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みんな違ってみんな悪い

 

 ――このゲームの魔法は二つの種類が存在する。


 クールタイムが存在するアクティブ型と、常時発動可能なパッシブ型だ。

 判明している中で《火魔法》、《風魔法》等がアクティブ型に当て嵌まり、《音魔法》や《幻影魔法》等がパッシブ型となる。


 俺の《影魔法》はバチバチのパッシブ型だ。

 パッシブ型は安定した能力を常にプレイヤーに(もたら)すが、アクティブ型のような一撃必殺の火力は基本持たない。

 つまり、《影魔法》はサポートスキルだ。絡めとり、隠し、抜き取る。影で殴打したって致命傷は与えられない。だから……、


「ふぇえん、帰りたいよぉ……」

「芥くん……元気出して……?」


 地雷みたいな顔をした血塗れが泣きそうな俺の顔を横から覗き込む。

 ……俺一人でどうにかできるのが一番(りそう)だった。俺は情に溢れた一般人だ。人並みに悪いことを思いつくだけの常人だ。

 だから、こんな狂人と一緒にいること自体が間違ってんだ。


 横に並び、ついてくる血塗れはきょろきょろと周囲を見渡し、崩れかけている扉を開けては中に何かないかと探索している。

 この激戦区で勝つには、この女と結託するしかなかった。

 心理誘導でゲーマー共はこの遺跡地帯に集められた。俺のスキルは《影魔法》ありきの対人特化だが、それでも戦闘ばかりのプレイヤーに楽勝できるほど強くはない。だから、


「さっさと宝見つけてとんずらするしかねぇ…!」


 意思固く、そう定めると幾分気持ちが楽になる気がする。

 そうと決まればさっさと行動だ。流石に血塗れと別行動をするのは危険だ。俺たち以外にもチームを組んだ奴がいてもおかしくない。


「とりあえず奥進んでみるか?」

「二階、怪しい……」


 薄らと明かりが灯る廊下の奥へと指をさすと、血塗れはじっと見つめながら長剣を握りしめた。上つっても階段は見当たらねぇし、とりあえず進もうと自分の意見を通そうとした瞬間、血塗れは握りしめた長剣を上方へと振り回した。


「う、えぇえええ!!?」


 ぴしり、と音を立て上方の天井が乱雑に切断され、落下する。

 俺は叫び声をあげながら、その場から退避するようにゴロゴロと転がり、壁にぶち当たる。土埃が立ち籠り、げほげほとあえぐように咳込む。


「これで二階……、いけるね……」

「わぁ!力業(ちからわざ)ぁ!」


 常識破りの怪物……、マップ破壊兵器め!なんでこの子はそんなに破壊衝動に駆られるの?

 立ち籠る土埃を手で払いながら上を見ると、確かに二階に繋がっている。プレイヤーの身体能力であれば、瓦礫を利用して上へと飛び移れるだろう。


 下手に楯突いてぶっ殺されるのは御免だ。ここは素直に従うしかねぇ。


「いやぁ血塗れさんパネェすわ!」

「?芥くん、……きしょい」

「可愛くねぇなぁ!?」


 二階へと飛び移り、周囲を見渡す。

 流石に音を出し過ぎた。ここまで音を出して、誰も寄ってこないはずがない。ゲーマーは基本漁夫の利が大好きだ。誰も彼もが弱った獲物を狩るハイエナ行為に焦がれている。戦闘の音とでも勘違いされて寄ってこられるのが一番面倒臭い。


「血塗れ、とりあえず二階に来たんだしさっさと――」

「芥くん……何か、くる」


 血塗れがそう呟くや否や俺たちの真横にあった壁がみしみしと軋む。


「――避け、ろッ!!」


 影魔法で血塗れの身体を後ろに押すと同時にその反動で俺もその場から離れる。次の瞬間、軋む壁が勢いよく破壊された。

 先程俺と血塗れがいた場所には、巨大な戦槌(ウォーハンマー)が鎮座していた。影魔法で土埃により見えない戦槌の先を攻撃する。ドッと何かにあたる感触がし、幾度となく見えないそれに向かって乱打をする。


 そんな攻撃、屁でもないとばかりに土埃を纏いながら戦槌が持ち上げられ、その奥から人影が現れる。――明かりに反射する光沢のある鎧、荒々しい雰囲気、戦槌を軽々と持ち上げるその筋力、まさかこいつ……!


