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緊急会議


「隊長殿、本当に良いのかよ? 俺もついて行かなくて」


「ああ。いつまでも暁に頼ってはいられない。それに、お前が居ると他の幹部連中に舐められる」


第七執行部隊の執務室で、先日のテロ事件について報告書を纏め終えた星は、会議に参加するに当たっていつも現場に着ていく隊服では無く、佐官用の()()に袖を通す。


黒を基調としたフォーマルな作りで、所々銀で造られた装飾があしらわれており、襟元まで徽章が彫られたボタンで留める造りは、品がありながも軍服らしい無骨さを残していた。


そして胸元には、漢数字の”七“をデフォルメした大ぶりのバッヂと、階級を表す金糸の星の刺繍が二つ並んでいる。(念の為補足すると、少佐で星一つ、中佐で二つ、大佐で三つと言った塩梅だ)


そんな普段とは違う姿の彼に、ソファーで煙草(たばこ)を吹かしながら(くつろ)いでいた暁は、どこか心配気な視線を向ける。


「分かってると思うが、俺を含め隊の連中の事で何か言われても、キレんなよ。いくら出世欲が無いっつっても、お前さんの事を気に食わない連中は多い。どうにかして足引っ張ろうとする馬鹿が湧くのは目に見えてる」


「……善処する」


「約束しろ」


「限度がある」


「あのなぁ……」


どうした物かと頭をぼりぼり掻く暁。


それを見て、星は何を思ったのか、デスクの上に無造作に置かれていたリボルバーを一丁手に取る。


「……さっき、ベルベット将軍にも叱責された。()()()()()()()()()()()、と。正直、失念していた。自分が未熟な事は重々承知の上だが、その未熟な俺を見て育つ奴らの今だげじゃなく()()に、どう責任を取れば良いのか……俺にはまだ、分からないんだ。だから、せめて名誉や尊厳、そして何よりも命だけは絶対に誰にも奪わせない。そう誓ったつもりだったが………それだけじゃ、足りないんだな」


「星……」


「やはり、俺にはまだ隊長は荷が重かった。だが、一度背負った以上、放り出すつもりは無い。我慢にも限度はある……が、お前らに迷惑をかける様な選択はしないよう、心掛ける。……………出来るだけ」


「っ、お、おう……? う(あち)っ!?」


相変わらず感情表現に乏しい、どこまでも平坦な口調。


それでも、弱音どころか自分の心情を吐露する事自体、皆無と言っても過言では無い星が、自虐や誓いの言葉を漏らした。

余りに珍しいその姿に、暁は思わず咥えていた煙草を襟元に落としてしまう。


だが、そこでふと思い出す。

目の前の少年が、自分の上官になる以前、まだ新兵だった頃の事を。


今以上に無口で、他者との交流など一切しようとしない可愛げの無い子供(ガキ)。最初の印象はそれだけだった。


軍人は訳ありが多い。子供が正規の隊員になる例は決して多くは無いが、能力があると認められれば入隊を拒まれる事は無い。


……それでも、()()()()()()()義務教育すら終えていない年頃の少年が、自分の命を一切顧みない戦い方をしているのは、嫌でも目に付く。


表情一つ変えない物の、その在り方は酷く危うくて……どこか自罰的に見えた。


命を賭けなければ、生きている事すら赦されない。まるで、自分自信をそう責め立てているように、暁の目には映った。


放ってはおけない。

正義感なんてとっくの昔に摩耗して消え去ったと思っていたのに、気が付けば彼は、星の面倒を見るようになっていた。


そして、立場が変わった今でも、それは変わらない。


「愚痴を聞かせて悪かった。そろそろ行く」


コトリ…と、リボルバーをデスクの上に戻し、星は執務室を後にしようとする。


「……あ〜おい、ちょっと待て」


が、そこで暁は思わず彼を呼び止めた。


「まあ、その……あんま気張り過ぎんなよ。今日は豪塚のジジイや将軍閣下も居るんだろ? あの二人は何だかんだでお前の事気に入ってるからな。面倒な奴に絡まれたら、丸投げしちまえ」


「……ああ。使える物は使わせて貰う」


わざわざ振り向きこそしなかったが、星は軽く頷いて、再び歩み出す。


その小さな背中が自動扉の向こうに消えても、暫く暁は、ぼうっと扉を眺めていた。


「……そういや、昨日の任務中もいつもに比べりゃよく喋ってたな。今更学校なんざ行かされて、どうなる事かと思ったが……ま、あの調子なら少しは青春謳歌出来るかね」


そう一人ごちると、彼は二本目の煙草に火を着け、「ふぅ〜……」と紫煙を吐き出す。


その瞳には、先程の言葉とは裏腹に、憂いの色が滲んでいた。



+*+*+*+



本部基地の()()()設けられた幹部用会議室には、既に殆どの幹部達が集まっていた。


コの字型のテーブルを囲む様にズラりと並んで待機しているのは、普段なら部下を待たせる側である大佐と中佐、総勢十五名。


そんな彼等が椅子に座りもせず直立不動で待機している理由は、言うまでも無いだろう。


「待たせたな。急な招集に応じてくれた事に礼を言う。まあ掛けてくれ」


会議室に現れたベルベットは、誰よりも早く椅子に座り、軽い調子で着席を促す。

すると示し合わせた様に、幹部達は一分のずれもなく揃って敬礼し、キビキビと席に着いた。


「さて。諸君らに集まって貰った理由は他でも無い。ここ最近頻発していた政府の要人を狙う暗殺事件が、テロにまで発展した件だ。昨日の第三庁舎襲撃を受け、正式に街警から軍に協力要請が降りた。既に諸君らの元にもある程度情報が届いている事だろうが、先ずは、改めて認識を共有したい。第七執行部隊隊長、真白中佐。前へ」


