神指示しか勝たん……勝たん?
「おお!!勇者様が!勇者様がこの村から出たぞ!!」
これによって僕の人生はこの時には想像すらしていなかった波乱万丈な冒険の旅への出発が決まった。
ある日,突然だった。職業の選定の日,村の神官が僕の職業が勇者だと叫び。いつの間にか出ていた手の甲に出てきた痣─勇者の証─もあった為に神官のつまらないドッキリではなく本当かもしれないと村長に伝えた。結果,すぐに国の上層部にまで伝わり魔王討伐を依頼されるなんて思ってもいなかった。
手の甲の痣は勇者の証が有る者に出てくる特徴として有名だった。この時は普通の村のただの村長だと思って居たら,国の上層部にまで繋がるコネを持っていたことに驚き感心していたら,最高司祭とあって僕が本物であることが証明されて,勇者の力の開放の旅への出発が決まってしまっていた。
勇者は多くの者を救う希望の戦士である。しかし,初めから強い力に目覚める訳ではなかった。勇者はその在り方通りに行動する事でその力に開放されるんだ。弱気を助け,強気を挫き,困った人々に救いを齎すことで強くなっていく。
どんどん強くなっていく実感があり楽しかった。勿論,楽しい事だけでなく辛い事や悲しい事もあったけど,きっと村にいただけだと経験できない,この旅で経験した多くの思い出が今では大切な宝物だ。
時間は掛ったけど,各地の魔物を狂暴にしていた魔王を大切な仲間と共に打ち倒すことが出来た。
そして,旅の仲間とお別れしてそれぞれの人生を思い残すことのないように楽しもうって誓い合った。
───誓い合ったけど…
「お疲れ様,ブレイブ。よく頑張ったね。」
「──うん,…ありがとう。エイミー(幼馴染)おめでとう。可愛いね…そのいつ赤ちゃん生まれたの?」
「え?ありがとう。そういえば,ブレイブは知らなかったっけ。子供の頃,一緒によく遊んでたモウブさんとの子で去年できたのよ。」
───誓い合ったけど…
「王様,無事魔王を討伐しました。」
「うむ。誠に,よく励んだ。大儀であった。村人であった其方に是ほどの無茶を頼んでしまい,誠に申し訳なく思っておる。好きな願いを言うが良い,例え如何なる無茶であろうと,其方に報いようではないか。」
「でしたらオーロラ姫との結婚を許して頂きたい。」
「──先の言葉に嘘偽りは無く,其方の願いを全力で叶える用意がある。しかしオーロラか…。どうしてもか?どうしてもオーロラが良いのか?其方は世界を救ったのだ。儂の国だけでなく,全ての国が其方の願いを聞き届けよう。つまりだ。身分や器量のよい娘を選び放題であるし,ハーレムをしたいと言うのなら,凄まじい大きさのハーレムを気づき上げられよう。──オーロラでないとダメか?」
「はい。彼女の言葉が挫けそうなときに支えになったことも一度や二度ではありません。彼女の代わりなんていません。どうか,オーロラ姫との結婚を──」
「その,なんだ。其方のオーロラへの気持ちは分かった。今か」
「でしたら!」
「今から!独り言を言う!オーロラは3年前に近衛騎士団長と駆け落ちしている!親としての心配から,陰ながら護衛を付けているから居場所は分かる!報告によれば,大変仲睦まじいらしい!」
「…………」
「独り言を言ってスッキリした。所で其方よ。本当にオーロラと結婚したいのか?儂の他の娘ではダメなのか。家族故に姿は似通っておるぞ。」
「その,褒美の内容は一度落ち着いて考えたいと思います。」
───誓い合ったけど…
「あら,ブレイブじゃない。久しぶり。」
「うおっ。ホントだ,久しぶり。」
「あ,ああ。二人とも久しぶり。ナカイインデスネ。」
「ま,まあね。誓い合った後にね,コイツしつこく私にプロポーズしてくるんだもの。だんだん可哀そうになってきて仕方なく,仕方なく付き合ってあげたのよ。」
「何言ってんだよ。まんざらでもない表情だったじゃんか。ああ,なんか恥ずかしいなこれ。ブレイブは幼馴染とどうなんだ?」
───誓い合ったけど…
「ナア。オマエハモテテイナイヨナ?」
「おお。ブレイブの旦那。久しぶりでやんすね。アッシですかい。アッシは前じゃ考えられないぐらいモテモテっすよ。それもこれも,あんとき旦那に誘われなかったらって思うと,ブレイブの旦那には頭が上がんねえっすよ。」
「ツマリ,オマエモケッコンシタッテコトナノカ?」
「結婚?アッシはしてないでやんす。今は色んな女と遊び歩いている方が楽しいでやんすから。」
───誓い合ったけど…
「聖女!!お前は!宗教に操を立てているよな!?」
「私ですか?私の聖女は回復役としての職業であって,宗教の地位故に聖女と呼ばれている訳ではないのですよ。どうしたんですか?」
「ツマリィィィィ!!オマエモケッコンシテイルノカ!!?」
「結婚しているのかって。大丈夫ですか?混乱状態にかかってしまっているのなら治しますね。決戦前夜に私があっ君と結婚したって言ったじゃないですか。」
───誓い合ったけど…
楽しめないよぉぉぉ!!!
