僕を捨てた幼馴染を救うためならば僕は何度でも命を捨てよう
僕の婚約者だった幼馴染が死んだ。
本人の生前からの希望で遺体がこの村に運ばれてくるらしい。
そう聞かされた時は、本当に何とも思わなかった。
ただ「そうなんだ」と。僕は一人でそれに呟いた。
けれど父さんと母さんはまるで僕とは違うみたいで、幼馴染の彼女が死んでしまったと目を真っ赤にして肩を震わせていた。
はっきり言ってあまり共感できなかった。
どうして2人はあんな女のために泣けるんだろう。
僕には大切な幼馴染がいた。
同じ村で同じ年に生まれた僕と彼女は他のどんな子供たちよりも仲良く一緒に遊んでいた。同い年の子供達にはよくからかわれてはいたけれど、それよりも彼女と一緒にいられることが楽しくてそんな些細なことは全く気にならなかった。
これが恋だと気付くまでには少し時間がかかったけれど、彼女は嬉しそうに頷いてくれて、僕たちは14歳の時に晴れて婚約者となった。彼女が重い病気にかかってもう助からないと聞いた日には、入ってはいけないと言われている危険な山に入って薬草を取ってくることもあった。その時には頬に大きな一本の線のような傷が生まれてしまったけれど、僕にとってはそれは勲章のようなものだった。
そうして僕たちが結婚できる年齢まであと少しと言った時、勇者と名乗る男たちが村に入ってきた。
なんでも復活した魔王を討伐するために素質のあるものを集めているらしい。
この話の流れでもうわかるだろう。
選ばれた者は、もちろん僕の大切な婚約者。
泣いて嫌がる彼女を連れ出そうとする勇者たちを止めようとする僕だったけれど、王命だと言われて兵士に殴られて気を失ってしまった。そして目が覚めた時には彼女の姿はなかった。
幸いなことに彼女からの手紙は頻繁に届き、僕たちは何度も手紙のやり取りをすることが出来た。おかげで寂しさを大きく感じることはなかった。
最初は泣き言ばかりだった弱い彼女の手紙が、徐々に使命感に燃える芯の強い彼女へと変貌していく手紙に触発されて僕もまた負けじと、万年栄養不足に陥りがちな村のために危険な山に入っては肉を獲って帰るようになった。
そんな風に成長していくつもの季節が巡ってはまた手紙のやり取りをしていた僕たちは、けれど彼女からの最後の手紙以降、もうやり取りをすることが出来なくなってしまった。
理由は単純なもの。
『私は魔術使いとして勇者さんたちと魔王を討伐するための旅に出るわ。必ず帰ってくるから待っていてね』
そう締めくくられていたからだ。もう、何度手紙を送っても返事は帰ってこなかった。これも当たり前だ。なぜなら彼女は王都を離れて、どことも知れぬ険しい土地で旅をしているのだから。
それからはただひたすらに待つ日々だった。
寂しくて寂しくて、がむしゃらに山の魔物や獣を狩るようになっていった。大きな獲物を狩るにつれて村のみんなの眼差しが熱くなっていく。未婚の女性が時折僕を誘うこともあったけれど、丁重にお断りした。
そんな僕をからかう人間もいたけれど、そんなものはもちろん右耳から左耳へと聞き流せばよいだけの話だ。僕には将来を誓い合った婚約者がいるのだから。ただその人が長い旅に出てしまっているだけなのだから。
そうして、またいくつもの季節が巡る。
その間に珍しく両親や彼女の両親へと手紙が届いていたけれど、僕に手紙が届くことはなかった。いつまでも待ち続ける僕に両親や彼女の両親は何も言わないけれどなぜか目を潤ませて僕を見ることがある。その視線の意味が全く理解できなくて、首を傾げながらも日々の狩りに精を出す。
はやく帰ってこないかな。
その気持ちだけを武器に僕は彼女を待ち続けた。
そんな時、商人になると言って村を出ていった男がある日慌てて帰ってきたことがあった。
僕とは仲が良くなかったにも関わらず、なぜか一緒に酒を飲もうという話になったため、一緒に夕食をとることになった。その席でその男が僕に語った話で、僕は激怒した。流石にその男を殴ることはなかったけれど胸倉をつかんで引き倒した。
今にして思えばあれは少しやりすぎだったかもしれないけれど、あまりにも楽しそうに話すあの男にも問題はあったはずだから今後も一生そのことに関しては謝るつもりはない。
僕が激怒した理由は当然ともいえる内容のモノ。
『彼女が第四王子に見染められて婚約した』
そんなはずがない。まだ彼女は旅に出ているはずだ。
そう言う僕にあの男は、もうその旅は随分前に終わっていると、勇者たちが魔王を討伐したと。そう言った。
目の前の何もかもが真っ暗になり、気付けば翌朝になっていたあの日のことは未だに覚えている。
朝、目が覚めたら両親と彼女の両親が家にいた。
