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致命的失敗(ファンブル)!

 

 〔突発イベント〔魔物襲来!〕が開始されました!〕


「あー、右方十体、左方十四体、正面二十体程度確認!動物型(アニマルタイプ)多数~ッ!」


 兎に肩車をさせ、俺は声を張り上げる。

 おら、そこの槍ィ!こっち見てる暇あったら右方側で刺し殺せ!ただでさえ人手足りねぇんだぞッ!分かっとンのか~!!


「お、重いですぅ…」


 イベントが開始してすぐ…、状況は大変よろしくない。

 持ち駒が弱すぎる。数も少ない。これなら俺とゴミがタッグ組んでルーキーを囮にしながら戦場を荒らし回った方が良かったとすら思える。…いや、そうしたら街に侵入されて終わりか。


 クソ…!左方がもう崩され始めてるじゃねぇか…!

 おい、兎!指示出してるだけじゃ連中、クソの役にも立たねぇ!お前はここから弓で援護しろ、俺は戦場の均衡を保ち(バランサー)ながら都度指示をする!いいか、俺がいなくてもしっかりしろよ!?マジで頼むぞ!?


「ひ、ひへぇ…」


 俺は奴の額に自分の額を勢いよくぶつけて、幾度となくそう言いつける。

 こんなカスにすら頼らなければいけないのだから状況はあまりにも緊迫している。やべぇ、マジでやべぇ。

 俺は崩れかけの左方側に走りながら、リスポーンしたであろうルーキーと並走しながら前線へと向かう。


「おい、てめぇ!前線の詳細は!?」

「あ、えっと…狼型の魔物にみんな苦戦してます!動きが速くて武器が当たりません!」


 うっそだろ!?

 読めよ動きくらいぃぃ…!点で当てようとすんなよ、線で考えてっか!?初心者の内はぶち当てるイメージじゃなくて、相手の動きの軌道に置いておくイメージだぞ!?ちゃんとそこんとこしてっか!?


「あて…おく…?」


「初心者講習会が必要かなァ!!?」


 初心者(ルーキー)共が…!

 俺はずず…と影を地面に這わせて、「退いてろ雑魚共!」と叫ぶと同時に、こちらにたたらを踏みながら逃げてくるルーキーの前に立ち、それを追いかけようとする狼に影をぶち当てる。しかし、《影魔法》は魔物には低威力の関係上、足止め程度にしかならないのでふぅと息を多めに吐いて、流れる様に吸い込むとその空気を嚙み締めると同時に狼へと襲い掛かった。


「良いかルーキー…!結局動物型の魔物はなぁ…、人間と同じで急所に当てれば死ぬんだよォ~ッ!!!」


 勢いよく地を蹴った俺は握られたナイフを、狼の首や腹を狙って切り裂き、一撃で無理矢理に仕留めていく。仕留め損なった魔物がこちらを狙う様に動き出すと《煙幕》を展開し、その煙に紛れてバックステップを踏んで撤退する。


「おら、魔法職ゥ!魔法展開準備!」


 俺の言葉に、拙い動きの魔力が背後で次々と練られ、それらが輝く魔法へと変換される。準備できたか~!?


「魔法待機完了しました…!」


「よっしゃ、合わせろよ~!三…二…一…今!」


 虹色に輝く魔法が展開音と共に幾重にも折り重なり、魔力を迸らせて煙幕の渦中へと飛来し、爆音を響かせる。


「誰か索敵スキルない?視野系スキルでもいいんだけど。あと何体残ってっか見てくれ」

「多分いません。ぜ、全滅です」


 ほらな!?こうやるんだよ!?ちゃんと出来るじゃんね!?

 なんでさっきまで戦線崩壊してたんだよ!別に武器当てなくたって最悪タンクしてりゃ後ろの魔法職が壊滅させてくれるもん!なんでなの!?なんですぐに壊滅しちゃうん!?


 俺はそう叫び散らかしたかったが、それが原因でこのゲームをやめちまうのも夢見が悪いと流石にこらえる。分かるよ、自分より実力が上の奴からの文句ってすげぇ嫌だよな。俺、前やってたゲームでそれされて、二週間そいつに粘着してやったよ。疲弊していく様が気持ち良かったね、今じゃそいつと友達さ。


「んじゃ、お前とお前…あとそこの後ろの連中は右方側走れ。それ以外は正面の方に行け、あ、そこの連中はここ残って追加来たら正面の奴等の応援呼べ。そして俺の勇姿を永遠に語り継げ、いいな」


 そう言い放って俺はさっさと全体が見渡せる後方へと下がった。

 そこには、おどおどしながら矢を番えて次々と放つ兎の姿があった。おい、戦況どうなってる?もう休んでいい?なぁ、休んでいいだろ?


