イベントだよ!全員集合!
恐怖の塊である血塗れさんは完全に回復した俺をじっと見つめた後に、残念そうな雰囲気を醸し出しながら離れていった。
もう嫌だよあいつ。魔物だけ狩ってろよ…。
しかもボスを討伐したことによって解放される基本機能も、多数決で決まる筈なのだがもう俺が投票する前に票の差がついてほぼ決定してしまっている様だ。
「塵芥さん、あと貴方だけだから適当に投票お願いできる?」
「…まぁ、流石にこれになるわな」
最も得票数が多かった一つをタップし、票を入れる。
その瞬間、どこから湧いたか空に大きな花火が上がり、辺りのプレイヤーから歓声が上がる。
〔Boss討伐報酬:アイテム・スキル等詳細情報 が解放されました!〕
〔アイテムやスキルの説明が確認できます〕
何気無しに鞘からナイフを抜く。
NPCの店から買ったその街一番の逸品だそうだ。しかし、こと安全大国である日本で生まれ育った俺にとって、触ってきた刃物なんて包丁やらステーキナイフ程度だ。
良し悪しなんて分からないし、それは電脳世界でも同じだ。だから、
【Item】「劣悪なナイフ」★☆☆☆☆☆
手入れのされていないただのナイフ
「粗悪品つかまされてたかぁ」
漏れ出る声と共に、やっとこさ詳細確認できるようになったことに打ち震える。流石にアイテムとかの詳細くらいは最初っから見せてほしかったけどな。
このナイフの元々の名前は「上等なナイフ」だったが、詳細が見られるようになったことで変化し「劣悪な」と冠するものに変わってしまった。なるほど、こういう場合もあるわけね。
「この横の星ってレア度かな?」
「多分そう」
「やっと厳選できるわ」
至る場所からそんな声が聞こえてくる。
毎回こんなレベルのボス戦を強いられると考えると辟易としてくるが、恐らくアイテムの詳細が見られるようになったことでプレイヤーは一気に強くなる。アイテムの力は俺たちの力だ。効果が分からず買えなかったアイテム、ドロップしたが使い方が分からなかった道具、その全てに光が当たる。
しかし、それと同時にPKがやり辛くなるのも紛れもない事実だろう。
「仕方ねぇ」
俺も強化され、連中も強化される。
他の連中がシステムが解放された嬉しさから舞い上がっている隙にさっさとその場から離れる。下手に滞在し続けて討伐報酬狙いでPKし出す奴がいてもおかしくない。
俺だってしたいが、流石に万全じゃないしナイフの弱さも見ちまったからする気も起きない。まずはナイフだ。真に上等な武器を買わなきゃならねぇ。
はぁ~…ぼったくりって問いただせば金帰ってきたりしねぇかな…?…帰ってくるわけねえよなぁ、どんなに人間味があるとはいえ相手NPCだもんなぁ…。
そこそこの金をはたいて買った劣悪なナイフを見て、俺は溜息をつくばかりだった。
◇□◇
適当に安価でそこそこのナイフを買い、アイテム欄を漁る。
「お、これこれ」
路地裏を進み、プレイヤーの目がない場所までくると目当てのアイテムを引っ張り出す。その名を「Skill戦術書」…説明文を見るにランダムにスキルを一つ獲得できるとかいうスキルガチャである。討伐戦貢献度12位でこれをもらえたところを見るに、最低でも上位11名も俺と同様にこのアイテムを貰っているだろう。
「ま、ランダムなんだし使ってみる他ねぇわな」
アイテムを具現化し、右手に分厚い革を纏った本が出現する。
それをぺらりとめくると、そこには日本語ではない全く未知の言語が記載されていた。これ何語だ?日本語と英語とウガンダ語くらいの判別しかできねぇぞ…。
あまりにも珍妙な形をしたその文字列がどこのものなのかと考えていると、途端に本のページが発光しだし、一人でにぺらぺらとページが捲れ出す。その勢いはどんどんと加速していき、遂にページを全て捲り終えるとぱたんと本自体が閉じるや否や粒子となって俺の胸に取り込まれていった。
〔Skill:《窃盗》を獲得〕
【Skill】《窃盗》
プレイヤー、魔物等から低確率でアイテムを奪える。
――運営が言っている。悪になれ、と。
…いや、凄い確率だな。ここまで今のロールにあったスキル引けるか?運がいいというか悪いというか…まぁ、どちらにしろより金を稼ぎやすく、他のプレイヤー共の物資を奪いやすくなったな。
とりあえずとばかりに表街道に出て、適当なプレイヤーに身体を当てる。――《窃盗》、発動ッ!