雁首揃えて何のつもりかと聞けば、もう諦めろという言葉だった。
どうやら両親たちは知っていたらしい。まずそこを詰めると、例のうるんだ目で謝罪された。両親と彼女の両親に涙ぐまれてはもう何も言えなかった。
そこからの僕の行動は速かった。
季節は丁度『寒』の季節。山に入っても見込める収穫よりも死ぬ危険の方が大きい時期だということもあった。
王都に帰ろうとする男に頼み込んでついていった。もちろん、報酬は求められたから昨晩の酒代のことを言うと、男は黙って頷いてくれた。そりが合わなかったとはいえやはり同じ村の出身だけある。根は優しいやつなのかもしれない。
片道切符だがいいのか? とは聞かれたがもちろんそのつもりだったため即座に飛び乗った。
とにかく彼女の顔が見たかった。
彼女に会って話をしたかった。
そして話を、ただ聞きたかったんだ。
心が移り変わったと正直に言われたならば仕方がない。
本心は仕方がないわけがないけど、こればっかりは気持ちの問題だ。泣いて諦めようと思った。彼女が幸せになるならばそれで良しと思うことにしようと思ったんだ。だけど、王都についた僕を待っていた彼女の言葉は謝罪でなければ、誠実さもなかった。
「話しかけないで、平民風情が」
思わず声を失ってしまった僕に。彼女は右手に炎を纏わせて言う。
「さっさと消えてくれる? 気持ち悪い」
その言葉と共に彼女の手を掴もうと伸ばしていた僕の手が燃やされた。
それが、彼女と僕の最後の一幕。
こうして僕は彼女への心を失った。
帰り道には泣こうと思っていたら一滴も涙が出ずに、自分のことながら笑ってしまった。
そして恋という心を失った僕は機械のように働く。いつの間にか両親には白髪が目立つようになってきたころ、彼女が死んだと聞いた。
なぜ泣いているかと聞くと、両親は棚から手紙を取り出した。
いつやらの珍しくも両親に届いていた手紙だ。なるほど、どうやらあの時にはもう魔王は討伐されていたらしい。
僕は一体どれだけの時間を無駄にしたんだろうと思って自嘲してしまいそうになったが、目の前で両親が泣いている手前、その気持ちを堪える。
「本当は見せるつもりはなかったの」
「ああ。だが、これではあまりにも彼女が可哀そうだ」
泣き止まない両親から渡された手紙内容に、どうして今更手紙なんかを、と思いながらも目を落した。
お義父さん、お義母さん。
お久しぶり! 元気にしてた!? あいつは今日も元気に狩りに出ている? 私、早く帰って彼の狩った獲物をその場で見てみたいわ。
彼女らしい、快活な文章だった。
あまりの懐かしさに少しだけ笑顔になりそうになる。
けれど、私は村に帰ることが出来なくなったの。
魔王を討伐した際に、どうやら呪いを受けちゃったみたいで。
「呪い?」
久しぶりに出した声はかすれて、上手に出せなかった。
この呪いってね、死の呪いらしいの。
簡単に言うとね。私の大切な人か、私か。そのどっちかが死ぬんだって。
私が大切な人の側にいると大切な人が死んじゃって、私が大切な人の側にいないなら私が死んじゃうの。
聖女ちゃんが泣きながら言ってたから間違いないと思う。
だから、帰ることが出来ないの。
私の近くにいるとあいつが死んじゃうから。
「な……は?」
なんだこれ?
理解が出来ない。それなのに鼓動が早く次を読めと何度も何度も体を刺激する。
だから私は最後までこの国に尽くすことにするわ。
ほら、私って国を救った大魔術使いちゃんだからさ? 国は私たちっていう英雄で、みんなの人気取りをしたいわけ。
そしたら第4王子と結婚って話になって。もちろん私と王子様には何の関係もないんだけど、形だけでも私と結婚しておけば第4王子様も人気者になれるから、ね?
まぁ、国に尽くすって宣言した手前私もいいかなって思っちゃって、私も王族の仲間入りですね! って笑って頷いたのは良かったんだけどね、いざドレスをどうするとか、式はこうなる、とかそういう話を詰めるってなった時にさ、やっぱりあいつが良かったなあ、なんて思っちゃったりもして。
もうそしたら泣いちゃって泣いちゃって。
恥ずかしいし申し訳ないしで、穴があったら入りたいってこういうことを言うのね。
それで気を使ってくれた第4王子様が婚約っていう形にしてくれたの。
こんなに私に優しいなんてこの人、私のこと本気で好きになっちゃうんじゃないのー? きゃー、あいつと王子様で私を取り合わないで、なんて、ね?
う、そだ。
この手紙は嘘だ!
だって、彼女はあんなにも僕に冷たかったじゃないか!
叫ぼうとする僕の心を抑えて、思考が冷静に告げる。
大切な人を突き放すためだろ?
お前を……僕を守るためだろ?
僕を守るためだったのか?