「え、えっとぉ…右方正面共に問題ないかと…はぃ…」


 よーし、寝よっかナ!!!

 俺は真面目に戦った反動でその場に寝っ転がり、わーわーと騒ぐ戦場を眺めることに徹する。横でちらちらと兎のスカートが揺れてうざったいが、残念ながらこのゲームはセクシャルハラスメント行為防止機能(システム)により、スカートの中身が絶妙に見えない。見えそうで見えないのだ。


 一部プレイヤーはどうにか見てやろうと必死になっているが、奴らパンツァー部隊がどれだけ頑張ったところでシステムの壁を超えることはできないだろう。

 兎が何もないところで転んで、吹っ飛んだ弓が俺の鳩尾に直撃する。ゴフッ、と空気を吐いて俺はぱたり、と動くのをやめた。


「わ、わぁーっ!?…す、すいませぇん…!」


 あー、うんうん。いいよもう、お前のドジっ子属性についてはもういい。俺ぁ、諦めるよ。いいんでない?そういう奴も必要だよ。

 時代は多様性である。このカスにだって、探せばいいところはきっとあるだろう。今のところおどおど属性と言う事しか見つかっていないが、根気よく探せばあるに決まっている。


 兎が俺の腹付近に落ちた弓を拾い上げると、もう片方の手中に粒子が集まり、それらは形を成して矢を創造した。奴はそれをそのまま弓に番えると、そのままぱしゅっと飛ばして奥の方の魔物を見事射貫いて見せた。


 わー、凄い凄ーい!

 俺はきゃっきゃと手を叩いて、その技術に喜びを露わにする。

 そんな俺を見た兎が「え、えへへ…」と気持ち悪いタイプの笑みを浮かべながら、照れるような動作をした。

 そんな事をしていると――、


「だ、大総統~ッ!!!」


 突然、前線からそんな叫び声が聞こえた。

 なんだなんだァ~?

 俺は仕方なし、と俺を呼んだと思われるプレイヤーの下に向かうと、奴は前線と俺の間できょろきょろとせわしなく視線を動かしながら、玉の汗をかいてこう告げるのだった。


「きょ、強敵が出現いたしました!我々では歯が立ちません!何卒、ご助力をっ!!」


 奴はそう言って、俺の前でざっと膝をついてこちらへの敬意を表した。


 うむ、いいだろう。お主らの働きに答えるべく、私が前に出る――!

 ルーキー君が偉い人ごっこを始めたので、俺も乗ってやる。よし来た、任せい。俺らの守ってた街だけ防衛失敗したとかになったら他の奴等から笑われちまうしな。


 俺はぐるぐると腕を回しながら、ぺろりと舌を出してどぷりと中空に腕を突っ込み、ナイフを取り出した。


「大総統のお通りだ!道を開けろ~!」

「大総統閣下!ご武運を!」

「バフでございます!何卒、お役立てください!」


 ルーキーが俺の通る道を開け、両端に跪いていく。

 俺はそんな奴らの真ん中を胸を張りながら歩いていき、最前線へと赴いた。

 砂埃が随分と酷い。少し先の景色も碌に見えないくらいだ。しかし、すぐに風が吹き、その砂埃が戦場を流れていく。

 そうして、晴れた戦場に姿を現したのは――、



「――わぁ」


 ――何時ぞやの討伐を逃したボス、モグラ君だった…――。

 その瞬間、俺は回れ右をしてその場から真っ先に駆け出した。


「だ、大総統!!?」

「大総統閣下のご乱心だ~!」

「であえであえ!」


 うるせぇ~ッ!!!

 ふざ…っ、ふざけるなッ!てめぇらグルだったな!?絶対勝てない相手だからって俺をぶち当てやがったな!?おかしいと思ったんだよ、やけにノリが良いもんなぁ!生贄か!?生贄にしようとしたんかワレェ!