「はっ」


ベルベットに呼ばれて、星は彼女の正面、コの字型のテーブルに囲まれたスペースの中央へ歩み出る。


「報告を」


簡潔に告げられた命令に無言で敬礼のみ返し、星は自分の背後にある大型ディスプレイに表示された、黒尽くめの襲撃者と虎型アルミリスの情報を交え、昨夜の顛末を淡々と語る。


「………以上です」


「うむ。よく纏まっていた。ここまでで質問がある者は? 無ければ真白中佐には下がって貰うが」


満足気に頷いたベルベットは、組んだ手に顎を乗せて会議室を見渡す。


すると、奥の席に座る凛々しい面差しの青年が手を上げた。

黒髪短髪に、制服の上からでも分かる筋肉質な引き締まった体躯という、軍人のお手本の様な容姿だ。


「自分からよろしいでしょうか?」


「ああ。北方基地副司令、海燈中佐。発言を許そう」


「はっ!」


ピシリと空気を震わせて返事と共に敬礼したその青年―海燈聡(かいとう さとし)―は、律儀に立ち上がり、鋭い眼差しを星に向ける。


目付きの鋭さは生まれ付きだが、()()()()()()()()が、見る者達によってその視線に意味を持たせる。


「真白中佐。事件の処理について、幾つか疑問点を上げさせて欲しい」


「ああ」


「まず、テロリストを早々に処分した件について。独立政府からの勅命(ちょくめい)だったとは言え、執行部隊の隊長格には現場での裁量権が委ねられている。今後の対策に於いて、有益な情報が引き出せるとは考えなかったのか?」


それは現場で戒理が星を止めようと口にした言葉と、同じ内容の質問だった。

だが、ニュアンスは大きく異なる。明らかに彼を責める色合いが強い。


……その証拠に、一部の将校がニヤニヤと愉快気に頬を歪めている。


「生かす利益よりリスクの方が高いと判断した。それだけだ」


「具体的には?」


「奴は単独でA級のアルミリスを圧倒し、データに無い機鋼兵装(マギアーム)も複数有していた。無理に捕らえようと時間を掛ければ、被害の拡大や逃走を許す可能性が高いと判断した」


()()()()()()されている貴殿でも、か。なるほど」


「……」


明らかに含みを持たせた言い回しだが、一応の納得を見せた海燈は、すぐに次の質問という名の糾弾を口にする。


「では、そのA級、虎型アルミリスについては何故処分に時間をかけ、尚且つ結局捕縛という判断をした? テロリストを処分した判断と矛盾するのでは?」


「報告を聞いていなかったのか? 庁舎の避難状況を鑑みて、兵器の使用、及び俺の兵装を解放するまで猶予を設ける必要があった。最終的に捕縛する事になったのは、ラボから要請があったからだ」


「ラボの要請、と言うと、また()()()()殿()()? 確かに我々はラボが生み出した機鋼兵装(マギアーム)のお陰でアルミリスと対等に戦えているが、軍に対する命令権まで与えてはいない。ましてや中佐の判断に意見する権利など、軍の幹部と独立政府上層部にしか無い筈だ。……それとも、()()に協力する事で、貴殿に何か見返りでもあるのか?」


「何が言いたいのか知らんが、ラボの研究に役立つなら十分な利益と判断したまでだ。捕縛の段階では抵抗の余地など与えないほど内包アルマギアを削ぎ落としていた。俺が常時監視できる体制で拘束した以上、何の問題も無い」


「……この際だからはっきり言わせて貰うが、室長殿と真白中佐が()()()()()という話は、方々から耳にしている。個人的な関係を任務に持ち込み、外部組織に便宜を図っていると言うなら、正式な軍法会議で処断が必要だ」


「「「おおっ…!」」」


今度は真正面から星の行動を糾弾した海燈の言葉に、会議室は騒めきを見せる。

……もっとも、声を上げたのは星に対して批判的な者ばかりで、豪塚やベルベットは呆れたと言わんばかりに肩をすくめただけだ。


「根も歯もない噂話を理由に軍法会議を開くと言うなら好きにしろ。俺は彼女に、()()()()実験動物(モルモット)として重宝されているだけだ。そして、その実験の結果生まれた兵装が俺と第七の力になる。だから俺の采配で可能な限り要望を叶える。それだけだ」


感情的になるでも無く、淡々と言葉を返す星の方を睨みながら、海燈は更に言葉を募ろうとする。


「その言葉は、貴殿と第七執行部隊がラボと癒着関係にあるという何よりの証左では…」


「そこまでにしたまえ。海燈中佐。私が許可したのは議論を円滑にするための質問のみであって、個人的な糾弾では無い。仮にも北方基地副司令を任されている君が、会議の主旨を履き違えるな。弾劾裁判をする為に、私がこの場を設けたとでも?」


