悪魔、天界へと
《5話》
【天魔結界内部】
フィーゴの足にしがみついたまま結界に入り3分程経っただろうか…先程入る前にフィーゴから俺は悪魔な為違和感があるかもしれないという話を聞いていたが、やはりこの3分間視界がグラついていた…。
感覚で言えば船酔いの吐き気が無い版と言えば分かりやすいだろうか、明らかに自分がこの天界の結界に異物として引っかかっているのだろう。しかしながら、フィーゴにしがみついたままなので、割とマシなのかもしれない。目を開けてグラつくのならば少しの間目を閉じておくか…
現に3分間を過ぎたあたりからは船酔いのような状況は一気に収まり眩い光が目を閉じていても明るく感じられる程だ。
ついたか……と目を開くとそこは流石天界と言える程美しい一面の緑の草原と、蒼い空が広がっていた。
俺が元いた世界でもこんな美しい景色は中々無いだろう、世界の美しい景色○選!の一つと言われても全く見劣りしない。空間自体に生命力が溢れているような感覚だ、フィリスやフィーゴが纏っている光のオーラはこの空間特有のものなのかもしれない。
俺がその景色に見惚れていると、フィーゴが再び声をかけてくる。
「そろそろ手を離しても問題無いだろう…何か違和感はあったか?」
「違和感というか…視界が少しの間グラついていた感じがしてた。だけど、もう今は治まってる。」
「なら良かった。ホントなら裁判の場所まで君が足にしがみついたまま飛んでも良かったんだけど…君は妹の救世主になる可能性がある。重要な証言者がそんな情けない姿は妹に見せられないだろう?」
なんて言いながら、フィーゴは俺にニタニタとした表情で笑う。
さっきまでこの天使に尊敬の念まで抱いていたが、そういった配慮までしやがるのか…クゥー完璧男じゃねぇかよ!イケメンだし!マジで天使悪魔以前にしてこいつに人間性?いや天使性か?に勝てる気が全くしない…
「アンタがフィリスの兄でホントに
良かったよ…」
ともはや悔しさすらわかず本心でため息をつきながらそういうしか無かった。
そういうと、フィーゴは再び少し真面目な顔に戻り
「良かったのはコチラだ。君がフィリスに特別な感情を抱いていて、証人として来てくれて助かる、さあ急ごう。」
……やっぱりさっきの尊敬の念は撤回で。
【天界─天使領─中央都市エディン】
あの後だだっ広い草原と蒼い空を数分飛んでいると、見るからに近未来感溢れるようなビルやタワー群が見えてくる。先程フィーゴからはこの中央都市は天使族の中でも熾天使が多く住んでいて、この都市の実権は御三家の一つシエル家(フィーゴやフィリスの家)が握っているらしい。この大きな都市の実権を持ってるとはやっぱシエル家とんでもないな……。
そのままフィーゴに案内されるまま、近未来感溢れる大都市の中を飛んでいくが、やはり熾天使が住む領地というだけはある。同じく飛んでいる天使や地上を歩いている天使、皆光のオーラの度合いが強いと感じる。流石にフィリスやフィーゴよりかは劣るが、バルディオルのヤツよりは明らかにオーラが強いような気がする。
そのままオーラを眺めながらフィーゴに続いて飛んでいると、その中でも一際オーラの光が強い女天使が目に入る。オーラの強さはフィリスと同じ位だろうか……。あまりジロジロ見るのも申し訳無い気がする為、ちらっとだけ容姿を確認しようと目線を向けた……が、何故か俺は数秒目が離せなくなった…
時間にしては1秒にも満たない時間ではあっただろうが体感時間で言えば10秒ほどだろうか…そしてその女天使は此方をジッと見詰めてくる。顔も容姿もフィリスに負けず劣らずとても美しい美少女、いや美女の方があっているかもしれない……いや、それより!
「……え、なんで目が離せな……」
「ディガル君、どうかしたか?」
「え…いや、何でもない…」
フィーゴが気にしたように声をかけてくれた瞬間やっと目が離せた、そしてもう一度振り返るとその天使の姿は無かった。
……何だったんだろうか…、あの心の中まで見透かして力をこそぎ落とされたような感覚は…。そう言えばさっき悪魔をよく思わない天使も居ると聞いたし、アレは精神攻撃の一種なんだろうか…。
とにかくフィリスが待っている、早く行かないと…しかしながら何だか腑に落ちないまま俺はフィーゴの後について都市の中央に急いだ。
【5話完】