美し過ぎる美少女天使との出会い
1話
(悪魔領地上街)
「グハッ!クッ……ハァ…ハァ……」
腹を殴られた痛みと嘔吐感で俺の意識は現実に引き戻される。
意識が戻ると同時に灼熱感が腹に走る。ただ殴られたという割にはそれだけではないようなダメージ量だ。殴られた腹を思わず押さえ、キッと殴った奴の方を睨むように見上げると
「チッ。クズ(悪魔)の分際で俺達天使"様"に歯向かうからこうなるんだ、理解出来るか?」
と吐き捨てるようなセリフと共に純白色をした美しき羽と短髪、天使らしい輪を頭に浮かべた一人の男の天使が、天使にはとても似ても似つかない歪んだような笑みと見下す気満々という態度で
「……なんだその反抗的な目は、まだ仕置きが足りないか?…あぁ!?」
と凄みを利かせながらこちらを威圧してくる。
つい
"天使の癖してイチ悪魔をいたぶってストレス発散か……。その天使"様"も落ちぶれたものじゃねぇか…"
というような気持ちで目の前で一人憤慨している天使を見上げているのをなんとなく雰囲気で感じ取ったようだ。
(この世界はいわゆる悪魔と天使が主に派閥を握っているが、今のトップの情勢は天使側が優位であり、こうして定期的に見回りと称し適当にいちゃもんをつけた天使がストレス発散に悪魔領にまで来る。平和に暮らしたい悪魔にとっては非常に迷惑な話である。)
目の前で憤慨している天使は怒りが治まる様子も無い。変に抵抗せずもう一発殴られてやるか…、抵抗しない方がコイツの怒りも早めに鎮まるだろう。厄介な話ではあるが天使側に反抗すると更に目を付けられる可能性もあるからな…。
両手を挙げいわゆる降参のポーズで目を瞑っているが、来るはずの殴打が来ない。不思議に感じ目を開けると、そもそも天使は俺の方を見ていない様子だ。それだけならまだしも、何か焦っているというような様子である。
その男の天使は
「な、なんでだ…、どうしてシエル家の令嬢がこんな悪魔領の見回りに…!」
などと独り言でブツクサ言っていて、膝が笑っている。先程の俺に対する時とはえらく違ってやがる…よほどそのシエル家の令嬢は恐ろしい存在なのだろうか。辺りを見回してもそれらしき天使の影はない。
しかしながら男の天使はもはや心ここにあらずという様子でガタガタと震え始めていて、もはや俺の事すら眼中に無いようだ。少し様子を探るように耳を澄ますと、男の天使の身体を何か光の鎖のようなものが絡みついているようで、その光の鎖がギチギチと小さな音を立て、男の天使に痛みを与えている。
その鎖が男の天使を絞め上げる度にソイツは苦痛に悶え、うめき声をあげていて…
唖然とする俺の目の前に、1枚の羽が舞い落ちて来たと思いきやそれが瞬時に光を纏いヒトガタへと変化しながら美しき天使の姿へと形が変わる。
その姿を見た瞬間に俺は彼女の美しさに一瞬で心を奪われたように感じ視界がグラリと歪んだ…立っていることすらままならず、情けないが尻もちを付いてしまうほどだ。
─────髪は、薄い紫から毛先の方は淡いピンク色…肌は白色にかなり近い肌色、やはり天使である為純白な羽ではあるが男の天使とは比べ物にもならない程の光を羽にキラキラと纏わせている。服装は白と金の2色を主に使っていて"令嬢"という割にはへそ出しのトップスに、ホットパンツといういわゆる動けるファッションであり。───────
しかしながら、ファッションよりもやはり気になってしまうのは男の性である。情けないがバレない程度に目を向けると、何とは言わないが程よく大きさがあり……太ももからふくらはぎのラインはニーソの上からでもスラッとした形が見え、細身ではあるがしっかりと肉付きもよく、まさに健康というのを表しているように感じる。これぞまさしくまごう事無き清純派…というのだろうか…?
