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登校②



「チッ……最初から、()()()()()()()()()()



涙を流す少女の懺悔によって、姫歌は全てを悟る。


「姫歌、今ならまだ離脱出来る。僕に掴まって」


「んな事出来ないに決まってんでしょ。あの子もグルって言ったって、どう見ても無理やり従わされてる感じだし。人質なのは一緒よ」


戒理の人外と言える機動力なら、強引だが離脱自体は確かに可能だろう。


だがその場合、あの少女はどうなるのか? 見たところ、まだ10歳かそこらの子供だ。抵抗の余地無く脅迫され、利用されている可能性が高い。

姫歌達がこの場を離れれば、証拠隠滅の為に()()される事は目に見えている。


「よく分かってるみたいだなぁ? じゃあ取り敢えず、武装を全部こっちに投げ捨ててもらおうか。……早くしろよ。向こうの嬢ちゃんがどっかに連絡してんだろ? もし街警や軍の連中が来やがったら、ビックリしてガキを殺しちまうかもしれないぜ?」


「「っ……」」


路地を塞ぐように立つ男の予想通りの言葉に、姫歌は歯噛みしつつも、装着済みのナックルダスターを外して男に投げつける様に放り捨てる。


だが……。


「あ? おい、男の方は何してんだ。さっさとそのデカい剣をこっちに寄越せや。人の話聞いて無かったのか?」


「……」


戒理は、大剣の柄に手を掛けてすらいなかった。


「戒理っ!!」


「くっ……駄目だ。姫歌。僕だってあの子の事は助けたい。でも、僕は、()()()守護者(ガーディアン)なんだ。君を危険に晒すと分かっていて、この剣を手放す事なんて出来ない」