「……いえ。その様な認識はありません。ただ、自分はもっと適切な判断が出来たのではと、愚考したまでです」


「真白中佐の判断は君が先程口にした、()()()()()()()の範疇にある。そして、あの場に第七執行部隊の派遣を決めたのはこの私だ。文句があるなら私が聞く。ただし、会議が終わった後でだ」


「……承知しました。会議を滞らせ、申し訳ありませんでした」


表情こそ眉間に皺を寄せたままだが、海燈は潔く頭を下げた。


「うむ。では他に、質問がある者は? 分かっていると思うが、議論の為に必要な質問だ。これ以上私に、余計な手間を取らせてくれるなよ?」


「「「っ……」」」


決して凄んだ訳では無いが、どこか重みを増したように聞こえるベルベットの言葉を受け、それ以上無意味な質問を口にする者は現れなかった。


海燈の容赦無い糾弾で、他の者達もある程度溜飲が下がったと言うのは大いにあるだろう。

星自身は痛くも痒くも無いと言わんばかりの平然とした様子だが、将軍の前で外部組織、それも女性との癒着を仄めかしたのだ。嫌がらせには十分すぎると言って良い。


「……特に無いようだな。真白中佐。下がりたまえ」


ベルベットの許しを得た星は、無言で敬礼し自席へと戻る。


「さて、では議論を始めよう。今の報告にあった通り、テロリストと虎型アルミリスは敵対関係にある事から、別組織の刺客と見て間違い無いだろう。もちろん我々の目を欺くための偽装という可能性も捨て切れないが、分からない事を考えても仕方が無い。まずはそれぞれに対策を講じるべきだ」


「ワシから良いか?」


「南方基地司令、豪塚大佐。発言を許す」


「面倒な()()があるせいで、基本ワシらは事が起こってからしか動けん。対策と言っても、せいぜい街警と共同で警備を強化するぐらいが関の山だ。テロリストが離生派の犬だとすれば、こっちの事情は筒抜け。必ずそこに漬け込んで来る」


独立政府統括連合軍は、緊急の事態を除き、政府からの要請無しで行える作戦行動には制限が設けられている。


理由は幾つかあるが、その最たる物は二つ。


一つは、彼らの有する戦力が大き過ぎること。

星の兵装解放一つ例に取って見ても分かるように、一部とは言え個人単位ですらあれだけの力を有している。


加えて、アルマギアからの再侵攻という万が一の可能性に備え、数多の兵器を保持している事から、一組織の采配に委ねるのは危険という事だ。この辺りは、一般的な軍隊と同様だろう。


そしてもう一つは、一言で言えば()()だ。


戦後間も無い頃、一部の軍人による、冤罪を理由にした粛清……と言う名のアルミリスへの暴行、虐殺が相次いだ。


主な理由は言うまでもなく怨恨による復讐。相手が自身の大切な者を奪った本人かどうかなど関係無く、己が憎しみの吐口としたのだ。


……もっとも、戦時中の殺戮で芽生えた快楽や高揚感を忘れられず、復讐を口実にして暴れていた者も少なからず居たようだが、その殆どは治安の悪化を危惧した政府の工作により隠蔽されている。


以上の理由から、軍は独立政府により厳重に管理されているのだ。


だが、平和の為に敷かれた管理体制に縛られ、肝心な時に動けないと言う本末転倒な事態も必然的に発生する。


「正に昨日の襲撃が良い例だな。最初から完全武装の執行部隊が警備していれば、あれほど被害は出なかっただろう。幸い、あの場には()()()()()()が派遣されていた為、結果的に人的被害はほぼ無くなったが、規模だけ見れば少なくとも三桁は死んでいる」


「ふん。街警の……と言うより、西院應ニの面目躍如と言うところか。あの小僧はイケ好かんが、今回ばかりは救われたな」


「我々の立場上、あまり街警に幅を効かせられても困り物だが、彼とその妹、そして……人型機鋼兵マギクレス試作機第一号、黒守戒理は、本作戦に於いて有効活用するべきだろう」


ベルベットの意見に、幾人かの将校が憮然とした表情を見せる。


「発言よろしいか? 将軍殿」


その中でも、不機嫌そうな態度を露骨に顔に出していた金髪碧眼の男性将校が真っ先に手を上げた。


歳は初老といった所で、その高い鼻に掛けられた細眼鏡と声音の印象は如何にも生真面目な印象だが、皺の寄せられた眉間からは、神経質さも伺える。


「東方基地司令、()()・S・ランドック大佐。発言を許そう」


「……フルネームで呼ぶのはやめて頂きたいと何度も申し上げた筈ですが?」


「公式の場だ。仕方がない」


「私以外はファミリーネームだけで呼んでいたでは無いか!!」


さも当然だと言わんばかりのベルベットの返答に、ラングドック大佐は思わずタメ口で声を荒げる。


彼の見た目は完全に西洋の血が100%なのだが、実はクォーターで、祖母が東洋人だ。

父がハーフで、母は西洋人の血を継いでいる。その為東洋の血は薄いのだが、名前は祖母の意向が反映された為、見た目とかなりギャップが出てしまったのだ。


彼自身、決して智和(ともかず)と言う名を嫌っている訳では無い。

……ただ、今しがたのベルベットの様に、明らかに”イジリ“目的でわざとらしくフルネーム呼びする者が幼少期から絶えなかったせいで、過敏に反応するようになってしまったのだ。お気の毒に。