何でぇぇ。何でなのぉぉ!!
たった5年じゃん。待ってよ。そんぐらい。こっちは世界を救うんだよ!それで得られるのが,富と名誉だけじゃ意味内のおおお!!
子供の頃からエイミーとは将来を誓い合っていたじゃん。「絶対,ブレイブ君のお嫁さんになる」って言ってたじゃあか。
「ブレイブ様が素敵。」って,「心からお慕いしています」って,「無事に魔王を討伐することを祈って待っている」って言ったじゃないか,オーロラ姫!!
魔法使いも,僕に気が有るようなことを言ってたじゃんか。なんで盗賊なんかと。
斧使いみたいになりたい!僕だってやってみたいのに勇者としてのイメージから畏れられて,全然持てない。
後,あの頃は思い残さないようにって背中を押したけど,聖女で勇者の双璧をなす癖に魔王討伐前に遊んでんじゃねぇ!!
人生を思い残すことのないように楽しもうって誓い合ったけど,全然楽しめない。凄い思い残してる。
旅してた時の方が楽しかった。あの頃に戻れたらな。悔いのない人生を歩めた気がするな。
「勇者ブレイブよ。よくぞ魔王を討伐した。たった今,心の底からの強く純粋な願いを検知した。魔王討伐の報酬を与えよう。勇者ブレイブの心の底からの願い,しかと聞き届けた。リア充を妬み恨みその仲を引き裂こう,とは心の底では願わず,寧ろ祝福をしていたその心。流石は勇者。行動だけでなく,その精神までもが真の勇者であった。故に,勇者ブレイブの願いに加えてある加護を与えよう。結果として仲を引き裂いてしまうかもしれないが,それが人生というものだ。気にせず歩め。」
何か,不思議な夢を見た気がする。
「ねぇ。起きて!起きて,ブレイブ!今日が職業を貰える日だよ!早く,見てもらおうよ!もう昼間だよ。」
目を開けるとそこにはあの頃のエイミーがいた。
「え,エイミー?」
「何?寝ぼけてんの?早くいこ。もう,みんなは見てもらったんだから。」
「え,うん。」
〈神の遠回しな加護が発動いたします〉
それは,唐突だった。急に謎の声が頭に響いたんだ。エイミーに手を引かれて村の教会に向かっている時に急に聞こえた。
〈モブオの家に行け〉
「ちょっと,ブレイブ大丈夫?さっきから少しおかしいよ」
「ごめん。ちょっと行かなくちゃいけない気がする所があるから先に言ってくんない?」
「もう,ここまで待ったんだから待ってるわよ。早くしてよね。」
「ああ,ごめん。」
さっきの声が聞こえてから,ずっとモブオの家に行けって聞こえるんだ。それに,この力は魔王討伐のときに使った力と似ている。
なんでこんな力が有るのか知らないけど,きっと勇者の力だ。勇者の力には何度も助けられた。きっと悪い力ではないんだと思う。
先ずはこの力に身を委ねて,力の使い方をまず覚えた方がよいな。そもそもこれはどんな能力なんだろう。
「ん?ブレイブ君じゃないか。どうしたんだ。なんか用でもあんのかい?」
モブオの家は村の唯一の雑貨屋さんだ。
店の前に居たら,モブオの父が荷物を抱えて偶然出てきた。
「邪魔してすみません。用は特にないです。ぼーっとしてました。」
「そうなのかい?じゃあ,この荷物を薬師の婆さんとこまで持ってってくんないか。この新しいヒノキの棒を上げるからさ。」
「いいですよ。」
おっと,15歳に体が戻っているのを忘れてた。予想以上に重く感じる。
〈荷物を地面に叩きつけて,ヒノキの棒を持って森に行け〉
え?この荷物は何か邪悪な物なのか?何も感じないが。いや。今は何も考えるな。きっと何か意味があるんだろう。
荷物を地面に叩きつけて,ヒノキの棒をもって森に向かう。
ドンッ
「え?急にどうしたんだい?ブレイブ君。え?え?」
〈薬草3枚,石1個,猪のフン5個を拾い,滝の裏側に行け〉
本当にいったいどんな意味があるんだろう。ここまで来たら,取り合えずやるけどさ。何で過去に戻っているのかも知りたいんだけど。
村近くの滝の裏側か。確か,骸骨の近くに巻物(使うとその力が身につく)があったんだよな。それを拾いに行くのかな?
