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幸せな悪夢


黒守(くろもり)戒理(かいり)は、よく夢を見る。


言うまでも無いだろうが、夢と言っても将来の展望では無く、寝ている間に見る夢の方だ。


大半が機械で構成された彼の肉体に於いて、普通の人間と同じ代謝活動が行われない以上、それが他者の見るそれと同じかは不明だが、寝ている間にここでは無い別の場所……彼の場合、『過去』を見ると言う点では、近い物と言って良い。




『決めたわ! この子にする! ねぇ貴方? 今日から私の守護者(ガーディアン)にならない?』




その夢に決まって登場するのは、キラキラした瞳で自分を見つめる、黒髪の美しい少女。


『お、お嬢様……その者は、確かに我らと同じ黒守の血を引いておりますが、()()の烙印を押された不良品にございます。どうか、ご再考を』


老年の執事に似た格好をした男が、少女を(いさ)める。

けれど、少女は譲らなかった。




『嫌よ。だって、()()()()()()()()()()()()だもの』




少女の言葉に、男を含めその場に居た大人達は一斉に鼻白む。


そんな彼等の様子を気に留める事も無く、少女はウキウキと楽しげに言葉を紡ぐ。


『それに、歳も私と同じくらいでしょう? オジサンやオバサンばかりがずっと側に居るのはうんざりしてたの。絶対この子が良いわ!』


『……かしこまりました』


少女…と言うより、その家と主従関係にある大人達は、これ以上彼女の言葉に逆らうつもりは無いようで、渋々ながら頷く。


ますます機嫌を良くした少女は、満面の笑みで自分に手を差し伸べて来た。


『挨拶が遅れたわね。私は西院(さいいん)姫歌(ひめか)。今日からずっとずっと、よろしくね!』


『姫、様……?』


屈託無く笑うその笑顔が眩しくて、直視する事すら恐いと思ってしまった。


……けれど、どうしようも無く惹かれてしまう。産まれて初めて、自分に”期待“してくれた、この少女に。




『ねぇ、貴方の名前は?』





その問いに、自分は何と答えたのだろうか。




+*+*+*+




『おっはよーう!! お目覚め如何かなぁ?』






微睡みに浸る間すら無く、戒理の耳…正確には、耳の役割を果たす集音式情報処理インターフェイスに、()()()()()()()()その声が、今は酷く不快だった。


「っ……何の、嫌がらせだ」


『ひっどぉーい。ボクみたいな美少女から朝一番の挨拶を頂戴したら、童貞くんは皆喜び咽び泣くものでしょ??』


「そう言う事じゃ……いや、もう良い。あと、君は世の純潔を守り抜いている男子達に一度土下座した方が良いと思うよ」


『相変わらずボクには辛辣だねぇ〜。あの()()()にはゲロ甘な騎士(ナイト)気取りなのにさぁ』


「……僕は、彼女の守護者(ガーディアン)として相応しくあろうとしているだけだ。この身体をくれた君には感謝してるけど、正直、恨んでもいる」


戒理は自身の複雑な心情から目を逸らす様に、カーテンを開けて朝日を部屋に迎え入れた。

優しくも眩しい太陽は、夢に出てきた少女の笑顔を思い起こさせる。

……機械の身体で戒理が寄り添う様になった、今はもう、見せてはくれないが。




『相応しく、ねぇ……ホントにそうかな?』




砂糖の代わりに悪意を煮込んで注いだ様な、ドロリとした甘いその声音に、戒理は震える筈のない機械の身体をかき抱く。


「っ!」


『ボクからすれば疑問でしか無いんだよねぇ。ホントにあの子の事を護りたいって思ってるなら、どうしてあの時君は、()()()()()()()()の?』

 

「それは、他に選択肢が無かったから……」


『違うね。君は怖がったんだ。いや、怯えて逃げたって言った方が正しいのかな』


「……もう良い。彼女を迎えに行く時間だ。通信を切ってくれ」


『そうそう。君が選んだのはそうやって、彼女の側に居ること。()()()()()()()()()()()


「黙ってくれ…」


『ボクは選択肢を与えた。……でも君は、()()()()()()()()じゃなく、()()()()()()()()()()()を選んだ』


「っ……」


金属で出来た拳が軋むほど強く、戒理は掌を握り締めた。……もっとも、肉体そのものを声の主に管理されている彼に、それ以上の自傷行為は出来ないのだが。


だからこそ、彼女は絶対的優位な場所から徹底的に彼を(おとし)め、追い詰める。



『その証拠に、君、この前の事件で()()()()()()()()()()()()()? 良いのかい? ()()()()()()()()()




「黙れっっっ!!」




それは拒絶であれど命令の様な強さは無く、ただただ自身の弱さを呪う血を吐く様な慟哭。


「……くそっ」


その悲痛な声が届いたのか、はたまた彼を(なぶ)るのに飽きただけか、いつの間にか通信は切れていた。


「はぁ………」


彼は深い溜め息を一つ吐き、自ら瞳を焼く様に太陽を睨む。






「護るさ。今度こそ……もう二度と、彼女を生贄になんてさせない」





字面だけならそれは、紛れも無い決意の言葉。



されど、響く声音は脆さを隠せず、願いの色が酷く滲んでいた。





お読み頂き感謝の極み

次話は明日投稿します。


ご意見、ご感想お待ちしております。

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