余談だが、C(ケイオス).E(イースト).C(シティ)では彼の様な人種的な意味での混血が多い。


現在の軍の前身となった、当時の対アルマ連合軍に所属していた者の殆どがそのまま残留した事や、アルマギアと言う新たなエネルギー資源を求めた世界各国の企業が戦後すぐに支部を建て、人員を派遣した事が主な理由だ。


閑話休題(それはさておき)


「すまんな。某機動戦士のパイロットみたいでカッコイイから、ついつい呼びたくなってしまうのだよ」


「俺は、ガ○ダムじゃ無い!!」


「ワシら世代の永遠の憧れだからのう〜ワシは初代派だが。いっそラボに頼んで対大型アルミリス用に造って貰えんか?」


「それが緊急会議で議論する事か!? と言うかいい加減私の意見を言わせろ!!」


まるでトランザ○しているみたいに真っ赤になりながら激昂するラングドックに、ベルベットと豪塚は示し合わせたかのごとく絶妙に腹の立つ表情で肩を竦める。


「っ……と、取り乱して申し訳ない。()()()()会議に参加している諸君。改めて、私は街警との共同作戦に基本的には()()のスタンスだ。彼等と我々では、そもそも役割が違う。何より、現場に彼等が居ればどうあっても足手纏いになるとしか思えん。……とは言え、政府の要請である以上断る訳にもいかん。故に私は、完全な”分業体制“での作戦参加を望む」


話初めこそ青筋をぴくぴくさせながらどうにか怒りを抑え込んでいたラングドックだが、後半は理路整然と自身の意見を述べた。


それに対して他の面々の反応は、五割が頷き、三割は難しそうな表情、残りの二割は星を初め、特に反応を見せ無い者、と言った塩梅だ。


「つまり、警備や有事の際は我々軍が対応し、捜査や避難誘導を街警に任せる、という事か?」


「大まかに言えば、その通りです」


「だがそれでは、今までのやり方と大差無いだろう。特に今回の相手はかなり厄介な上、まだ全容どころか影も形も捉えていない。事が起こる前に防ぐ為には、街警とのより密な連携が必要だ」


「逆に問いますが、将軍の仰る『今までのやり方』が合理的で有効だからこそ、街警が組織されてから数十年、同じ体制が維持されて来たのでは? 本作戦に限り、縄張り争いや情報の握り込みさえ厳重に取り締まれば、それで済む話でしょう。テロリストが相手とあらば、完全武装での警備や巡回の許可も降りるはずです。 ……実際問題、我々の力は彼等の判断に委ねるには大き過ぎる」


そこでラングドックは、星の方へと視線を向けた。

……因みに彼は、星を中佐に昇格させる事に最後まで反対していた筆頭だ。星が隊長になって以降、未だに第七執行部隊が東方基地の管轄で作戦行動を取れないよう裏で手を回している。


「なるほど。お前の意見は分かった。念の為確認するが、それは東方基地の総意、という事で構わんな?」


「ええ」


ベルベットの確認に力強く頷いたラングドックに合わせるように、部下である東方支部の中佐二名も敬礼する。


「うむ。では、他に意見のある者は?」


「……それでは、うちからよろしおすか?」


すっ…と音もなく手を上げ、透き通る清流の様な柔らかな声を響かせたその女性は、楚々とした笑みを浮かべて立ち上がる。


腰まである艶やかな黒髪と、軍の制服でありながら楚々とした雰囲気を醸し出すその出立は、正に大和撫子。……姫歌も()姿()()()()()()()成長の後、彼女の様になりそうだが、残念ながら現状どちらが真の大和撫子かと言われれば………まあ、そういう事だ。


「西方基地司令、()()()()。発言を許す」


ベルベットがその女性をファミリーネームのみで呼んだ瞬間、ラングドックの額にビキッ!と青筋が浮かんだが、辛うじて口はつぐんでいた。

他の者達も、見ないふりをしている。…….豪塚を始め一部の者達は、後ろを向いてプルプルと笑いを噛み殺していたが、ラングドックはそちらも睨むだけに留めた。


「おおきに」


そんな彼等を気にした風も無く、はんなり、と言う表現が似合う優雅な仕草で一礼した彼女―能登亜美子(のと あみこ)大佐は、頬に手を添えて悩ましげな口調で自身の意見を口にする。


「うちは、街警はん等との協力自体はやぶさかやありまへん。必要なら、あちらさんの判断にある程度従っても、かまへんと思てます」


「ほう? ラングドック大佐とは正反対の意見だな」


「うちらのプライドより、市民の安全が第一。ラングドックはんかて、別に市民を軽んじてる訳や無いんでしょうけど……うちは、街警はんらの()()()()()()()()()を、利用せぇへん手は無いと思てんのどす」


