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水も滴る良いギロチン

 

 〔もう来ないでくださいね~〕


 ──四時間二十六分。

 分かりやすく訳してやれば266分である。この時間の意味が分かるだろうか。


 俺の”GuiltyPlayerPrison”での拘束時間だよぉ……!


 脱獄未遂、看守への攻撃、囚人への攻撃兼殺害etc(エトセトラ)──。

 運営の配慮により情状酌量が認められたものの、それでも元々三時間だった俺達の拘束時間はほぼ全員が約八時間に伸びた。


 なんたる事だろうか。

 その加算されまくった拘束時間を聞いたゴミが怒り狂って運営へと襲い掛かったが、見事返り討ちにされて更に加算されていた。

 俺達は諦めて採掘場へと向かって雑談しながら作業をし続けた。作業をし始めて一時間が経った頃、血塗れがそそくさと採掘場を出ていった。


 恐らく、奴は刑期を全うしたのだ。

 今回の脱獄騒動において、奴のみが参加しなかった。むかつくぜ……、まるで俺達が間違ったことをした様じゃねぇか。

 とにかく、俺は刑期を全うした。他の囚人共よりは多少運がよく、予想よりも三十分は早めに出られたのは日頃の行いゆえだろう。


 監獄から転送されて元の世界に戻ってくる。

 上を見上げて、先程まで死んだ顔でこちらを見ていたゴミ達を空に描く。


 怒りっぽいゴミ、排水溝に鉱物を吸われたゴミ、ピッケルで鉱物砕いて気絶したゴミ、人の鉱物を奪う事しか考えていなかったゴミ、囚人服脱ぎ捨ててセクシャルハラスメント行為で連行されていったゴミ、終始自分のニクネにキレ続けていたゴミ、その他、俺は先に行くよ。


 ゴミ箱から引っ張り出された俺は、そんな奴らを想って歩き出した。


 ……どうか、彼らが一生あの牢獄から出てきませんように──。

 そんな小さな願いだけでも空に浮かんだ彼らに届きますように……。



 とまぁ、祈っても仕方ない。とりあえずは情報が必要だ。

 俺はそこら辺を歩いていたプレイヤーを捕まえて「ここ三、四時間なんかあった?」と素直に聞いた。すると、そのプレイヤーはログインしてきたばかりかな?みたいな表情をして、上を見上げながら、


「えっとなぁ、ボスが一体討伐されたな。解放された基本機能(システム)は『転移門活性化』だった筈」


 へぇ、ボス倒したのか。

 にしても基本機能解放(システムアンロック)は『転移門』か……。悪くはないがもっと別のが欲しかった感も否めないな。まぁ、他のを解放したらしたらでまた別の文句を言っていただろうし、仕方ねぇな。


「あとはそうだな。あ、ついさっき集金を呼び掛けている人がいたな」

「集金~?」

「あぁ、昨日見つかった”金を払えば基本機能(システム)を解放出来るNPC”に払う金を集めてるプレイヤーがいるんだよ。確か名前は……橋本だったかな?」

「んだそりゃ、信用できんのか?」

「なんでも《契約》っていう疑似契約書を作れるから信用できるらしいよ」


 《契約》、《契約》ねぇ。

 そりゃ随分と便利そうなスキルだ。


「さんきゅ、助かった」

「おー気にすんな。見返りはお前の命で良いからさ」


 途端に本性を現したプレイヤーに俺は首ちょんぱされた。

 その瞬間、監獄内でAI看守に頭を落とされた光景がフラッシュバックする。嫌な記憶に身体が反射し、超反応で腕が動いて、抜き取ったナイフが奴の腹を一閃した。

 真っ赤な粒子が腹から溢れるのが見え、俺はそのまま視界を地面に落とした。

 転がる視界の中で「話した情報は本当だから安心してくれよ……じゃあ、な」と言い放ってその場で倒れ込むプレイヤーが見えた。


 おいおい、治安が悪いナ?