「アンタねぇっ……!?」


アンタならその気になれば剣無しでも戦えるでしょうが! と、喉元まで出掛かった言葉を、姫歌は飲み込んだ。


感情に任せてそんな事を口にしても、敵に余計な情報を与えるだけだ。


何より、顔半分だけ振り向いた戒理の瞳は、意固地な言葉とは裏腹に、真っ直ぐ姫歌を見つめていたから。


だから、彼女は応えた。


「おいおい、ちょっと大人を舐めすぎじゃねーか? いい加減にしねぇと泣くのはガキの方だぞ?」


そう言って男が少女を囲む仲間に目配せすると、一人がナイフを取り出し少女の耳に当てがった。


冷たい刃の感触に、少女は酷く怯えた呻き声を漏らす。


「ぅあっ……」


「3秒数えたら方耳。次はもう片方。後は……言われなくても分かるよなぁ?」


「チッ ……戒理。()()()。その剣を()()()くれてやりなさい」


「……分かったよ」


口惜しげに俯いた戒理は、ゆっくりと剣の柄に手を掛けた。


「そうそう。諦めるのは大事だ。意地張るよりよっぽど楽に生きれる」


愉快そうに口の端を歪めた男を、スッ……と、姫歌は睨み据えた。


戒理は剣を背中から抜き、ぶらりと手に下げて放り投げるモーションを取る。




そして、次の瞬間。




「ふぅ……シッッッ!!」


「がはっ!?」


路地を塞ぐリーダー格の男に剣を放ると見せかけて、少女の耳にナイフを当てていた仲間の男の胸に向け、突き刺ささる様に思い切り投げ放った。


「何しやがっ、っっ!?」


「せあっ!!」


そして、姫歌は戒理と位置を入れ替えるように交差し、一足飛びにリーダー格の男の懐に潜り込んだ。


相手が間合いに踏み込まれたと認識した時には、もう遅い。


姫歌が習得しているのは、古武術をベースにした実戦格闘技術。


自身よりも体格や身体能力に優れた敵を倒す事を想定して生み出されたその技は、速度と重心を自在に操る。


「ぐおっ!? くぅっっっ!? 」


「諦めるのは大事、だったかしら。分かってるなら大人しくしてなさい……。戒理、そっちは!?」


リーダー格の男を叩き伏せた姫歌は、速やかに手錠で両手を背中側で拘束し、戒理に状況を確認する。


「問題無いよ。この子も保護した」


見れば、彼の足元には二人の男が気絶して倒れていた。顔の鮮や腹を押さえて倒れている所を見るに、殴り倒すか蹴り飛ばして昏倒させたのだろう。


最初に剣を投げつけた男も気を失ってはいるが、チンピラ風の見た目に反して服の内側に防弾ベストでも仕込んでいたのか、胸から流れる血は少量だ。


「ひっぐっ、ごめん、なさいっ、ごめん、な、さいっ」


戒理に背中を優しく押されて連れられながらも、少女はまだ恐怖と罪悪感が拭えないのが、嗚咽を漏らし続けていた。


そんな彼女に、姫歌は普段見せない柔らかい笑顔で声を掛ける。


「見ての通り私たちは無事だし、この馬鹿共は叩きのめしたからもう大丈夫よ。ね? だからもう泣かないで?」


拘束したリーダー格の男を油断無く踏み付けながらも、少女の頭を優しく撫でる。


戒理は気絶させた男達に改めて手錠を掛けに行った。一時はどうなることかと思ったが、何とか状況は落ち着いたようだ。


……だが、そこでふと、姫歌は()()()を覚える。


少女が襲われているという猿芝居。それは、明らかに姫歌達を誘き出す為の罠だった。


狙いは恐らく、異能者(マギクス)の中でも特異な能力を持つ姫歌だろう。……であれば、彼等は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


だと言うのに、こんな半端な人員と穴だらけの作戦なんて立てるだろうか?


狙いが姫歌個人では無く、学生マンションから通う官学生なら誰でも良かったと言うなら、まだ分からなくも無いが……。


「姫歌ちゃ〜ん! 大丈夫だった!? 戒理くんは怪我とかしないだろうけど、姫歌ちゃんは女の子なんだからもう少し自分の心配も……」


駆け寄って来るメルティの声を聞き流しながら、姫歌は思案する。


……そもそも、人質にわざわざ少女を誘拐して来るぐらいなら、仲間内の誰かにでも一般人を装って芝居させれば、無駄なリスクも無かった筈だ。


次いでに言えば、()()として戦力に、も……。


そこまで考えて、姫歌は、少女の頭を撫でる手を止めた。


そして、徐に、俯いた彼女の長い前髪を分け、()()()()()


「へ、へへっ、言ったろ? 諦めが大事だって」


「クソがっ!? 最初から、()()()()()()()()()かっ!?」


踏み付けた男が心底愉快げに顔を歪めて嗤う。


姫歌はその顔を見て、改めて確信した。




「っ、!? メルティ! 来ちゃ駄目ぇぇぇぇ!!!!!」




()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



それは紛れもなく、異界を起源とする者の証。



収束する蒼白い光は、厄災の前触れ。



「え…姫歌ちゃん!?」


「姫歌っっ!?」


何が起ころうとしているのか、メルティと戒理が気が付いた時には、既に手遅れで。


少女に収束する光は、臨界点に達しようとしていた。




「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」



悲痛な嗚咽を漏らし続ける少女。


何を思ったか、姫歌は彼女を()()()()()()()()()


まるで、一人にはしないとでも言うように。


だが、それは叶わなかった。




ダァンッッ……と、頭上から響いた一発の銃声が、光の収束を強制的に終わらせたからだ。





「え……?」





姫歌の目の前で、抱きしめようとした少女が、崩れる様に地面へ倒れ込んだ。


収束していた光は霧散し、辺りには、痛いほどの静寂だけが残った。





「こいつの処分は軍で預かる」





膝を突き、呆然とする姫歌の前に降り立ったのは、白髪を揺らす少年。


その手には、先日見た物とは異なる、常識的な大きさの()()が握られていた。




「星……アンタが、この子を撃ったの?」




聞くまでも無い問いだった。……けれど、血を流し倒れる少女の姿が、姫歌の口から責めるようなその言葉を引きずり出させた。


「ああ」


「っ……」


星は言い訳する素振りすら見せず、真っ直ぐに姫歌の方を見て頷いた。


理由なんて分かり切っている。現界直前のアルミリスを止める方法なんて、()()()()()()のだから。


そしてそれは、彼等軍人の義務だ。この街の平和は、そうして保たれている。


けれど、頭が理解している理屈に、感情が追い付かない。




どうして、もっと早く来てくれなかったの?


