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余った分はファナが言ったように、昼の弁当にするのか小さく切った油紙の上に小麦の皮を並べて、野菜の酢漬け、チーズ、肉、卵などを適当に並べてくるくるっと巻いて母親があっという間に人数分に包んでしまった。気づけば木の実も人数分に小分けされていた。
「はい、あなた。トランもヤンもトックも持って行って。リァンさんも遠慮しないで。ファナとカドさんもいかが?」
工房に行くと言って席を立とうとする父親や息子達に次々に手渡して行った。
「今日の予定は?」
「今日は午後からだから一回帰ってから、宿屋に行くわ。絨毯や外套も返さないと行けないし」
「わかった。日が落ちた頃に迎えに行くよ」
父親、兄、トックの後に続いて家から出る前のヤンに言われてリァンは頷いた。じゃあ、後でとヤンは言いかけてふと自分の作務衣の中から小さな箱を取り出した。
振ればカラカラと軽い音がした。
不思議そうに見るリァンの手のひらに乗せて蓋を開けた。
星の形をした砂糖菓子だ。
「あげるよ」
そう言って一粒摘んで、蓋を閉じ、自分の唇に砂糖菓子を押し当てた。
すかさずリァンと唇同士を押し当てて、ペロリと砂糖菓子をリァンの唇の内側に押し込んだ。
「あ…甘い…?」
「甘いなぁ…行ってきます。また後で」
ヤンはそう言ってヘナヘナと腰が砕けてその場に座り込んだリァンに手を振ってイタズラ好きな笑顔を見せて家から出て行った。
「あらあら」
「まあまあ」
「おやおや」
ファナと母親と義兄の声が聞こえてきてリァンは体を震わせた。
リァンの頭の上であの子ってあんな子だったかしら?、仲良いのはいいけど、リァンも砂糖菓子みたいにすぐにヤンに食べられちゃいそうだ、注意しても効かなさそうだ、だったら婚礼式を早めようか、衣装が間に合わない、新居はどこにする、新婚用の家具を探しておこう、今から妊婦用の服を仕立てた方がいい、ついでに子どもの服やおしめ用の布を手配しておこうと好き勝手なことが話し合われた。
「あの、私ももう行きます!!」
頭の上で繰り広げられる会話に耐えきれずリァンは真っ赤になった顔を俯かせたまま慌てた様子でその場を後にした。
「孫が増えるの楽しみねぇ…」
「気が早いわ、母さん」
「そうかしら?」
「準備をしておいて損はないさ」
「そうねぇ、ふふふ」
母は将来仲良さそうに寄り添って赤ん坊の世話をするヤンとリァンを思い浮かべて楽しそうに笑った。
「さてさて、今日のお夕飯は何にしようかしら?」
将来は将来、とりあえず気にするべきは今日の夕飯だ。
今日から末の息子と近い将来一緒になる娘が同じ食卓について華やかさを添えてくれると言うのだから。
楽しみな反面、緊張するのは姑の立場になる自分だってそうだ。
ご飯を食べにきてくれるのも一緒にお買い物行ったり準備したりも嬉しい。
だけど、家族との縁が薄いせいか、自分たち家族との距離が測りきれず緊張を隠しきれないあの子が心落ち着ける距離を取りたいと思う。
そんなあの子をヤンチャで甘えの抜けない末の息子がちゃんと守って、仲良く幸せでいてくれたらいいな、と思うのであった。
終わり