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視線を天空に移すと、無数の星がこぼれていた。
「うわ・・・」
リァンとヤンは言葉を失った。
少しでも空が近くなるようにと立ち上がって、空を見上げた。
1つ2つと星が流れたと思ったらあらゆる方向から星が流れ、目で追っていたら追いつかず、目を回したかのようにリァンは砂に倒れ込んだ。
「うわ!」
驚いた声で腰に手を伸ばされて抱えられそうだったが重力には逆らえなかった。
リァンの上に重なるように、リァンを潰さないようにヤンも倒れてきた。
砂の上に仰向けに倒れたリァンを囲むように手をつき、脚もリァンの体を囲うように膝をついていた。
「大丈夫?頭打ってない?」
「うん」
そうやりとりして2人でハタっと気づいた。
今にも互いの唇が触れ合いそうな場所にあった。
2人そろって顔を真っ赤にし、はっきりとは見えないものの視線は絡み合った。
唇同士が触れ合った。
軽い触れ合いを繰り返しているうちに、少しずつ長くしっとりとした口付けに変わってきた。
潰さないように囲われていたリァンの体も服はあるもののヤンと一つになるようにぴたりと重なった。
まるで一つの生き物が神の怒りに触れて引き離され、ようやく出会えたような感覚だった。
互いの唇の感触に脳がしびれたかと思うくらい何も考えられなかったし、体も痺れた。
しばらく、そのまま唇だけで触れ合った後、ヤンは唇を離し、リァンを抱えたままゴロンと砂の上を転がった。リァンはヤンの上に乗った。リァンはヤンから降りようとするが、ヤンの腕が腰に絡まっていて降りられそうもなかった。
「重いから…」
ジタバタするリァンの目を覗き込んでヤンは不思議そうな顔をする。
「温かくて気持ちいいよ」
そう言ってリァンの頭に回された腕に誘導されるかのように再び口付けをされたら力が抜けたようにヤンの上に重なった。
「見て、すごく大きい星が流れてる」
ヤンの上に重なってしばらくたった頃、そう言ってヤンはリァンに腕枕をして隣に転がした。
ヤンは作務衣の懐から屋台で買った星形の砂糖菓子が入った箱を取り出した。一粒つまんで、唇で咥えて、リァンと口づけた。
「え・・・甘い?」
「星のかけらだってさ」
そのあとも2人は砂の上で上になったり下になったり、口付けを交わしながら転がって気づいたら砂まみれになっていた。
体を起こして、バサバサと衣服を振りながら砂を払い落とし、顔を見合わせあって絨毯の上に座り寄り添い抱き合って星を見上げ口付けを交わし合った。
ヤンは時々砂糖菓子を口に含んで、口づけるとリァンがその甘さに驚いたり喜んだりした。
じゃれあいは星が落ち終わるまで続いた。
朝の太陽が砂漠に反射して、その眩しさでリァンは目を覚ました。
絨毯の上に寝転がっていたのはいいが、ヤンの腕にガッチリ抱かれていたのに驚いた。
昨夜は満天の星空の元、散々ベタベタとひっついて砂の上をゴロゴロと転がり重なった唇も離せないでいたにも関わらず、一夜明けて太陽の元ではそんなことできそうもなかった。
今のこの状態も昨夜のことも急に恥ずかしくなって、ヤンの腕の中から逃れようと必死でもがいても、ヤンの腕は外れず、逆に目を覚ましたヤンに余計に抱き込まれることになった。
ふわりと漂ってきたヤンの匂いにドキリとして、思わず声を上げてしまった。
「リァン、興奮してる?」
ニヤニヤとイタズラ好きそうな目に熱を込められて見つめられ、がっちり抱きしめられてリァンは言葉も出せなかった。
「兄ちゃん、姉ちゃん、もう朝だぞ。サカるな。続きは夜やれ」
声をかけてきたのは警備隊だ。朝になって砂漠に迷い込んだものがいないか、怪我をしているものはいないか見回りにきたのだろう。
警備隊も目を合わさないようにしてはいるが、朝っぱらから砂漠のあちこちで抱き合っている男女に呆れ返っているようだった。