僕は彼女に何をしてあげられたのだろう。
彼女が国を救って死にかけていた間に、僕は何をしていた?
呪いで僕に会わないことを選んだのなら、彼女はきっと自分の死の運命におびえていたはずだ。
その時僕は何をしていた?
彼女を恨み、忘れて、のうのうと暮らして。
僕は彼女の婚約者だったのに。
彼女を信じることが出来なかった。
最後に彼女に会った時に燃やされた僕の手は小さな火傷で済んでいた。そもそも王子様と婚約しているようなあいつがどうして、僕でも会えるような場所にいた?
僕に会うためだったんじゃないか?
どうして、そこで気づいてあげられなかった?
どうしてそこで彼女を苦しみから救ってあげられなかった?
だから、お義父さん、お義母さん。
私はあいつには会いません。手紙も送りません。そうやって忘れてもらいます。あ、でもあいつったら私のこと大好きだから、もしかしたら会いに来ちゃうかも。その時はこっぴどく振っちゃうんだから!
そしたらね、きっとあいつは私のこと忘れてくれるよね?
私のこと、嫌いになってくれるよね?
私じゃない誰かと幸せになってくれるよね?
好きな人と一緒になれなかった私の分まで、あいつが幸せになってくれるよね?
目がかすむ。
なんだこれ。
手が震える。
なんだよ、これ。
手紙を持つ腕が重い。
なんなんだ、これ。
だから、どうかお願いです。
あいつにこの手紙をみせることだけはやめてください。
私を嫌ったままで終わらせてください。
私はもう今からあいつのことは大嫌いです。お義父さんも、お義母さんも大嫌いです。
さようなら私の大嫌いな人たち。
さようなら。
さようならのその後。
手紙の最後の一行は何度も書いたり消したりした跡があって、結局は最後には消されていた。
この文字も読みたくて光に透かす。
彼女の最後の心が短く浮かぶ。
愛しています。心から。
「う、ううっ」
また母さんが泣いている。
そう思って手紙から顔を上げると、違った。
父さんも母さんも僕を心配そうな目で見ている。
そこでやっと気づいた。
この声は――
「ううう……うあああああああああ!」
――僕の声だ。
それからの僕は少し元気になった気がする。泣いたことがきっと良かったんだと思う。
今日も今日とて狩りに精を出す。
少しずつ元気になってきたせいか、村の子供たちにも話しかけられるようになった。
元々、村一番の狩人の僕と話をしたかったらしいけど、雰囲気が怖くて近寄れなかったらしい。
いつか狩りを教えてほしいと言われて、気付けば頷いていた。
これが子供の力なのだなと素直に感心した。
彼女との子供がいてくれたら。
なんとも意味のない妄想を繰り広げては彼女の墓の前で酒盛りをしながら反省する。
墓の前には僕が刈ってきた獲物で作られた料理が並んでいる。彼女が見たがっていた僕の狩りの成果を見てもらおうと思って、狩りから帰ってきた日には毎晩こうして夜に墓参りをしながら酒を飲む。
そうやっててどうにか生きてきた僕だったけれど、ある日村に大きな魔物が現れた。
山の魔物や獣が最近は姿を見せなくなっていたから予兆はあったため、最近は山に行っていなかったのだが、なぜこの村に降りてきたのか。
おい、嘘だろ。カースドボアじゃねぇか。
誰かが囁く。
確か一流の冒険者でも手を焼くほどの魔物だと聞いたことがあった。
ごめんなさい、と泣きながら謝ったのは狩人になりたいと言っていた子供。どうやら勝手に山に入ってカースドボアを遠めに見つけて慌てて逃げ帰って来てしまったらしい。つまりカースドボアは子供を追ってきたのだろう。
まぁ、子供にありがちな失敗だ。仕方がない。
大きく息を吐いてから、吸う。そして村人全員に逃げろと叫んだ。
この村であんな大きな魔物相手に時間を稼げる男など僕ぐらいしかいない。
何か使命感があっとか、そういう話ではない。
村の皆を死なせたくなかった。父さんも母さんも、お義父さんもお義母さんもこの村にはいる。だから、誰も死なせたくはなかった。ただそれだけの気持ちだった。
結論から言ってしまうと、僕とカースドボアの死闘は僕の気迫勝ち。
逃げ帰っていくカースドボアの傷ついた背中を見届けた後、僕は彼女のお墓の前まで体を引きずって小さな声で謝罪した。
「ごめんね、今日は獲物を狩れ……な、かった」
あぁ、彼女に会いたいな。
腹から流れる血はなかなかに大量で、見ていて面白い。
徐々に力が抜けていき、視界が暗くなっていく中で、僕はひたすらに考えていた。
もしもまた会えたなら……今度は僕が君を守るから。
あいつが今、私に会いに王都まで来ている。
今では王都で立派な商人をやっている幼馴染から話を聞いた。
あぁ、来ちゃったか。という気持ちと、それ以上に嬉しくなってしまう気持ちが同居する。
あいつを一目だけでも見たかった。それに、ちゃんと、あいつにお別れを言わなければならない。
王宮の人たちは事情を話せばすぐに行っていいよと言ってくれた。そもそも私は第4王子様の人気の為だけに婚約した身。さっさと死んだ方がありがたいと思っている人たちが大勢いるから何の障害もなく外に出ることが出来る。
目元以外の顔は隠す。これでも私は一応、有名人だから。