 俺は並走するように逃げるルーキー共にそう叫ぶと、奴らは「仕方ないじゃないですか!」とこちらに叫び返した。


「ワンチャンあるのここじゃあんただけですよ塵芥さん!いいから早く礎にでもなってくださいよ!」

「な、なんて奴だ…!お、鬼め!お前らとんでもない悪魔だよ!どっちが塵芥の名に相応しいか分かったもんじゃねぇ!」


 俺はすぐさま、ずず…と影を地面に這わせて俺の傍に走っていたルーキー共の足に搦めて勢いよくすっ転ばせる。

 ぎゃはははは!てめぇらは地面とキスしてんのがお似合いなんだよぉ~!!じゃあな雑魚共、大総統の俺の為に死んでくれ~い!!


「転ばし屋~ッ!」

「悪魔…!ヘドロを煮詰めたこの世の汚泥め…ッ!」

「だ、大総統!本当にその選択肢でいいのですか!」


 ば~か!てめぇらの言葉に最早重みなんて無いんだよぉ!

 惨めにモグラ君に食われて死んじまえ!あの時の俺と同じ死に方をしなぁ~!ぎゃははは!!!

 中指を立て、舌を出して地面に這いつくばるルーキー共を煽りながら、俺はたったかその場から逃亡を図る。

 ずどどど、とモグラ君が地面を隆起させながらこちらに向かってきているのが見える。だが、その最中には地面に転がるルーキー達(エサ)の山…!


 けけけ…!

 大総統の生きる礎になれて喜ばしいなぁ~!!?


「ち、塵芥~ッ!!」


 そうして、モグラ君がルーキーたちを食い散らかそうと奴らの真ん前まで来た次の瞬間――!


「…あ、れ?」

「は、はぁッ!!!?」


 モグラ君は物の見事に転がった奴等をスルーし、勢いそのままに俺の方へと進行を続けた。


 お、おいおいおいおい!!!

 待て待て、待てよどうなってんだ!?バグか!?笑えねぇぞここ一番でのそんなイレギュラー!!!

 とにかくどうにかモグラ君を振り切る必要がある。影を後ろに飛ばしてもモグラ君の突進で普通に霧散しちまう。クソ…!勝てる相手じゃねぇ!


 モグラ君は現在接敵が確認されているボスの中でも一際強力だ。

 現在討伐、又は発見されたボスの種類は、蛙型・羊型・ゴーレム型・土竜型・魔法生物型・鳥類型の六つだ。魔法生物型と鳥類型は姿のみの確認の為、実際にプレイヤーが戦ったことがあるのは四種類…、その中でもモグラ君は屈指の強ボスだ。


 その理由としては、酷く単純明快(シンプル)――体力がとにかく多いのだ。

 攻撃の豊富さもさることながら、他のボスと比べても格段に体力が多い。一人でどうにかできる相手じゃない。それこそ、ゴーレムボスのような核があるタイプならソロ攻略も可能だろうが、モグラ君に至ってはそういうものは存在しやがらない。


 ど、どうすりゃいい…!?

 俺はモグラ君から必死に逃げながらぶんぶんと首を振り、逆転の一手を探す…が何もない。そりゃそうだ。そう簡単に見つかれば苦労しない。

 そんな逃亡劇をしていると、ふと眼前にこちらに迫ってくる砂埃が見えた。一体なんだ、と俺はそれをよく見ようと目を細めた。するとそれは――、


「ち、塵芥~!!!助けてくれぇ~!!」


 巨大な羊に追いかけられるゴミの姿だった。

 それを目撃した瞬間、俺は即座に進路を丸くカーブするように変える。しかし、ゴミもそれに合わせてカーブし、俺とゴミは見事合流して並走する羽目になった。

 そのせいで背後にはモグラ君と巨大羊のダブルボス体制になってこちらを追い詰める。


「こっちくんなや!」

「無茶言えって!なんでお前まで追われてんだよ!」

「知らね……え…――」


 ゴミの叫びを聞いた瞬間、俺の思考が一瞬停止する。

 魔物――、追いかけられているのは俺とゴミ――、何故かルーキーを無視してこちらを狙う――…。


 ――ま、まさか…〈邪悪の卵〉の効果のせいかよ、この状況…!

 影が薄すぎてすっかりと忘れていたが、そう言えば〈邪悪〉系統のパークの効果は”魔物からヘイトが向きやすくなる”というものだ。

 今の今まであまり感じていなかったが、ここにきて牙を剝きやがった!

 さ、最悪だ…!クソパークめ…!救いようがないにもほどがあるぞ…!


 俺はちらと横を見る。

 性癖聖戦の際、このゴミはあの場にいた。つまり、こいつも間違いなく〈邪悪〉保持者…!


