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そんなの ひとの かって

 

 一旦逃げようと思います。はい。

 一時間程度のメンテナンスが終わり、運営からその修正内容などの報告がメッセージポップアップされる。本来なら、ここから七夕と合流してボスの基本機能解放(システムアンロック)について話し合うべきだろう。


 でも、流石に逃げます。

 多分、今血塗れに捕捉されたら碌なことにならない。そして、それは七夕も同様にだ。あのカス、メンテナンス前に本性を現してきやがった。なんだ?ニクネ持ちは皆そうなのか?


 だが、ニクネ持ちはそう簡単に量産されない。なにせ、運営が決めることだからな。

 更に言えば、ニクネ授与は一日目は三名、二日目は二名となり、三日目からは一名ずつの選出になるらしい。今まで授与されてきたニクネは、≪ 偶像(ぐうぞう) ≫≪ 血塗(ちまみ)れ ≫≪ 塵芥(ちりあくた) ≫≪ 七夕紛(たなばたまが)い ≫≪ 殴殺卿(おうさつきょう) ≫の五名だ。


 こっからは一名ずつしか増えないと考えれば気休めにはなる。

 そそくさと街から離れ、今まで来ていなかった方へと歩き出す。そちらには巨大な浜辺があった。青い海が広がり、遥か遠くに島が見えなくもない。行くとしても船が必要だ。


 何かレアモンスターはいないものかときょろきょろと浜辺を歩きながら周囲を見回す。

 適度にプレイヤーを殺しつつ、命乞いに耳を傾けてやる。


「な、んで……」

「自然の摂理さ。弱肉強食ってこと」


 いつだってそうさ。強くなれよ、強くなれば死ななくなる。強くなれば俺みたいなちんけな奴に絡まれなくなる。だけど、どうしても俺に勝ちたいのならば、


「――低みで待ってるぜ」


 ここまで堕ちて来い。

 待っていてやる、いつまでも。お前を待つぜ。


「まって、いろ……!」


 そう言って、そいつは天の光に包まれ消滅した。

 はぁ~、うめうめ。しゃがみこんでドロップした金とアイテムを確認しながら下卑た笑みを浮かべる。そして、立ち上がってまた浜辺を歩き出そうとした時――、


「あれ……うわ。ルノさんじゃないですか……」


 ふと背後からそんな声が掛けられた。

 そちらを向くと、そこには見知らぬプレイヤーが立っていた。はて、知らない奴だ。なんか俺の事を知っている風に話しかけてきやがったが、他のゴミと同じで噂で聞いていた人だ的な感じで発した言葉だろう。どれ、一捻りして金だけ貰っていくとするか。


 俺の名を呼んだプレイヤーに向き直り、ナイフを抜き取り、首を狙う。

 よーし、金大量に持っててくれよ!出来る事なら一億下さい!


「え、ちょちょちょ!?わ、私です私!?」


 未だにこちらの知り合いを主張してくる為、仕方なしに手を止める。


「いや、誰だよ。お前みたいな幸薄そうな顔しらねーぞ」


「そ、それですよ!私が自分の名前ずっと言ってるのに『幸薄ちゃん幸薄ちゃん』ってずっと呼んできたじゃないですかぁ!」

「うーん……?」


 薄茶髪のショートカット、如何にも幸が薄そうな表情、不幸体質っぽい……。

 まずい、マジで覚えてない。血塗れとかハシモトとかそこら辺のゴミとかキャラ濃いのが多いんだよ。もしも本当にこいつと会ってても、そいつらのキャラ力に押し負けてんだ。


「『アイ』ですよぉ!ほら、貴方が一日目に街中でいっぱい毒殺したときに手伝わされたぁ……!」


 その言葉を聞いた瞬間、脳裏を過る一日目の風景……!

 そう、確かにあの時俺の傍にもう一人いた……!な、なぜ俺はそれを忘れていた!?ま、まさか、スタンド攻撃ッ!?