アンタなら私より早くこの子がアルミリスだって気付いて対処出来たんじゃ無いの?


せめてお前達を助ける為だったとか言ってよ。


本当にこの子を救う方法は無かったの?






「っ……ごめん。手間、かけさせたわね」






口から溢れそうになる理不尽な言葉をどうにか飲み込んで、姫歌は頭を下げた。


分かっているのだ。彼に手を下させたのは、自分の弱さが原因だと。


目の前の少女を救えた可能性が最も高かったのは、他ならぬ自分自身だと。


「姫歌……。そうだね。真白、僕からもお礼を言わせてくれ。危うく姫歌を現界に巻き込むところだった。君が来なければ、きっと間に合わなかったよ」


「俺は自分の仕事をしただけだ。謝罪も礼も必要無い。そんな事より、黒守戒理。お前は、彼女の守護者(ガーディアン)では無いのか? ……上っ面の正義感で、()()()()を間違えるな」


駆け寄って礼を口にした戒理に、星は淡々と痛烈な批判を返した。


「それはっ……いや、君の言う通りだ。すまない」


「なっ、待ちなさいよ!? 戒理は私の命令に従っただけよ! それに関してアンタに文句言われる筋合いは無いでしょう!?」


「命令を聞くだけならそれは守護者(ガーディアン)では無くただの従者だろう」


「違う! 私が言いたいのはっ……」




「お取り込み中申し訳ありませんが、失礼してもよろしいですか?」




激昂する姫歌の背後から、殺伐とした場に違和感をもたらす、やけに朗らかな声が響いた。


「バード・オーシャン大佐。何故ここに?」


「は? た、大佐?」


裕に二メートルは越えているであろう長身、足元まで伸びる蒼みがかった長髪、そして異様なまでに整った顔立ちと、そこに立っているだけで圧倒される容姿に加え、()()と言う紛う事なき大物の肩書き。


そんな存在がいきなり現れた事もそうだが、この状況に眉一つ動かさず対応している星にも、姫歌は信じられない物を見るような目を向けた。


「おはようございます。真白くん。実は、昨日の会議で話のあった街警の方との合同小隊について、早速試験的に運用してみようという事になりまして。近くを巡回していた所、何やら()()()()()を察知し、駆け付けた次第です。もっとも、余計なお世話だったようですが」


上官相手に、礼儀知らずと言われても仕方のない星の単刀直入な物言いに、オーシャンは少しも不快な様子を見せず、寧ろ申し訳なさそうに苦笑する。


「大佐自ら、試験運用に参加していると?」


「ええ。我々アルミリスを参加させると言い出したのは私ですから。及ばすながら、先陣を切らせて頂きました」


「……それで、不要と分かった上で、わざわざ声を掛けて来た理由は?」


「おい! 貴様、大佐がお優しいのを良い事にズケズケと、学生の分際で何様のつもりだ!?」


と、そこで堪らずといった風に後ろで控えていたオーシャンの部下が声を荒げた。


確かに今の星は軍服では無く官学の制服に袖を通しており、年齢以上に幼く見える容姿も相まって、どう見ても学生だ。


……もっとも、実情を鑑みれば、今まさに声を荒げている彼もまた無礼を働いている事になるのだが。その証拠に、星が中佐だという事を知る姫歌達学生組三人は頬を引き攣らせている。


「こらこら。相手が学生だと弁えているなら、我々軍人こそ()()()()()()()()()()()()()ですよ。そうですよね? ()()()()?」


「……」


その言葉は、確かに市民を守る軍人の在り方を部下に諭す物ではあったが、何処か先程まで戒理を責めていた、星の言動を諌める物にも聞こえた。


「真白、中佐……? その名前、何処かで…」


「おい馬鹿! あの白髪見て気付かなかったのか!? 白い悪夢、い、いや、第七の隊長、真白星中佐殿だよ!」


「え!? い、いや、だがどう見ても学生の格好を…」


「一年ちょっと前同じ作戦に参加して見た事あるから間違いねーよ! あの戦いぶりは今思い出しても背筋が冷える……。良いから早く謝れ!! 殺されるぞ!? 真白中佐! 同僚が申し訳ありませんでした!! この通り、どうかこの馬鹿の命だけはっ!!」


