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落伍者たち

 

「こんばんは、ゆっくり霊夢です」

「ゆっくり魔理沙だぜ」

「そこらへんにいた人です」

「私です」

「え?あ、モモです」


 俺達は勝手に教会の一角を陣取って、座り込んだ。

 それを冷ややかな目で見る奴も多いが、モモがそこに交じっていると分かると途端に目の色を変えやがるんだから人間救えないぜ。

 同種であろうゴミが、リスポーンすると同時にこちらに気付くと勝手に隣に座ってくる。キメェ。


「血塗れさんありゃ強え」

「オーブって今売れないわけ?そしたら売って倒してループできんじゃん」

「売れねぇよ。考えりゃわかるだろ低能」

「治安悪いて、もうちょい野菜取れよタンパク質共」


 話す内容はどれも適当だ。

 全員が同じ話題を話すわけでもない。そこら中から別々の話題と喧嘩腰の怒鳴り声が聞こえてくる。


「塵芥君……、これ何の集まり?」

「んぁ?なんのって……なんでもねぇよ」


 何気無しに集まった俺達に、モモがそう問うてくる。

 別に何の集まりってわけじゃねぇさ。それなら学校で友達同士で集まった時、その集まりに何か名前を付けるのかって話さ。まぁ、こいつらと友達かと言われればそれは否定するがな。


「よぉ、あんた、偶像様だろ」


 ゴミの一人が、モモに話しかける。

 それにモモが「あ、うん」と返し、その瞬間ゴミは身体の端から灰のような粒子になってさらさらと消えた。わぁ、人体の神秘。


「え!?なんで!?なんで!?」

「も、モモさん、やめてやってくれ……。こいつ、自分からアイドルに話しかけたんだぜ?」

「ちゃんと言えたじゃねぇか」

「聞けてよかった……」


 まぁ、あんまし気にすんな。

 こいつらは自分に後ろめたさがある生き物なのさ。それが命を振り絞ってアイドルであるお前に話しかけたんだ。その蛮勇に敬意を表そうじゃねぇか。


 俺達は灰になったゴミを足で教会の隅っこに掃いて再び座った。


「わ、分からない……!」


 まぁ、俺も分からないよ。

 でもその中でも分かる事は、ゴミは基本馴れ馴れしいという事だ。同族嫌悪故の壁の無ささ。でもな、ゴミでもない女子に話しかけるのは奴等にとっては高い壁なのさ。くだらない連中だ。


「てめぇ塵芥ァ!言語化すんなや!」

「それで俺達を知ったつもりか!?その通りだよッ!」

「イレギュラーが!」


 わらわらとうるせぇ連中だ。

 なんだよ、んじゃお前らは待ち続ければ自分好みの女の子が突然空から降ってきて、イチャイチャできると?一緒に「バルス!」って叫べると思ってんのか?

