覚悟の証明①
「……ちっ。どうしろってのよ」
姫歌が舌打ち混じりに睨んだのは、教室の片隅。
つい先日増えたばかりのその席に、主の姿は無い。
『特専』の生徒達は、昨日まで"彼"が居たことで緊張していた筈なのに、今は彼が居ないことが何よりのプレッシャーだと言わんばかりに、皆張り詰めた表情をしている。
いつもなら授業から束の間解放され、ワイワイと賑わう昼休みが、今日に限ってはお通夜のように静かだ。
そして、姫歌もまた、自身の中に渦巻く焦りや悔しさに苛立ちを覚え、一日中眉間に皺を寄せていた。
「まったく、とんだ体たらくですね。昨日の訓練前に見せた威勢の良さは何処に行ったのですか?」
「アンタとアンタの上官が、その威勢を根こそぎ刈り取ったんでしょうが」
と、この状況でもいつも通り、ナチュラルマウント発言を繰り出したのは、彼らの心を砕いた張本人の一人でもある、心那だった。
呆れた表情で教室を見渡す彼女に、姫歌はすかさずツッコミを入れるも、意に解された様子は無い。暖簾に腕押し、と言うやつだ。
「一度や二度、心を折られたくらいで意気消沈している様では、執行部隊の訓練なんて一日も保ちません。自分が初めて先輩に稽古を付けてもらった時なんか、指一本動かせなくなるまで扱かれたんですよ?」
「それで恨むどころか心酔してるって……アンタこそドMって言うか、完全に調教されてるじゃない」
「ち、ちち調教!? 言いがかりです! そもそも、自分は先輩のお役に立ちたくて軍に志願したんです! ちょっと厳しく訓練されたぐらいで、恨んだりしません。寧ろ、あの訓練があったからこそ、こんな自分でも第七執行部隊の一員として、あの方の隣で戦えるんです」
「あっそ。ま、別にアンタらの関係なんて興味も無いしどうでも良いけど。てか、その大好きな先輩が来てないのに、何でアンタは普通に登校してんのよ?」
「学校を休めという命令は受けていませんから」
「大好きってとこは少しも否定しないのかよ……」
「け、敬愛している事は事実ですから良いんです!」
「へいへい。でも、命令されて無いとは言え、この間の事件から軍も結構バタついてんじゃ無いの? ぶっちゃけアンタは学校なんて通う必要無いんだし、あっちのサポートに戻りたいとか思わないわけ?」
「それは……まあ。でも、先輩が自分を学校に置いたままにするという判断を下したなら、きっとそれは必要で、意味のある事です。それに昨日、先輩が最後に言ったことは覚えているでしょう?」
「そりゃあ、ね……」
実戦訓練の終わり際、星は『特専』の生徒たちに、こう告げた。
『一週間後、同じ形式で、もう一度実戦訓練を行う。特専に残りたいなら、先ずはそこで、お前達の“覚悟“を見せろ』
「あの言葉の意味、理解出来ていますか?」
「……」
黙りこくってしまった姫歌に、心那は意外にも、優しげな眼差しを向けた。……ただ、その視線には諦観も含まれていた。
「分からないですよね。でも、それが多分、“普通“なんだと思います」
「何よ? その含みがある言い方……」
元々不機嫌だったこともあってか、姫歌は一々突っかかるような物言いだ。
だが、心那はいつもの様に食ってかかる事も無く、ただ、悲しげに目を伏せた。
「自分達、第七執行部隊が“死神の鎌“なんて呼ばれている理由は、言うまでも無く討伐率の高さです。その背景にあるのは何より、先輩の強さに他なりませんが、それだけではありません」
一度言葉を切った心那は、何かを覚悟する様に少しの間瞑目してから、再び口を開いた。
「自分を含め、第七の隊員はその殆どが、アルミリスによる犯罪の被害に遭った“孤児“なんです」
「えっ……」
「「「っ!?」」」
目の前で聞かされた姫歌はもちろん、聞き耳を立てていた生徒達の誰もが、その事実に絶句する。
「家族の居ない自分達にとっては、育ててくれた軍での功績だけが存在理由なのです。特に、ここ二年の間に配属された隊員は、何かしらの形で先輩に、真白星隊長に救われた者達ばかり。……討伐率ばかりが目立つせいで、“武闘派“とか“白い悪夢“なんて呼ばれていますが、先輩は冷酷無比な戦闘狂などではありません。その証拠に、先輩が隊長に就任以降、第七執行部隊の死亡者は“ゼロ“なのですから」
