新しく入れた魔術師が最強すぎて手に負えなくなり、結果的に追放してしまいました
初投稿作品です。整合性の取れていない部分や誤字脱字など、気軽に報告していただけるとありがたいです。冒険者達に名前がないのは仕様です。
「だから、お前は今後このパーティにいなくてもいいんだよ」
至極真面目な顔で彼にそう告げたのは、私達冒険者パーティのリーダー。
一時間ほど前に任務を終えたはずだが、その剣には一滴の血もついたことがない。せっかく新しいメンバーが入ったのだからとみんなで武器を新調したのだ。
かくいう私、パーティメンバーの女騎士もまた新たに盾をより強固な物に買い換えている。しかし、皆が揃っているクエスト中に一度も使った試しはない。
神妙な面持ちをしているのは私やリーダーの剣士の他に、仲間を回復する役目を果たせずにただ突っ立っていることしかできない修道女、もはや自分たちの任務の道中に詩を作ることしかやることのない吟遊詩人。
リーダーが今告げていることは、全員一致で出した結論だった。
「……どういう、意味だよ」
「そのままの意味だ。……君は、もうこのパーティに参加しなくていい」
「それで納得できるわけないだろ? ちゃんと理由を説明してくれよ!」
強く、テーブルを叩く音が響く。ギルドで食事をとっていた、他の冒険者達が何事かとこちらを見る。
周りからの視線は派手に音を出した主――パーティのメンバー、黒魔導師に注がれていた。
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黒魔導師がパーティに加入したのは一ヵ月前の事。
物理攻撃ではなかなか倒せない敵の依頼がギルドに舞い込んできた。
前の任務を無事に達成し、ちょうどCランクに到達した我々のパーティは、Cランク相当の依頼を始めて受注する事にしたのだ。
しかし。
「ちょっといいかい、リーダー」
「なんだ?」
「この敵、君と女騎士の物理攻撃だけでは少々手に負えないんじゃないかな?」
吟遊詩人が指摘したのは、討伐対象の物理攻撃を無効にする特性の事だった。
リーダーの剣士は当然大剣でいつも戦闘に臨んでおり、私もまた剣と盾を装備して参加している。
どちらも剣による物理攻撃がメインであり、その分魔術での攻撃をする要員はいない。いつもなら吟遊詩人が討伐対象に弱体をかける詩を奏で、私とリーダーで無理矢理押し切っていた。
Cランクのモンスターとなれば、いろんな耐性がついている。今までの手が通用するとは限らない。そう懸念した吟遊詩人の指摘は最もだった。
「つまり、魔術で相手を倒すことができる冒険者を新たにメンバーに加えたいって事か?」
「そうとも!」
「それはいいけど、あてはあるのか?」
「先ほどパーティから追放されてしまって困っている魔導師を見つけたんだ。せっかくだから、彼をメンバーに入れてみないかい?」
おーい、といつもの調子で声をかけると、少し遠くに座っていた男の子がやってきた。
黒いローブを身に纏い、漆黒の木材で出来た杖と古めかしい本をしっかりと握りしめている。あまり明るい印象は受けないものの、どこか謎めいていて、確かに実力はありそうだなとこの時は思っていた。
そう。確かに実力はあった。
Cランク程度のゾンビ100体の群れなど、もはや敵ではないほどに。
どれだけ囲まれようと、黒魔導師が杖を振った瞬間には終わっている。
最初は何が起こったのか、誰も分からなかった。何をしたのか具体的に聞いてみても、「基本攻撃をしただけですけど……」とすっとぼけたような回答が返ってくるのだ。
そんなわけがない。塵一つ残さずゾンビを消し去る黒魔術の基本攻撃など聞いた事がない。魔術に明るくない自分でも分かる。
しかもその攻撃は火属性の魔術だという。火属性の基本攻撃魔術、「炎」でほぼ全てのモンスターが焼き尽くされている。めまいがした。なんだこいつ! と思わず叫びたくなるほどだった。
それだけ協力な魔力をもっていて、しかも仲間を一人も傷つけないように調節しながら相手を殲滅していく。
黒魔術を教わっている身であるはずなのに、なぜかこの世界に存在する全ての属性の魔術を行使することができ、敵をほぼワンパンで葬る事ができるのだ。
それでいて、私達が唖然としていると「もしかして、やっぱり未熟だから怒ってますよね」とのたまっている。謙遜も過ぎると自虐、なんてレベルじゃない。
黒魔術師がいることで依頼の難易度も格段に下がり、そのままパーティが受けられる依頼のランクも当然のように上がった。
Aランクを超えるSランクの魔物でもってしても、彼を止めることができない。
私達は悟った。
彼は、私達のパーティメンバーに留まるべき男ではない。
実際のところ、私達は彼が来てから任務中にやることがなくなった。
最初のうちは個人で自分の実力を高めるために修行したり、新たな技を実力者に教わりに行ったり、とにかく彼の実力に見合う冒険者にならなければいけないと誰もが行動を起こした。
行動を起こして、実際Cランクの依頼は簡単にこなせるようにはなった。Bランク依頼も四人で行ける位には、強くなったはずだ。