 いーや、無理だね。

 お前らみたいなゴミには無理な話だ。お前らは所詮、まっくろくろすけにしかなれねぇ。


「馬鹿言え、俺はトトロだよ」

「あ?トトロは俺だ」

「俺の小さい頃の夢はトトロだぜ。あんまし舐めんなよ」

「僕ぁ、めいちゃん食われてたきゅうりになりたいな」


 俺は猫バスになりてぇな。あれ、格好いいんだワ。

 突然始まった謎の話題に時間を取られていると、ふとモモが口を開き、


「あの、皆はなんで人を殺すの?仲良くした方が楽しいと思うんだけど……」


 それを聞いたゴミ共は皆目を丸くしてモモを見た。

 しかし、モモはその程度の注目で尻込みすることなく、ふんすと鼻息を荒くして俺達の言葉を待った。


 いいね、新風だ。

 俺達に必要なのはこういう青臭い風だぜ。

 いつまでも同じ風を吹かせていちゃつまらない。ハシモトとかの雑魚側の有能も頭角を現してきたことだし、三日目最後半にして盤面を少しかき混ぜるべきだ。


「――まぁ、意味はねぇな」


 ゴミの一人が目線を上に向け、あたかも考えながら言葉にしていますという風に口を開いた。

 しかし、その目はちらちらとモモを見ていることから、単に正面見据えて言葉を発するのが恥ずかしかっただけだと思われる。


「うん、効率良いってのはあるけど意味はねぇ」

「そだね」

「意味を求めて人殺さねぇさ。それこそバトロワの時の動きやすさだったり以外は」


 PKに効率以外は基本求めない。

 偶に楽しくなっちゃうことはあるけど、偶にだから許してほしいね。あとは、嫌がらせとかそのくらいだ。

 つまるところ、PKってのは選択肢の一つだ。ほら、一度くらい聞いたことは無いか?『殺人は癖になる』って。正にそれだ。効率よくなきゃ普通に魔物を狩るかもしれねぇ。


「じゃ、じゃあ、私がさっきまでしていたことは意味がなかった……?」


「あー、そりゃ違うな」


「え?」


 モモがしていたことは間違いじゃない。

 ()()()()()PK防止運動をしているってのは普通にデカい。ゴミでも炎上を恐れる奴はいる。そういう奴のPKを一回潰したってのは十分な功績だろ。

 勿論、炎上なんて気にしないゴミもいる。血塗れとかは正にそうだな。


 これから先、そういうゴミは増えていくだろう。

 時間が経つにつれて、そういう諸々が面倒臭くなっていくのさ。だから、お前がやっていた世直しムーブはこれからが本番だろう。



「――そ、その時はまた一緒にやってくれるよね……?塵芥君」


「断っても意味ないんだろ?俺は炎上怖ぇ側だし」


 ぱぁ、とモモの表情が明るくなり、こちらに笑顔を向けた。

 そんな俺とモモをゴミ共が「うわぁ」と言いながら見つめてくる。


「塵芥、ちょっと一緒にイベントいこうや」

「あ?いや、なんでお前らと」

「まぁいいじゃねーか。偶像さん、今日はもうこいつ良いすよね?借りていきます」

「あ、うん。分かった!塵芥君!またねっ」


 両側から筋骨隆々タイプのゴミに肩を組まれた俺は、宇宙人グレイみたいにぶらぶらと足を浮かせながら教会を後にした。


「なに?なんなの?かまちょ?」


 男のかまちょは犬も食わねぇぞ。

 女のやつでさえ、俺は反対派なんだ。いいか?かまって欲しいなら金をよこせ、そうしたらその分一緒にいてやるとも。俺とお前らの仲だ。普通なら一時間二万のところを倍の四万で許してやる。おら、そこそこ人数いるんだから全員で出し合え。


 俺がばたばたと足をばたつかせていると、肩を両側から組んでいたプレイヤーがぱっと腕を離し、俺は解放された。足裏をしっかりと地面につけ、先程までの浮遊感の余韻を少しだけ感じながら、「金払う気になったかよ」とゴミ共に問う。


「なぁ、お前……さっきまで偶像と行動してたんだろ?」


「んあ?仕方ねぇだろ。断れない状況だったんだから」


「で、でもよぉ、お前血塗れ担当じゃねーか」


 それやめて?

 俺をあいつの担当にしないで?それお前らが勝手に言ってるだけだからね?血塗れは別に一人で生きていけるからね?俺あいつ怖いんよ……。だって俺の身体の欠片ポッケに詰めてたよ?なんなんだよあれはよぉ……!


「いやまずお前、見る度に女とっかえひっかえすんのやめよう、な?俺、協力すっからさ。流石にお前が朝の地上波デビューするのは夢見が悪ぃよ……」


 その発言が一番駄目だろうが……!

 朝のニュースに俺がのると?妄想は己の中で留めておけよお前……!


「僕の情報網によると、血塗れさん、アイさん、ホウリさん、偶像さんと一緒にいるところが目撃されていますよ。酷いなこれ」

「知らねぇよ、少なくともアイってやつとホウリってやつは知らん。それ情報間違ってるぞ」


 いつの間にか参戦していた情報屋がさらさらと俺の情報を述べる。

 情報屋君は情報が正確ってことで売ってんのに、正確性に欠ける情報扱ってるとかどうなんですか~??


「ほら、塵芥。頼むよ、俺別にお前の事心底嫌いなわけじゃねぇぜ。ほら、田んぼにいる黒いアレ……」


「おたまじゃくし?」


「そう、そのくらいは好きだしよ……」


 それ、全然好きじゃないね。

 何、なんなのお前ら。


「よし、分かった!ちょい飯食いに行こう。NPCの美味い飯屋見つけたんだよ。お前らはどうする?」


 ゴミの一人が、俺の肩を掴んで引っ張り出す。

 二人ほどのゴミが「一緒に行くわ」と言いながら、俺達と共に移動をはじめ、残りのゴミはその場でイベントの続きとばかりに戦闘をし始めた。


「お前らイベントいいわけ?」

「オーブ一個確保してりゃまぁいいわ」

「オレも」


 けっ、そうかよ。

 そんな会話をしながら、ゴミの一人が「ここだここ」と言いながら暖簾をくぐり、「大将やってる~?」と常連風の雰囲気を出しながら入っていた。ありゃ、俺達へのさり気ないマウントだ。『俺はここ通ってます』っつー玄人感を出してきやがった。


