呼べよ運命降るよ星々
――優しい人だと思った。
――運命みたいだと思った。
――…そう思う自分が酷く嫌いだった。
…だけど、貴方が言ってくれたから。
これはそうなのだと、そう信じていいのだとそう肯定されたようで酷く嬉しかった。
◇□◇
ハシモトに素直に拘束されていた俺達は、結局証拠不十分により解放された。つーかなんで警察みたいな真似事してんだよ。悪質なプレイヤーはプリズン行きなんだし、あんま気にしなくても良いだろーが。
「違法賭博だけはあっちの管轄外ですから仕方ないでしょう」
ふーん?
仕切りたがりなんだナ?ルーキーの頭目としての責任でも生じてきたか?ん?ちょっと教えてみろよ?なに、悪いようにはしないさ。明らかに何らかの変化があっただろ?
「な、馴れ馴れしい…!確かに色々ありましたが!俺だって嫌なのにどうしようもない事柄が発生しましたが…!詳細は伏せますよ!」
ハシモトが、縋りつく俺に嫌な顔をして必死に振り払おうとする。
だが、ナメクジ並みの柔らかさを持つ俺の身体には無力…!お前はその詳細とやらを話すまで俺に粘着され続けるんだヨォーッ!!
「ら、ラビラさん!この人、連れてってください!あんたの連れでしょう!?ちゃんと手綱握ってくださいね!?」
「あ、ぁ…!え、えと…!い、行きましょうぅ…!?ね…!」
ずるずると俺は兎に引き摺られてハシモト君から引き離された。
じゃあな、ハシモト君。次はお前の本心、聞かせてくれることを祈るぜ!
「はいはい…イベント始まるらしいし早く行ってください」
ハシモトのその言葉を聞いて、そう言えばと思い出す。
奴等に連行される最中、〔星降る夜〕とかいうイベントの発生が告知されていた。まぁ、どうやら魔物を討伐したときに追加で換金アイテムが落ちる+空から偶に換金アイテムが降ってくるみたいな金策イベントだ。行くだけ行くって感じの微妙なイベントだな。それよりも…、
「兎、あの賭博の仲介料だ。お前の儲け、半分俺のだよ」
「ひへッ…!?そ、そんな事言ってなかったですぅ…!」
「招待するのがタダなわけないじゃーん」
俺はけらけらと笑いながら、兎から賭博分の儲けを分捕ろうと試みる。
兎はそんな悪辣な俺の笑みを聞きながら、ぐぐ…と唸るとぱっと何かを思い出したように表情を明るくさせて――、
「そ、そうです…!よ、呼び方…、呼び方を決めましょう…!そしたら半分こします…!」
「呼び方ァ?」
俺は疑問をつけてそう返すと、兎はうきうきとしながら俺ににへらとはにかんだ。
どうやら呼び方ってのは兎が俺を呼ぶ名前って意味らしい。いや、別に適当に呼べばいいんじゃない?変なところで律儀発揮すんねお前。
「塵芥、ルノ、塵、芥…色々呼ばれてるし好きに呼べばいいんじゃねーの?」
「す、好きに呼んでいいですかぁ…!?」
テンションが凄い。
もう四日目最終盤だよ?そんな俺元気ないよ?無尽蔵の体力なのかな?兎ちゃん無限のスタミナ持ってるのかな?