「血、撒いて……」


 俺とそいつが向き合う中、真横から長剣を振るう血塗れが飛び出す。しかし、鎧は右手の籠手で飛んできた血塗れを弾き飛ばす。

 こちらへと飛んできた血塗れを影魔法を駆使してなんとか受け止めて、そのまま血塗れを引き摺る形で逃げ出す。


「まずいまずいまずい!ありゃ完全に――マップギミックじゃねぇか……!」


 ――ドッスンと同じだ。

 倒せるように設計されてない。あの強さがプレイヤーのはずがない。間違いなく避けて通るタイプの無敵NPC……!

 少なくとも、今はまだ相手になるレベルじゃねぇ!


 ワンパンで沈んだ血塗れを抱えて遠くへ遠くへと走る。後ろからがしゃんがしゃんと音が響く。追ってきてるぅ!殺しに来てるよぉ!


「無言!無言ヤメテ!なんか喋ろ!?ほら、好きなものなんですかぁ!?」


 無言でがしゃんがしゃん追ってこられたら流石に怖すぎる。せめて明るい話題にしよう、という俺の気遣い空しく、鎧野郎は何の言葉も発することなく近づいてくる。


 マジでまずい。

 血塗れを置いてくか?そうすりゃもっと早く逃げられる。いや、駄目だ。今こいつを失えば、プレイヤー共への対抗策がなくなる。アイテムを取り出す余裕はねぇ。クソ、アイテム取り出し簡易化の基本機能(システム)解放が正解だったか!?


 ジリ貧で走り続けていると、ふと通り過ぎる瞬間の曲がり角に人影を捉える。そいつは確か風魔法を使っていたプレイヤーだ。


「あ!?てめぇ、塵芥!……となんか死にかけの血塗れさん!」

「戦ってる余裕ねぇわ!後ろの奴どうにかしてくれ!」

「ぁあ?後ろぉ?……え、なにあれなにあれなにあれ」


 仇とばかりに魔法を構えるプレイヤーに追ってくる鎧をどうにかしろと叫ぶ。

 それを見て、狼狽えながらも奴は俺たちにぶつけるべく練っていた風魔法を鎧野郎へと飛ばす。

 それは翠緑色の光を伴って勢いよく飛来し、見事鎧野郎へと直撃すると同時にその頭が吹っ飛び、そのまま後ろへと倒れこむ。


「AIM神!サイコー!惚れちゃう!」

「万年ブロンズ舐めんなよ!」


 血塗れを地面に投げつけ、俺とそいつは二人でやんややんやと喜びの舞を踊る。いややっぱ魔法だね!時代は魔法!近接使いは馬鹿!このゲームの覇権分かってねぇすわ!


「そうよなそうよなぁ!?やっぱそうなんだよな!」


 敵も味方も関係なく喜ぶ俺たち。

 しかし、喜び合う俺たちの耳朶に突如として金属質な何かがこすれ合う音が響く。それは紛れもなく先程倒したはずの鎧野郎から聞こえてくるものであり――、


 ギギギ、がしゃがしゃと音を立てて再び立ち上がった鎧には既に頭部分は存在していなかった……。


「……り、動き回る鎧(リビングアーマー)?」


 その頭部分から見える鎧の内側には何一つとして内容物は入っていなかった。

 すぐさま投げ捨てた血塗れを回収し、走り出そうとするが真横のプレイヤーに肩を掴まれる。


「こりゃ駄目だ。一緒に()()()

