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お前!人を殺しただろう!死ね~いッ!

 ――よくある話さ。

 他人に救われる奴ってのは、所詮救われる覚悟ってやつがあったのさ。


 勿論、俺は違うぜ?

 他者から救われる対象じゃねぇ。寧ろ、手を差し伸べて救ってやる側だとも。なにせ、いつだってルーキープレイヤー諸君を生というしがらみから解放してやっているんだ。なんて優しい。天使かな?


 ――だからこそ、この状況は間違っている。

 断固として、俺はこのスタンスを崩す気はないぜ。間違っている、間違っているとも――、


「どこ行くっ?とりあえず悪そうな人を倒そうよ!」


 時限爆弾こと、モモと行動をするなんてあまりにもおかしな話なんだよ。

 隣でわたわたと騒がしい動きをしながら、奴は俺にそう聞いた。行き当たりばったりか?終わってんね。


「曖昧が過ぎるぜ、偶像様。お前のいう悪そうな人っつーのはつまりPKer(プレイヤーキラー)だろ?」

「うーん、多分……」


 だが、残念ながら今から開催される〔オーブ争奪戦〕はそんな垣根を超えた殺し合いだ。

 いつもは他者を殺さない奴も、イベントという免罪符と共にプレイヤー殺人を犯すだろう。だが、そんな理屈、こいつに話してやらなくてもいい。そうだな、ここは適当に……、


「まぁ目の前でプレイヤーぶっ殺してる奴いたら殺すでいいでない?」


「そうだねっ!シンプル!」


 よーし、馬鹿で助かったね。

 ここで更に細分化して、「悪意あるPKerしか倒さない」とか言われたらどうしようかと思ったぜ。随分と緩いながらも”悪人”の定義が定まったところだし……、


 〔イベント〔オーブ争奪戦〕が開始されました!〕


「よっしゃ、雑魚狩りだァ~!」

「悪い人討伐~っ!」


 ◇□◇


 結局、ゲームっつーのは基本をとことん突き詰めれば強いのだと、思っている。

 よりシンプルな武器で、よりシンプルな技で、よりシンプルな動きで、突き詰めれば突き詰めるほど、どれだけ策を弄しても崩れない頑強な力となる。

 分かるだろ?FPSだって百発百中当てられれば強いのさ。勿論、キャラコンも大事さ。だがな、それらは二の次だ。基礎をまずは固めなきゃいけねぇ。


 そこんとこ、どう思う?


「はよ殺してくれよ。制限時間短いんだからよ」

「いいじゃんか。暇なんだよ」


 近くでモモが別のプレイヤーと戦っている。

 どうやら苦戦しているらしく、先にこちらの制圧が終わったため、そいつを尻に敷いて仲良く会話中だ。


「……しゃあない奴だな。まぁ、俺もお前の意見には賛成さ。結局FPSもAIMゲーだし、基礎こそ強さだろ」

「その通り。結局俺達は使い勝手のいいシンプルな形に落ち着く。お前がショートソードで、俺がナイフであるように」

「でも俺はロリキャラがデカい武器を持つ夢を諦めたわけじゃねーぜ」

「……そりゃあ、な」


 ロリキャラが背丈に合わない武器を持つのは一種の浪漫だ。

 ありゃもう人類皆の性癖だろうよ。あの欲望に勝てる奴はいねぇ。だが、残念なことにこのゲームは幼女が少ない。露骨なくらいに少ないのさ。血塗れですら幼女ではなく少女体形だ。


「塵芥、俺は諦めないぜ。ロリキャラを探す。その為に俺はここにいる」


 VRMMOとは性癖の坩堝だ。

 誰もが自由な姿であるべきだとも。ロリショタプレイヤーが少ないのは、キャラクリの難しさと、視聴者に見られて己の性癖が開示されるのを恐れた結果だ。


「お前のワンピース、見つけたら教えてくれよな」

「分かってる。ロマンくらい、共有してやる」


 一陣の風が俺達の身体を抜ける。

 背後から「おーい」とモモのこちらを呼ぶ声が聞こえてくる。どうやら無事に奴の定義内の”悪人”を殺せたらしい。


 それじゃ、行くよ。元気でな、兄弟。


爆弾(アイドル)管理、頑張れよ。兄弟」


 そうして、奴の首にナイフを入れて横に引いた。

 薄らと笑みを浮かべた奴がゆっくりと瞼を閉じた。魂が、身体から抜け落ちていく。天から光が差し、奴は再びロリキャラ探しの旅に戻っていった。


 〔Item:「オーブ」を獲得〕


「塵芥君、仲間なんだから助けに来てよ!大変だったんだよ!」

「悪かったよ」


 ぷんすかと顔を若干赤くしてモモが地団太を踏む。

 さぁ、次に行こうぜ。少し時間が掛かっちまったな。北の方から風に乗って戦闘音が聞こえてくる。まずはそいつらを殺そうぜ。


「調子いいなぁ。全くもう」


 モモはそう言いながら、前を走って「早く!」と俺を急かした。

 馬鹿は扱いやすいと言うが、行動力のある馬鹿はよほど扱い辛いな。俺はふと空を見て、息をついた。

 さっきの奴はまだ空の上だろうか。それとも、もうリスポーンしてロリキャラ探しをしているのだろうか。どちらでもいいが、あいつの夢が叶う日がいつか来るといいな、と他人ながら思いを馳せた……――。