「…大丈夫ですか?…同志が無礼をかけましたね…申し訳無い。」
尻もちを付いてしまった俺に、大丈夫かと透き通るような声で声をかけてくる天使。つい見栄を張り
「だ、大丈夫です……この程度かすり傷……っすから」
多少腹がまだ痛むが無理しているなんて美少女には悟られたくないものだよな…。そうやって、この美少女天使(名前まだ分からないからそう呼ぶ)との会話を楽しんでいた?が邪魔が入る。
光の鎖でまだ縛られている男の悪魔だ。俺は思わず"チっ、せっかく話をしてるんだから邪魔すんな"無粋野郎"と睨みつけるが、男天使は構わず
「シエル家の御令嬢!これは誤解です。わたくしめは天使を侮辱したこの醜い悪魔に教育的指導をしていただけ…!自分は悪くありません!」
と、目の前で見られていたにも関わらず必死に口からでまかせを吐きやがる。ここまで口が回るならもはや才能だと思う、少し尊敬の念すら湧くよ…。だが、こいつの尊厳、プライドなるものはもう粉砕されたも同然だが……
勿論そんな言い訳などが通用する程この高貴な御令嬢天使は甘くないようで、ツカツカと男天使の方に歩いて行くと
「…醜い自己弁護は辞めなさい、"ルクス家"の恥晒し。そして、今すぐにこの方に謝罪しなさい。」
そう言いながら、ふいっと手で空を切ると男の天使に巻きついていた光の鎖がギチギチと締め上げられ、苦痛が与えられる。かなりの痛みが伴うようで
「ア…アァ………わ……わかひ……まひ……た。本当に……申し訳…ありま……せんでした…!」
と謝るだけで精一杯の様子の男の天使。俺は正直この美しい天使に出会えたことへの歓喜で男の天使にはもう興味が失せていた為、適当に許すか…と考えていた。
「あぁ…あの、自分も怪我とかしてないので…その辺で勘弁してあげてください。」
というと、シエル家の令嬢は
「わかりました。被害者である貴方が許すのであればここらでやめておきましょう。ルクス家の恥晒し、次は…ありませんよ?」
とキッチリと次は許さない旨を伝え。光の鎖を解く美少女天使。そしてこっちの方に視線を向けると
「では、私達はそろそろ天界に戻ります。そう言えばあなたの名前、聞いていませんでした。…今度魔界に来る時は貴方に色々案内してもらおうと思います、良ければ教えてくれませんか?」
と、ニコリと微笑む美少女天使。コレは反則だろ…こんな可愛い女に頼まれて断れる男は居るのだろうか…(汗)
「自分は…ディガル…。名字は思い出せないんですよね……ここに来てまだ1週間程でちゃんと案内できるか不安ですがよろしくお願いします。ところでシエル家の…御令嬢様のお名前を教えて貰うことは……?」
「ハハハ、君面白いね!フィリスでいーよ。ディガル君♪」
「そ、そうですかね?よろしくお願いします、フィリス…様」
「フィリスで良いよーw多分私と君年齢変わらないでしょ。君の魔力の新鮮さからしてなんとなく分かる。」
フィリス……フィリス……やはり名前からして美しい響き…。あといきなり君付け!?……もしかして御令嬢という割には自分の地位などに興味が薄いのだろうか。自分の陰キャみたいな返答に自分で嫌になるぜ。
「ルクス……バルディオルだ。グゥ……申し訳…ございませんでした。」
「あ…はい。大丈夫っス…」
うん。お前の名前は聞いてない。俺とフィリアの会話に入ってきやがるな!と思うし、おまけに無駄に圧を掛けてきやがる。コイツ嫌いだわ…!
「じゃあね、ディガル君♪今度魔界案内してね♪」
そう言いながらフィリスはボロボロになったバルディオルと共に眩い光を纏い消える。
「なんか……夢でも見てたみてぇだなぁ……イテッ。やっぱ現実だよな……帰るか。」
頬を抓るがやはり景色は変わらない、先程まで美しき天使の光で明るく感じていたがもう夜になりかけている。夜になるにつれ暗くなり始めた魔界を一人家路につく…。今日はなんだかまさに"波乱"って感じだった。
「フィリス……か。可愛かったな。」
とおもむろに口に出してみる。頭にまだ彼女との初対面が何度も思い浮かぶ。俺は一目惚れというものをしてしまったのかもしれない───
《一話完》