第30話 意外な再会
「来島!? どうしてここに!?」
「なに? こいつ、レイちゃんの知り合い?」
呆然としている僕のそばにアイゼが寄ってきて、来島は笑みを浮かべた。
「天神、こっちではうまくやってるみたいだな。そんなかわいい子を引き連れてな。羨ましい限りだ。」
「かわいいは否定しないけどさ。あんたが親玉なの? 子猫を返して、おとなしくこの世界から出て行ってくれる?」
「おやおや。かわいい上に気が強くて頭もいいか。もう俺の正体もバレてるみたいだな。」
僕は混乱しそうな頭の中を整理しながら、来島の目を精一杯にらみつけた。
「僕たちの世界とこの世界はとっくにつながっていたのか? お前は知っていたのか?」
「まあな。もう10年以上も前から交渉があったらしいぜ。」
「来島! まさか僕を利用したのか?」
「ああ。お前は期待通りうまく囮になって、あのテロリストの黒猫を俺たちの世界から消し去ってくれたな。礼を言うぜ。」
さすがのアイゼも僕の事情がわからないらしく、首をかしげた。
「レイちゃん、話が見えないんだけど? こいつは何を言ってるの? 黒猫って私だけど?」
「詳しく教えてやりたいがもう時間がなくてな。」
追い詰められたはずなのに来島の様子がやけに余裕なのが僕は気になり、銃口を彼に向けた。
「はやく子猫たちを返せ! 何を企んでいる!」
「企むなんてまるで俺たちがわるものみたいじゃないか。誤解だぜ。」
「何が誤解よ。もう頭にきたわ。」
アイゼが来島に一歩踏み出したのと同時に、窓の外から爆音が聞こえてきた。
(バタバタバタバタバタバタ…)
僕には信じられないものが見えた。窓の外に黒い戦闘ヘリがホバリングしており、こちらに機関銃の先を向けていた。
「あぶない!」
銃撃音がして、アイゼが僕に覆い被さった。
気がつくと、部屋は破壊し尽くされていた。ヘリはいなくなっていて、壁には無数の弾痕があり部屋中にチリや埃が激しく舞い、僕は頭をふりながら激しく咳き込んだ。僕が慌ててあたりを見ると、アイゼも来島も血まみれで倒れていた。
「ボス! 来島!」
僕がとびついて脈を確かめると、かろうじてふたりとも生きていた。トランシーバーが落ちていたので僕はわしづかみにした。
「ユートくん! 非常事態だ! 救援をはやく!」
『レイにいちゃん、ゴメンニャ! こっちも部屋に踏み込まれたニャ。はやくにげ…』
そこで音声が途絶えてしまい、ベラベッカもレオパルトも応答しなかった。
「いったいどうすれば…。」
僕は焦るばかりで動けなかった。背後から人の気配がして、部屋に誰かが入ってきた。それは多数の兵士に囲まれたドリンケンだった。縄でぐるぐる巻きでキズだらけのレオパルトも連行されていた。
「レイはん! すまん…。」
「やあレイくん。まだ生きていたのかね。」
「全て罠だったのか!」
僕はドリンケンの小ずるそうな顔を睨みつけた。
「まあそう怒るな。君は役に立ったよ。だまされたふりをして取引をエサにしたら、見事に邪魔な黒猫を排除できた。まさかそんな小娘が黒猫だったとはな。」
大将は哄笑すると拳銃を手にして僕に近づいてきた。
「待ちなさい!」
兵士の列を割って、パルミエッラが入ってくるのが見えた。彼女はよろめきながらドリンケンと僕の間に立った。
「閣下、レイだけは助けてくれるって約束でしょ。話が違うわ。」
「そいつはすまないな、パルミエッラ。」
ドリンケンはためらいなく至近距離から彼女を撃った。
「パルミエッラさん!」
僕は彼女にかけよったが、致命傷なのは明らかだった。
「しっかりしてください!」
「ぼうや、ゴメンね…。あなたは私を救ってくれたのに、私はあなたを救えないみたい…。」
「いえ、僕はあなたを騙していました。」
僕は彼女の赤い髪をかきわけて顔についた血をぬぐい、心の底から謝った。
「いいのよ、もう。これも報いね。私は猫の街の貧民街の出身でね…。いつか大金持ちになって、社会にしかえしをしてやろうとばかり考えていたの…。」