「あ、思い出しましたか!?出したんですね!?」

「……あぁ、思い出したぜ。モンスタートレイン使いの幸薄ちゃん」

「違いますけどッ!?」


 そう言って、幸の薄そうな彼女はグーの拳で俺を小突くのだった。




「今まで何してたん幸薄ちゃん」

「幸薄ちゃんじゃ……はぁ、もういいですよ。別に今まで普通ですよ普通。プレイヤーの皆さんとパーティー組んでクエストだったり魔物倒したり、偶にPKもされたりしますが基本平和です」

「……へぇ」


 プレイヤーとパーティーを組む?なるほど、このゲームでもそんな事出来るのか。

 PKに夢中過ぎてすっかり忘れてたぜ。そう言えば、このゲームはMMOを下地に作られている……そりゃプレイヤーが協力して魔物を倒すくらいのことするはずだ。


「少しくらい協力体系を作っておくべきか」


 俺はこの三日間、基本ソロを貫いてきた。

 勿論、イベントやボスの時は違うがそれ以外は殆どがソロでのプレイだった。ソロが気楽と言うのもあるが、それを理由にするなんてまるで俺が日陰者みたいじゃねぇか。


 なんだ?

 目の前のこののほほん幸薄女が日向にいて、俺は日陰だと?気に入らねぇなぁ。気に入らねぇぜ。心底腹の底がむかむかしてくる。こんなモントレ野郎に負けていると感じる俺自身に一番腹が立つぜ。


「なぁ、幸薄ちゃん。パーティーってのは形だけのってことだよな?」

「え?まぁそうですね。パーティシステムは無いですから、魔物を倒すために協力する形で組んだって感じ……」

「分かった、助かったぜ。日向者が」

「ひ、ひな……なんて?」


 陽キャ?陰キャ?

 んな言葉、ゴミだ。その言葉を発する奴こそ救い様がないぜ。いつだって、人の特徴を分け隔てていいはずがないんだ。誰もが違う性格や趣味を持つ。それだけでいいじゃねぇか。言葉に当てはめようとするなんて馬鹿のすることさ。だがな、今だけは――!


「俺は日向に立つぜ…!」


 あのモンスタートレインのゴミに負けているという感情だけが俺を突き動かすのだ……!


 ◇□◇


「よう、一緒に狩りいこうぜ」

「あ?なんで……って塵芥かよ。変な冗談やめとけ、誘うなら血塗れさんとかにしとけよ。俺殺されたくないもん」


 ……見る目のないゴミが。

 次だ次。なーに、俺が本気をだせば直ぐに太陽の当たる場所に出れるさ。


「なぁ、魔物ぶっ殺しに行こうぜ」

「塵芥……?お前なら別に一人の方が効率良いだろ?一人が寂しいってか?キャラじゃないぜ。もしも本当にそうならモモさん誘ってやれよ。あの人、お前探してるぞ」


 ……ふん、次だ。

 恐ろしいことのたまいやがって。


「魔物ドロップ漁りいかね?ラストアタック多めに譲るからよ」

「ん?って塵芥君じゃん。やめてよね、イベントとかクエストならまだしも私殺されたくないんだ」


 ……さ、さっきからこいつらは何を言ってんだ?

 こ、殺されたくない?誰にだよ、なんで俺と組んだらお前らが死ぬんだよ。わ、訳が分かんねぇ。つ、次だ!次こそ、次ならきっと……!


「よ、よう。一緒に」

「心中探しか?他を当たれ」


 ――……間違いねぇ。

 血塗れの奴だ。あの運営配信のせいでこんなことになっている!く、クソが……!ふざけるなよ、この配信企画はプレイヤー同士の絡みが大事なんだろ!?こんな陸の孤島状態、運営も喜ばねぇぞ!


 呆然と立ち尽くす俺に、ぽんと見覚えのないプレイヤーが肩に手を置いた。

 そいつは、こちらに憐みの視線を送りながら、幾度となく俺の肩を叩き、


「まぁ、こんなに避けられんのは今日だけだろうよ。明日になりゃ一人くらいは乗ってくれるさ」


 そうとだけ告げて、そのプレイヤーは俺の下から去っていった。

 い、今なんだよ!俺は今……ッ、日向にいたいんだ……!ソロとかいう日陰を抜け出して、パーティーと言う日向に出たいんだ……!こ、こんな事なら幸薄ちゃんを誘うんだった……!あいつならきっと断らない。


 今になって、あいつの有難みを知り、俺は地面にぐしゃりと崩れて涙を流した。

 ぽつぽつと地面に斑点が作られる。このゲームはどこまでよく出来ているのだろうか。涙を再現する必要なんてきっとない。にも拘らず、ちゃんと涙が出てくる。泣きたいときに泣けてしまう。


 日向に出たい。

 温かな太陽を浴びたい。

 ぐぐぐ、と唸り声をあげ、立ち上がろうとするがどうしても立ち上がれなかった。重い……ッ、自分が今、日陰側にいるという事実が重く伸し掛かってくる……!


 そうして、俺が地面にでろでろに溶け、立ち上がれないでいたその時――!