 だが今回はお互い死んじまったってことで両成敗だ。

 いいさ、教会で復活した方が転移門も近いことだ。金を落としちまうのは痛いが必要経費と考えよう。情報料として取っておきな。その分、俺もお前の金を貰うからよ。


 〔所持金:1100K(カルト)を獲得〕


 PK判定をもぎ取れたことを確認し、俺は静かに天に召された。

 教会で起き上がり、早速解放されている転移門へと突撃する。優に十メートルほどはありそうな巨大な門だ。その門の中に光輝く幕が張っている。


 とりあえず身体を入れ込むと移動する街を選択でき、適当な街を選べばその街の転移門から俺の身体が吐き出されるという仕組みだ。イイね、ワープ装置はやっぱ便利だ。この調子で運営はルーラを作ってくれや。


 さて、──”集金者”探しだ。

 さっきの話を聞いて、少し考えた。

 金を集め、システムを解放するのは重要だ。現状、最も優先すべきは基本機能解放(システムアンロック)であることは間違いない。


 でもよぉ、──別に金なんてもう一度集め直せるよな?きっと。

 あぁいや、別にこれは金を全て奪おうって考えているわけじゃない。一回だけ、一回だけ殺してやりたい。そうすりゃまだ挽回できるだろ?


 PK判定の際、プレイヤーからは確定で所持金の一~三割程の金がドロップする。一~三割……それだけだ。”集金者”が金を集めて回っているならば奴の財布は相当パンパンなはずだ。そいつから一割だけでも奪えれば相当な金が転がり込む。


「欲しい、欲しくて欲しくて溜まらねぇ……!」


 なに、奴が本当に《契約》を持っているならすぐに集められるさ。

 良いじゃんかよ、少しくらい分けてくれたってよ。


 舌なめずりをして、”集金者”を探し始める。プレイヤーに接触して回っているってことは間違いなく何れかの街のどこかにいる。街はプレイヤー達の本拠地だ。奴が金を集めるのにうってつけの筈だ。


 待っててね、集金者君……!

 荷物は分け合うべきだよ。君の財布を軽くしに行くからね……!


「あのー、すいません」


「あ?」


 俺の決意を邪魔するように、誰かに話しかけられる。

 そいつは頭だけに鉄製の兜をつけた変な奴だった。声からして男だ。

 なんだ?宗教の勧誘か?残念ながら俺は無宗教の日本人だぜ。押し売り宗教は御免なんだ。


 じろり、と宗教勧誘を睨みつけてやる。おら、さっさと消えな。こちとら今からまだ見ぬ雑魚の荷物を半分持ちに行くんだよ。


「うお、こわ。あのー今システム解放の為に金を集めてまして……、自分のスキルで契約を結べるので金銭を分けていただけないかなと」


「──……なるほど、良いですよ。というか手伝いますよ、一人で大変でしょう」


「え、マジすか。いやー助かります!」


 ──鴨が葱と鍋背負って来てくれるとはこりゃ運命だ。

 嬉しそうな雰囲気を漂わせるその男を前に、俺は屈託のない笑顔を心掛けながら、にこりと口を歪ませるのだった。


「俺、ハシモト・ドラゲナイです!」


「あぁ……俺は、……フール。フールです。よろしく、ハシモトさん」


 ◇□◇


「外套被るんですか?」

「えぇ、というかさっき被ってなかったのが珍しいんです。自分のノーマルスタイルは外套被った方ですから」


 ハシモト・ドラゲナイと名乗ったプレイヤーは俺と拳を突き合わせて、奴の持つ《契約》を発動させた。すると次の瞬間、俺達の中心に幾つかの文字列が展開される。


 ────────────────

【契約内容】

 ・集めた金は、私利私欲に使わずシステム解放NPCに使用する。

 ・必要な値以上に金銭を集めないと誓う。

 ────────────────


 ……穴だらけの契約だ。ハシモト自身が突こうと思えば突ける穴がありすぎる。今まで契約してきたやつは全てこいつの良心任せで了承したのか?