 ◇□◇


「あ、まてーい!今、人を殺したなーっ!?」


「ぁあ!?そりゃそういうイベントだし当たりま……――ぐ、偶像!?」


 モモが目の前に突撃していき、歌舞伎みたいな文句を叫ぶ。

 それに呼応したゴミが、ガラの悪さを前面に押し出しながら対抗しようとし、その相手が≪ 偶像 ≫モモだと知って一歩二歩とその場から後退る。


「いざじんじょーに!」


 ガチンッと拳に纏った武装を鳴らして、モモが地を蹴った。

 相手は、「おいおい冗談だろ!?」と叫びながらバックステップを踏み、モモから逃げながらきょろきょろと周囲を見渡した。

 すると、ばちりと高みの見物を決め込んでいた俺と目が合い、その間に火花が散る。


「おい、塵芥ァ―!てめぇ、この子の保護者か!?どうにかしろやッ!オレにアイドルを殺す度胸はねぇ~ッ!」


 とんでもない気迫でとんでもない弱音を吐いたゴミが、くるりとモモの猪突猛進を紙一重で避けて、こちらに向かってくる。


「塵芥君!その人倒して~!」

「良いご身分だな塵芥、アイドルとデートか!?ファンが黙ってないだろう!どうやら現実(リアル)で死にたいらしいなッ!?」

「言葉にすんなや下衆がッ!逃げ場がねンだよ~!!」


 ずず……と影を奴の足元へと這わせ、その場から退避する。

 うるさいゴミには嫌がらせだ!てめぇの相手は俺じゃねぇ!皆の人気者のアイドル様と精々殺し合うんだなァー!


「邪魔ッ、臭いもん寄越すなよ!?つれねーなぁ!」


 這いよる影を飛び越えて、ゴミはその場でブレーキを踏むように地面を滑りながら止まった。

 一度影を避けても、更に幾つもの影を飛ばす準備がある。ある程度の距離がある以上、俺相手では不利だと諦めがついたらしい。


「死して己を悪と知れ~っ!」


 そんな決まり文句と共にモモが踵を返してゴミへと向かってくる。

 実力勝負ならば勝敗は決している。このゲームの平均値で見れば、モモは強い。単純に《強化魔法》による自己バフと《格闘術》の連鎖攻撃が強力だ。


 だが、今回ばかりは相手が悪い。

 相手は俺と同等なゲーマーだ。汚い言葉遣いで分かる。パンピーじゃねぇ。

 そうなると実力差は逆転し、圧倒的にモモが不利になる。それでモモが死んだら、俺は恐らく奴のファンに責められる。まぁ、それでもいい。――なにせ、それ以上にモモを殺したゴミが責められる。


 ――運営は何も分かっちゃいないのだ。

 アイドルをプレイヤーにして集客率UP?そりゃ良いアイディアだ。だが、そのアイドルは今やとんでもなく殺しにくい地雷だぜ。

 ファンの母数の多さが、規律を無視させるのさ。いつものネットとは違う。赤信号なんとやらだ。


「げはははッ!てめぇの負けだぜゴミが~ッ!」


 汚い笑い声を上げ、俺は再び高みの見物を決め込んだ。

 ゴミにだってゲーマーの矜持がある。このイベントは、金稼ぎにうってつけだ。ここで殺されちゃあ戦果のオーブを落としちまう。それは避けたいだろう。


 ゴミの選べる選択肢は二つ――。

 素直に殺されて戦果を手放し、炎上回避するか、モモを殺して戦果と共に炎上するかだ!

 モモが「やぁ~」とふわふわした声を上げながらゴミに一撃入れようと拳を突き出す。奴はそれを、


「ご、ぼっ!」


 抵抗することなく、腹に受け止めた。


「おらららららららららッー!」

「あ、ちょ、はげしっ」


 連撃がゴミの腹を殴打し、最後の一発とばかりにモモがしゃがみ込み、勢いよくアッパーを繰り出した。それは見事相手の顎にクリーンヒットし、そのままK.O.されて奴は地面に転がった。


「悪人、成敗ッ――!」


 モモが勢いそのままに決めポーズを取り、視聴者サービスをする裏で、俺は既に命が途切れる直前のゴミに近寄った。


「――オレの、負けだ……」


「自殺は、しねぇんだな」


 そう弱々しく宣言したそいつに、静かに呟いた。

 つい先程、選択肢は二つと言った。ゴミがモモに殺されるか、モモがゴミに殺されるか、と。だが、それは嘘だ。実際には三つ――、それも最強の選択肢がまだ残っていたんだ。


 ――自殺。

 このゲームは他プレイヤーから攻撃されていなければ、自殺判定がまかり通る。そうすれば、オーブ失わずにアイドルを殺すという不名誉も得ることなく、この場を去れた。しかし、こいつはそれをしなかった――。


