邪竜ファヴニアルの棲家へ…
《20話》
【魔界─邪竜ファヴニアルの棲家付近】
──ついた。ギルドから巨大な転送陣で転送してきた先は薄暗く巨大な洞窟のような場所…
後ろを振り返ればすぐに高い壁、これは空を飛べるものしか超えられないほどだ…ゴツゴツとした岩肌は壁というよりは断崖絶壁の真下にいるという感覚が近いだろうか…
目の前に続いている洞窟は両脇に松明が焚かれているとはいえ、非常に奥は暗く、そしてかなり奥が深いようだ。
──天井は高く…洞窟と言ってもかなりの幅もあり、ダンジョンという方がしっくり来るかもしれない。
洞窟あるあるだが音が反響し、よく声が響く…勿論俺達が進む足音や息遣い、息を呑む音がやけに大きく聞こえてくるように感じる…。
やはり皆が緊張しているのだろう…先程までははしゃいでいた超級や上級の討伐士達も油断を一切見せず、誰も言葉を発しない。
──俺達がダンジョンに足を踏み入れて150m程経っただろうか…既に後ろを振り返ると、うっすらと入り口の光が遠く見える位にまでは進んだ…。
ここまで来ると入り口より遥かに肌寒く、ところどころ水溜りも見受けられる。それに加えて流石ダンジョン…いや、竜の棲家というべきであろうか…岩肌を見やれば竜の爪の痕や、破壊された武器の破片がところどころ存在している…。
「まだ血の痕とかが無いだけマシだな…」
ここで激しい戦闘が行われたとするならこの先血痕…最悪●体だってあるかもしれない……気を入れ直せ…俺!
「ねぇ…なんか洞窟ってワクワクするよね?ディガル君はそんな事無い?」
と小声で話しかけてくるフィリス。一応俺は見学ということでつれて来られている。そのため討伐者メンバーより10m…いや20m位離れた位置を保つよう指示されている。小声であれば討伐メンバー達からバレることも無いだろう…。
「いや…そんな事あるよ。俺ってさ…正直まだ大人になりきれていないっていうか…子供心みたいなの全然あるし、なんか冒険ってやっぱりワクワクするし…まさに今この状況って俺が子供の頃憧れた冒険の王道って感じかな。」
「なるほどね…なら"一緒"だね。私もさ…こういう冒険って結構憧れるんだよ。熾天使ってさ、ホント毎日窮屈なんだよね…娯楽が無いかって言われたらまた違うんだけど…熾天使という理想の存在に何重にも縛り付けられてる感覚…みたいな…。分かる?」
「んー……なんとなく言いたいことはわかるような。フィリスは天使達から敬われるだろうし…将来に期待されてるだろうから、それって有り難い反面きっと無意識的に"理想"のフィリスという熾天使の存在に合わせて…フィリスの普段の過ごし方までガチガチに縛り付けられてるんだろうなって……」
「………おぉ…ディガル君って意外と察し良いよね。まさに言いたいことそんな感じだよ。」
「なんとなく似たような経験があるってだけだよ…俺の場合はフィリスとは比べ物にならないくらいしょうもない役割だけど…(生徒会だし…)」
「それでも、この気持ちを少しでも理解してくれるのはディガル君位だと思う。」
「フィーゴやソニアは理解してくれ無いのか?」
「多分理屈では理解してくれるとは思う。ただ…ソニアはあくまで熾天使ではないし…兄は私に期待しているその筆頭だから…。」
「そう言われたら…確かに…。過度な期待は成長を阻害されるってのも分からなくはない…」
「あ…ただ兄には感謝してるよ?今私の戦い方や熾天使の立ち振る舞いを形作ってるのは8.9割兄のおかげだから。」
なるほどな…熾天使としての理想をもはや体現できている兄が才能溢れる妹に自分の全て(全存在)をかけてフィリスを育てた訳か…そりゃバケモンになる訳だ。
「じゃあ。ちょくちょく俺を揶揄ってくるフィリスと初対面の時の超真面目な雰囲気のフィリス……どっちが素なんだ?」