街に出ると、すぐに見つけた。
あいつだ。
あいつもすぐに私に気付いたみたいで、一目散にこっちへとやって来る。
――あぁ、やめて。
どれくらいぶりに会ったかすらもわからないぐらいで、私たちの見た目は大きく変わっているはずなのにどうして私たちはお互いのことが一目でわかるんだろう。
――好きなの。
きっとこれは私と彼が運命の赤い糸でつながっているからだわ。なんて、恥ずかしいことを思って自分の頬が熱くなることを感じた。
顔を隠していてよかった。これならばれる心配もないと、意味もなく安堵してしまう。
ふと視線を向けると私に話しかけようと口を開こうとしたところだった。
何かを聞いてしまえば気持ちが揺らぐ。だからこそ、それが音になる前に、私が先に言う。
「話しかけないで、平民風情が」
唖然として、口をパクパクとさせる彼にまた一言。
「さっさと消えてくれる? 気持ち悪い」
これが本心だと思わせるために手に炎と灯す。
私はこう見ても大魔術師。簡単にこんなことだってできるようになったの。
ねぇ、すごいでしょ?
私、頑張ったの。
あなたに早く会いたくて。
結局こんな形でしか会えなかったけど。
――お願い。
信じられない顔をして私へと伸ばしていた手に、炎を灯した手を近づけた。
当然、火傷ぐらいはするだろうけど、嫌ってもらうにはこれぐらいはしなければいけない。
ごめんね?
でも、仕方がないの。
私はもう、あなたを好きになってはいけないから。
――私を助けて。
こうすればきっと逃げていくだろう。
これで私たちの恋は終わる。
あとは私が一人で死ぬだけ――
「――それでも僕は君が好きだよ」
私の炎を灯した手をしっかりと握りしめて、あなたは手を焼かれながら笑った。
「ちょっと! なにを!?」
慌てて火を消して……え、待って。今あなたはなんと言ったの?
呆然とその顔を見つめてしまう。
だって私はあなたを傷つけた。
王都に帰ってきたのに手紙だって送らなかったし、婚約したことも商人の幼馴染からという形で伝えてもらった。私は不義理な女なのよ? 今だってひどい言葉をなげつけて、手だって焼いたのに。
そんな……私を?
「好きだ。たとえ僕が死ぬとしても、僕は君が好きだ」
――嬉しい。
私も好き。
大好き。
高鳴る鼓動を強引に押さえつけて、飛び出そうになる感情を縛り付ける。
だめ、それは言ってはいけない。
今の私は彼に嫌われるための行動を尽くさないと。そうじゃなきゃあなたが死んじゃう。
慌てて口を開いたところで、急に抱きしめられた。
「な、なにを! やめなさい!」
嘘。やめないで。
心と口が喧嘩して爆発しそうになる。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、まるで舞踏会でも開かれているかのように彼は私との体を入れ替えた。
「っ゛」
くぐもった声が聞こえて首を傾げる。
「これで……今度こそ」
突如、彼から力が抜ける。急に重くなってしまった彼に、意味が分からなくて慌てて彼の体に手を伸ばした時、ぬるりとした感触が広がった。
「これはっ!?」
「毒……矢、かな」
ハハと力なく笑う彼の笑顔がどんどん白くなっていく。
何が起こったの?
いいえ、これは考えるまでもないことだった。
私を見張っている人間が、気付いたんだ。
私の大切な人と私が抱き合っていることに。
このままだと私が死なずに、彼が死んでしまう。そうなると平民出身の私が王子と結婚してしまうことになる。
だから、私は殺されるところだった。私ですら気づかないほどのその暗殺者の一撃に彼が気づいたのだ。
「ごふ」
血を吹き出す彼の顔は既に真っ白。
「ああ!? ちょ、ちょっと待ってて! 聖女ちゃんをすぐに呼べばきっと!」
彼は穏やかな笑みで私を見て、ゆっくりと口を開く。
「きみに……いいたかった、ことが、あるんだ」
「だめっ。お願い、死なないで。私のこと好きって言ってくれたなら……お願い、よ」
こんな大事な時に声がかすれる。せめて彼に私の言葉をしっかりと届けないといけないのに。
目の奥が熱くなる。せめて彼の姿をしっかりと見つめないといけないのに。
もう彼の体にはほとんど力が残っていない。私の言葉もきっと聞こえていないだろう。
待って。ダメよ。あなたが死んだらダメ。
「どうか、しあわせに……いきて」
嫌。あなたがいない世界に意味なんてない。
だったら……だったら。
私は一つの答えを得た。
もう朧気だろう視界の彼のために、耳元に口を寄せて言う。
「一緒に幸せになろっか」
もう彼の体には力が残っていない。
私を守ってくれたことの一番の象徴である彼のほっぺの傷を一撫で。あまりにも懐かしい感触に別の意味でも泣きそうになる。
そんな彼から手を離し、護身用に携帯していた短刀を自らの胸に突き刺した。
「な」
「ふふ……これ、で……い……しょ」
「だ、め……だ」
最後にあなたの目が見開いた。
私の死ぬところまでを見ていてくれたらなら嬉しい。私が先に死ねば私はあなたが死ぬ様を見なくて済むもの。
ひどいことをした私を、まだ好きって言ってくれてありがとう。
私も好きよ?
