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星降る夜の二人ご飯 1

「おーい、ヤン。最近付き合い始めた彼女がいるんだって?」

昼下がり、ヤンは取引先の工房に納品に来て、新たな注文を受け取ったところ、幼馴染というか同じ工房で小間使いや見習いを一緒に経験した友人に声をかけられた。

場所は、小間使いや見習いを経験した工房で、ヤンの父親が役付きで指導者を務めている。

ヤンは色ガラスの研究という名目で、兄と一緒に独立させてもらって、下請けもしているが、この友人は変わらず同じ工房で職人を務めていた。

「付き合い始めたというか・・・」

歯切れの悪い幼馴染にピンと来たようだ。

「どうせ、お前のことだからなにかやらかしたんだろ?」

言葉に詰まった。

やらかしたは図星だった。

幼馴染の声で、同じ釜の飯を食った仲間がわらわらと集まってきた。

どうやら、ヤンに最近「良い相手」ができたという話を聞いて、何とか話を聞きたいと思っている仲間ばかりのようだ。

「何をやらかしたんだよ?」

「どんな娘?」

「どこで働いてるの?」

「年は?」

「どこまでいった?」

ヤンと年も変わらない彼らがヤンと付き合い始めた娘に興味を持つのは当然のことかもしれない。

それにしても、基本的なことを彼らが聞いてくるということは、父親は何も言っていないのだろう。

というか、仕事中の父親にヤンと付き合っている娘の情報を聞ける幼馴染はいないだろうと思った。

「おい!お前ら!!」

怒鳴り声が聞こえて、彼らの肩がびくっと震えた。

「さぼってねぇで仕事しろ!!」

ヤンもその声にびくっと体を震わせた。

家でも父親は無口で必要最低限しか話さないが、仕事となると威厳が増して余計に怖かった。

職人となってからは、話せる内容も増えたが、それだって仕事の内容がほとんどで、話を横で聞いている母親が少し呆れているのはよくわかっていた。

「ヤン!お前も納品が終わったらさっさと帰れ!!」

「は・・・はい!!」

反射的に返事をして慌てて工房から飛び出した。

今回ばかりは父親に救われた気がした。

付き合いたての娘の情報をあの幼馴染たちの前で話すなんて、ただ興味をひくだけだから。

あの気のいい連中は興味をひかれたからって、彼女に無理に手を出すようなことはしないだろうが、心配しておくに越したことはない。

明日どころか、今日の夕方には彼女が働いている宿屋の周りをあいつらがうろつくようになってしまい、宿屋の姐さんたちからきっと小言を言われることになるだろう。

「おーい、ヤン!」

後ろから声をかけられて振り返ると、初めに声をかけてきた幼馴染だ。

「なんで?」

「ん?昨日火の番したから今日はもう上がり。で、どんな娘?なにをやらかしたんだよ」

「ん・・・ああ・・・」

結果的とはいえ、出会ったその場で「求婚した」とはさすがに言えなかった。

「もしかして、噂がマジってやつ?」

「噂って?」

「隊商の隊長と取り合った娘って奴・・・」

間違ってそうで間違ってなさそうな噂に言葉を失った。

「取り合ったっていうか・・・」

否定したくてもどう否定しても真実にならなそうなので、ヤンは言葉に詰まった。そんな様子を見て、幼馴染は勝手に納得してくれた。

「どこまでいった?」

「どこって・・・」

「もうやった?」

「まだ」

この答えは間髪入れず答えてしまって、口を押えた。

仲間内の誰かに彼女ができたとか好きな相手ができたとかすると誰かしらが必ずこの手の話題を振った。

付き合い始めて、頭の片隅にいつもあって、聞かれて反射的に答えてしまったのだ。

「まだか・・・今夜、星が降るって知ってる?彼女誘って行って来いよ。で、やって来いよ」

「はあ!?」

幼馴染はニヤニヤとしている。

町の天文所が星を観測していてわかったのだが、今夜から明日の朝にかけて星が降るのだそうだ。

普段よりも多くの星が降るということで、ちょっとした祭りになるらしい。

特別にその時間に合わせて夜市が立ったり、相手のいる男女が星を見るにかこつけて会ったりするのだそうだ。

相手がいない男女もこんな時だからと、示し合わせて町の広場に繰り出すのだそうだ。

「相手を探すなら町の広場だけど、相手がいるなら砂漠にちょっと入ったほうがいいと思うんだよね。ちょっといい夕飯や甘いものもって行って来いよ」

「そういう自分は?」

「俺?広場に行く予定」

ヤンの唇からため息が漏れた。

この幼馴染は昔から思い入れている相手がいたはずだが、どうやら進展はないらしい。そんな相手に自分の話などできようはずもない。

「ていうか、やって来いよ」

「砂漠でか!?」

幼馴染は噴き出して、腹を抱えて笑い出した。

「いやいや、お前、いくら何でも初めての女と外でやれとは言ってねえよ。気分盛り上げて、お前んちは確かに無理だけど、時間貸ししてくれるところならいくらでもあるだろ?」

「まだ、付き合い始めたばかりだ」

「今時見習いだって、会ったその日にやってるよ」

「それ、うちの父さんの前で言うなよ、その見習い殴られるだけじゃすまないから」

「あー・・・黙っとくよ・・・」

その幼馴染はなんだかんだと話しながら、ヤンの工房までついてきてしまった。


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