「あ、悪い」
「おー、気にすんな」
格好つけて発動したが普通に失敗した。
まぁ、低確率って書いてあったしね。どうやらこのスキルはクールタイムこそないものの、時間を置かずに使い続けると奪取確率が下がるらしい。だが、相手の身体に触れさえすれば低確率ながらもアイテムガチャが出来るんならお得だろう。
時間をおいて再び《窃盗》チャレンジしてみようかと考え出した瞬間、
〔イベント〔義賊たちが現れた!〕が発生!〕
〔一時間後、マップ各地の豪邸に宝箱が数個設置されます。プレイヤー同士協力し、宝を獲得を目指しましょう。(今回のイベントに限り、NPCからの好感度低下は発生しません)〕
機械音声が響く。
なんつうタイムリー。手元に出現したマップには各地に点在すると思わしき豪邸の場所が記載されている。その数、十五つ。宝というのが豪邸内に幾つあるのかは分からないが、仮に一人で一つの豪邸を独占すると考えれば、約三百名…もうちょい正確に言えば三百三十数名らしいが、その三百三十名で十五つの椅子を奪い合う可能性があるという事だ。
「こっから一つ近ぇな」
一時間後ではあるが、運よく豪邸内に忍び込めたらそのまま隠れとけばスタートダッシュを上手く切れる。そんな思いの下、俺はその豪邸に歩を進めた。
「――あ、噂の悪人さんじゃん」
「嫌な有名のなり方だなおい」
豪邸の前まで行くと数名のプレイヤーが既に屯しており、そのうちの一名が俺に気付く。
「どうせそっちも先に豪邸の中に入っちゃおうって考えでしょ?残念、なんかバリア張られてて入れないよ」
「ぁあ?マジかよ」
当たり前というべきか、流石にそこら辺の対策は取ってきていたのか豪邸の塀に触れようとすると途端にばちりと音が鳴り、塀に触れようとした手が弾かれた。そこまで甘くはねぇってことか。
「にしても、お前はここでいいのかよ?街の豪邸は絶対乱戦になるぜ?」
マップを見るに街の豪邸は計八つ、そして街以外に点在する豪邸は七つだ。数だけで見れば街の豪邸の方が多く見えるが、実際は幾つかある街で計八つだし、プレイヤータウンでもある為、移動を嫌った多くのプレイヤーが集結することは目に見えている。
その結果訪れるのは、運ゲー必死の争乱戦だ。俺は絶対にごめんだね。
「でも移動面倒だし仕方ないよ、討伐組が”転移門活性化”選んでくれたらよかったんよ」
「たらればヤメロ」
――転移門活性化。
ボス討伐時に提示された基本機能の一つだ。街やマップに点在する巨大な扉枠。なんだなんだと言われてはいたが、転移門という単語の判明と各地で発見されることからあれこそが転移門と呼ばれるものなのだろうと多くのプレイヤーは勘付いた。
しかし、俺たちが選んだスキル・アイテム詳細情報の解放は恐らく現状プレイヤーにおいて最も必要だったピースだ。個人的に言えば、【Perk】システムを解放したい思いもあったが、そこはしゃーなしだ。
そのプレイヤーから離れ、適当なアイテムを買い込む。詳細情報を確認できるようになったことにより、ぼったくられることは無くなったし、必要なアイテムの取捨選択もかなり容易になった。
「狙い目はどこだこれ」
マップを開き、豪邸の位置を見る。
街に相当数のプレイヤーが偏るとみるならば、それ以外は手薄になる。その中から更に手薄になりそうな場所を特定する必要がある。
街から近い場所は却下、マップ中心地付近も却下、街とも呼べないほど小さな村が傍にあるのも却下……。
そうして消去法的に辿り着いた場所は配られたマップの一番右上、街から遠く、近くには何もなく、ただただ広々と遺跡の跡地のようなものが広がる残骸地帯。
「強いというより面倒臭い魔物が多いって聞く場所だな」
それらの条件が重なり、プレイヤーの人数はかなり少ないと予想できる。
運ゲー勝負をする気はない。今回は堅実に確実に取りに行くぜ。俺はそうと決まればと駆け足で街を出て、遺跡跡地へと向かった。
ゲーム内時間は既に夜だ。
周囲は暗く、狙いの宝があると思わしき建物の周囲とその中だけが、松明だったり、光輝く鉱石によって明るさを保たれている。
…豪邸っつーか、ただの屋敷の残骸じゃねーか。
遺跡の残骸に身体を隠し、イベント開始の時間になるまで待機する。恐らく、俺以外のプレイヤーも同様に姿を隠しているだろう。街中にある豪邸になればその必要も薄くなるが、ここは遺跡跡地だ。
隠れられる場所も無数にあるし、姿を見せないというのはどこから来るか分からないアドバンテージになる。
残骸屋敷の明かりが周囲をゆらゆらと照らしている。
アイテムを整理し、咄嗟に回復アイテム等を取り出せるように準備をする。果たしてこの場所には何人のプレイヤーがいるか。最も来づらく、辿り着くまでの魔物の対処も面倒な為、いても十名前後と予想はしている。
買ったばかりのナイフの刃を確かめ、外套を被る。残骸屋敷以外から周囲に人の気配はしない。よっぽど上手く気配を殺しているのか、本当にいないのかは分からない。
ちくたく、とそれでも時間は進む。
ぱちぱちと明かりを照らす炎の火花が散る音がする。夜の帳が静寂を呼び、緊迫した空気が周囲に漂う。
そして―――、
〔イベント〔義賊たちが現れた!〕が開始されました!〕
〔宝を求めて、協力し合おう!〕
――協力?違うな、これは奪い合いだ。数少ない宝を誰が独占できるのかっつー弱肉強食の、な…!
