クラッチ
「──強くなりたいか~!!!」
俺が叫ぶと、群衆に紛れさせておいたサクラのゴミが喉が裂けるような大声で叫び返す。
その熱気に押されてルーキー達も真似をするように声を上げた。うんうん、気分上々やる気上々!
「長ぇ前置きは無しだ!──これより、ルーキー強化演習を行うッ!!!」
〔プレイヤーズイベント〔ルーキー強化演習〕が開始されました!〕
宣言と同時に、運営の気を利かせたフォントアナウンスが空に映る。それに合わせる様に背後に隠れていたゴミ達が空へと魔法を一斉に放つ。
魔力を帯びた極彩色に彩られた青い空に、ルーキー共が「おぉ~」と感嘆の声を漏らす。イイネ、掴みも上々だ。
それでは、早速行こう!
逃げても地獄逃げずも地獄…、フィジカルスパルタルーキー改造計画の火蓋を切って落とすぜ!
一度失敗したあの計画を再起動すべく、俺はゴミ共にトレーニング表を託す。そして、呆けた表情で空を見上げるルーキー共を見下ろしてやるのだった…──。
◇□◇
──まぁ、俺は改造計画の方に参加できないんだけどね……。
各自ゴミ共が俺に気持ち悪い笑みと共に目配せをしながら、ルーキーを引き連れて離れていく様を見送って、溜息をついた。
俺の役割は問題児組の指導──、ハシモト君が直々に俺にお願いしてきた案件である。
まぁ、実際問題児を先に間引いてくれるのはありがたい。それはつまり、素直に吸収してくれるルーキーが俺以外の場所で指導もとい改造を受けられるという事である。
不良品は俺が引き受けてやるさ。
なーに、血塗れに七夕に兎をこちとら受け持ったことがあるんだ。所詮ルーキー…!本物達には到底適うまいよ…!
俺は「くくく…!」と余裕の表情を浮かべて、ハシモト君が選んだという連中が来るのを待つ。
すると少し遠くからハシモトがこちらに向かってきているのが見えた。
奴は俺を見つけると、露骨に安堵したかのようにほっと息をつきながらこちらへと走り寄り、俺の肩をがしっと掴んだ。
「それじゃ頼みますッ!バトン、渡しましたからね!頼みましたよ、手綱放さないでくださいよ!?」
ハシモトは汗を頬に垂らしながら、必死の形相でそう叫んだ。
そして、ばっと後ろを向くと「それじゃあとは塵芥さんに!」とだけ告げると、ダッとその場から逃げる様に走り出した。おいおい、んだよそんなに急いでよぉ。開会の言葉を俺に言わせたんだ。例のひところくらい欲しいんだがな。
しかし、俺の言葉を聞いている暇などない様に奴はそのままそこから走り去ってしまった。
俺は溜息をつきながら、ハシモトが置いていった問題児組の方を向く。えーっと、そんでぇ…お前…ら…が…。
頭を掻きながら、向き直ると同時に俺の身体は石化でもした様に固まっていく。ぞわりと背中に嫌な汗が伝い、四肢が急速に冷えていくのを感じる。
──三人、三人である。
俺が任された問題児ルーキーはたかが三人だ。他の指導役のゴミは平均して五、六人を一人で担当するが、俺に至ってはその約半分の三人を担当すりゃいい。
問題児っつっても大したことなんてないはずだ。しかもその内の一人はうるさいだけのときあめちゃんだ。
そう、そうだよ…そう思っていたんだ…──!
しかし、目の前を歩いてくるその三名のプレイヤーを見て、愚かにもその考えが間違っていたことを俺は痛感することとなる。
「教わる事なんて無い」
──殴り魔幼女。
「──なんで私が問題児扱いなのよ…」
──うるさい雑魚ときあめ。
「──芥君、飴ちょうだい…?」
──狂人血塗れ。
そうして、目の前に現れた三人は俺の前でそう呟くのだった──!
──…わぁ、過労死させる気なのかな!?
◇□◇
ざっざっと草を踏みしめる。
俺の気分は重かった。ちらと後ろを見れば、そこには俺の受け持つ問題児共がついてきている。
一人目は”幼女”。プレイヤーネームは知らねぇ。
噂によれば決闘厨らしい。俺も今日、こいつに一度回復乞食をされて、殴り殺されている。なんで強いのに強化演習に参加するんですか?