何の巻物だったっけ?あんまりパッとしなくて覚えてないんだよな。
「おぉ。もしや,そこに誰かいるのかい?どうか,この爺を助けてくれないか。足を呪われてしまって動けなかったんじゃ。村まで連れて行っておくれ。」
何と,あの骸骨の人が死ぬ前だったのか。
「わかった。いいよ爺さん。」
〈薬師の婆さんの家へ行け〉
爺さんを負ぶって薬師の婆さんの家に向かう。
そうか。この力は,一回目のときに間に合わなかった人達を救うための力なのか。
荷物を叩きつけるっていう行動も人助けに繋がってるのかな。
「婆さん!このなんとかならないかな?滝の裏側で倒れてたんだ。」
「なんだってそんなところに,あ~。これは酷いねぇ。呪いで足にダメージがいっておるのお。呪いと傷の合併症状には,たしか…」
そうだ。
「婆さん。この薬草を使ってくれ。」
「おお,ありがとねぇ。いいこに育ったねえ。今回の薬には使わないけど,ありがたくもらっとくよ。」
〈勇者Level1 up〉
勇者Level?人助けで勇者の力が解放されていくのはこれを知らず知らずの内に貯めてたのか。
「あった。ほい。お前さん,コイツをグビッといきな。」
「おおお!治った。」
治ったみたいだ。よかった。
「よく爺をここまで運んでくれた。コイツは感謝の印だ。『活力切り』の巻物だ受け取っておくれ。」
〈勇者Level1〉
「ありがとう。早速使いますね。」
そうだ。活力切りだ。忘れてたわ。
〈この場で活力切りを使用してみる〉
「え?じゃあ,早速試してみますね。『活力切り』」
気づけば,振り下ろしたヒノキの棒の先からエネルギーの刃が飛び出し,爺さんと婆さんを切り殺していた。
〈勇者Level2 up〉
「な,なにやってるんだ。ブレイブ君!?どうして薬師の婆さんを!?」
ガタンッ
見れば,さっき僕が叩きつけた荷物を持ってきていたモブオの父がこちらを信じられないような目でみている。
クソッ。どういうことだ!?何故こんなことに。
〈幼馴染に石と猪のフンを投げつけろ〉
ええい。ここまで来たら,死なばもろとも。最後まで指示に従ってやる。
「おい!待て!ブレイブ君。何があったんだ!」
「ブレイブ。遅いよ。ほら行くよ。」
「おら!」
「キャッ!何すんのよ!!」
〈エイミーへのプレゼント合計6個で好感度+6〉
「な!?まさか!悪魔か!?悪魔がブレイブ君にとりついているのか!?」
「なに?悪魔!?この村じゃ,悪魔祓いなんて出来ねぇぞ!?」
その後,普通に捕まった。
「おお,勇者よ捕まってしまうなんて情け…え?本当にどうした?なんで?絶対にブレイブが選ばない指示が表示されるようにして,他人に言われるがままにするのではなく,自身の思いで自身の考えで行動して幸せを掴んでもらえるように作ったのに。」
勇者がなんで加護の指示に何も考えずに従ったかの補足。
一度目に悔いの残る人生になった勇者は一度目とは違う要素を信じることで,理想を手に入れようと考えました。
読んでいただきありがとうございます。
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