「も、申し訳ありません!! 中佐殿とは露知らず、大変失礼致しました!!」


真っ赤に燃えていた顔を、霜が降りた様に青を通り越して真っ白に脱色したオーシャンの部下と、その同僚らしき隊員は揃って地面に額をぶつける勢いで頭を下げた。


……何気に同僚の方が星に対してかなり失礼な印象を抱いている、と言うか口にしてしまっているが、本人は相変わらず無表情で気にしている様には見えない。


寧ろ、姫歌の方が「通り名と言い、この怯えられっぷりと言い、アンタほんと何したのよ……?」と言いだけな呆れ顔を見せていた。


「あの事件は本当に凄惨でしたから……現場に真白くんが居てくれて、本当に助かりました」


「過去の話なんてどうでも良い。それより、用件を聞こうか」


しみじみと感慨に耽るようなオーシャンの言葉をバッサリ切り捨てる星に、姫歌達学生組は「こいつマジか……」とでも言いだけな視線を、オーシャンの部下や街警隊員達は「これが歴代最速で中佐に昇格した者の豪胆さか…」みたいな驚愕の視線を向けていた。


明らかに無礼な対応をされているオーシャン本人に全く気にしている様子が見られ無い為、それはそれでかなり異常だが。


「いえいえ、用件と言うほど大した事では。皆さんはこれから登校されるでしょう? なので、そこに倒れている者達の()()をこちらで引き受けようと思ったまでです」


確かに、星も含めここに居る四人は登校途中だ。


丁度捜査のため巡回していたオーシャン達がこの場の後始末をするというのは、至極合理的で真っ当な提案である……のだが、意外にも、()()()()()()、星は難色を示す。


「この子供の()()は第七で引き受ける。それ以外は好きにしろ」


星はそう言うと、制服が汚れるのにも構わず、足下に倒れているアルミリスの少女を抱き上げた。


その余りに意外な行動に、オーシャン達小隊の者だけでなく、姫歌達学生組も大きく目を見張った。


「アンタ、どういうつもり? ……まさか、自分の手柄を確保したいからって、わざわざその子の遺体を持ち帰るって訳じゃ無いわよね?」


「……」


星はオーシャンから視線を切らず沈黙し、姫歌の問いには答えない。


「おやおや。真白くんに限って、()()()()()という事は無いのでしょうが、大佐として、第七が取るその後の対応如何では、抗議せざるを得ません。……理由を聞いても?」


オーシャンの声音も表情も朗らかなままだが、その言葉は明らかに今までのそれとは違う、歴戦の軍人幹部たる迫力を伴っていた。


その場に居る殆どの者達は呑まれ、無意識に身体を(こわば)らせる。


だが、それでも星は、相変わらずの眉一つ動かさない無表情を貫き、淡々と言葉を返した。


「中佐としての権限の範囲内でそう判断を下したまでだ。大佐が相手だろうが、思考過程を一々説明する義務は無い。……が、納得出来ないと言うなら、今後への()()として必要、とだけ言っておく」


「先日の虎型A級アルミリスと同様、ラボへの献上品という事ですか?」


「想像は勝手にすれば良い」


上官相手である事が信じられない、にべもない物言いだが、オーシャンは僅かに瞑目だけして、コクりと頷いた。


「分かりました。特に被害も出ていないようですし、これ以上の追求はワタクシの方が越権行為で叱られてしまいます。その子については第七にお任せしましょう。ですが、学校はどうするのですか?」


「問題無い。……()()()()