あなたを守れなくて……ごめんね?
私の村には一人、変わった男の子がいた。
同い年に生まれた男の子で、5歳になった時から急に物静かになりだした。一緒に遊んでくれていたのに全然遊んでくれなくなって、今ではもう口も利かなくなってしまった。それどころか誰とも話している姿を見かけない。一人でふらりと姿を消して、いつの間にかいなくなっている。
最初は私のことが嫌いになったのかなと思ったけど、どうやら他の子どもたちも同じで全く話さなくなってしまったらしい。だから誰かがあいつは話し方を忘れてしまったんじゃないかって言ったけど私たちのお父さんやお母さんたちとは楽しそうに話をしている姿を見るとそれとも違うんだってわかる。
だから、彼は変わった男の子。
けれど、そんな彼がいるからと言って別に私たちに嫌なことがあるわけでもない。私たちぐらいの子供たちは誰も大して彼を気に留めなかった。
彼が一人で山に入り、大人でも一人では狩ることができないような獲物を引きずってきた時は村人皆で目を丸くしたこともあったり、急に危険な場所に生えていた草をとってきたりと彼の奇妙な話だけが積もっていくけど、それが彼と仲良くなるきっかけになることもなく、私たちは成長していった。
ある日、私が死にそうな病気にかかって、非常に危険な生息地に入らなければ入手できない薬草がなければどうしようもないとお医者さんが判断した時、その薬草を誰かが家の前に置いてくれていたことがあった。おかげで私は一命をとりとめることが出来たけれどあれは一体誰の仕業なのか今でも私は知らないままだ。
お父さんとお母さんは知っているみたいだけど、絶対に教えてくれなかった。本人から言わないことを条件に譲ってもらったらしいから仕方がないとは思うけど、その謎がとても気になって、いろんな人に聞いたけど誰も知らなかった。変わった男の子にも聞いたけど首を横に振られて終わった。まだ私はお礼も言えていないのに。
結局は誰かわからないままに月日が流れていくそんなある日のこと。
私は幼馴染の男の子と婚約をすることになった。
絶対に商人になって成功するから俺と将来結婚してくれ。と、そういわれた時、私は真剣に正直な気持ちを話した。
どうせ私は村から出ないし、特に好きな人もいない。でも、どうせ誰かと結婚させられるぐらいならまだ同い年のあなたの方がマシ。あんたがそれでいいなら私もそれでいいよ。と言ったらそれでも幼馴染の男の子は何度も首を縦に振って頷いてくれた。
まぁ、いっか。というのが私の正直な気持ちだった。
婚約が決まった途端にベタベタしてくるのは正直どうかと思ったけど、愛されているとお父さんとお母さんに言われたらそんな気もして、文句を言うことは辞めた。生理的に気持ち悪い人にベタベタされるよりは全然マシだから。
こうして私の人生は村で普通に終わっていくんだろうなぁとぼんやりと思っていたらある日突然、勇者と名乗る人たちが村にやってきた。なんでも復活した魔王を討伐するために素質のあるものを集めているらしい。
そして、私が選ばれた。
どうやら私には魔術師の才能があるらしい。
幼馴染の男の子が絶望した目で私を見るけれど、お互いに何も言えずにそのまま連れていかれることになった。そこで一人の男の子が割って入る。
例の変わった男の子だ。
僕の方が才能がある。
その子は言って、そして手に炎を灯して見せた。私も含めて村の人皆が本当に驚いた瞬間だ。もちろん勇者さんも驚いて「じゃあ君も一緒に」と言って彼も一緒に行くことになった。
そうして王都に連れていかれた私たちは長い訓練の後、魔王を討伐するための旅に出る。
訓練の間に、勇者さんや聖女ちゃんと仲良くなったけど、やっぱり例の変わった男の子とは仲良くなることが出来なかった。
とても大変な旅だったけれど、勇者さんも聖女ちゃんも、そしてそれ以上に例の変わった男の子が強くて、旅は順調に進み、遂には魔王と対峙することになる。とても、とても強い魔王だったけれど、私たち4人のチームワークをもってすれば勝てない相手じゃなく、誰一人欠けることなく魔王を倒すことに成功した。
「ぐお、おおおお」
魔王が地に伏す。
私と勇者さんと聖女ちゃんがハイタッチを交わして勝利を喜ぶ。
「まだだ!」とその男の子が叫んではっとさせられらのだけれど、少し遅かったみたいで。
「おのれええええええ!」
死の間際、魔王が放った呪詛が私へと飛来した。
これは避けることが出来ない。