ぼーんという重低音と共にイベントの開始が宣言される。
一瞬の間……、誰かが先に出るかもという思想の下の時間だったと思う。しかし、それはないと判断したプレイヤーがばっと飛び出し、残骸屋敷へと走り出す。それを皮切りに周囲は一瞬にして輝き、迸り出す。
「――んだ、この魔法の展開数……ッ!?」
このゲームには幾つもの魔法スキルが存在する。
その大半は、魔法の輝きと迸る魔力を伴い、攻撃性のある質量を生み出す。その逆で俺の《影魔法》などは一切の光を伴わない、寧ろ光を吸収する性質のあるスキルだ。
周囲から幾つもの魔法が射出される。
炎、水、土塊、風、その量は数えるの億劫になるほどの量だ。魔法着弾の轟音と迸る魔力の揺らぎが起こる。
「宝は俺のもんだァ!!」
「引っ込んでろカス」
「屋敷に乗りこめー!」
「魔法持ちさっさと頭数へらせやぁ!数居すぎだろ!?」
影魔法を展開し、屋敷内にいの一番に入ろうとしたプレイヤーを転ばせる。その瞬間、そいつは一瞬で格好の餌食となり、火力魔法持ちにより潰された。
「――…やられた」
恐らく、ここにいる誰もがそう思ったことだろう。
俺たちはやらかしたのだ。まんまと運営の思惑に乗っかった。
出来過ぎた配置のマップ…消去法で選ばれる場所…道中の難易度から選ばれにくい遺跡跡地…。
その全てが、俺たちを誘い出す罠―――ッ!
「――ガチ勢が集合しやがった…!」
思考誘導だ!俺たちゲーマーの心理を利用しやがった!
ここは過疎地帯じゃねぇ、それどころかこのゲームで最も苛烈なゲーマー共の戦場になりやがった!お、俺一人で勝てるビジョンが見えねぇ…!こうなりゃ漁夫の利を狙うしか…。
刻々とプレイヤーの数が減っていく。
三十数名近くいたプレイヤーが次々と討たれていき、それに伴い激化していた戦いは少しずつ鳴りを潜める。しかし、未だ屋敷内に侵入したプレイヤーは出ていない。
そんな中で――、
「……いる」
――たった一人、協力関係を築ける奴がいる。
残骸に隠れながら盗み見、そのプレイヤーの存在に気付く。
…ガチ勢のゲーマー共に引けを取らず、俺と協力してくれそうな奴。危険で、最早関わる事も無いと腹を括っていた。にも拘らず、たかが数時間で再会するとは思わなんだ。だが奴ならば―――、
影を隆起させる。
それを伸ばし、広げる。魔法持ち連中の居場所は特定済みだ。あんなに派手に光ればそりゃ隠れている意味なんてなくなるさ。
随分数が減っているのはありがたい。
影の総量を残し、これから使う分は温存する。
いち、に、さん、よん、ご、ろく…六人だ。六人の魔法持ちさえどうにかすればいい。伸ばし、辿り、そして祈る。
「さん、にぃ…いち…」
――――ッ!!