「はいよっと。ったく、隊長殿は朝っぱらから人使いが荒いったらねぇや」


「「「っっっ!?」」」


音も無くいきなり現れた長身、無精髭の男の姿に、星とオーシャン以外が目を剥いた。


「やはり、監視役が居たか」


星が視線を向けたのは、襟首を掴まれ暁に引き摺られている、痩せぎすな男。

見た目だけで判断するのは余り褒められた物では無いが、落ち窪んだ眼窩や不健康そうな肌色は、薬物中毒者を思わせる。


「ああ。思ったより離れたとこに居やがったから、ここまで引き摺って来るのは結構手間だったんだぜ?」


「なら、そいつは使い捨てのこいつらより、マシな情報を持っているだろう。捜査中のオーシャン大佐に引き渡しておけ」


「……へいへい。ったく、一言くらい労いの言葉とか無いもんかねぇ?」


ぼそぼそと文句を言いながらも、暁は小隊に監視役の男を引き渡す。


「代わりにこいつを第七の隊舎に運んでくれ。念の為、()()()()()()()()()()()()()()()()寝かせておけ」


「あいよ」



「っ!? ちょっ、待ってよ! もしかして、その子……」


消散拘束具とは、アルマギアの収束を阻害し、アルミリスに現界させない為の化学合金で造られた拘束具の事だ。


―余談だが、過去に一時、全てのアルミリスに首輪の様な形で消散拘束具を付けさせる事を義務化する法案が持ち上がった。だが、共生する上での対等な()()の尊重や、過激な共生派の反発を危惧して取り下げられた。―


上記に加えて、輸血という決定的なワード。


翳っていた輝きが、姫歌の瞳に戻る。


「そっか! ()()()なら()()()()()()、意識を奪えば止められるんだ……でも、どうして?」


「……()()()()致死量の血を流している。必要な処置を指示したまでだ」


星の言葉で確信し、姫歌は改めて、暁の腕に預けられた少女を見やる。……すると、その胸は弱々しくも呼吸の膨らみで上下していた。


冷静になってその姿に目を向ければ、紅く血が滲んでいるのは肩口から脇にかけて。弾丸は急所を外して通過していた。


「良かったっ……本当に、良かった」


「姫歌ちゃん……」


涙ぐむ姫歌の肩を、同じく涙を滲ませながらメルティが優しくさする。


「真白、君は……」


少女の命が助かる事を喜ぶ二人の側で、戒理は戸惑いを隠せず、星に声をかける。


だが、続く言葉が出て来ず、結局、下手くそな愛想笑いの様な曖昧な顔で「いや、何でも無い」と首を振った。




その後、メルティから連絡を受けた應二が手配した街警隊員達に事情を説明し、星を含めた姫歌達学生組四人は、特別に街警の専用車で官学まで登校した。


……少女を抱えた為に、血塗れとなった制服のまま車を降りた星が、事情を聞いて校門で待っていた教員に慌てて止められたのだが、彼の中佐という立場故に恐縮してあわあわしながら制服を着替えさせようとするものだから、サイズが合わない物や訓練着を間違えて着せようとしたりなど、てんやわんやとなった。


あまりの惨状に見るに見かねた姫歌が、「何してんのよ……ほら、じっとしてなさい」と、教員達を押し退けて手早く星の着替えを手伝い、「姫歌ちゃん、なんだか奥さんみたい……」と、やけに手慣れた様子の姫歌にメルティが素直な感想を漏らして、「は!? はああああっ!? な、何言ってんのよ!? て、てか、私がコイツの奥さんとか、あり得ないし!?」


……などと、ツンデレヒロインのテンプレの様な台詞を大声で叫んで周囲から生温かい視線を頂戴したりと、朝っぱらから混沌(カオス)な状況が発生した事は、暫く校内で尾鰭に背鰭にその他諸々色々付いて噂となった。




……尚、真面目に始業30分前に登校していた心那が、後からその噂を耳にして瞳孔の収縮した真っ黒な瞳で一日中姫歌を凝視していたせいで、教室内の空気が鉛の様に重かった。


クラスメイト達には、一種のトラウマが植え付けられたことだろう。





お読み頂き感謝の極み。

今回は久々に19時投稿出来ました。


次話は明日投稿します。


ご意見、ご感想お待ちしております。

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