そう直感した私は目をつぶって死を覚悟したのだけれど、痛みはいつまで経っても来なかった。
「君!」
「魔術剣士さん!」
「え……え?」
勇者さんと聖女ちゃんの声が聞こえて恐る恐る目を開けると、そこで倒れていたのは男の子。
「な、なんで?」
だって私と話をしてくれたことなんて全然なかったのに。
訳が分からずにただ困惑していると、男の子は「長かった……これで……やっと」と謎の言葉を呟いて私をじっと見つめる。
「?」
訳が分からなさ過ぎて困惑していたのに、初めて私と顔を合わせてくれて、もう困惑を飛び越えて混乱してしまいそうになる。私の混乱はとにかく、私を庇ってくれたことには変わらない。
ありがとう、と。
お礼を言おうとした時、死に際の魔王から「ぐはははは」と笑い声が聞こえた。
全員が一斉に武器を構える。もちろん、男の子も立ち上がって、勇者さんと横並びで私と聖女ちゃんを守るように武器を構えている。何もなさそうでホッと息をつきそうになった私だったけど、魔王の次の言葉でそれがひっくり返された。
「我の呪詛を受けたそ奴はもう幸せにはなれぬ!」
「どういう、意味だ」
勇者さんが代表して聞いてくれる。魔王は死に際だからか、素直に答えてくれた。
「そ奴は死ぬ! 我の呪詛で死が命に紐づいたのだ! 助かりたければそ奴自身にとって最も大切な人間と共に過ごすことだな! そうすればその大切な人間が代わりに死ぬことになるだろう! ふははは! そ奴が死ぬか、そ奴の大切なものが死ぬか! 地獄の底から見守ってやろうではないか! フハハハハハハハ」
最後にひときわ大きな笑い声をあげたかと思えば、そのまま魔王が灰になっていく。
本来ならば喜ばしいはずのこの瞬間が、まるでお葬式みたいな空気になってしまったのだけれど、それを全く気にしていないのか男の子はため息をついて呟く。
「これで全てが終わったんだな」
本当に満足しているように吐き出された言葉。私はどこか場違いにも、この人ってこんな声なんだなと思っていた。ほとんど聞いたことがないはずなのに、妙に胸に残る。そんなどこか現実逃避をしてしまっている私とは違って聖女ちゃんが顔を真っ青にして言う。
「で、でも魔術剣士さんが……見たところその呪詛は本物です。王都に帰って調べないとわからないですが、きっと私の神術でもその呪いは……」
解けない。
その言葉を言えずに黙り込んだ聖女ちゃんに、男の子は笑顔で……私も初めて見る笑顔で言った。
「いいんだ。僕は……いいんだ。もう十分に幸せだから」
その笑顔がどう見ても本気で、そして心の底から言っているそれで。
私は本気で――
「はあ? なにそれ」
――むかついた。
私自身、こんなにも低い声が出るのかっていうぐらいに低い声だった。
「あんたの人生はまだこれからでしょうが! もう十分に幸せ!? ふざけないで! そんなわけないでしょ! これからだって時に!」
まだ私たちは20歳にもなっていない。それなのにこいつはもう人生を悟ったみたいな顔をしている。それが妙に頭にきた。
「いや……だけど僕はもう本当に」
「いいえ! 私はあんたの幼馴染だから言わせてもらうけどね! あんたはまだ幸せを知らないわ! 仲の良い友達もいない! 彼女もいない! 魔王を倒した報奨金だってまだ受け取っていない! それで幸せって言えるの!? もしいえるなら何が幸せなのよ! 言ってみなさいよ!」
彼の胸倉をつかんで。私は唾をまき散らす。
結婚前のかわいこちゃんがやっていいことではないけれど、婚約者はここにはいないからきっと大丈夫。
「……」
私が返事を待っていると、男の子は「全く」と小さく笑って私の手を優しくほどく。
「なら、僕の話を聞いてくれるか?」
彼が腰を落ち着けて、私たち3人へと順番に視線を送る。
初めてと言ってもいいだろう。
彼が必要最低限以外の会話をしようとするなんて。その雰囲気につられて私たちも同じようにその場に腰を落ち着ける。
「僕には誰よりも大切な人がいるんだ」
「へぇ」
「あら!」
「……?」
勇者さんと聖女ちゃんは驚いた眼をしているけれど、私は首を傾げる。5歳の時から彼を見ているけれどそれに該当しそうな人なんか見たことがない。けれど嘘を言っているようにも見えなくて、続きの言葉を待つことにする。
「その人は優しくて、不器用で、素直で、ちょっとだけ短気で、けれどとっても強い人だ」
「うんうん」
「まぁまぁ」
「……ふん」
珍しい彼の惚気に二人がにやにやと笑う。けれど私はそんな女のどこが良いのかわからない。不器用で短気ってすごく頭が悪そうに聞こえるからだろう。