「ふん……」


バチィッッ!! と、能登とラングドックの間に火花が散った様に、その場にいた者は皆錯覚した。


「確かに、彼等の強みは独立政府から許された行動の自由度にある。生殺与奪の裁量権と、フルスペックの機鋼兵装(マギアーム)を持てない代わりに、政府の指示に依存しない独立した命令権を保有する。……まったく、()()()()()()()()が、上手くやった物だ」


元々、街警は軍の下部組織的な位置付けだった。

軍では戦力とならない戦闘適正の低い入隊希望者の受け皿、或いは一線を退いた者の天下り先。


治安維持と言えば聞こえは良いが、街の巡回や、窃盗、食い逃げ、ストーカー被害と言った、所謂小規模犯罪の対応が主。どれも決して軽んじて良い訳では無いが、軍から見れば体の良い雑用係的な認識だった。


だが、西()()()()()()()により、彼等の立場は一変する。


旧家に生まれ、幼い頃から鍛え上げられたその政治手腕を遺憾無く発揮し、街警の有する権限を大幅に引き揚げたのだ。


具体的には、彼が保安課長に就任する以前では捜査権の無かった、大量殺人や人身売買など、凶悪犯罪の捜査、摘発も、街警単独で行う事が今では許されている。


その他にも、特定の隊員にだけ許されていた機鋼兵装マギアームの使用を、スペックダウンさせる事によって一般隊員にも可能とするなど、様々な待遇改善を施したのは彼の功績と言って他ならない。


もっとも、その裏に()()()()()()()()()とする権力者との交渉があった事は、軍の幹部クラスや政府上層部では暗黙とは言え周知の事実だ。


「うちはあのお兄はん嫌いじゃないどすよ? 才能にも容姿にも恵まれとる言うのに、あれだけなりふり構わず我を通すお人も珍しい。使える物は使うっちゅう考え方も共感出来ます」


「ワシは気に入らんな。街警に戦う力を持たす事自体は構わん。捜査権の拡大も好きにすれば良い。……が、それにより()()()()()()()()まで委ねられておる現状は納得いかん。奴らは生殺与奪の権利が無い事を逆手に取り、検挙された()()()()()()()アルミリスの殆どを罪状に関わらず拘留し、後から裁判で判決を待つ。実に人道的で結構なことだ。……だが、ワシら軍はよほど特殊な事情や、それこそ外部からの要請でもないかぎり、()()()()アルミリスを殺す()()がある。そのせいで、アルミリスと共生しとる一般市民からは、すっかり悪者扱いだ」


「私も、豪塚大佐の意見に同意です。街警の地位向上の為、西院應ニは明らかに我々軍を利用している。市民の安全第一を掲げるので有れば、より実行力のある軍の威信を削ぐような真似は矛盾しています。極端な話、我々が市民の協力を得られなくなれば、テロや災害が起きた時の被害は何倍にも増すのだから」


能登の意見に、豪塚とラングドックは真っ向から反発する。

他の者達もそれぞれに反応を見せているが、圧倒的に豪塚達側に同調する者の方が多い様だ。


「私も軍の代表としてあの男のやり方は気に食わんが、ひとまず文句は別の機会にして、本題に戻るぞ。能登大佐。具体的に、彼等のフットワークをどう利用する?」


ベルベットも自身が豪塚達寄りのスタンスである事は表明したものの、脇道に逸れた議論を軌道修正する。


「悪魔で案の一つやけど、街警さんらの捜査部隊にウチらの部下を少数精鋭で同行させてはどないですやろ? 勿論、面子は執行部隊の中から優秀な子を選抜して」


言いながら、能登は星の方へ首を傾け、妙に色気のある仕草で流し目を送る。


星自身は視線を返すだけで特に反応しなかったが、張本人である彼女の部下、中佐である男性士官二名は、親の仇を見るような視線を星にぶつけた。

……まあ、そちらには視線すら返さないのが、安定の星クオリティーなのだが。そもそも視線の理由を理解出来ているのかすら怪しい物である。


「少数とは言え、完全武装で、か?」


「ええ。お偉いさんのお命がかかってることですし、多分さっきラングドックはんが言うてたみたいに、あっさり許可も降りるんちゃいます? 街警の意向に沿って動くんやったら、うちらも支部同士で面倒くさい縄張り争いする必要も無いですやろ?」


「ふん。ついでに現場の実権をこっちで握って、手柄は部下を派遣した基地の物、という訳か。市民の安全第一が聞いて呆れる」


豪塚の指摘に、能登は眉一つ動かさずコクりと頷いて見せる。


「市民を守れて手柄も()()()になるんやったら、これ以上無い成果ですやろ? あんさんらが危惧しとる悪者扱いも、力不足な街警さんらが指咥えて見てる横で、星はんみたいな若い軍人が活躍すれば、少しは見る目も変わる。そう思わはりません?」


「女狐め。昔から姑息な策略を考えさせたら右に出る者ははおらんな」


「おおきに。ホホホ」


忌々しそうに吐き捨てる豪塚の言葉を、能登は余裕の微笑みで受け流す。


「良いのですか? 先程から貴方が露骨に贔屓している当の真白中佐は本部基地所属。どれだけ活躍しても、西方基地の点数稼ぎにはなりませんよ?」


先程の意趣返しとばかりに、今度はラングドックが眼鏡をクイッと直しながら噛み付く。


「あらあら、東の司令はんは随分と小さいこと言いはるんどすなぁ。星はんが活躍して軍全体の評判が上がるなら、それに越したことはありまへんやろ? 実際、ここ数年街警の方に取られっぱなしやった若い女の子たちが、星はんの人徳で軍の方にもまた戻ってきとるみたいやし」