 だが、今の俺に必要なのはそれを指摘し、契約文面を変更することじゃない。

 メニューから一万K(カルト)程を奴に向けて送金する。その瞬間、中空の文面が強く輝き、ハシモトの胸へと吸い込まれた。


「一万も協力してくれるんですか!助かります!」

「気にしないでください。何事も協力です」


 俺は慈愛に満ち溢れた言葉を述べ、奴と協力しながら集金作業を始めた。


 基本機能解放に必要な総額は五十万K(カルト)であるらしく、現在二十六万K(カルト)まで集まったらしい。

 ここで俺と奴は互いにばらけ、俺は奴の足の届かないところにいるプレイヤーを引っ張ってくる役目を引き受けた。そうして地道に金を集め、四十万前後まで溜まった頃──、


「あと少し……まだ回ってない街もあるし余裕ですね!フールさんのおかげで今までの三倍くらいの速度で集まりましたよ!」

「いえ、それもこれもハシモトさんのおかげですしね。あ、そこの奥です」


 ハシモトがあははと笑いながら裏路地に繋がる道を曲がる。

 その先に俺が捕まえた金を払ってくれるプレイヤーがいる、とそう伝えてある。奥へ奥へと進み、次第に空に暗雲が漂い、路地裏がより一層暗く見える。


 外套を被った俺の口がにぃと歪み、隠された手にナイフを握る。


「あれー……?フールさん、どこに──ッ!?」


 ハシモトの背中に突然衝撃が走る。

 揺らぐ視界、がたつく足元──、彼はそのままばたりと倒れ込み、荒い息を吐きながらこちらを見上げる。

 ぽつぽつ、と暗い空から水が滴り出す。

 このゲームを始めて、初の悪天候だ。右上にバッドステータス表示がポップアップされる。


「な、ぜ……」

「おいおい、そりゃないぜ。ハシモト君。少し考えればわかるだろ?」


 雨が俺達を汚す。

 外套から雨水が滴り、頬を濡らした。

 しゃがみこんでハシモトの兜を覗き込み、赤い粒子がついたナイフを奴の服で拭う。


「──金を持ってりゃ狙われる。常識じゃねーか」

「ぅ、……ぁ」


 正直者が馬鹿を見るとはこのことだ。

 見ろよ、世界もお前の最後を悲しむように雨が降る!善人の死だ!そりゃ世界も泣きたくなるわな!俺だって泣きそうさ!これじゃまるで俺が悪人みたいじゃねーか!


 ぐいと倒れこんだハシモトの顔に、俺の顔を近づける。



「──そこで、提案がある」


「てい、あん?」


 ハシモトが擦り減る命の中でそう呟いた。


「そう、提案だ!」


 バッと手を広げ、オーバーリアクションにそう宣言する。

 必要なのは非現実感だ。少しでも奴に夢を見せてやる。まるで現実ではないみたいだ、とそう思わせてやることが大事なんだ。


 非現実的な動きで、ちょこちょこと奴に近付き、こそこそと耳打ちをする。


「少しだけ、回り道をしないか?」


「まわり、みち……」


「そうさ!」


 俺は叫んで、ぺらぺらと口を回す。


 単純な話だ。

 奴の契約文面に合った『必要な値以上に金銭を集めないと誓う』という文章。これをちょっとだけ悪用するだけさ。

 正確には、俺がハシモトを殺し、PK判定で金を奪う。するとどうだ?金は俺に少し移動し、ハシモトの言うシステム解放に『必要な値』が遠のいちまったな!


 そう、金の移動さ!

 五十万K(カルト)が必要で四十万K(カルト)が集まっている。この場合、あと十万K(カルト)が必要な値だ。

 だが、俺がハシモトを殺し、ハシモトの所持金が三十六万になれば、その場合、あと十四万K(カルト)が必要な値になる。

 ハシモト自身に必要な金が十万K(カルト)から十四万K(カルト)になるのさ!四万K(カルト)分の余剰が出来る!