けれど黒魔術師には追いつかなかった。とうとう追いつけなかった。見てない間にSランク称号もらいそうになって慌てて辞退してきたって何なのよ。勝手に受けて、勝手に一人で帰ってきて報酬を皆に山分けしてくる。「僕にはこれくらいしかできないから……」とか言いながら。一度本気で血管が切れるかと思った。
みんな、それぞれ複雑な感情を抱いた。そして、彼を加入させたことを後悔した。
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「僕は皆のために頑張ってきたはずだ! それを誰よりも皆が知ってるだろ!?」
黒魔術師は修道女の顔を見る。びくりと肩を震わせた後、「あの、えっと」と慌てて言葉を紡いでいた。
「……確かに、そうだと思います。で、でも、多分、黒魔術師さんは、わたし達のパーティにいなくても大丈夫、なんじゃないかなって……」
「それって、最初から僕なんていらなかったって事!?」
「ち、違いますっ!! えっと、違う、んですけど……」
助け船を出して欲しい、と言わんばかりに視線を送られた。深くため息をつき、私は黒魔術師を見据える。
「貴方ならどこに行ったってやっていけるわ。それこそ、私達が一緒にいる必要がないくらい」
「そういう話をしてるんじゃないよ! 僕は皆の力になりたくて、必死に頑張ってきたんだ、なのに、こんな、また……前の人達みたいに裏切るなんてひどじゃないかッ!! 君達の前のパーティのリーダーは、"お前は地味で冴えないし、無能だから首"って言ってきて……だから、今回は全力で力になれるように頑張ったのに!!」
それであの強すぎる実力を出し惜しみせずに任務に行っていたと。
「貴方ねえ。自分だけ強くなれば皆のためになると思ってる?」
「……えっ」
「ここ最近"一人"で、勝手にクエスト受注してたでしょ。自分から勝手に孤立していったくせに、よく皆の力になりたいなんて言えるわね」
「……そ、れは……」
もう一度、今度は確実に睨みつける。
「皆の力に~とか言い出す前に、0か1かでしか考えられない偏った思考をどうにかした方がいいんじゃない?
冒険者ギルドっていうのは"仲間"と協力し合っていく場なの。でも一人で突っ走って周りを置いていったのは貴方。私達が貴方を捨てるんじゃなくて、貴方が私達を捨てた。
……その事を理解出来ないのなら、もう冒険者なんてやめた方がいいわ」
あたりは静まり返っていた。
私は自分が言いたい事を全てぶつけた。そのつもりで話した。
黒魔術師はぶるぶると肩を震わせて、嗚咽を上げ始める。何も言い返してはこなかった。自分が持っていた道具を回収して、すぐにギルドの扉へと走って行く。
「く、黒魔術師さん、どこへ……」
「知らない!! もう知らない!! 分かんないよ!! わけわかんないよ!! 僕どうしたら良かったんだよ!! やめろって言うんだったらやめてやる!! いらないって言うなら、僕を必要としてくれる人のところに行く!! もうお前らなんて知らない!! ばーーーーーか!!」
修道女が呼び止めるが、彼には届かない。捨て台詞のように幼稚な言葉を並べて叫びながら、黒魔術師はギルドから走り去った。
静まり返ったギルドの食堂。
ポロロン、と琴の音色が響く。
「とうとう彼を追い詰めてしまったね。まあ彼の事だ。Bランククエスト程度しか達成できない我々の事は忘れて、きっとどこかの国でその実力を遺憾なく発揮できるだろうさ」
「……その彼、をうちのパーティに入れたのお前だろ」
「そんな彼を入れるのに賛成したのは、他でもないここにいる全員だけどね」
吟遊詩人は笑顔を浮かべる。凍りついた空気には似つかわしくない、いつもの胡散臭い笑顔だった。
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あれから10年が経った。
私達のパーティは、剣士が"勇者"と呼ばれて、国王に直接魔王討伐の依頼を受けるくらいに強くなった。
修道女も広範囲で皆の回復をできるようになったし、吟遊詩人がかける呪いは一段と強くなった。相変わらずおどおどしてるし、どうしようもない詩を作ってばっかりだけど。
私自身も、多分強くなった。防御できる範囲も広がったし、挑発してモンスターを引きつける役割も身に染みついてきたと思う。
自分たちが強くなっても、相変わらず魔術が使える冒険者は雇えていない。
人の話を聞かない、まともに会話ができないろくでもない奴ばかりで、逆に私達のやることを増やすだけ。あの時追い出した黒魔術師の方がマシだったかもしれないと思うくらい、彼らは偏屈で扱いづらかった。
今日も私達は魔王城へ向かうために、世界を転々としている。
出会うモンスターは全員魔王に陶酔し、魔王のために戦っていた。魔物が忠誠心だなんて、と考えたこともあるけれど、彼らも人間と同じ生き物だ。自我や思想を持っていたってなんらおかしくはない。それでも、"自分たちの命を投げ打ってでも守る"とまで言わせる魔王とは、一体どんな人物なのか。
その答えは、この旅の先にある。
END