「――あ、あの……大丈夫ですか?」


 ――それは、声変りがまだ終わっていないような淡い声だった。

 搾りかすを更に振り絞り、前を向くとそこには少しだけ汚れたハンカチをこちらに差し出す少年の姿があった。ちらと見える彼の膝小僧が妙に美味しそうに見えた。


「あ、ありがとう……」


 俺はその少年からハンカチを受け取り、涙を拭きとる。

 その涙がハンカチに拭われると、途端に体が軽くなったような気がした。


「どうしてこんなところで蹲っていたんですか?体調が悪いとか?でしたらすぐにログアウトをした方が……」

「い、いや大丈夫、大丈夫だ。ちょっと、パーティーを組んでくれる人がいなくて、心が折れかけてただけだ」


 だが、この少年のお蔭でまだやれる気がしてきた。

 大丈夫だ、俺は強い子だ。俺は長男だ。俺は麦わら帽子だ。

 歯を食いしばって立ち上がり、少年を見る。俺の胸程までしかない背丈がより彼を少年感強める。膝小僧がいやに美味しそうだった。


「――でしたら僕と一緒にパーティー組みませんか?」

「――ぇ」


 それは、神から与えられた慈悲だった。


「僕も魔物に苦戦してて困ってたんです!一緒に行って、頑張りましょう!」


 神の使徒とはこの子の事を言うのだろうか。

 美味しそうな膝小僧を持つ彼は、俺へと手を差し伸べにこりと笑った。その背後には光が差し、頭には天使の輪が見えた。真っ白な羽がぶわりと広がり、俺を包み込むようだった。


「一緒に、行ってくれるか――」

「――はいっ!」


 俺が弱々しく笑いかけ、少年が輝く笑顔を振りまいた。

 俺と彼の手がぎゅうと結ばれ、今、日向へと俺達は走り出したのだ。そんな少年を見て、膝小僧が美味しそうだと、俺は思った。






「違う、違うんだ……」


 赤い粒子が飛び交う。

 魔物の死骸が消滅し、アイテムがドロップする。

 しかし、その中で俺はただ弁解するように呟いていた。


「違うんだ……」


 魔物を倒し、少年とハイタッチをし、「調子が良い」なんて軽い会話をし合って……。ただ、それだけだったじゃんか。

 こんな、こんな事俺は望んじゃいなかった。


 赤い粒子が舞う。

 魔物の死骸が完全に消滅した先に、ナイフが腹に刺さった少年の姿があった……――。


「……違う、違う」


 俺は、俺はそんなつもりなかったんだ。あの少年は、突然突進してきた兎型の魔物に()ねられた。恐らく、体力があまり多くない(タイプ)のプレイヤーだったんだ。たったその一撃で、彼は沈んでしまった。


 魔物を倒し、息が浅くなっていく少年の腹に俺は、俺はついナイフを突き立てた――。


 何でそんなことをしたかなんて聞かないでくれよ。

 俺を日向に連れてきてくれたプレイヤーを、どうして殺したいと思うんだ。でも、俺は殺しちまった。俺が止めを刺したんだ……!


 少年の魂が天に還ろうとしている。

 そんな中で、彼は薄らと瞼を開け、俺の震える手を掴んだ。そして、にこりと無理に笑みを作り、そのまま意識を失った。


「あ、あぁッ!」


 待って、待ってくれ!

 お、俺はまだ君に恩を返して……名前すら知らないんだ!か、還らないでくれ、俺を光の中に入れてくれ……!

 願いは虚空に響き、少年の身体は粒子と化して、そのまま空に還った……――。


 〔所持金:600K(カルト)を獲得〕

 〔Item:「薄汚れたハンカチ」を獲得〕


 なぁ、……――。

 俺は、君みたいに日向に立てたのかな。いや、立てたよね。きっと。君と一緒に立ったんだ。だから、俺はきっと陽キャになったんだ。

 楽しい時間はいつだって唐突に終わる。悲しいかな、そういうものだ。



「君の膝小僧は、やけに美味しそうに見えたよ――」


 その言葉は、雲一つない蒼天へと吸い込まれていった。彼が溶け込んだこの、青い青い空に。


 ◇□◇


【AbyssGrow】塵芥総合雑談part29【悪人】

 

224:名無し ID:mIP3pQ5d7

あ、運営配信年齢制限掛かってる

 

225:名無し ID:5ny64Ite6

そりゃそうだろうね

スプラッタ映画だったもの

 