「オレにだって、誇り(プライド)くらい……あるさ。ここで逃げちゃダサいだろ?」


「……お前らしいよ」


「……だろ?」


 こいつの事を何一つ知らないが、なんかエモい雰囲気を勝手に醸し出していたのでそれに乗っかる。

 なーんか今日はゴミを看取る事が多いな。嫌だなぁ、あんましゴミを看取って、変な守護霊憑いたら困るぜ。

 天に還るゴミを見送って、俺は踵を返した。


「どうっ?塵芥君!やっつけられたよ!」


「そうだねぇ、凄いねぇ、ご褒美をあげようかねぇ……」


 PKでゲットしていた飴を取り出して、手の平に転がしてやる。

 モモはそれを嬉しそうに口に放り投げ、ころころと転がしてぽっこりと飴玉で頬に膨らませた。


「蜂蜜飴っ!」

「ふぉっふぉっふぉ……」


 モモがわーっと喜びながら、再び世直しの為に駆け出した。

 爺さんムーブをしていた俺は、咄嗟にモモについていくことが出来ずによろよろと杖を突いて立ち上がり、その瞬間――、



「き、キェェエエエエエエ!!!!!」


 突如俺は叫びと共に飛び上がり、その場からぴょんぴょんと飛び上がりながら退いた。

 な、なんだ!?だ、誰かが今俺の背筋を撫でた!幻か!?いや、明らかに撫でられた……。い、嫌な感覚だ。ま、まさかこれが《直感》の効果か?だが、一体何に反応して……?


「ち、塵芥君!なんの声!?」


「本能をついて出た叫びだ!な、何か、何かがくる……――!」


 映画の予告みたいな引きをして、背後を見た。

 そこには、見覚えのある誰かがいた。黒髪がいやに風景に映え、ずるずると長剣を引き摺る音がこちらにまで響いていた。奴の歩いてきたであろう跡には、幾人ものプレイヤーの死体と魔物の死骸が転がっていた。


 こ、これだ……!

 この肌を撫でつける嫌な感覚。《直感》が叫んでいる。これは()()()、と――!


 逃げられるか?いや、無理だ。

 あれから逃げられる気はしねぇ。ならば――!


「死こそがてめぇの最大の善性だと教えてやる――ッ!()()()ぇ~ッ!!」


 幾つめかの俺とモモの共通の決め台詞を口にし、奴へと飛び上がった。

 しかし、その瞬間俺は細切れになってぼとぼとと地面に落下した。同時に這わせていた影が、ぴよぴよと泣きながら親である俺に近寄ってくる。


 死んだ死体の影は、俺という帰り場所を失ってしまった。

 小さな影たちは泣きながら俺の傍に寄り添って蹲った。少しずつ、少しずつ影は太陽に当てられ消えていく……。


 バラバラになった俺は、そんな影を見て声の出ない口でごめんね、と呟いた。

 それが聞こえたのか分からないが、影たちはハッと身体を震わせるとより一層俺の身体にすり寄ってそのままゆっくりと消失した。

 不甲斐ないママでごめんね、でもバーサーカー状態の血塗れには勝てないや……。


「あ、はっ……!あ、芥君……、ご、ごめん……」


 俺を殺して暴走状態が解けたのか、奴は頬を赤らめながら細切れになった俺を見た。

 そして、ちょいちょいと俺の欠片を拾うとそれを大事そうにポケットに詰め込んだ。え、えぇ、何……?なんでこの人俺の肉片持ち帰ろうとしてんの?


「う、……ぁ」


 俺の欠片をポケットに詰め込んでいく血塗れが、ふと俺の欠片の傍に別の死体が落ちていることに気付いた。

 それは、既に事切れかけているモモだった。どうやら、俺が血塗れに細切れにされるときに巻き込まれたらしい。

 そこでようやく血塗れは瀕死のモモに気が付いたのか、はっとしながら「あ、こ、こん……」とどうにか挨拶をしようとした。


「ぇ、えぇ……?こ、こんば……――」


 そんな血塗れに、モモが困惑とばかりに変な声を出して、一応挨拶を返そうとするもそのまま死んだ。

 まぁ、そうだよね。挨拶返そうとしただけ適正あるって。血塗れ初心者は皆そうなる。あいつはね、常識に当てはめちゃいけないんだ。


 分かる?

 あれは、血塗れっていう一つの種族なんだ。俺やモモちゃんとは違う生き物なのさ。


 言うなれば、バーサーカーピクミンよ……。

 そんな講釈を垂れながら、数多のゴミの魂と一緒に引きずられながら教会へと向かう。


 その途中、一つだけ神輿に乗った桃色の魂を見つけた。

 俺達ゴミ魂は、その格差に怒り狂ってどうにか神輿からその魂を落としてやろうとしたが、全く敵わず神輿に潰されて、ぺらぺらになりながら教会へと還るのだった。



 魂格差です、か……。

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