「はっ!! そうだった!! 女狐よ。貴様はそのデカい胸以外イケ好かんが、坊主を活躍させるべきと言う点には激しく同意する。よって、この豪塚暁男、街警との共同作戦を支持しよう!!」


「黙れ」

「お黙りよし」


キリッと効果音がつきそうなほど真剣な顔付きで手のひらを返す豪塚に、衝突していたはずのラングドックと能登が間髪入れず同時に冷ややかな声を浴びせる。


「……まあ、そこのセクハラ筋肉達磨の意見は別として、悪くない案だと私も思う。当然、人選には注意を払う必要があるがな。さて、ここまで南、東、西の司令には意見を述べて貰った訳だが……北方基地司令、バード・オーシャン。ただ一人の()()()()の大佐として、貴様の意見も是非聞かせてくれ」


ベルベットの視線の先に、他の幹部達も一斉に顔を向ける。


「いやはや。急に注目されると恐縮してしまいますなぁ」


朗らかな声音でそう言うと、その男性はゆっくりと立ち上がった。


裕に二メートルは越えているであろう長身。その割に非常に細身な身体。

蒼みがかった長髪は足元近くまで伸びており、中央で分けられている。


……そして、額から鼻頭に掛け、()()()()()()()()()()()()


不自然なほど整った顔立ちだけに、その部分がやたらと浮いている。


「ご紹介に預かりました、北方基地司令、バード・オーシャンでございます。初めましての方は少ないですが、改めて、以後お見知り置きを」


異様なその容姿に反して、酷く腰の低い態度。それが逆に、彼の異質さを際立たせていた。


「さて、意見を述べる前に、一つだけ将軍閣下にお願いが」


「む? 何だ、言ってみろ」


「先程、()()()()と仰いましたが、ワタクシは軍にこの身を捧げております。例え出自こそ同じとて、過ちに手を染める者達と同類扱いは胸が痛む。何より寂しく存じます。長く戦場に身を置く皆さまが我々という存在に嫌悪感を抱くのは承知の上ですが、どうか言葉だけでも、同士として扱って頂きたい」


声を荒げるでも無く、ただただ懇願するその言葉に、ベルベットはバツが悪そうに頭を掻く。


「……ちっ、相変わらずやりにくい。この私と同士だとのたまうなら、皮肉に皮肉を返すくらいして見せろ」


「これはまた、一本取られましたな。はっはっはっ」


「はぁ……じゃあ言い方を変えるぞ。こちか側の友好的なアルミリスとして、今回の事態にどう街警と連携を取るべきだと考える?」


疲れた顔で問い直したベルベットに、オーシャンはコクリと一つ頷く。


「では、改めて。ワタクシは概ね能登大佐の意見に賛成でございます。……ただ、一つだけ申し上げるなら、捜査隊の中に一人はワタクシと同じアルミリスか、感覚の鋭敏な異能者(マギクス)の方を参加させるべきかと」


「ほう。それは、昨日の虎型アルミリスの様なゲリラ的現界の対策か?」


「如何にも。アルマギアの収束を探知するレーダーはございますが、多くの場合、探知してから現場に急行しても間に合いません。ですが、収束の更に手前、現界しようとするアルミリスが、アルマギア

に干渉する()()を感知する事が出来れば、可能性は有ります」


「なるほど。規模にもよるが、現界にかかる時間は約30秒。既に収束が始まっていればまず間に合わないが、付近を捜査していればギリギリ現界前に仕留めることが出来る、と言う訳だな」


「現界前と現界後では対処するリスクは段違い。なら、少数で対応出来る可能性を上げておくべきかと。幾ら精鋭を選抜すると言っても、皆が真白中佐の様に、現界後のA級アルミリスを単独撃破出来る訳ではありませんから」


オーシャンはそう言いながら、星に微笑みかける。……残念ながら彼は、ベルベットの方を向いたまま見向きもしなかったが。


「言いたい事は分かった。だがなぁ、ただでさえ異能者(マギクス)は少ない上、感覚が鋭敏かどうかなど何を基準に選抜すれば良いか分からん。……真白中佐、例えばお前はどうなんだ?」


水を向けられた星は、僅かな思案の後に口を開いた。


「……物理的な距離で正確な数字を出すにはデータが足りませんが、およそ半径五百メートル圏内なら感知出来ます。ただ、分かるのは方向と大まかな距離程度で、厳密な座標の特定には至りません」


「なるほど。では、お前の知る限り、自分より感知に長けた者は?」


「知りません。そもそも、基本的にはレーダーで座標が捕捉されてから、俺達は出動します。個人の感覚を宛にして動くのは、既に状況が開始された現場のみ。自分の部下に居れば把握していますが、それ以外は確認のしようがありません」


だよなぁ…とでも言いたげに頷いたベルベットは、そのまま視線をオーシャンに戻す。


「と、言うことだ。オーシャン大佐。結論から言えば、異能者(マギクス)の感覚は宛に出来ない。そうなると、頼るべきはアルミリスという事になるが、私が知る限り、少なくとも執行部隊には……と言うか、軍に居るアルミリスなんて、貴様を含めても一桁居るかどうかだろう? 実力も考慮となれば、現実的では無いぞ?」