二人目は”ときあめ”。
うるさい雑魚。ワールドアイテム持ちのカスだ。
そして三人目…、幼女も問題だが一番の問題はこいつだ。
「…なんでお前ここにいるわけ?血塗れちゃん」
「…?兜の人に……参加してくださいって…」
血塗れは俺の疑問にそう答えた。
兜の人ってのはハシモトか?なんだって奴はこいつを参加させた?それに幼女もだ。こいつらは既に十分な戦闘力を持っている。確かに分類的には俺らのようなゲーマーではなくルーキーなのかもしれないが、どこにも教える事なんてないはずだ。
「幼女、お前もハシモトから言われたのか?」
「…私とそっちの化け物は協調性の問題だそうだ。そんなのいらない」
幼女は自分と血塗れを指差してそう呟いた。
ふぅん…?それに乗ったと?さっきから「必要ない」やら「いらない」って言ってるくせに参加はしてんじゃねぇか。
俺がそう言うと、幼女は露骨に不機嫌になりながらふてくされる様に俯いた。
「…ハシモト、あいつ色々隠してるぞ。私は《契約》を強制的に結ばされた。同意しなかったにも関わらずだ」
「…強制…?」
へぇ、確かにハシモトはルール制定スキルである《契約》を持っているはずだが、それは自分と対象者が同意しなければ結ばれないはずだ。それを強制的に結ばせる…?なるほど、色々と奴はワケアリらしいな。
まぁ、今はいいだろう。幼女と血塗れの強化点は”協調性”ってのが分かっただけいいけどよ、実際それって何すりゃいいん?
……とりあえず、適当にいくか!よし、れっつごー!
あえて軽い口調で俺は拳を上に振り上げて叫んだ。そんな俺に合わせる様に、血塗れだけが「おー」と小さく腕を上げながら囁くのだった。
「…ね、ねぇ…私は…?なんで私の話は何もないの!?聞いてよ!?聞けよ!?ねぇ!?」
──まず初めに俺一人で三人は無理だ。
それが素直なルーキーならいけるだろうが、一癖も二癖もあるこいつらならば話は別だ。俺が先に過労死する。
…まぁ、血塗れはもういいだろ。
こいつに協調性を求める方が間違ってる。明らかにこいつはこいつのままでしかいられないタイプだ。諦めよう。
俺は即座に血塗れを見捨てて、まだ可能性がありそうな幼女に光を見出す。
「よし、血塗れ。お前、そっちの雑魚…ときあめちゃんの戦闘指導してやれ。それも協調性はぐくめんだろ」
「え˝」
「分かった…」
俺の指示にときあめが露骨に嫌そうな表情を浮かべながら血塗れを見る。
そんな奴とは裏腹に、血塗れは「ふんす」と鼻息を荒くしながらすらりと長剣を抜き、ときあめへと近づいていくのだった…。
「んで、お前は俺だ」
「…いらん」
背後から聞こえる絶叫に知らない振りをして幼女へとそう告げると、奴は露骨に不機嫌そうにこちらを見る。
よう、”幼女”サマよぉ。
お前も情報屋と同じく、プレイヤーネームよりも二つ名が先行した系か?随分と分かりやすい名前が広まってんじゃねぇか、イイネ。
ニクネ持ちだけが、そう言ったプレイヤーネームとは異なる名前で呼ばれるわけではない。幼女然り情報屋しかり、プレイスタイルや見た目が先行してニクネもどきで呼ばれるプレイヤーが少なからず存在する。
「……」
おいおい、会話はどうした?
協調性だぜ、幼女ちゃん。ほら、口を開けて口角上げて。
俺は自分の口の端を指で上にぐいと吊り上げながら幼女の前にずいと出る。
お前はその通り名気に入ってるか?俺は運営からニクネを授与された口だが、未だにクソだと思ってるよ。七夕だってそうだ。あいつ、”七夕紛い”ってニクネだけど、なんでそうなったか知ってるか?