「「「………」」」
その異常とすら言える功績に、改めてクラスメイト達は星という少年が、自分達とは次元の違う存在だと思い知る。
そんな彼等の心情を容易に察しつつ、心那は言葉を紡ぐ。
「常に死地へと送られる執行部隊に於いて、一年以上死亡者が出ないだけでも異例中の異例。この結果こそが、我々の意志を、努力を、覚悟を確固たるものにし、今日の活躍に至っているのです。……“何があっても生き残り、あの方と一つでも多くの戦場を共に“。それぞれ思いの深さや種類は様々ですが、これが自分達、第七執行部隊の共通認識であることに、疑う余地はありません」
「「「っ………」」」
その内容だけでなく、様々な感慨をのせた少女とは思えない心那の表情を見て、クラスメイト達はゴクリと生唾を飲み込んだ。
今更ながらに実感したのだ。命を懸けて戦う事が常の軍人と、平和を享受しているだけの自分達の間にある、あらゆる“差“を。
そんな彼らの反応を確認し、心那は一つ頷くと、悲しげに目を伏せる。
「……公にされている情報とは言え、暗黙の了解であまり誰も口にしませんが、執行部隊で最も死亡率が高いのは、官学から志願した新兵です。特に、親が多少なりとも軍や独立政府に影響力を持っている人ほど、現場に出てすぐに殉職してしまうケースは毎年恒例と言って良いほど耳にします」
その言葉に含まれた言外の意味を、この場に居た誰もが理解する。
当然、姫歌も察していた。……けれど、誰よりも自分自身が甘やかされていると感じているからこそ、整理し切れない感情が、刺々しい声音となって彼女の口を突いて出た。
「……昨日、あいつが言ってた事が原因、って言いたいわけ? 私達が、その死んでいったボンボン共と同じになるって?」
いつもなら姫歌の態度に感情的になる心那だが、今は凪いだ水面のごとく落ち着いた表情で、どこまでも真摯に頷いた。
星が近くにいないから冷静でいられるのか、或いは、誰よりも慕う彼の背中を見て無意識に真似ているのか。
いずれにしても、今の心那は、この場に居る一つ年上の少年少女達の誰よりも大人びた雰囲気を纏っていた。
「そうです。『意志が弱い。努力が足りない。覚悟が無い』。……厳しい言葉に聞こえたかもしれませんが、あれは、先輩なりの精一杯の優しさだと、私は思います。どんな願いも、死んでしまっては叶えられません。現場に出ると言うことは、命のやりとりをすると言うこと。意志、努力、覚悟。凶悪犯罪者や現界したアルミリスの前では、どれか一つ欠けただけで簡単に命を失います。……けれど、ここに居る皆さんは、誰一人としてそれを理解も実感もしていない」
「それはっ……まあ、アンタらに比べればそうかもしれないけど……」
「学生だから、まだ二年あるから、正規の隊員では無いから………もし、貴方自身が、もしくは貴方の目の前で誰かが命を落とした時、同じ言い訳を口に出来ますか?」
「っ……でも、覚悟を見せろって言われたって、どうすりゃ良いのよ?」
「それを教える為に、私がここに残されたのでしょう。……先輩は、自分と他の人を、違う物だと思ってしまうから」
心那の最後の呟きがどういう意味か、姫歌も、聞き耳を立てていた生徒達も、問うことは出来なかった。
切なげなその横顔が、一つ年下の少女とは思えないほど、綺麗過ぎたから。
+*+*+*+
「サボりは感心しませんね、真白くん?」
「公務中だ。そのふざけた態度と呼び方を改めろ。西院鷹二保安課長」
軍本部の会議室。
東西南北、本部を含めた各基地の大佐と、補佐として同行している中佐、そして街警保安課の代表として西院鷹二がこの場には居る、のだが……空気は極寒と言って良いほどに冷え切っていた。
無事、独立政府の認可が降りた軍と街警での合同作戦。その詳細を詰める為、彼らは召集された。
だが、話し合いを始める以前に、軍側の人間が鷹ニに対して露骨に冷ややかな態度を取っていた。