「じゃ、じゃあ…!ち、塵君とか…!」
まぁ、良いんじゃないの?もう”芥君”とかいう、それは誰なの?って奴いるしね。
ゴミ君って呼んでくる醤油の野郎はもう諦めたけど、好きに呼べよ。俺だってお前の事兎って呼んでるしな。呼び方の等価交換さ。
「へ、ふへへ…!」
兎が謎の笑顔を浮かべる。
…やべぇ、普通の狂人タイプか?血塗れとか七夕よりはずっとマシだと思ってたけど、単純な狂人タイプが一番怖いぞ。…そう言えば七夕ずっと放置してるな。…まぁいいか。あいつから何も言ってこないってことはあっちもあっちで楽しんでんだろ。
「おら、兎。はよイベ行こうぜ。お前が儲け半分くれるとしても魔物狩るだけで金策できんなら万々歳だ」
俺はふにゃふにゃの笑顔を浮かべている兎の首根っこを引っ掴み、歩き出した。
イベント詳細を見るに、特定エリアの開催だからさっさと行って場所取らねぇとゴミがデカい顔しかねない。
花見の場所取りに似た感じだ。
日が暮れ、夜の帳が周囲に降り始める。
俺と兎がぎゃいぎゃいと中身のない会話をしながら街道を歩く。四日目最後のイベントの始まりが、すぐ傍まで迫ってきていた…――。
◇□◇
「よう、塵芥。遅かったな?イベントもう始まってるぜ」
「やっぱりぃ~?」
俺はナイフを抜いて、そのままゴミに向かって一閃した。
だが、奴はそれを残像のようなものを残して回避し、手の平に魔法を待機させた。んだよ、俺が殺そうとしてくるって読んでたか?人が悪いね。
「お前は生粋の悪だ。信じないとも」
イイネ、その心意気に免じて許してやる。
今はお前とPK合戦するより普通に魔物殺した方がよほど効率が良いらしいからな。俺の心に住まう効率厨が早くしろとうるさいんだ。
既に兎が遠くの魔物を弓で射貫いている。相も変わらず良い腕だ。
俺はそんな奴の首にがしっと腕を回し、「あんまし弓の腕前見られんなよ」とだけ告げて、別行動をする。
それを見ていたゴミがそそくさと俺に近寄ってきて、何か言い淀みながらも――、
「お前さ、それセクシャルハラスメント行為に該当しないの?」
「ぁあ?しねぇだろ。スキンシップだよスキンシップ」
「うわ…会社に一人はいそうなエロ親父みたいなこと言ってる」
うるせぇよ。つーかセクシャルハラスメント行為は相手が嫌と感じた時点と、俺にやましい気持ちがあった時点でもペナルティが落ちるはずだ。それがないって時点で俺は白だし、兎も嫌だって感じてないってことだろうが。
まずよぉ、相手は中身が本当に女かも分からねぇ半ネカマだぜ?悪いが俺はそういうので興奮はしねぇんだよ。
「そういうもんか…」
ゴミは頭を掻きながら俺の前から去っていった。
一応ナイフで奴の背中を刺そうと試みるが、普通に防がれた。背中に目でもついとんのか、このゴミは。
気を取り直して魔物狩りだ。美味いものは美味いからな。
俺は魔物魔物ルーキー魔物魔物ルーキールーキールーキーとバランス良く頂いていく。
お陰で狩りスペースに多少のゆとりが出来て、随分と影魔法を動かしやすくなった。飛ばした影がプレイヤーに当たるとだるいからね。
そうして、暫く何もなく狩りをし続けていると――、
「あ、塵芥さーん!ちょっといいですか~?」
遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。
ふとそちらを見ると、そこには数名のプレイヤーが固まって何かを取り囲んでいた。
「どったん?」
「これ、さっきここに降ってきたんですけどなんか他と違ってアイテム化されないんですよ。何か分かりますか?」
それは、強く発光する隕石の様な物体だった。
この〔星降る夜〕のイベントは、大まかに二つの事象が発生する。
・魔物が「星の欠片」という換金アイテムをドロップする
・空から偶に「星」という換金アイテムが落ちてきて、獲得できる
以上の二つだ。
しかし、今目の前にあるこの隕石みたいな物体はそのどちらにも属さない。これでアイテム化されるなら後者の「星」というアイテムだろうが、されないのだから謎だ。
「分かんねぇな。バグじゃね?とりあえず持ってみるか」
俺はそう言いながら、ナイフを仕舞って光輝くその隕石を両手でぐぐ…と持ち上げる。い、意外と重――、
――――ッ!!
次の瞬間、俺と周囲にいたプレイヤーは揃いも揃って空から襲来した大量の質量によって圧死した。
えぇ~???何今の?
俺は傍にいた連中と会話しようとするも、誰も彼もが魂になって会話を出来る技術を習得している訳ではなく、結局魂が教会流される中、俺とあの場にいたゴミ二人とぺちゃくちゃと喋る。
『ありゃなんだ?』
『さあな。上からなんかが降ってきてそれに潰されたっぽい』
『――星だ。アイテムの「星」がとんでもない量降ってきた』
ゴミがそう呟いた瞬間、魂の俺達がぶるりと身震いをした。
…俺達は行間を読むのが得意だ。だから、誰もが同時に気付いた――。
――あの隕石は、金策アイテムたる「星」を 引き寄せるのではないか?
荒唐無稽な推測――。
だが、プレイヤーが持った瞬間発生したあの現象は、正しく他の場所に落ちる筈だった星を吸引し、一つにまとめて落っことしたように思えて仕方ないのだ…!!
『…悪い、盆栽の世話をしないと』
『すまん、ちょっとマリオRPGしないとだったんだ』
『おっと、シスターに懺悔をする時間だ』
三者三様、急がなければならない理由を述べて、加速する。
三つの魂がそれぞれ速度を伴って、教会へのルートを算出する――!