 ゴミ共がぞろぞろと店の中に入り、テーブル席に着く。

 それに従って残った椅子に座ろうと店の中を進んでいると――、


「――ッ!?」


 店のカウンター席に、見覚えのある顔を見つけた。

 奴は、目を髪で隠していながらもじっとこちらを見つめているように見えた。

 ま、マズイ……。こいつ、なんでこんなところに!?


 そんな感情をポーカーフェイスで隠しながら奴の後ろを通って、席に座る。

 注文を取りに来たNPCにゴミがぺらぺらと舌を回している。その中で、ちらと再びカウンター席の方に目を配る。

 その瞬間、ばちりと奴と俺の間で火花が散る――!



 なんでここにてめぇがいるんだよ、七夕……ッ!

 カウンター席の七夕がくぴっとドリンクを飲みながら、にやっと笑みを浮かべていた……。


 ◇□◇


 ――状況は良くない。

 俺は正直、そろそろVRMMOっぽいことをしたいと考えていた。それくらいに、状況はよろしくない。


 同じ席に座るゴミ共は俺の色恋沙汰に興味津々だ。

 VRMMOにドロドロの恋愛はいらねぇ。だが、いらなくとも厄介ごとは大抵あちら側からやってくる。こちらの意思なんて関係ないんだ。


 鳥皮串を口に運び、しゅわしゅわと鳴る黄色の液体をごくりと飲んだ。

 どうすればいいのか、と考える。七夕は間違いなくこちらを捕捉している。多分、メンテ明けで俺が逃げたことを普通に怒っていると思われる。


 もつ煮を口に運び、味の濃さを再び黄色の液体で流し込む。かーっ!

 ……俺は奴が怖かった。血塗れレベルで怖かった。だって、あいつ俺の頭潰して、虫の息の俺の恐怖の表情を楽しんでたもん。

 ありゃヤバい目だ。関わっちゃいけないタイプだ。


 ポテトサラダをもしゃもしゃと口に運んで、ゴミ共と他愛ない話で笑い合う。ははは!お前バッカでー!!!


「だろーッ!!?がはは!」


 ここで奴に捕まるのは不味い。

 三日目は既に終わりを迎えるが、四日目の最初を七夕と過ごすことが確定する。それは勘弁だ。解放する基本機能(システム)の話だけで終わればいいが、それで終わるとは思えない。


 ぐびりと、ビールに似た何かを飲み干して、「大将!おかわり―!」と叫ぶ。つられて、ゴミ共もジョッキを上げて「おかわり!」と叫んだ。

 最善は七夕を殺すことだ。俺ならば殺せる。後は怖いが、そこから会わなければいい話だ。暫く経てば、奴も落ち着くだろう。


 唐揚げ全てにレモンを掛けたゴミを殴り飛ばす。殴られたゴミは、「ぎゃはは!」と謎のテンションで笑っていた。

 そうだ、今ここでやる。

 七夕を殺し、気分よく三日目を終えてやるさ。そうだ、そう……――。


「zzz……zzz……」


「塵芥寝ちまったよォ~!」

「よわーい!」

「きゃわいい寝顔っ」

「――私が介抱しときますよ」

「あ、さんきゅ~!」


 誰かがそう言って、俺の身体を持ち上げて店から出ていった。

 既にイベントは終わりを迎えており、配信自体の終わりも近い為、プレイヤーの姿もそれほど多く見受けられない。


 ゲーム時間が夜の為、周囲が少しだけ薄暗い。

 そんな街道を、二人のプレイヤーが肩を貸して歩いていた。片方は寝息をたて、もう片方はそんなプレイヤーを安全にログアウトできる宿屋に連れていき、そのままベッドに放り投げた。


「明日が楽しみですね、塵芥さん――」


 そんな、呟きと共に二人分のログアウト粒子がその部屋に舞った。


 ――――――――――――――――

【TOP】

 P K(プレイヤーキル)数:≪ 血塗れ ≫…

 移動距離:千里

 ワールドアイテム取得数:時雨

 Skill経験値取得量:≪ 殴殺卿 ≫ちゃちゃりのす

 金獲得量:ドルマロ

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