それで多少恐縮するのなら彼らの溜飲も下がったかもしれないが、鷹ニは歯牙にもかけずニコニコと人好きのする笑みを深めたまま、星に絡み始めたのだ。
星の方も相変わらずの無表情でニベもない反応しかしない為、ただでさえ冷え切った空気が絶対零度もかくやと言うほど、悪化の一途を辿っている……。
「では真白中佐殿、君の官学派遣もまた公務だが、そちらは疎かにしても良いのかな?」
「今は俺が彼等に直接指導する必要性が無い。だから優先順位の高いこちらの会議に出席している。それだけだ」
「現状の彼等では中佐が指導するに値しないと? だとしたら趣旨を履き違えているよ。彼等の現場対応力を底上げするために、僕は君の派遣を独立政府に打診したんだ。力が無いからと放り出されては、本末転倒じゃないか」
「詳しく説明しなければ理解できないのか? 今、俺が彼等の近くに居ることはマイナスにしかならない。寧ろ、お前が用意した“建前“に乗ってやったんだ。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いは無い」
「おやおや、建前とは失敬だな。僕はこの街の未来を憂いて、政府に有意義な提案をしただけさ」
「なら、何故派遣先が一年生の特専だけなんだ? 臨時出動の頻度が高い二年や三年にこそ、俺たちの派遣は必要だったはずだ」
「二年と三年は既にカリキュラムに従って長期間訓練を施されてる。劇薬を投入できる段階はとうに過ぎているのさ。万が一君らに心を折られて、再起不能になったら目も当てられないだろう? その点一年生なら、まだ実績の伴っていない未熟な自尊心だけしか持っていないから、一度や二度痛い目に遭うくらいで丁度良い。それに、一年が急成長すれば、先輩達にとっても良い刺激になると思わないかい?」
「気色の悪い“過干渉“の為に、随分と長ったらしい言い訳を用意したものだ」
「何のことかさっぱりだが、“過保護“について、君にだけは言われたく無いね? 心那・バーミルトン。どうして彼女だけ学校に残して来たんだい? ……もしかして、先日の誘拐未遂の時に君が確保したアルミリスの女の子、あの子は」
ガタり、と、静かに椅子が引かれる音がした。星が立ち上がったのだ。
それだけで、まるで膠着状態の戦場を思わせるひりついた緊張感が走った。
「何を言われようが、方針を変えるつもりは無い。“優秀な部下“も残して来た。それでも俺に登校を強制させたいのなら……力ずくで言うことを聞かせてみろ」
「「「っっっ!!」」」
星が発した殺気が、昼と夜の天変の如く一瞬にして会議室を呑み込んだ。
この場に居る軍人は曲がりなりにも中佐以上の猛者達だ。腰を抜かしたり青ざめる様な者は居ない。……それでも、生唾を飲み込み、思わず身構えてしまう者達は数人居たが。
そんな中、矛先を突きつけられた当の本人である鷹ニは、たじろぐどころか笑みを深めた。
「へぇ……光栄だな。口八丁で成り上がった僕が、“最強“である君の前に立てると思われているなんて」
「御託は吐くほど聞いた。やるならさっさと表に…」
「いい加減にしなさい」
……と、星がいよいよ鷹ニの胸ぐらに手を伸ばしかけた所で、どこか教師然とした諌める声が響く。
「おや、ラングドック大佐殿? いい所で邪魔をしてくれますね」
厳しい表情で二人を睨む大佐の一人、ラングドックにも怖気ずくことなく、鷹ニは揶揄うように問いかけた。
だが、残念ながら相手は実戦も舌戦も百戦錬磨の軍最高幹部だ。
「双方、余計な発言は慎みなさい。君たちがそうして下らない争いをしている間に、テロリスト達は市民を食い物にしている。先日も未登録のアルミリスの子供を利用した誘拐未遂が発生したばかり。背後に組織的な動きがある事も確認されている。タイミング的に見て、テロリストと無関係では無いだろう。これ以上、我々に無駄にして良い時間など存在しない」
几帳面な仕草で眼鏡を掛け直したラングドックは、声を荒げる事も、嫌味を交える事も無く、ただ理路整然と現状から鑑みた鷹ニと星の愚かさを説く。
だからこそ、二人は余計な反論をする余地を失った。
