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第29話 奇襲作戦


 サングラスの軍団をつけていくと、彼らはフロントを通過して外へ出て行ってしまった。


「あれ? ここには泊まっていないんだ。」


「追うよ!」


 一団はリゾート内の移動用カートに乗り、移動し始めた。僕とアイゼもカートに飛び乗ると、尾行を続けた。

 アイゼがバッグからトランシーバーを取り出したのを見て僕はまた驚いた。


「ユート、聞こえてる?」


「僕のトランシーバーも持って来てたんだ!? ボス、この距離では使えないよ。」


『聞こえてるニャ! 相手は別館に向かってるニャ!』


 こんなに離れていては使えないはずなのに、アイゼは普通に通信していた。


「なぜ使えてるの?」


「ナイショ。了解! そのまま監視してて!」


『了解ニャ!』



 怪しい集団のカートは森林のような庭園を通り抜けて、リゾートの敷地内でも目立たない場所にある、海から離れた別館の前で止まった。


「さすがに正面からはまずいね。」


「裏にまわろ!」


 僕たちはカートを木の陰に隠して建物の裏にまわった。裏口の前にはひとり、尾行した相手と同じような姿で巨体の見張りがいて辺りを警戒していた。


「ユート、建物の見取り図はわかる?」


『わかるニャ。裏口から入ってすぐにエレベーターがあるニャ。今は棟全体が貸切になってるニャ。』


「了解。レオパルトをこっちによこして! ベラベッカは配置について。」


『了解やで。ボス。』


『かしこまりました。院長。お気をつけて。』


「ボス、いきなり襲撃するの?」


「取引のときは奴らは警戒するでしょ。先手必勝よ。」


「でも、あの集団は怪しいけどそうと決まったわけではないような気がするけど?」


「だから今から調べに行くんじゃない。」



 アイゼはスタスタと裏口に向かって普通に近づいた。僕はびっくりして後を追った。気づいた見張りが懐に手を入れた。


「止まれ! なんだお前は? ここは貸切だ。立ち去れ!」


「え~。呼ばれたから来たのにぃ。マッサージサービスですぅ。」


 彼女は媚びるような目で相手を見つめた。


「あなたからしてみる? スペシャルコース…。」


「あ、いや、そうか。誰かバカが呼んだんだな。ちょっと待ってくれ。」


 見張りはアイゼの悩ましい様子に少し焦りながら耳のイヤホンに手をやった。その瞬間、彼女が動いた。腹への一撃に見張りの巨体が倒れると、アイゼはイヤホンをむしりとり僕に放った。


『裏口、何かあったか?』


 俺は努めて低い声で返答した。


「いや、ただの小動物だ。異常なし。」


『了解。もうすぐ交代だ。気を抜くな。』


「了解。」


 

 アイゼは見張りのポケットからカードを見つけると裏口にかざした。ドアが開き、僕たちは中にすべりこんだ。


「ボス、どこを探す?」


「こっちよ!」


 アイゼは業務用エレベーターに乗り込むと天井を外して上に上がった。


「レイちゃんも!」


 僕はアイゼにひっぱりあげてもらい、エレベーターの上に出た。


「ここでしばらく待機よ。」


「何を待つのかな?」


「待ってたらわかるよ。はい、これ。」


 アイゼは僕に拳銃と手榴弾を手渡した。待っている時は時間が長く感じるものだった。ここまではうまくいっているように思い、僕は安堵した。


「ところでさ、レイちゃん?」


「何? ボス。」


「やっぱり今でも、元の世界に戻りたい?」


「今、その話をなぜするの?」


「ヒマだから。」



 僕はアイゼに改めて聞かれて、最近ではあまりそのことを考えていなかった自分に気がついた。



「はっきりしなよ。ベラベッカと大佐に何て言うつもりなの?」


「それはその時考える。」


「ふうん。ま、あの二人に殺されないようにだけは気をつけてね。」


 アイゼはいつものニヤニヤ笑いをしたが、何だかいつもと様子が違っていた。


「ひょっとしてボスは、僕に帰ってほしくないとか?」


「え?」


 虚をつかれたアイゼは一瞬妙な顔をした。そして、激しく怒りだした。


「な、何を調子にのってんの! やだ、ホントに。ちょっと目をかけたらこれだよ。レイちゃんてかなり頭わるいの? きっとそうよね。」


 アイゼにボロクソに言われて少しへこんだ僕は下からの物音に気づいた。


(誰か乗って来た!)


(しー!)



「大変だ! 正面ロビーに敵襲だ! 大化け猫だ!」


「狙撃もされてる! いったいどこから!?」


「最上階を死守しろ!」



(はーい、親玉のところへご案内ね。)


(さすがボス!)


(あたりまえでしょ。)



 エレベーターがぐんぐん上昇しはじめた。アイゼはカゴの中に飛び降りた。3人のサングラス男は驚きのあまり反応が遅れた。せまい中で武器もふるえず、瞬く間にアイゼの体術で倒されてしまった。

 僕とアイゼは最上階で降りると廊下を走り抜けた。飛びかかってくるサングラス男を次々と排除しながらアイゼは猛進し、一番奥にあった重い扉を蹴破った。


 中には、ソファや机を倒した後ろに隠れたサングラス男たちが待ち受けていた。


「銃火器の使用を許可する! 撃て!」


 僕に聞き慣れた銃声だったが、アイゼは一瞬動きが遅れた。僕はアイゼを抱き抱えると倒れた家具の後ろに飛び込んだ。


(大丈夫? ボス。)


(レイちゃんのくせに生意気。でもありがとね。奴ら、妙な武器を使うなあ。)


 なんとアイゼは僕の頬にかるく口づけをした。


(な、なに!? いまの!?)


(嬉しいくせに。)



 再びすさまじい銃撃が始まり、僕たちは家具のうしろからうごけなくなった。


(ボス、目と耳を塞いでて。)


(わかった!)


 僕は手榴弾のピンをぬくと、テーブルの後ろとソファの後ろに放り投げた。僕も伏せた後、すさまじい衝撃音が聞こえた。


(ボス、今だ!)


(りょうか~い。)


 既に気絶している敵もいて、アイゼは耳をおさえて苦しんでいる残りの敵に楽々ととどめをさしていった。

 奥のドアが突然開き、都市迷彩柄の戦闘服の新手が十数名ほど突入してきた。僕がまずいと思った瞬間、窓ガラスが派手に割れて迷彩柄の敵が吹っ飛び、巨大な矢が防弾ベストを貫いて敵に突き刺さっていた。

 動揺する敵に次々と巨大な矢が襲いかかり、瞬く間に全員が倒されてしまった。


「ベラベッカ!? いったいどこから?」


 窓の外を見ると、巨大化したカイトの背に乗ったベラベッカがこちらに手を振っていた。


「レイさまー! ここでーす!」



 僕は手を振り返すと、もっと奥の部屋にアイゼと共に入っていった。部屋は暗くて何も見えないが人の気配がした。



「手下はぜんぶやっつけたよ! おとなしくでてきなよ!」


 暗闇も見える彼女は部屋の中の人物に言った。しばらくして、返事があった。


「わかった、わかった。全く、ここまでお前らの戦闘能力が高いとはな。誤算だったなあ。」


 聞き覚えのある声に、僕は衝撃を受けた。ふるえる手で僕は壁のスイッチを探して部屋の灯りをつけた。明るくなった部屋の中に立っていたのは、僕がよく知る人物だった。



「よう、天神。久しぶりだな。元気そうだな。」



 俺は驚きのあまり、その場に立ち尽くしてしまった。

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