「……結局、逃げてもジリ貧か」


 俺は奴の言葉で諦めがついた。

 血塗れを適当な部屋に放り投げ、そいつと一緒に息を吸い込む。そして、


「「レアモンス出たんで集合してくださぁぁあああいっ!!!!」」


 ――どたどたと至る場所から音が鳴る。

 上から下から右から左から、四方八方から足音のようなものが鳴り響き、そして――、


「レアモンマジ?」

「ちゃんと呼ぶたぁ余程困ってると見たぜ」

「東北の剣聖参上」

「東北のニート見参」

「東北の……あー登場」

「東北きりたん」

「きりたんぽぉ!」


 ゲーマー集合の呪文を舐めるなよ、魔物風情がぁ……!

 ”レア”という言葉に弱いゲーマー共を呼び寄せる魔法の呪文を詠唱したんだ。ここで負けちゃあ名前が傷つく。


 がしゃんがしゃんとリビングアーマーがこちらに迫る。

 今ここにゲーマーたちの名誉をかけた戦いが幕を開けた――!


 ◇□◇



「――なるほどね」


 倒れ伏し、粒子となるプレイヤーの皆さん。

 元気いっぱい大満足のリビングアーマーさん。


 つまるところ、普通に大敗しましたと。

 やっちゃったね、これ俺だね戦犯。

 皆が戦いだした時、俺は影魔法で色々と援護をしようと考えた。しかし、その瞬間ビビッと俺に電流が走ったのだ。


 ――《窃盗》発動の条件である”相手に触れる”って、《影魔法》で触れてるのでもいいんかな?


 いやぁまさかと思いつつ、必死に戦ってる皆に影ながら触ってみましたとも。そしたらなんと《窃盗》発動しましてね。こりゃ大発見や、と嬉しさのあまり結構使っちゃいましてね。そしたらなんか、皆「回復がない」やら「アイテムごっそり減ってる」やら言いやがりまして、……えぇ。



 ――俺が盗っちゃったんですよね、回復もアイテムも。運良かったんす。

 みんな死んでいったさ、俺を置いてね。回復できずにアイテムを使えずに、無様に死んでいったとも。「初イベがこんな事で…」って言いながら死んでいくプレイヤーの姿には流石に心打たれた。ちょっとだけ申し訳なくなったもんね。


「というか誰かもう()取ってたんだね」


 窃盗アイテムの中に、”輝く宝石”という名称のアイテムがあった。どうやら、これが今回のイベント限定アイテム…つまり例の”宝”らしい。宝をゲットしていたにも拘らずレアモンスター宣言を受けて耐え切れずに集合しちゃったバカもいたようだ。

 この感じからしてこの屋敷内にはまだ幾つか宝が仕込まれてる臭いし、俺が一個くらい持ってても許されんだろ。


 しかし、目下問題があるとすれば、


「こいつ、どうすりゃいいんだよ」


 未だ元気にこちらを捉えているリビングアーマーをどうするかである。

 露骨に俺を狙ってる。

 逃げられる気は微塵もしない。


「解体すっか」


 プレイヤー皆さんからアイテムを奪っているときにふと思いついたのだ。


 ――奴の鎧を解体したらどうなるのか。

 奴は取れた頭をくっつけようともしない。ポルターガイストの如く地面に転がった頭を動かす事も無い。つまり、奴に鎧を再び装着する術は恐らくない。


 ならば全て解体してやるさ。

 宝は俺のもんだ……!プレイヤー共から奪ったアイテムも何もかも俺が持ち帰ってやるさ、それが俺なりの供養だ。


 影魔法を唸らせ、腕と手の形にどうにか成形する。

 結構集中力を使うため、二本しかできなかったがこれでどうにかするぜ!いけっ、俺の第三第四の腕っ!奴をバラバラにして家に飾ってやるんだ!

 勢いよく地面を這う俺の腕たち。それがリビングアーマーと対峙しようとした瞬間――、


 ――――ッ!!!