屋敷の周囲から六ヶ所、突如として黒い影が噴出し、そこにいたプレイヤーを包み込む。「なっ、んだこれぇッ!?」という叫び声が聞こえてくる。
それと同時に走り出し、一直線に屋敷の入口へと向かう。大規模な影操作だ、恐らく数秒と持たない。
「走れ”血塗れ”!宝は俺たちが頂くぞッ!!」
「っ!?……わぁ、芥くん」
俺の叫びを聞き、一瞬震えた血塗れがこちらを見て笑みを浮かべる。よそ見したまま奴は、斬り合っていたプレイヤーの首を落とし、俺の後に続いた。
屋敷の扉を蹴破り、侵入した俺達の後ろ姿を見た生き残りのプレイヤーが叫ぶ。
「野郎っ、入りやがった!休戦だ!続きは屋敷内だッ!」
その言葉に続き、隠れていたプレイヤー達も走り出す。
幾名かはそれでもと他のプレイヤーの邪魔をしつつ屋敷へと向かっていたが、寧ろ出る杭とばかりに数の暴力で潰される。
「く、そがっ!やられた!こりゃ塵芥の影だ!野郎…どこまでも美味しいところを…!」
影によって周囲と分断されていた魔法持ちのプレイヤー達も一目散に屋敷へと向かう。
イベントは第二フェーズへと進行する。牽制だらけの乱打戦から、誰が最も早く宝にありつけるかの争奪レースへと――。
◇□◇
【アビグロ】イベント始まるよその1【配信】
560:名無し ID:1r8UdGL6O
イベント始まった?
561:名無し ID:bRn78ighV
デュエル開始ィ!
567:名無し ID:25puAN7Mh
始まってんね
568:名無し ID:AmjB1qVU8
モモちゃんほんまかわええ
572:名無し ID:7a8e6wHQP
葵ちゃんの方が好き
578:名無し ID:Yy6lv7mM9
結構バトってるとこと協力してるとこで別れてるな
580:名無し ID:rg187QmBw
>>578
協力してるとこある?
586:名無し ID:J9tZEqDea
遺跡マップのとことかひでぇ
全員が全員馬鹿みたいにやり合ってるぞ
591:名無し ID:DGNqnVPOr
>>586
視点教えろください
593:名無し ID:EhlUA73Nf
>>591
4、58、114、117、312とか
595:名無し ID:J9tZEqDea
>>591
俺が見てんのは39番のやつ
596:名無し ID:+1rJoOLIg
>>593
114って例の塵芥じゃんかよ
602:名無し ID:12yxqa0rW
なんか遺跡マップ怪物集まってね?
608:名無し ID:OINN3bxOU
遺跡だけゲーム違うかな?
614:名無し ID:63sjjCFbu
血塗れもいんじゃん
ニクネ持ち二人揃ってんね
616:名無し ID:DIX9fRzsv
もういいってあの二人
あいつら揃うとなんか怖いよ
617:名無し ID:Bu6gjIgBi
今日あつくね?あついよね?
618:名無し ID:uUR/Vg3hL
魔法乱打戦やな114とこ
624:名無し ID:v1C9bNSRj
>>617
氏ね
626:名無し ID:gQYi38prx
つーかめちゃくちゃ数多いな遺跡
628:名無し ID:DUhV68teW
遺跡不人気って考察どうなったんだよ
629:名無し ID:heS65QkYE
>>628
馬鹿が集まったんだろ
632:名無し ID:6FZYyh/UQ
お
633:名無し ID:4/7JAP1kr
あ
637:名無し ID:9Ep0WvGQK
お
639:名無し ID:sD0IMiNM4
お
644:名無し ID:XulyEi8Ac
すげぇ塵芥と血塗れ
645:名無し ID:fVUSdiEar
一番に入ったな
651:名無し ID:eZe2vZ68y
魔法職なにしてたん?撃たなかったん舐めプ???
654:名無し ID:hXmMLN7Xr
塵芥BANしろ
660:名無し ID:oP/RvIi4U
>>651
塵芥の影スキルで目隠しされてた
664:名無し ID:v1xNpBP/u
>>660
影魔法強いやん
668:名無し ID:QsQRytszQ
だれが勝つんやこれ
672:名無し ID:PTPY+N34L
>>660
使い方上手いだけ定期
675:名無し ID:OonodqIej
モモちゃんしか癒しおらん
680:名無し ID:op5tUrLl3
一日目総集編公開されたぞ!
684:名無し ID:jOs7XNNX/
血塗れ強すぎワロタwww
687:名無し ID:fkxvTuBzj
>>680
マ?そっち見に行きます
690:名無し ID:xT8ne7lPr
>>687
いつでも見れる動画を見に行くガイジ発見
694:名無し ID:Lh74HzHrO
二日目もう色々濃いって