アルミリスを殺す為に組織されたと言っても過言では無い、軍という組織に於いて、当然の現状だろう。


「ふむふむ。であれば、選択肢は一つ。街警の方々の中から候補者を募っては?」


オーシャンの提案に、ベルベットは露骨な渋面を見せる。


「……まあ、あっちにはそれなりの数は居るだろうが、ただでさえ平和主義のおめでたい連中だぞ? 同類を殺す手伝いをすると思うか?」


「平和主義だからこそ、市民の平和を守る為なら心を鬼して協力してくれるでしょう。……同士の為、数多(あまた)()()を手に掛けて来た、このワタクシの様に」


「……」


自分の胸に手を当てて、寂しげに微笑むオーシャンに、ベルベットは返す言葉を失う。


「昨日は幸運にも人的被害がありませんでしたが、本来A級アルミリスが街中に現界すれば、それだけで多くの市民が命を落とします。ワタクシの案を通せとは申しません。ですが、敵がまだ手駒を残している可能性がある以上、早急な対策は必要かと」


「………まあ、そこまで言うなら街警の方にも打診してやる。もっとも、混合の捜査隊を組むと言う案が実現すればの話だがな」


ベルベットはチラリとラングドックの方へ視線を向けるが、彼は黙したまま思案するように目を瞑っている。


「よし、一通り大佐連中の意見は聞けたな。中佐諸君はどうだ? 言っておくが、この中では階級が一番下だからと言って遠慮するなよ? 会議は議論する為にあるんだからな」


そう言って、鷹揚な仕草で会議室を見渡すベルベット。


……と、そこで手を挙げたのは、何かと話題には上るものの、自分からはまだ発言していない白髪の少年だった。


「真白中佐? 珍しいな。お前が自分から発言するのは」


「いえ、()()()()()……」


「「「……?」」」


無表情はいつも通りだが、珍しく言い淀むような間を空けた星は、自身の()()見る。


そこに座っていたのは、中肉中背でやや猫背気味、顔立ちも平凡で、特徴と言えば眼鏡を掛けていることくらいの何処にでも居そうな影の薄い中年男性だ。


……ただ、その胸元には()()()()が輝いている。


()()()()()が、まだ意見を言っていません」


「……………あ」


「「「……………」」」


『やっべぇ……』とでも漏らしそうな顔で、冷や汗を流すベルベットと、素知らぬ顔で見て見ぬフリをする幹部諸君。


「ま、真白君、僕は別に良いから。いつもの事だしね……は、ははっ」


「「「…………」」」


彼の乾いた笑みを見ていられないとばかりに、星以外の幹部たちは明後日の方に顔を背けた(ベルベットを含む)。


「……あ〜、その、すまなかった。本部基地司令、那珂多(なかた)大佐。今更だが、何か意見はあるか?」


「い、いえ、将軍。本当にお気になさらず。流石に意見があれば、自分から申し上げるつもりでしたから」


気まずげに謝るベルベットに、その男性―那珂多(なかた)(じょう)大佐は、逆にペコペコと恐縮している。


「忘れておいて何だが……大佐として言うことは、本当に何も無いのか?」


「……では強いて言うなら、皆さんうちの真白君にとても期待を寄せて頂いている様で嬉しいのですが、彼は今、この件とは別に街警、と言うより西院保安課長が政府を通した要請で、昼間は官学に登校しています。ですので、もちろん彼には主戦力として活躍して貰うつもりですが、余り()()()()()()()()()スケジュールを組んで頂きたいです」


「那珂多大佐、俺は別に……」


「真白君。先程の話にも出た様に、単独でA級を撃破出来る君は貴重であり希少な我が軍の戦力です。だからこそ、いざと言う時に()()してくれなくては困る。良いですね?」


那珂多は恐縮した愛想笑いそのままに……けれど、どこか有無を言わせぬ”圧“を纏った言葉で、そう釘を刺す。


「……分かりました」


「「「……?」」」


常なら上官であっても自身の意見を滅多に曲げない星が、一見頼りない那珂多の言葉にあっさりと折れた事で、会議室は何処か異様な空気に支配された。


「ああ、あれも今日からだったか。……そうだな。中佐と言う立場上あまり休ませてはやれんが、状況を見て善処しよう。その点については他の者も異議は無いな?」


「勿論どす」


「ええ、ワタクシも」


「私は初めから彼の力を宛にする気は無い」


能登、オーシャン、ラングドックの順に、異議なしと頷く。


中佐達は同じ階級とあってか、何処か納得いかない顔をしている者や、()()を星に向けている者もいる。


同階級の中で、『討伐率』に関しては星が群を抜いている。

そんな武闘派で通っている彼が、今更学生として学校に()()()()()という事実が、子供扱いを受けている様で面白いのか、ここぞとばかりに見下しているのだ。


……星は心那を連れて来なくて正解だった。

彼女はその手の嘲りを星に向ける事を絶対に許さない。例え相手が中佐とあっても、猛然と抗議しただろう。下手をすれば教室での一幕と同じ様に飛び蹴りをお見舞いしていたかもしれない。