ぎゅぎゅい!と俺はドリフトをしてショートカットを走る。馬鹿め!レースッつーのはなぁ!キノコが無くても無謀なショートカットを決めていく奴が勝つようにできてんのさ!
ショートカットの成功により、途端に一位に躍り出た俺が背後を走るゴミ共を煽る。
だが、同時に何故かダンベルを装備したゴミの魂が俺にぶつかってスピンさせようとする…!く、クソ…!魂の重量差だ!俺はスピードカスタムで奴は重量カスタム…!ぶつかり合いは分が悪いか…!
ぎゃりぎゃりと俺はゴミに押されて一歩下がる。
『馬鹿め!やはり重量級!レースは重い奴が勝つんだよォ~ッ!!』
『それはどうかな!?』
『な、なに!?』
俺達の上をパラグライダーを装備したゴミ魂が颯爽と登場し、そのまま首位に躍り出る。
ぱ、パラグライダーだとぉ!?き、貴様ァ…!いったいどこでそんなものを手に入れたァ~!!!
『…アイテムボックス、とだけ』
クソがァ!
ギャリギャリと俺は軽量級スピード型魂特有の軽さを生かして、ドリフトをしながら幾度となくショートカットをする。
重さでぐんぐんと加速していくゴミと、空から攻めるゴミがそんな俺を再び追う…!
一位になるのは――!
『――俺っちだァ~ッ!』
『――吾輩だぁー!』
『――私よぉ~ん!』
それぞれが個性を被らせないように、一人称を変えて叫ぶ。
そんな気の利いた叫びとは裏腹に、俺達の魂は曲がり切れずに関係のない民家に突っ込むのだった…――!ドロー!
「一時休戦だ」
「分かってら」
「んだよアイテムボックスって…」
普通にコースアウトして普通に教会に向かうよりもよほど遅れた俺達は、それぞれの武器を手に、イベントエリアに向かっていた。
勿論、邪魔なルーキー達は轢き殺していくぜ。奴らにあの隕石を取られたら溜まったもんじゃねぇ。あれは金策アイテムを誘引する特殊オブジェクトだ。
あそこに辿り着くまでの共闘、こいつらとはそれだけの関係さ。
ちらと横の二人を見る。すると、他の二人も示し合わせたかのように周囲を盗み見ていた。フン、どうやら考えていることは丸っきり同じらしい。
「《影魔法》ゥ…――!」
「《流転》んん!」
「《地走り》ッ!!」
それぞれがルーキーを屠りながら、死角を互いに潰し合って走る。全ては、己の利益のため――!
◇□◇
イベントエリアに着いた瞬間、俺達は途端に解散して三方向から先程星を誘引する隕石があった場所に走る。
これ以上、奴らといても旨味がない。奴らとの共闘はここまでだ。ここからは己の力で全員蹴散らす――!
ぎょろぎょろと目ん玉を転がして周囲を警戒しながら、隕石を探す。
脳内シミュレーションだ。隕石を手にし、その瞬間星が降る。それを横っ飛びで回避し、星に触れてドロップ判定を得る。それを繰り返し、金策アイテム大量獲得――!星が落ちてくるまで多少のタイムラグがあった。いける…!いけるぞ…!
にぃと笑みを浮かべ、集まる金の量に胸を躍らす。
目的の場所を目視し、その場に隕石がないことを確認する。同時に、先程俺達を殺した大量の星も既に誰かに回収されている。
だが――!
「くけけ…!そこかァ~ッ!?」
夜空を見上げれば、一目瞭然…!
とんでもない勢いで星々が一点に落下していく軌道が見えるぜ…!俺はばっとそちらに駆け出し、隕石を持つプレイヤーを目視する。しかし、その前に、
「去ね、《地走り》!」
先程まで俺と共闘をしていたゴミが、スキルをぶっ放し、隕石を持つプレイヤーの意識をそちらに逸らす。そいつはその瞬間、今まで避けていた星を避けることが叶わず――、
「て、め、クソ野郎がァ!!」
そんな叫びと共に星に圧殺された。
俺はナイフを抜き出し、影を這わせてその場に向かわせる。そして、影に地面に落ちた星を触らせ、ドロップアイテム化して回収し、隕石をこちらに運ばせる。
「良いね塵芥!冴えてる!」
瞬間、俺はしゃがみ込み、その上を剣が通っていくのを感じる。背後を取っているゴミがいたか…!
すぐさまバックステップを踏み、その場から隕石と共に逃走しようと試みるが俺の影が持っていたはずの隕石は、既に別のプレイヤーが持ち去っていた。
そのプレイヤーが星に潰され、また別のプレイヤーに渡る。そして、そのプレイヤーも避けられずに星に潰された。
「雑魚が持つから圧死しちまうんだよォ~ッ!!」
そう言ってその隕石を手に取ったゴミの上空から星々が降る――!