 流石にただ金を移動するってのは恐らく、こいつの良心の呵責が起こる。それは後々面倒になる。だからこその、PK判定だ。


「どうだ!?お前が俺に殺されるだけで綺麗な金が多く手に入る!勿論、その余剰分は後で俺と分けようじゃないか!7:3で良いさ!」


 まだ回っていない街が二つある為、恐らく二十万前後は直ぐに集まるだろう。そのくらい、《契約》というスキルはプレイヤーにとって信用できる要素になる。特に、《窃盗》行為で皆が疑心暗鬼になっている今ならより一層、な!


「……そう、か」


 ハシモトがまるで全てを諦めたように地面の雨粒を見つめる。

 それを見て、俺は心の中で「堕ちた……!」と確信めいた予感を感じた。

 この条件を飲ませれば、俺は一度二度こいつを殺しただけで、金を手に入れられる。あとはこいつが勝手に金を集め、システムが解放されるのだ。

 終われば金をこいつと折半するだけ。勿論全て奪い取れれば最良だが、《契約》がある限りそれは難しい。それでも今こいつを殺すという手間だけで多量の金が手に入る!なんて安い取引……!


「そう、だよな」


 諦めたように呟くハシモトに、俺はにやつきを隠しながら近づく。

「さぁ、一緒にいこう」とまるで運命共同体のような台詞を吐いてやる。勝った、俺の勝ちだ……!ハシモト・ドラゲナイ!てめぇの善性はここで終わりを告げるんだよぉ~!!!


「本当に……」


 うんうん。

 俺は優しく奴の話を聞いてやる。

 どうせこいつだってあと数分の命だ。可哀そうな奴め。



「──貴方は悪だ。フール……いや、塵芥さんッ!」


 次の瞬間、屋根上から幾つもの影が落ち、俺と倒れ込んだハシモトを取り囲んだ。彼らは一様にこちらを睨んでおり、その手にはそれぞれ武器や魔法を展開していた。


「な、なんだッ!?──どういう事だ……ハシモトォ~ッ!!」


「どうもこうもないですよ、塵芥さん。貴方は、誘い込まれた」


 く、ッそがぁ!

 そういう事か……!全部全部、俺をはめるための布石か!お前と出会ったのも、一緒に金を集めたのも!全て全てこの時の為だと!?


 数の差で押され、俺は奴らに捕らえられる。

 クソ……!《煙幕》が発動しねぇ!雨か!?雨のせいで不発扱いになってやがるのか!


「元々は貴方方(あなたがた)が監獄に収容されている内に金を集め切ろうとしたんです。しかし、到底間に合わなかった。その最中、監獄から出てきたばかりの貴方を見つけ、出し抜くことにした。下手に野放しにしてベテランゲーマーを率いられても困る」


 ま、まて!待ってくれ!

 た、確かに俺は悪いことをしようとした!だが、それもこれも理由があったんだ!監獄にいる仲間を金で助けてやりたいと思った!思いやりの心さ!わかるだろ!?大事な仲間なんだよ、な!?


 あのゴミ共を助けたいなんて死んでも思わないが、今だけは自分をそう騙して舌を回す。あぁ、いやなんか寒気してきたわ。凄いな、俺の本能があいつらを拒否してる……!

 い、嫌だ!俺が殺される……!?出し抜かれるだと!?

 押さえつけられた目の前で、ハシモトが治癒されて傷が癒えていく。《煙幕》さえあれば……!こんな時に限って雨なんて降りやがってぇ!


「──終わりだ。≪ 塵芥(ちりあくた) ≫ルノ。次会う時はせめて友達になろう」


「ハシモト……ドラゲナイ~ッ!!!」


 次の瞬間、俺の首が切断された。

 雨粒が、見開かれた眼球にぼちぼちと落ちる。そんな最後の光景を見ていた俺を、兜頭のハシモトが瞼を閉じさせた──。



 はぁー、最近首ギロチンばっかだなぁ~。もうちょいレパートリーを広げて欲しいもんだね、全く。ギロチン評価は四十点っ!綺麗にギロチンするなら斧をもってこよう!技術がないと今の俺みたいに汚い断面になっちゃうからね!


 それじゃ、また来週~!

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