もっとも、自分達が必死に見下しているその子供が、自分達より何倍も早く同じ地位まで上り詰めたと言う事実に変わりは無い。

仄暗い欲望を束の間満たしたところで、後から自身の承認欲求に喰われるのは、彼等の方だ。


それが良く分かっているからか、我知らず醜態を晒す部下達を、大佐達は咎めるでも無く放置している。


……で、それはそれとして、何故だか一人、ずっと黙りこくったまま俯き、よく見ればプルプルと震えている者が一人。


「ん? ……おい、豪塚大佐?」


それを不審に思ったベルベットは、ろくでもない予感がしつつも、一応問いかける。


「………何故」


「何故? ああ、一応名目としては、官学の生徒達により実戦向きな教育を受けさせる為と言う事だが……まあ、()()は恐らく」


()()()()はどうでも良いわっ!!」


「「「っ!?」」」


いきなり咆哮の様な大声を響かせた豪塚に、将軍を含め会議室に居た幹部達は総じて目を剥く。……殆ど無表情のままだが、星ですら咄嗟に身構えていた。



「坊主!! 貴様ぁ、どうして()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()っ!!??」



だっ、だっ、だっ………と、語尾が会議室に木霊する。



「はぁ………くだらん」


バッサリと切り捨てたベルベットの言葉が、会議室に居る豪塚以外全員の心情を表していた。


「敬意の有無以外に何があると?」


「尚更おかしいではないか!? 曲がりなりにも武闘派を名乗るなら、そんなヒョロヒョロ眼鏡より真っ先に敬意を表する相手はこのワシであろう!? 」


「別に自分で武闘派を名乗った覚えは無い」


「あはは……酷い言われようだなぁ」


淡々と応じる星の横で、から笑いを浮かべる那珂多の方を、誰も見ようとはしなかった。


「屁理屈捏ねるな!! 大体、まだ右も左も分からん新米(ぺーぺー)のガキだった頃に面倒見てやった恩を忘れたか!?」


「たまたま最初に配属されただけで、アンタからは軍規どころか機鋼兵装(マギアーム)の使い方すら教わった覚えは無いが?」


「そう言う細かい事では無い!! 軍人としての在り方や、任務に臨む姿勢を背中で教えてやったであろう!!」


「女性士官へのセクハラ、二日酔いで遅刻は当たり前、挙句の果てに事務処理は全て部下に丸投げ。……俺が南方支部で見たアンタの背中は大体そんな所だが、何を学び、どこを敬えと?」


「ぬぬっ!?……い、いや、それはほら、あれだ、昼行燈(ひるあんどん)という奴で、普段は戦場での雄々しい顔は隠していると言うか何と言うか……」


「「「(うわぁ………)」」」


声に出さずとも、南方支部以外に所属している中佐達の気持ちがハモった。


因みに、南方支部所属の中佐二人は視線で星に『良いぞ!! もっと言ってやれ!! この筋肉ダルマに自分の無能さを思い知らせろ!!』と、念じていた。先ほどまで星に向かって嘲笑を浮かべていたくせに、凄まじい掌返しである。


……が、彼らは鬼の形相で振り替えった上官の眼光に萎縮して、すぐさま縮こまった。


ギロり!! 「「ひいっっ!?」」


随分あっさりと戦場での顔を見せる昼行燈も居た物である。


「いい加減にしろ豪塚。議論の場だと何度言わせるつもりだ。それと真白も、この筋肉ダルマが単細胞なのはお前も良く知っているだろう。一々煽る様な事を言うな。キリが無くなる」


「どいつもコイツも、言いたい放題言いよって……」


「申し訳ありません」


ぶつくさ良いながら拗ねる豪塚と、素直に謝罪する星。どちらが上官か分かったものではない。


……もっとも、星が目上の者に物怖じしないのはいつもの事だが、ベルベットの言うように()()を口にする相手など限られている。


意識してか無意識でかは別として、豪塚に対してその程度に打ち解けている事は確かだろう。


まあ、だからと言って肝心の敬意があるかは不明だが。


「さて、馬鹿が黙った所で他に意見は? 無ければ一先ず、今回の会議の結論として、執行部隊と保安課の合同捜査隊を提案、及び捜査中の完全武装許可を要請、と言った所だが」


ベルベットは会議室を見渡し、最後に一人だけ街警との協力にハッキリ否と答えたラングドックに目を留める。


「……私は東方基地司令として意見を申しただけ。多数決を取るまでも無さそうですし、会議での決定とあらば、従うまでです」


生真面目な顔で毅然とそう言ったラングドックに、ベルベットは満足げに頷くと、キリリと表情を引き締めて声を張り上げた。




「では! 智和・S・ラングドック大佐の承諾も得た事だし、これにて緊急会議を」


「フルネームで呼ぶなと言っただろうがああああああああっ!!!」





……何とも言えない表情で、幹部達はそそくさと会議室を後にしたのだった。




お読み頂き感謝の極み。

またしても投稿時間がズレてしまい申し訳ない。計画性が欲しい。

いきなり新キャラ大量投入でごちゃついてしまったかもしれませんがご容赦を。


次話は明日投稿します。


ご意見、ご感想お待ちしております。

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