 轟音と共にリビングアーマーの背後にあった扉が蹴破られた。

 そこから出てきたのは大事な場面でぐーすか眠りこけていた血塗れだった。


「丁度良いところに!血塗れ!こいつ倒すから気引いてくれ!」

「――」


 俺の言葉に奴は無言を返した。

 血塗れはずるずると長剣を引き摺り、リビングアーマーへと迫る。な、なんだあいつ……?なんか様子が……?


 途端、目にも留まらぬ速度で血塗れがリビングアーマーに攻撃を仕掛けた。

 凡そ人間の反射神経を超えているのではないかと思えるほどの速度で次々とリビングアーマーを切り裂いていく。

 なんか様子がおかしい気もするけど、まぁ会った時から変な奴ではあったし平常運転かと影の腕を這わせてガチャガチャとリビングアーマーの足の金具を探し出す。


 幸いすぐに見つかり、それを外して引っ張ると意図も容易く足の鎧がすっぽ抜け、リビングアーマーはその場に転倒する。

 それを逃すまいとばかりに血塗れが幾度となくリビングアーマーを切り刻み――、


「――」


 リビングアーマーは呻き声にも似た音を立てながら鎧を崩壊させ、その場から消え失せるのだった。



 〔【Skill(スキル)】《影魔法》LvUP! Lv.2⇒Lv.3 〕

 〔【Skill(スキル)】《窃盗》LvUP! Lv.1⇒Lv.2 〕



「おいおい、アイテムなしかよ」


 スキルのレベルアップのみでアイテムを落とさないことに愚痴を漏らしながらも、実質的なマップギミックであるリビングアーマーを倒したってのは中々気分がいい。まぁ、削ったのは殆ど死んでいったプレイヤーの皆さんと血塗れなんだけどね。


「よぉ、よく再起動したじゃねーか」


 その場に立ち尽くす血塗れへとそう言いながら近づいていく。宝の事は言わねぇ。どうやらまだ幾つかこの屋敷の中にあるっぽいし、一個くらいくすねても気付かねーはずだ。

 そんな考えの下、多少優しくしといたほうがいいという結論を胸に気安く近づいて話しかけ、そして――、



 ――そのまま押し倒された。頬の真横に剣をぶっ刺されながら。


「ぁ、す、すいませぇん……宝ほんとは持ってますぅ……」


 とりあえずとばかりに謝る。

 血塗れちゃんは狂人だ。そこに疑う余地はない。

 アイテムウィンドウを開き、”輝く宝石”を渡そうとするもその動作をする前に俺は奴に腹をぶっ刺された。


 元々少なかった命の灯が消える。

 俺の手の先が粒子化し、消えていく。えーん、俺がなにしたって言うんですかぁ!精々他のプレイヤーぶっ殺して、宝奪い取って逃げようとしてたくらいじゃないですかぁ!あんまりだよぉ!


 俺は泣き喚きながらそう叫んでいると、突如瞳に光が宿った血塗れの口から「ち、違うの……」と言葉が漏れる。


 何が違うって言うんですかぁ……。

 俺の泣きそうな声色に、血塗れは困ったように眉を顰める。


「す、スキル……なの。《狂戦士》っていう、デメリット持ちの……。そのせいで……ご、ごめんね……?」


 なるほどなるほど、《狂戦士》っていうスキルのせいでついさっきまで操作が効かなかったってことですかね?

 俺の完璧な補足にこくこくと血塗れは頷く。しかし、


「でも、じゃあなんでまだ俺のお腹ぐりぐりしてるのぉ……?」


 血塗れの手に握られた剣が、俺の腹を掻き回す。オーバーキルが過ぎる。回復アイテム使ってよ。なんでそのまま刺し殺しにいってるわけこの人……。


 俺の言葉に、血塗れは頬を赤らめて――、



「ち、血ぃ……出ないかな、って……」



 そっかぁ、血好きなんだねぇ……。

 そうして、俺は腹をぐりぐりされながら天へと召されていった。



 宝はドロップして血塗れの手へと渡りました。解せぬ。

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