そのゴミは、「ぶべっ!」と言う声と共に星に潰されて死んだ。次々と人が死ぬ…!あの隕石は死の遺物だ…!
「お、恐ろしい…!」
そう言いながらもそいつはそそくさとその隕石を手にした。そして、
「取ったどー!」
そんなことを叫びながら、星に潰された。
やりたかったんだね、分かるよ。俺もやりたいさ。だが、最早そんなフェーズは過ぎたんだ…!周囲に地の粒子が舞う。流石に人が死に過ぎだ。
「連続殺人事件だ…!コナン君か金田一を呼べ!」
「あいつら来たら被害広がるわ!」
「工藤真一…探偵さ」
犯人は同一犯だ!
今そこに転がっているその隕石…!そいつがこの惨状を起こしたんだよ!目暮警部、そいつを連れてってくれ!奴にべったりついた血の粒子が何よりの証拠さ!
「なるほど、よし私が責任をもって調べよう」
ぞろぞろとプレイヤー達が騒ぎを聞いて集まってくる。
そうして、目暮警部みたいなプレイヤーが隕石を持った瞬間、走り出した。俺はそれを見越していたかのようなタイミングで《煙幕》を発動し、周囲を白い煙で包んだ。そして、
「――兎ィ!腕の使いどころだ!今やれ――ッ!!」
次の瞬間、とすっとすっという音共に次々と周囲のプレイヤーが倒れていく。
俺は目星をつけていたプレイヤーが煙幕の中で倒れているのを確認し、そのまま落ちている隕石を拾い上げ、煙幕の中を駆け回る。
すると、俺の走った軌道に次々と星が落下し、その軌道にいた奴らは全員ものの見事に落ちてくる星によって圧死した。
くけけ…!馬鹿が!切り札はいつだって最後まで伏せておくのさ!
隕石を地面に落とし、調子に乗ってゴミの死体を無防備に見下ろしていた俺の背後で、どさりと誰かが倒れる音がした。ばっとそちらを向くと、そこには頭に矢の刺さったゴミがいた。
――…正直、一か八かではあった。
兎が煙幕の中が見えなければ詰んでいた。だが、索敵が重要な射手である点と、奴の腕を鑑みれば何らかの視野系スキルは持っていると踏んだ。
そして、それは嚙み合って、奴は煙幕キルを量産し、俺は隕石を持って走り回ることで弓キルで間に合わない分のキルを稼いだ。
兎がとてとてと気弱そうな表情を浮かべながら、こちらに寄ってくる。
周囲にはプレイヤー人っ子一人もいない。奴らがここに帰ってくるまでにどれだけの金策アイテムが稼げるかなんて分かったもんじゃない。出し抜いた、とは正にこのことだ。
「最高だぜ兎ちゃん」
「ち、塵君…え、ふへ…」
俺はばっと腕を広げて、笑顔を浮かべる。
そんな俺を見て、奴もにへらと嬉しそうに笑顔を見せた。しかし、奴以上に俺は喜びを露わにし――、
「――こりゃ運命だ!俺とお前は出会うべくして出会った!」
「――…ぁ」
――星が降る。
暗い夜に、瞬くように、流れるように、幾つもの星が空を通る。
その輝きが、たった二人のその場を酷く明るく照らしていた。それは、あまりにも幻想的で――
「ハイタッチだ!今日と言う日を祝日にしようぜ~!」
「――ぁ、ぅ」
俺はそう言いながら、手を上げる。
しかし、兎はただその場で何かを抑え込むように呻くばかりで一向に手を上げようとしなかった。
俺は、「仕方ねぇ奴だな」と言いながら、兎の手を取って自分の手と合わてやる。セルフしてやるさ、感謝しな。
――ぱちん、という軽快な音が星降る夜に響いた。
「おら、ハイタッチ。いやはや気分が良いね。最高だ!」
とりあえず隕石持って走って、星回収して、奴らが帰ってこない内に逃げねぇと。
いやー、忙しくて悲鳴が出ちゃうね!幸せな労働とは正にこのことさ!おう、第一級功労者の兎ちゃんは休んでても良いぜ!安心しろよ、取り分は6:4さ!いやな、賭博連れてった仲介料とは別に手数料もあるんだよね~!
隕石を持って走り回りながら、星を回収する俺を兎はその場に座って見つめていた。
――星が降る。
空に星が流れ、瞬く光が幾重にもなってこちらを照らしていた。
その光は、あまりにも眩しくて――。
「――うん、めい…」
それを信じていいのだと、星の降る夜で少女は思った。