「…知らん」
”名前が七月七日に近かったから”だとよ。
あいつの正式なプレイヤーネームは776なんだが…6が無かったら77──つまり七夕だ!じゃあ6がついてる776は紛い物!…って誰かが思ったんだろうよ。それで運営は幾つかの候補を絞って投票の機会を設け、結果”七夕紛い”が採用された。奴等には人の心がないのさ。
「…何の話だ」
俺の他愛もない世間話に幼女が言う。
…協調性ってのはいわばコミュニケーションだ。血塗れにそれを求めるのは酷だから、奴には肉体言語をさせてるが、お前はまだ改心の余地がある。
だから会話をすんだよ。
おら、俺が話したように話してみろよ。ん?キャラメイクと人を殴るのだけが上手いのか?そりゃ随分と酷いパラメーター配分だぜ。
「…ッ」
次の瞬間、幼女が身を乗り出してその小さなぽてっとした右手を構えた。俺は咄嗟に「何で殴った?」と口走る準備をするも──、
「ぐ……っ」
奴の右手が俺に飛んでくることは無かった。
更に言えば、奴の周囲からは突如として鎖のようなものが出現し、俺を殴ろうと身を乗り出していた幼女の身体の至る場所が雁字搦めに拘束されていた。
……そりゃなんだ?
行動を制限されてんのか?随分と縛りプレイが好きなんだナ?
「…ハシモトの…《契約》だ…!」
…へぇ、マジで聞かなきゃいけないことが目白押しだ。
随分と強制力があるな。一プレイヤーが持っていい力じゃねぇ。明らかにカラクリがある匂いがぷんぷんするぜ。
しかし、今はそんなことよりもだ…!
俺はずずいと幼女へと顔を近づけ、下卑た笑みを浮かべて奴を見る。
──お前、つまり自発的にプレイヤーへの暴力行為を働けないな?
くっくっくと声が漏れる。おいおい、形勢逆転だなぁ!?俺はてっきりお前からの虐待を耐えながら会話をしていくのかとばかり思ってたぜ!?ハシモト君は優しいなぁ!?
ゲラゲラと笑いながら、俺は幼女の周りをくるくると回る。そんな俺を幼女がきっと睨みつけ腰を浮かせるも、やはり鎖が出現し、奴の行動を阻止する。
ぎゃははは!!
痛快爽快!気分が良いとはこのことだ!
俺はドスンと幼女の前に腰を下ろして、にやにやと笑みを浮かべる。
「あぁ、勝手に盛り上がって悪かったナ?さぁ、会話を続けようぜ」
俺は影魔法で奴の頭に触れながら《窃盗》を発動し、会話を続ける意思を見せる。
幼女は俺にアイテムが吸われているのを察知し、キッとこちらを睨みつけるがそんなの痛くも痒くもない。俺は一回、お前に殺されてっからな。こりゃ正当な権利さ。
ハシモト君も馬鹿だなぁ。んな契約つけたんなら、俺に渡すべきじゃないだろうに。
背後からときあめの「んぎゃ―ッ!!!」と言う汚い絶叫が響いていてくる。あっちも頑張ってるぜ、こっちも頑張ろうや。
幼女は鎖を出現させながらも、ようやくもにょもにょと口を動かし──、
「……いい、天気だ」
…そだね、いい天気。
青い空、響く汚い絶叫、流れてくるアイテム。正にいい天気だね。
「……」
え…?そんだけ…?
もっと喋れるよね?お前、事務的な会話の時は結構流暢に喋るじゃん。あの感じでいけない?
「…殺す」
駄目…!この子、駄目だ…!思ったよりも強情…!
コミュ障か…?いや、そういうタイプじゃねぇ。普通に喋らないタイプだ。こういう奴にはコミュニケーションを図ろうとせずにやりたいようにさせてやるのが正解って決まってんだけどなぁ。
こいつも肉体言語にぶちこむ…?その場合《契約》はどうなるんだ?俺が許可を出せば暴力行為も許されるようにできてんのか?
うんうんと唸っていると、ミシミシと背後からそんな音が聞こえ出す。
一体なんだとそちらを向けば、そこには幼女が契約によって出現した鎖を引き千切ろうと足掻いている様だった。わぁ、パワー系!
俺はそんな奴に若干の恐怖を覚えながらも、スキル由来の鎖が筋力で壊れるわけないと高を括る。
「ん…ぐ……ぅ…ッ!」
しかし、そんな思考とは裏腹に奴を拘束する鎖は更に音を強めて、今にも壊れてしまいそうなくらいに見えた。え!?壊れそうじゃない!?なんか普通にあれ鎖千切りそうじゃない!?