「ある日、その人は遠くに離れてしまうんだけど、そのまま別の人と婚約してしまってさ」
「はぁっ!? 何それ! そんな、自分のことを好きでもない人のこと好きなの!?」
「はは、うん。好きだよ。大好きだ」
「っ……そう」
「けれど、その人はある日死んでしまう――」
「そんな」
悲しそうな声で呟いたのはもちろん聖女ちゃん。私は私でこの会話のどこに幸せがあるのかがわからなくてひたすらに首を傾げている。
「――はずだった」
「え?」
「その人は死なずに済んだよ。だから僕は今幸せを感じている」
「……えっと、つまり」
私と聖女ちゃんは結局よくわからなくて首を傾げて、勇者さんが代弁してまとめてくれた。
「魔王を倒したことで大切な人が死ぬことがなくなったから君にとってはそれだけで十分に幸せっていう話かい?」
「うーん、まぁ、そんなところかな?」
なんじゃそりゃ。
意味はわかったけど、全く共感できなかった。
どれだけの自己犠牲精神をもてば、そんな気持ちになるのか。そんなにもその人のことが好きなのか。全くもってモヤモヤとするこの気持ちを払拭するべく、もう一度文句を言おうとしたところで「というわけで」と先手を打たれた。
「僕は報酬はいらないからさ、もらってくれない?」
急に私を見つめて、言い出したその言葉で私はドギマギとしてしまう。
「な、なんで私が……っていうかいらないって何?」
「ほら、どうせ僕はもうすぐ死ぬからさ。それなら君に貰ってもらえたら僕の父さんと母さんにも半分くらいは届けてもらえるかなって」
ヘラヘラと自分が死ぬことを受け止めているこの男の真意は一体どこにあるんだろう。
「……それはいいけど。っていうか半分じゃなくて全部渡すわよ! 私のことを守銭奴とでも思ってるの!?」
「まさか、でも半分は君に受け取ってほしい」
「な、なんでよ」
「す……じゃなかった。ただ働きしてもらうのも申し訳ないかなって」
「そう、そういうことならちょっとだけ貰うわね」
「うん」
この男との会話は5歳以降ほとんどしていなかった。けれどこういう優男みたいな感じだったのね。もっと硬派で話が疲れるような人と思っていた。
なんだろう……とても話しやすい。
「とりあえず、国に戻ろうか」
「そうですね。もしかしたら魔術剣士さんの呪いも解けることがあるかもしれません」
「そうね、私も何かできるかもしれないから協力するわ」
「いや、もう本当にいいから。ひっそりと死ぬから放っておいて」
「そういうわけにはいかないよ」
「そういうわけにはいきません」
「そういうわけにはいかないわ」
3人が一斉に言って、同時に笑う。
「魔王を倒した英雄3人がこう言ってるのよ? あなただってきっと……?」
振り向いて、首を傾げた。
なぜか彼の剣が目の前に迫っていたから。
「危ないっ!」
勇者さんが剣で私を防いでくれる。
「ちっ、やるな勇者よ、不意を突いたつもりだったのだがな!」
「その話し方は……魔王?」
聖女ちゃんの言葉に勇者さんが頷く。
「まさか今の呪詛は!?」
「ふふふ、よく気づいたな! その通りよ! 我が人間の体を乗っ取るためのものよ!」
「そんな! じゃあ魔術剣士さんは!?」
「ふん、あの我の呪詛で死んでいたに決まっておるだろう!」
なにこれ。
今にも殺し合いを始めそうな3人の間に立つ。
「何してんの?」
「……貴様、我の前に無防備で立つとは、死にたいらしいな」
「ダメだ、下がるんだ!」
「危ないです!」
いや、本当に。
何をやっているのやら。
「その演技恥ずかしくない?」
「え?」
「は?」
「っ訳のわからんことを――」
「――ねぇ、あなたそんなに死にたいの? 大切な人が婚約して自分の想いは届かないまま……そうやって静かに死にたいのね?」
「……ああ」
演技を見破られ、頷く言葉しかなくなった彼に対して、私は「なら」と顔を上げる。
「目を閉じて?」
と伝える。
「?」
「……私が殺してあげるから目を閉じなさい」
「ちょ、ちょっと!?」
「大丈夫よ、聖女ちゃん。しっかりこの男を殺してあげるから黙って見てて」
「そういう心配じゃなくて」
「いや、ここは彼女に任せよう」
「勇者さんまで!」
そういいながら聖女ちゃんも静かになった
ありがとう勇者さん。聖女ちゃんもありがとう。
「さて、準備はいいかしら?」
「そうだな、うん。君に殺されるなら悪くない」
「あら……そう。よかったわ」
この男は、生きることを諦めている。