「……はぁ。失礼。皆さんの時間を無為に奪うつもりはありませんでしたが、時と場所は選ぶべきでした。どうかお許しを」
「……」
鷹ニはいつもの芝居がかった物言いで、星は無言で頭を下げ、謝意を示した。
「ま、まあ後進の教育も大事なことですから、熱くなってしまうのも仕方がありません。それじゃあ、僭越ながら私が議長を務めさせて頂き、会議の進行をしたいと思います」
遠慮がちに前へ出たのは、前から歩いてきても上官だと気付かないと評判?の、一見くたびれたサラリーマンにしか見えないもう一人の最高幹部、本部基地司令の那珂多だ。
「「「(アンタ、居たのか……)」」」と、何人の幹部達が思ったかは、明言しないのが花というもの。
ただ、那珂多は少しだけ悲しそうに背を丸めた。
「え、ええと、では、今回の作戦の要、執行部隊と保安課の合同小隊について、具体的に話を詰めて行きたいと思います。先ずは、事前に試験運用して頂いたバード・オーシャン大佐から、意見を伺えればと」
指名されたオーシャンはコクりと頷き立ち上がる。
「結論から申しますと、非常に有意義でした。街警の皆さんは我々軍には無い捜査のノウハウがあり、また、彼等が居るおかげで市民の皆さんもとても協力的な態度を見せてくれる。逆に有事の機動力や対応力では我々の権限と装備が活かせて、非常にバランスが良い。もっとも、先ほど話題に上がった誘拐未遂では、真白中佐に先を越されてしまいましたが」
肩を竦めるオーシャンの方を見向きもせず、星は淡々と口を開く。
「登校途中にたまたま近くで戦闘音を聞いて介入しただけだ」
「つまり、現着が遅れたのは距離的な問題だけだったと。それなら、本来は複数の隊でエリアを小分けにして捜査する訳ですし、特に懸念する必要は無さそうですね。オーシャン大佐、他に気になった事などはありますか?」
星の端的な言葉を補足しつつ、那珂多は改めて問いかけた。
「そうですね……強いて言えば、今回は街警の方を二人、軍からは私と部下二人、計五人で動いたのですが、市民の方の反応を見るに、少し仰々しかったかもしれませんね。予断を許さない状況である以上、警戒を促すのは良いことかもしれませんが、過剰に不安にさせるのはナンセンスかと」
「なるほど。確かに街警はともかく、我々軍人は普段パトロールなんてしませんからね。市民から見れば異様な光景に見えるのは否めません。無用な混乱を防ぐ為にも、何らかの対策は必要でしょう。……とは言え、現場用の軍服は装備の一部ですし、街警の制服を借りるという訳にもいきません。どうしたものですかね?」
その問いに答えたのは、スッと行儀良く手を上げた鷹ニだ。
「その点に関しては、実は妙案があります。発言、よろしいですか?」
「ふむ。では、西院保安課長。お願いします」
許可を得た鷹ニは改めて立ち上がり、悪戯をする前の子供の様な顔でニヤリと口角を上げた。
「合同小隊のメンバーに、官学の生徒を借りれば良いのです」
「「「なっ!?」」」
余りにも突飛な提案に、殆どの軍側の参加者が目を丸くする。……もっとも、無表情のままの星と、面白そうだと言わんばかりの顔をしている能登大佐は別だが。
「……西院保安課長、余計な発言は慎むようにと、先ほど注意したばかりだ。冗談は他所で言いたまえ」
「心外ですね。本気も本気、大真面目な意見ですよ」
「子供をテロリストの前に立たせると? 市民の平和維持を謳う保安課長の発言とは思えんな。正気か?」
「確かにそう言った事態も想定されますが、基本的に戦闘は執行部隊の皆さんが担当してくれるのでしょう? であれば、戦力としては初めから考えなくて良いわけですし、何より、学生隊員の方が市民の、そして敵の警戒も緩むという物。メリットは大きい」
「だからと言ってっ……!」
「そこに居る真白中佐だって、彼等と同じ子供でしょう? 彼の部下である心那・バーミリオンだってそうだ。彼等が優秀なのは承知していますが、子供である事に変わりはない。……さて、軍で引き取られた孤児達は戦場に立たせているのに、街警のサポート程度を学生にさせて何の問題があるのですか?」
「くっ……!」
