胸の大きい女が好きなんだよ!」
「……そこは安心してください。私は充分に魅力的だと思いますよ?」
「ほんとにー?まあでも魔王を討伐しなくても童貞を卒業すればいいだけか。」
「……まあそうですね。私としては魔王討伐をおすすめしますが。」
「嫌だね!俺もう頑張りたくないし!……ところで俺は異世界で魔法使えたりするのか?」
「……はい。」
「おお!もしかしてその世界で俺は結構強かったりするのか?」
「……その世界では童貞のみ魔法が使えます。魔法は年齢を重ねる毎に強くなっていくので、ゆうたさんは結構お強いと思います。」
「おお!……え?今馬鹿にされた気が……」
「ほとんどの人間は魔法使いとしてではなく、普通に結婚して子供を作り生涯を終えます。なかには魔王を倒すために望んで大魔法使いになる人もいますが。」
「その世界での魔法使いってなんなんだよ!?」
童貞のみ魔法が使えるって……魔法使ったら童貞がばれてしまうじゃないか。
それに大魔法使いって……魔王討伐を言い訳にしてるただのモテないおっさんとしか思えないんだが……
「説明は以上です。何か質問はありますか?」
「……まあなんとなくわかった。ともかく童貞を卒業すればいいんだろ?……あ、家と金くらいは用意しといてくれるよな?」
「……もちろんです。最低限の住まいと10万Gをご用意させていただきます。ではご健闘を祈っています。」
「お、おい!10万Gってどんくらいのーー」
ーー目が覚めたら知らない天井だった。