本当に不愉快。
そういって目を閉じるあなたの顔は今更だけど私がよく知っている顔で、だから私は彼を殺す。一歩近づいて――
「っっ!?」
――彼の無防備な唇に私の唇をぶつけた。
「!?」
驚きで眼を見開くあなたの顔はやっぱりとても素敵。ふふ、さっき私を驚かせたからいい気味よ。
だけど、キスをした途端に、なにこれ? 何かが頭の中を永遠に流れていく。
「キャー」
「おお」
後ろの二人はちょっとうるさい。もうちょっと静かにしていてほしい。これでも私のファーストキスだ。
一歩下がると、真っ赤になっている彼の顔が見えた。非常に可愛らしい。
うん、頭が痛いけどそれは今言っている場合じゃない。
「んな……んななな」
「どう、死んだ?」
「……はいい?」
「あなたのことを好きじゃない人に恋をしていたあなたはまだ生きてるの?」
「え……あ、ん?」
「ええい、煮え切らないわねぇ! もういいわ! じゃあ単刀直入に言うけど、私を好きになって!」
「……え?」
「そうすれば万事解決よね!」
「……?」
やっぱり首を傾げる彼の代わりに後ろから勇者さんの声が聞こえる。
「ああ、なるほど。つまり彼女はこう言いたいわけだ。『他の男と婚約するような女ではなく私を見なさい。そうすればあなたは私を幸せにするために生きなければいけないでしょ?』って……合ってるかい?」
「流石勇者さん、素晴らしい読解力よ!」
「おほめに預かり光栄です」
「おおおおお、ということはこれは!」
「そうだね! 愛の言葉だね!」
ちょっと急に二人ともうるさい。
でも、今の間に、私はもう一つ彼に対しての言葉を理解した。キスした拍子に流れてきた全ての映像が全て私に結び付いた。やんややんやと騒ぎ立てる二人の声に紛れて、私は笑う。
「今回は……頬に傷がないのね。あの傷も男前で好きだったのに」
「!?」
「キスしたら全部思い出したわ」
「え、本当に?」
「うん、今まで一人で何十回も何百回も、ありがとう。ごめんね? こんなところまで付き合わせちゃって」
「……本当に、思い出したんだ」
「キスしたら急に。まさに愛の力よね」
「はは……恥ずかしいけれど、今の君が言うと本当にその通りだって思えるよ」
「じゃあ次に私が言う台詞……わかるわよね?」
「うん、わかる」
「「一緒に死のう」」
私と彼は一斉に刃物を握ってお互いの心臓を突き刺した。
「えええええ!?」
「なん、はあああああああ!?」
勇者さんと聖女ちゃんの、こっちが驚いてしまうぐらいの悲鳴を聞きながら私たちの意識は遠のいていった。
「はぁ……またダメだった」
5歳になってしまった自分の体を見てため息を一つ。
僕が彼女の墓の前で死んでから、死んでは5歳の頃にまで戻るというループを何百回と繰り返してきた。その全てで彼女の命を守ることが出来なかった。それもこれも彼女の僕に対する気持ちが強すぎることが原因だ。僕は彼女を死なせたくないのに、僕が先に死んだら絶対に僕の後を追って死ぬ。
だから、前回はそもそも彼女にとって大切な人でない状態を保てば僕が死んでも彼女は気にしないのではないかという考えのもと、彼女の死の原因であった呪いを受けたんだけど結局はそれもダメだった。
というか頑張って会話をしないように気を付けていたのに、それでも僕を死なせないようにするとか、天使か。
いや、それよりも前回みたいに彼女が僕の今までの人生を思い出してくれたというのは何の奇跡なのか。もしかしたらキスが引き金になっているのか?
今度こそ、本当に今度こそ彼女を助けたい。
今度はどういう手段をとるべきなのか、色々と考えていると彼女がノックもせずに家に入ってきた。
そして彼女は笑顔で言う。
「今度は二人で生き残ろうね!」
「え!?」
「えへへ。大好き!」
「ぼ、僕も好きだ! いや、僕の方が好きだ!」
僕は今まで彼女を一度も救えていない。
けれど次こそ救おう。彼女と一緒ならそれも可能なはずだ。
一人なら無理だったけど、二人なら絶対に幸せになれるから。
「どうしても無理そうならさ、勇者さんと聖女ちゃんにも助けてもらえばいいんだよ」
「あ、なるほど! あの二人なら信じてくれそうだね」
それから後、魔王が復活しこの世が恐怖に包まれる。
だが勇者は瞬く間に聖女、魔術使いと魔術剣士となる3人を見つけてきて即座に旅に出たことにより、人間への被害がほとんど出ることなく魔王の禍は終息した。
そして勇者は聖女と。魔術使いは魔術剣士と。
それぞれが結婚して、幸せに過ごしたという。