悔しげに顔を歪めるラングドックに、鷹ニは嫌味の無い苦笑を向ける。
「まあまあ、そう熱くならないで下さい。何も全ての隊に学生を派遣しようと言っている訳ではありません。悪魔で、市民の目につく、比較的危険度の低いエリアを担当する隊だけです。そうすれば、表向きには『街警と軍が合同で官学の研修に協力している』、と発表出来ますから、寧ろ微笑ましい光景に見える事でしょう。もちろん、危険なエリアや突入部隊からは外します。それに、彼らも今は学生ですが、数年後には現場に出るのです。経験を積ませておく意味でも、非常に好都合だと思いますが?」
「……」
不機嫌な顔のまま黙りこくったラングドックに代わって、豪塚がドスの効いた声で鷹ニに問いかけた。
「その学生の中には、当然貴様の妹も含まれる訳だが、構わんのか? 能力の有用性だけを考えれば編成から外すという選択肢は無い。出世の道具を失うのは惜しいだろう?」
「これは手厳しい。ですが、ご安心を。彼女にも参加してもらうつもりです。個人的には最愛の妹に危ない仕事をさせたくはありませんが、彼女は自ら街警に進む道を選択しました。成長の機会を奪う訳にはいきません。もっとも、僕の感情とは関係なく、独立政府は彼女の能力を高く買っていますから、派遣する小隊は戦力的に最も安心のおける編成になるでしょう。そこはご了承下さい」
「都合良く利用はするが、ちゃっかりボディーガードは付ける気満々と言う訳か。心底気に食わん男だ」
悪態こそ吐くが、それ以上の反論をするつもりは無いらしく、豪塚はそのまま腕を組んで押し黙った。
鷹ニは他に反対意見が無いか確認し、改めて進行している那珂多に向き直る。
「妹もそうですが、官学の生徒については私の方である程度把握しています。すぐにでも参加させる生徒をリストアップしましょう。当然、本人達への意思確認も込みで、責任持って選抜します」
「私も気は進みませんが……分かりました。よろしくお願いします。ええ、では今の話も踏まえて、編成する小隊の数と…」
那珂多も学生の起用に思うところがあるようだが、理屈は通っている為か渋々頷く。
「那珂多大佐。よろしいでしょうか?」
……と、話が纏まりかけたその時、徐に星が立ち上がった。
「真白中佐? ええ、どうぞ」
進行を遮られたことに文句を言うことも無く、那珂多は星の発言を許す。……相変わらず那珂多に対しては礼儀正しい星の物言いに、視界の端で豪塚が「ぐぬぬ…」と苛立たしげに唸っていたが、皆気づかないフリでスルーした。
「学生の参加ですが、一年の特専クラスに関しては、最低でも十日後以降でお願いします」
「ほう。それはまたどうして?」
「一週間後、現場に立たせる上で必要な試験のような物を実施する予定です。それに向けて、恐らくですが、現在も彼らは今までより厳しい訓練中。試験後の疲弊もあるでしょうから、回復するまでは使い物になりません」
「なるほど。そういうことなら考慮するべきですね。……ふふっ」
「? 何でしょうか?」
「ああ、すみません。少し意外だった物で。てっきり真白中佐は、官学への派遣に乗り気では無いものと思っていたので」
「……公務は公務です。それに、無能が戦場に出てくるのは看過できません。最低限の干渉は必要だと判断しました」
表情も声音も変わらないが、何処かバツが悪そうな星の発言に、那珂多は柔らかく目を細めた。
……もっとも、他の者達は学生に同情していたが。遠慮容赦など無い星の指導を受け、バキバキに心を折られる学生達の哀れな姿を想像してしまったのだ。大正解である。
「それでは、一先ず編成する小隊数、また、軍、街警双方から派遣できる人員の数を軸に、詳細を詰めて行きましょうか」
その後は、那珂多進行のもと滞り無く会議が進み、後日学生達と顔合わせの場を設けるという事で解散となった。
……その裏で、心那による生徒達の魔改ぞ……もとい、過酷な訓練が始まろうとしている事を、この時はまだ、誰も知るよしも無かった。
お読み頂き感謝の極み
次話は明日投稿、出来たら良いな……
ご意見、ご感想お待ちしております。