「パルミエッラさん…。」
「結局、私もあいつに利用されて使い捨てね。…レイのぼうや、お願いがあるの。」
「なんでも言ってください。」
「もしも…あなたが生き延びられたら…すべての猫のために…戦い続けて…ね…」
彼女はゆっくりと目を閉じて息をしなくなった。僕は彼女の体を抱えてドリンケンをにらみつけた。
「僕の世界から武器を提供されているのか!」
「まあな。数は少ないが、便利なものだな。」
「パルミエッラさんに毒を盛ったのもおまえか!」
「君は察しがいいな。クルシマ医師に命じたんだ。だんだん見返りの要求が激しくなってきてな、目障りになり困っとったんだがせいせいしたわい。」
「きさま…!」
「もういいだろう。お前もここで終わりだ。」
ドリンケンが合図すると、彼の部下たち剣を持って進み出てきた。多勢に無勢どころか動けるのは僕一人でおまけに怪我をしていた。
(こんなところでおわりなのか。)
僕はあがこうとアイゼと来島の体をひっぱりながらあとずさりをしようとした。敵兵たちが剣をふりあげたとき、またヘリの爆音が聞こえてきた。
なにかヘリの様子がおかしかった。兵士たちやドリンケンがそれに気をとられた隙に、僕はアイゼと来島を同時に引きずって部屋の隅に退避した。
(ドガッシャーン!!!!)
部屋ごと揺れるような激しい衝撃がして、ヘリが窓から僕たちのいる部屋に突っ込んできた。ヘリの窓には巨大な矢が何本も突き刺さっていた。
『レイさま! 少してこずってしまい、おわびいたします。どうぞきつくお叱りを…。』
「ベラベッカ! 大好きだよ!」
僕は助かったという安堵感からつい叫んでしまった。
『レイさま、もう一度おっしゃってくださいな。』
「はやく救援にきて!」
『そうしたいのですが、カイトくんが大ケガをしております。応急手当をしたらすぐにまいります。』
一難去ってまた一難だった。ドリンケンは兵士たちに守られていて無事そうだった。何人かの敵兵がこちらに向かってきたが、捕まっていたレオパルトかいつのまにか縄を切って大暴れをし始めた。
「調子にのりやがってお前ら! いてまうどコラ!」
「レオパルト! ケガは大丈夫?」
「これしき、大丈夫や!」
だが、敵の数が多すぎてさすがのレオパルトも包囲され徐々に部屋の隅に追い詰められていった。ドリンケンは笑みを浮かべていたが、伝令兵が部屋にとびこんできた。
「閣下! 大変です、山猫族が!」
「わかっとる。今、目の前におるわ。」
「違います! ものすごい数の山猫族の戦士が奇襲をかけてきました!」
「な、なにい!?」
地鳴りのように山猫の鳴き声が響き渡り、みるみる近くなってきた。人間の悲鳴がそれに混じり、階下からもおそらく兵士たちであろう絶叫が聞こえてきた。
複数の兵士が鎧のまま叩き折られ吹きとんで壁にたたきつけられた。レオパルトにそっくりな、鼻に大きなキズのあるトラ柄の巨大な猫が立っていた。
「レオパルト、久しぶりだな。街の暮らしで腕がなまったか?」
「兄貴! ちょっと油断しただけや!」
レオパルトの兄猫が僕のほうに近づいてきた。
「おまえがレイか。おそくなってすまなかったな。さあ、行くぞ。」
「あ、ありがとう! ただ、どこへ行くの?」
「山猫の里だ。敵中を強行突破するぞ。アイゼは俺がかつぐ。」
「わかった!」
僕は意識がない来島をおんぶして歩き始めた。
「何をしている? 敵に情けをかけるのか?」
よろめきながら歩く僕を見て、兄猫はしぶい顔をした。
「こいつは僕の親友なんだ!」
「しかたない。おい! 誰かこいつをたのむ! いくぞ!」
「ぬぬぬ、山猫どもめが! 一匹も生かして返すな!」
ドリンケンは声を枯らして叫び続けていたが、身の危険を感じたのか兵士に守られながら廊下を後退していった。
山猫族の戦士が来島を軽々と担いだ。僕たちは山猫族の軍団にまざって、ひしめく敵兵の中に突撃した。