幼女のその怪物性を目の当たりにし、俺は即座に血塗れの方へと走り寄る。
「ち、血塗れちゃーん!あいつ…ッ、あいつを殺せぇ~!!」
「?いいの…?」
ヤバい奴は一旦殺す…!
状況のリセットが必要だ!俺は今にも鎖を引き千切ってきそうな幼女を指差して、血塗れに縋る。その足元にはぐちゃぐちゃになったときあめの残骸があり、俺は「ひ、ひぃ…!」とその有様に恐怖を覚える。と、ときあめちゃん…、こんな姿になっちゃって…!上昇負荷を押し付けられたみてぇだ…!
見るも無残なときあめちゃんは最早仕方ない…!
俺の言葉に従う様に血塗れが前に立つ。そして、次の瞬間幼女を縛っていた契約の鎖が千切れ、奴はこちらをギロリと睨みつけた。け、《契約》の拘束力ないじゃん…!踏み倒せるならクソスキルじゃねーか…!
恐々とした表情を浮かべる俺へと、幼女は中空から巨槌を取り出ながら嘲笑う様に笑みを浮かべた。
「それの後ろに隠れるなんて、随分と小さいものだ」
「──ち、ちま、血塗れちゃん!このカス、今俺のこと煽った……!!」
俺は血塗れの肩をがくがくと揺らしながら、こちらを煽った幼女を指差す。
あいつ殺せ!肉片一つたりとも残しちゃおけねぇ…!クソが…、調子に乗りおってからにぃ…!こっちには怪物筆頭の血塗れがいるんだぞ!てめぇなんかときあめみたいにぐちゃぐちゃになっちまえ!
すらりと剣を抜いた血塗れが、数秒その場に停止し、すぐにくるりとこちらを向いた。そして──、
「──…やっぱり、誰かを斬るなら芥君が…いい…」
──分かってたけどよォ!?
俺は《煙幕》を張ってその場から逃走を図る。
クソ…!分かっちゃいたさ!ワンチャンスに賭けただけ…!やはりあいつは基本言う事を聞かねぇ…こと殺人が絡んできたら確実に俺を狙う…!あぁ、分かっていた分かっていたとも!
予見していたことが現実となり、俺は煙幕に紛れて走り出す。
それもこれも全部ハシモトのせいだ!奴の契約は不完全だ…!力で契約を破れるならそれは契約じゃなくて約束でしかない!
クソが…、問題児組は始まって十数分で崩壊だ!背後から迫ってくる俺を斬りたがる馬鹿と、俺を殺そうとするチビをちらと見ながら、影魔法を展開して更に加速する。
イイネ!
状況はすこぶる悪いが、過去一身体が動く!影魔法も動かしやすい!こりゃアレだな!?
バッとルーキーがたむろう場所へと突っ込み、位置を攪乱しながら鬼ごっこは続く。
「んぉ?塵芥どしたよ」
「生徒から逃げてんだ!しくじった!」
「痴情のもつれ?またぁ?」
指導役のゴミが走る俺へと声を掛けてくる。
俺はそれに適当な返事をしながら影魔法を奴らの通る場所に仕掛け、時間を稼ぐ。
この辺一帯は魔法職と近接職が集まっており、ゴミも集合している。
恐らく、一旦集合して教育方針を決めていたのだろう。俺はそんな連中の間を縫うように移動し、次々と影魔法を設置する。
頭が冴えて、身体能力がいつもと比べて向上している。
影魔法の総量も多い気がするし、最適なルートへの思考が超速で回転する。すげぇ、神にでもなった気分だぜ。やっぱ仮説は合ってんだな。
ルーキーが跋扈するゾーンを抜けて、話し合っているゴミ共の間もするすると抜ける。ゴミ共はルーキーと違い、察しが良い為すぐに俺が何かに追われていることを察知し、ちょっかいをかけてくる。
走る俺の肩をゴミの一人が通り際にぽんと叩く。
「爆弾魔に気をつけろ」
──ゲンスルー!?
「どうやら、俺たちは親友のようだな」
──存在しない記憶!?
「お前、殺すます!」
──アーニャ!?
「おいらの竹とんぼ返してくださいな」
──フェルトひろゆき!?
連続してゴミ共が俺にボケを振り、条件反射でそれにツッコミを返しながら走る。
ぼ、ボケの渋滞だ…!俺が何にでもツッコむと思いやがって…!こちとら今そんなことにリソース割いとる余裕ないんじゃ!