230:名無し ID:AueN7pzCs

血塗れちゃん怖いっぴ

 

235:名無し ID:ZnBqv9mSn

もうあの二人どっか監禁しとこ

 

239:名無し ID:Txoq1CgjB

塵芥はよ基本システムアンロックしねーかな

 

240:名無し ID:Og94SHPZ6

>>239

塵芥君は陽キャになりたくて必死なんで無理です

 

241:名無し ID:ALNcs6vS4

>>239

あともうちょいしたらあいつもそっち着手するだろうよ

 

244:名無し ID:jYNHKpNsp

今は子供と遊ぶのに夢中だからしゃーねぇわ

 

248:名無し ID:00WzOxoKf

このゴミ、どうにか潰せないか?

 

250:名無し ID:hLovEBhVs

そろそろ運営イベント発生するぞ

 

253:名無し ID:LlMs73dCJ

>>250

イベントもう起きたじゃねーか朝のバトロワ

 

254:名無し ID:hLovEBhVs

>>253

そりゃ定期イベントだろ

俺が言ってんのは運営イベント…つまり義賊イベみたいなことだよ

 

257:名無し ID:WujQeWtc7

あー、定期イベは二、三日に一度だけど義賊イベみたいなやつは運営の匙加減なのか

 

259:名無し ID:Pbp1KA1Cx

つーかこのゲーム目的何なの?

プレイヤー同士で色々起きるのは良いけどデカい目標ないわけ?

 

262:名無し ID:ZE5YPvuPS

それ知りたいなら塵芥スレいんなよ

こいつまだそこ一切触れてねーぞ

 

263:名無し ID:Vv+zkGtQx

深淵覗きとかなんとか色々単語は出てはいるんだけどね

 

266:名無し ID:3O53C+8NM

モモちゃんどうにかしろよこいついい加減によ

 

269:名無し ID:+8TTH+Yww

それ言うならホウリちゃんだろーが

 

273:名無し ID:NlUZnwDMH

やめなまた信者共がくる

 

274:名無し ID:d/YihMXnW

地均しだったな

 

276:名無し ID:LdhoI1bhX

>>274

楽しかったけど流石に数が多すぎたわ

 

277:名無し ID:0flebOz1j

>>276

こちとらアッカーマン一族じゃねーんだ。長時間過ぎて途中から虚無だったわ

 

278:名無し ID:Wk8XRpFQ5

ホウリの時もやばかったけどモモはその数段上だったな

 

280:名無し ID:pbXKJ9jmD

塵芥は良いぜ

いつだって俺達に戦場を提供してくれる…!

 

284:名無し ID:wS9904KqN

>>280

戦闘狂キャラ似合ってないからやめな?

 

287:名無し ID:PbbJvFkDu

金くれ

 

288:名無し ID:cakaL6tUc

隣人からの壁ドン凄いわなんか対策求

 

292:名無し ID:19j/yBf2m

>>288

ニートなのに何を騒ぐんや

 

296:名無し ID:Ho1pX2MD3

>>288

おじさん実家暮らしでしょ?隣の部屋ってお父さんの寝室じゃん

 

297:名無し ID:TD+SeNTDX

血塗れ

 

301:名無し ID:aSSJwEuZ3

次モモちゃんと関わった時がこいつの死だよ

 

303:名無し ID:VU3XUMo++

偶像怖いよなんで塵芥許したんだよ

 

308:名無し ID:QirY4cgxN

>>303

聖母だから

 

313:名無し ID:BiFEbNpH6

もうあのアイドルグループ、塵芥と関わってないのあと一人しかいないよ…

 

318:名無し ID:BQPbVg8Dw

葵ちゃんが信者の希望や

 

323:名無し ID:0OC5pP7+f

グループ名何だっけ?

 

325:名無し ID:Z/ei6iUqy

>>323

しらね

 

327:名無し ID:P2/RYuEbA

皆で好きな総菜発表してこうぜ俺酢豚

 

332:名無し ID:k7Y5Nq0Bj

竜田揚げ

 

335:名無し ID:n9dO4P49Y

エビチリ


337:名無し ID:e2ornPtLF

からあげ

 

340:名無し ID:kATj02bHS

ヨーグルト

 

342:名無し ID:ZqyhfmV9t

好きな総菜発表ドラゴンの手先が紛れ込んでんな白和え

 

343:名無し ID:wtMNz3B1k

ハンバーグ

 

344:名無し ID:IE228Yl/Q

あ、塵芥モモちゃんと会った

 

346:名無し ID:IG13TTe3j

>>344

 

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