「ど、どどど、どうする!!?マジでどうする!?」

「知らんってぇ!大総統様なんか考えてよぉ!」

「お、お前を生贄にする…!?」

「いや、無理だって!あいつら明らかに俺ら二人を狙ってんだ!どっちか生贄にしてもボスが二体いる以上、片方のヘイトは無視できない!」


 く、クソ…!万事休すか…!?

 い、いや…、こんなところで諦めるほど俺は人間出来ちゃいねぇぞ…!ピンチの時こそ二舞三舞…!竜舞をして攻撃と素早さを上げるんだ…!


「俺、剣舞派なんだけど!?」

「素早さ上がる竜舞のほうがいいだろーが!」

「それで攻撃足りなかった時の方が悲惨じゃねーか!?」

「攻撃なんて一回上げりゃ大体足りんだよ低能ゥ!!!」


 ポケモン談議に花を咲かせる俺達の間を、モグラ君の爪がザッと通り過ぎる。ひ、ヒェエ…!あ、あの野郎…!俺達を狩る気だ…!間違いねぇ、殺される!


「きりさくだ!ドリュウズだ!っつーことはあっちはメリープだ!」


 ポケモンの話やめろ!

 いいか、ゴミ…!この先におどおど系のカスがいる…!奴はこのゲームじゃ珍しい弓使いだ…!遠くから奴にチクチクして貰って、まずは一体ボスを落とす…!最早勝ち筋はそれしかねぇ…!


「む、無理だ塵芥…!連続攻撃技にはトラウマがあるんだ…!」

「黙らっしゃい!五回当たると言ったら当たるんだよォ~ッ!!」


 無理矢理にゴミを説得し、俺達はモグラ君と羊ちゃんの攻撃をどうにか避けながら兎の居る場所へと急いだ。

 走り続けるのだって限界がある。ここが電脳世界とはいえ、スタミナは存在するのだ。く、クソ…!明日からジムに通うぜ…!


「俺もリングフィットアドベンチャーするわ…!」


 しかし、その甲斐もあってどうにか兎が見える範囲まで到着する。

 俺は声を張り上げて、兎へと――


「兎ぃ――ッ!!弓チクチクでこいつら殺せぇ~ッ!!」


「は、はへぇ…ッ!!?」


 汗だくの俺の叫びを聞いて、兎が素っ頓狂な声と共に弓を取り落とすのが見える。

 ンなドジっ子披露している暇あったらさっさと撃ち始めろやァ~ッ!!

 やっとこさ矢を番えて、こちらに狙いを定めた兎が見える。ぐるぐると奴の目の中が回っている。どうやら突然の事でよほど混乱しているらしい。だが、あのカスを気遣っている暇はない。


「殺れ~ッ!!」

「頼んだぞ~ッ!」


 俺とゴミの叫びと共に、幾本もの矢がほぼ同時に発射される。

 それらは風を切って勢いよく飛来する。は、速い…!この速度でこの本数を撃てるのならば本当にワンチャンある…!

 俺とゴミは一瞬だけ顔を見合わせて、助かるかもと喜びを露わにした。そして、前を向いた瞬間――、



 ――ドスッ!と、俺とゴミは全くの同時に頭部に衝撃を受けて後ろに吹っ飛んだ。

 俺達の額に刺さっていたのは、一本の矢だった。それが、俺達の頭に深々とぶっ刺さっている。その衝撃を受けて、俺はモグラ君の腹の上に、ゴミは羊ちゃんのゴワゴワとした毛の中に突っ込んだ。


 そして、俺は頭からぼりぼりとモグラ君に食べられ、ゴミは羊ちゃんの毛の中でそのまま窒息死した。


 ――ふわり、と俺達の魂が空を舞う。

 うふふ、あははと俺達は互いにくるくると空を舞いながら会話をする。


『ゴミ君、俺達…失敗、しちゃったね』


『そうだね、塵芥君。でも次はもっとうまくやろうよ』


『…うん、そうだねっ!ゴミ君、頑張ろうね!

 ――あのカスは殺しとくよ』


『うんっ!一緒に頑張ろうっ!

 ――マジでちゃんと殺せよ。一撃必殺当てろ』


 浄化された俺達が清楚の権化のように言葉を交わす。

 魂の練度が上がりすぎていつの間にか会話すら可能になった俺達はゆっくりと他愛ない会話をしながら教会へと向かうのだった…――。



「あ、あわわ…!ご、誤射っちゃいましたぁ……!に、逃げなくちゃ…!」

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