ゴミ共の密集地帯を抜け、背後を見る。奴らは少し遅れて人混みから飛び出して俺を追って来ていた。
ここで撒けてるのが理想だったんだけどなァ!?こうなったらやるしかねぇよな!?
俺はバッと身体を反転させ、こちらに迫る二人と対峙しながら火照る腕でナイフを抜いた。太陽光に反射して、ナイフの刃が鈍く光る。
そして、それと同時に影が俺の足元からずずず…と滲み出た。
「芥君…なんか強いね…?」
血塗れがこてんと首を傾げてこちらを見る。
その横で幼女がふんふんと鼻息を荒くしながら、薄らと笑みを浮かべていた。
「…いいね、お前は勘が鋭いぜ血塗れ」
黒い魔法が渦を巻く。
──なぁ、知ってるか?
フルダイブ技術は何処からともなく齎された。
掲示板では俺ら人類が進むはずだった技術体系は、突如現れたそれによって破壊されたって話だ。
「──?」
「何の話を…」
血塗れと幼女は影が渦巻く俺の前で、警戒しながらも俺の言葉を聞く。いいね、傾聴の姿勢は高評価だ。
フルダイブ技術には不可解な点が多いのさ。
あまりにも、多すぎるんだ。そして、その不可解な点の一つにこんなものがある。
──”プレイヤー本体の体温が高い時、フルダイブ時のアバター能力が向上する場合がある”。
…あぁ、外的要因での体温上昇は駄目らしいぜ。暖房とかで体温を上げる行為さ。
ここで一つ、情報提供なんだが…俺は新マップ探索の時から微妙に体調が悪かったんだ。おかしな熱っぽさと言うか、どこか火照り気味だった。──多分だが熱がある。
「──言いたいこと、分かるだろ?」
さっきから出力がバグってんだ。
身体能力は上がってるし、影魔法の総力が増えてる。やりたいことがそのまま出来る感じだ。なぁ、分かるだろ?──これは、お前らの世界だ。通常時から体温が高い奴なら、きっとこの出力を常に扱える。
──今だけ、並ばせてくれよ。
スキルの小細工も無しに化け物共の土俵に立たせてくれよ。ぱちぱちと視界が明滅する。思考に靄が掛かっては、それが霧払いされるようにはっきりとする。
「──なぁ、いっちょ死んでみてくれよ」
馬鹿になった出力の影が一斉に爆発し、連中を捉えようと動く。奴らをそれを回避するようにバッと後ろに跳躍し──、
「浅ぇなぁ」
「わっ…」
「なん──ッ!?」
瞬間、奴らは背後の影に捕まって地面に落とされ、正面の影の濁流に飲み込まれてそのまま死んだ。さっき逃げてきた方向に回避行動してどうするよ、魂になった問題児共よぉ。
俺が影を沢山配置してただろ?追いかけてきてたんだから分かってただろうよ?ついさっきの情報をもうどっかに落としちまったか?
あー、気分が良いね。
お前らはいつもこんな出力で戦ってんのかよ。そりゃ強いわ。いや、流石に今は俺の出力が上か?ははは、フルダイブゲームが競技シーンになるって話が出てるけど、これじゃ体調不良者最強ゲーミングになるな。
はー、さてさて…ときあめちゃんがそろそろ教会から帰ってきそうだし、熱ある今しか使えねぇこの力自慢しよーっと。
俺はルンルンで踵を返し、ときあめを迎えに行こうとした時──、
〔許すと思いますか~?〕
「げ」
突如現れた運営によって、俺の身柄は拘束された。
そして、うだうだと今朝のシートの健康状態は~体調悪いなら~とお母さんみたいなことを言われる。
〔とにかく!明日明後日はログインを禁止します、体調不良なら即座にプレイを停止する規則ですよ〕
「二日ァ!?せ、せめて明日いっぱいで…!」
〔罰ですよ!次から体調が悪かったらすぐにやめて連絡ください!〕
あ、あー!慈悲…!慈悲を~!!
そうして、俺は強制ログアウトを食らい、ゲームから弾き出されるのだった…──。
「あ、あれ…!?ち、塵芥ルノ~、血塗れ~、幼女~…?え、な、なんで誰もいないの?か、隠れんぼ…?はっ…ドッキリ!?」