「どっちが素って聞かれても私は私だよ?意識して立ち回ったりキャラを作ったりしてる訳じゃないし…時と場合によって立ち振る舞いを変えるのはディガル君もそうでしょ?」
「……まさにド正論過ぎて反論出来ない…」
「でしょ…?」
そう言いながら、フフンっと笑うフィリス……そこに打算や意識して振る舞っているような感じは一切ない。
フィリスがどちらも自分の素であるってのは本当なんだろうな…。
───そんなやり取りをしているとかなり奥まで来た。入り口は少し内部が曲がっていたこともありもう光すら見えない。完全に松明の灯りだけが頼りであり…それを失えば俺達討伐者達は漆黒の中、邪竜と戦うことになる。
しかし…ここに来て新たな発見があった。
俺の"熾天使の目"である。
そもそも今フィリスは周りの悪魔達から姿をくらまし続けている。本来であれば俺にも見えないはずだが…今俺はハッキリとフィリスの姿が見えている。
フィリスが俺だけに見えるようにしたというのも考えられるだろうが…それだけでは無い。
フィリスと2度目の契約をしたあの時、身体の中にあるフィリスの力の変化…というよりはフィリスの力が更に俺に馴染んだという感覚があった。
なんだかエロい思考が湧き上がりそうだが気合いで抑えながら……
洞窟に入ってから、暗いという感覚はあるものの…基本的に洞窟の内部がよく見えるという変化があり…多分人間の頃ではこうも暗闇の中で周囲が把握できることはなかった。
多分松明の火が消えて完全に真っ暗でもこれしっかりと見えるんじゃないか…そんな気がしている。
「フィリス…俺の熾天使の目、もしかしたらフィリスと契約してから精度上がってる…?」
「ん…今気づいたの?ディガル君の目の様子、私と2度目の契約したあとから変わってたよ?多分私と再契約して、私の力と"一体感"が増したんだよ…♪」
と言いながらわざとらしく、艶めかしいような表情をしながらフィリスは報告してくる。
「………。」
──エロい。間違いなく今の表情エロい…というより邪竜の洞窟の中なのに緊張感なさ過ぎだろフィリス。
いや、それは俺もか…。
「でも良かったね、暗闇でも気にせず戦えると思うから…♪」
「あぁ……。それはホントに助かる。って多分俺ほとんど戦わないと思うんだけど…」
「さぁ…?それは分からないよ?意外と戦うことになるかもだし?」
「変なフラグ建てないでくれマジで…」
「アハハ、私冗談で言ってる訳じゃないんだけどなー…」
★
「なぁガイルのおっさん…」
「そのおっさん呼びをやめんか、ヒューガ。私は今最大限警戒を高めている。もう邪竜の棲家だ…貴様も集中しておけ。直に邪竜の駒が現れる頃だ。」
「それはそうなんスけど、ディガル…あの見学者、後ろの方で何かブツブツ喋ってるんスよ…。」
「やはり初めてだ、怯えているのだろう…」
「いや…怯えているというよりは誰かと談笑しているというか、何か楽しそうで警戒心薄すぎるなーと。」
「うむ…先程ヤツを見極めていたが…アレはこの世(魔界)には無いものの加護を受けている。」
「と言いますと…神とか?またまたそんな訳は…」
「神か…いや、むしろアレはそんな生半可な不確かさを含むモンじゃない。"傷つければ殺す"、"所有物だ"…みたいなレベルのものだ。もはや祟りとかに近い。それが話しかけてるんだろう…」
「うへー…俺アイツと話しかけちまったが祟られたりしないよな…」
「さぁな。アイツに優しくしておけばそこまで心配することもねぇだろ…だがな、この魔界の世ならざるものに好かれるたぁ…只者じゃねぇ。何をしたんだろーな。」
「とにかくそろそろ、雑魚沸きスポットっスよ、大将」
「大将じゃねぇ、お前もさっさと準備をしろ。」
「はいはい……」
《20話完》




