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極刑に処す

よろしくお願いします。

件の村から離れた場所に洞窟があった。


入り口には何やら不満げな男が2人座っており、中から聞こえる声が耳に入るたびに、表情がより一層不満げになっていく。


洞窟は短く、入ってから20mとしないところで大きな空間に繋がって終わる。


松明やらを並べた明かりの中で、数十人の男たちが今回の『収穫』で宴を行っており、その中心に身長は2mをゆうに超えた頭領の大男が居た。


「ハハハッ!久々にマトモな食い物だ!みんな食ってるかぁ?!」


大男の呼び掛けに周囲の男たちが歓声で答える。

その反応に大男は満足そうに牛肉の串焼きを頬張った。


「しかし、良かったんですかい?」


いかにも「ケケケ」と笑いそうな出っ歯の男が頭領の大男にそう質問した。


「なんの事だ?」

「あの村ですよ、完全に潰さず、定期的に脅しとった方が良かったのでは?」


頭領の大男がニタリと笑いながら答えた。


「あれは今後の為だ」

「今後……ですかい?」

「ああ、あれだけ派手にやれば嫌でも噂が立つ、『逆らえば容赦無く村を潰す盗賊』が居るってな」


脇に置いた大人の男性より更に一回り大きい棍棒を叩きながら続ける。


「そうすりゃ後はこの棍棒を担いで他の村に行きゃぁ、連中はビビりまくって大人しく食いモンだろうが酒だろうが女だろうが何でも差し出すって寸法よ」

「なるほど!流石頭領!一生ついていきやす!」

「ガハハハ!そうかそうか!」


部下のおだてに、すっかり気を良くした頭領の大男は、他の者達よりもひと回りもふた回りも大きいコップになみなみと注がれた酒を一気に飲み干した。


元々彼らはアルカット王国ではなく、ガリダゴッソ帝国の盗賊だった。

帝国が本格的に彼ら盗賊を駆除する動きを察知して、北のアルカット王国領まで何とか逃げ出した。

その過程で多くの部下を失ったが、流石の帝国も国境を超えてまで彼らを追うことは無かった。

ここアルカット王国には「武神」と呼ばれる王が居るらしいが、既に(よわい)60を超えていると聞く。

そもそも、わざわざ()()()()()()()()()()()()()()()()()

小国であるアルカット王国が帝国並みの人数の兵を討伐に向かわせるとも思えない。


――国境を超えるまでは散々だったが、ツキは自分たちに向いている。


そう思いながら頭領の大男が注ぎ直した酒をあおっている時、薄暗い通路から誰か歩いてきた。


――少女(ガキ)だ。

銀色の長い髪、褐色の肌、育ちの良さそうな服。

こんな荒くれ共満載の空間には余りにも異質だった。


殆どの連中がそれぞれの宴会に夢中で少女に気付かなかったが、入り口近くの数人は流石に気が付いた。


「おい、おい!見ろよ」

「何だよ」

「女だ、ガキだけどよ」

「ホントだ、ヘッヘッヘッ」


ニタニタと笑っていた数人の1人が立ち上がり、少女へと近づいていった。


「お嬢ちゃ〜ん、こんなところになんの用かなぁ〜?道にでも迷ったのかなぁ〜?」


男達は頭領の指示で村の人々は女性であろうと殺した。

少女の顔立ちは良く、後数年もすれば良い女になるだろう。

しかし"おあずけ"をされていた男達には、それが未熟な果実だろうとごちそうだった。


久々のまともな食事に気分がアガり、酒で酔っていた男達は思うべき疑問が浮かばなかった。


――入り口には見張りが2人居たはずだ、彼らはどうしたのか、と。


「俺たちは怖い怖〜い人たちだぞぉ〜、お嬢ちゃんが大人しくく言う事を聞けば……きっとお嬢様ちゃんもキモチ良くなれるぜぇ〜ヘッヘッヘッ」


両手を少女の方へと伸ばしにじり寄る男の言葉に、周囲から下衆(げす)な笑いが続いた。

この状況でも少女は無表情を、男達は恐怖によるものだと捉えた。


少女が上半身を僅かに横へ傾け、にじり寄る男の後ろにある光景を見る。


――人が、2人吊るされている。

1人はルカーン、もう1人はミナと同じ栗色の髪の女性。

どちらも無数のナイフや矢が刺さっており、ピクリとも動かない。

肌は白くなっており、血は流れていない。

恐らくこの洞窟に吊るされるずっと前に殺されたのだろう。

その時「ザクリ」と女性の目にナイフが刺さった。


「イェーイ!目玉だ!確か100点だったよな?だろ?」


ナイフを投げた男が両の拳を上げ、周囲に拍手が巻き起こる。

彼等はまだ少女に気付いていない様だ。


少女は自分の内側に彼等に対して炎の様な激しい感情が沸き上がると同時に、ひどく冷え切った感情が生まれるのを感じた。


少女は上半身の傾きを戻し、再びにじり寄る男に視線を向ける。

あと一歩、前に進めば少女に手が届く。


一瞬、「ヒュンッ」とにじり寄る男の目の前を何かが横切った。


「はへ?」


酔いが回った頭ではそれが何か分からなかった。

もっとも、シラフの状態でなら分かったかは怪しいが。


続いて足元で「ドチャッ」と湿った音。

男が視線を下に向けると、見慣れた腕が2つ、転がっていた。


「へ?」


いつの間にか少女の右手には剣が握られていた。

自分の両腕が――肘から先が、無い。

酔いが回った頭でも流石にこれは分かった。


「あッ!あッ!あ゛ーーーーッ!俺のッ!俺のう……」


洞窟内に響く叫び声は最後まで続かなかった。


――ヒュンッ


再び風を切る音がした。

腕を失った男が左右に()()()


叫び声を聞き、真っ二つにされた男を見て、周囲の男達の酔いが一気に醒めていく。

余りの光景に静まり返る中、少女の声だけが響く。


「本来であれば……貴様達を捉え、然るべき場所で然るべき処罰を与えるべきなのしゃろうが……」


男を真っ二つにしたはずなのに、血の一滴も付いていない剣を少女は男達に向ける。


「今回は特例じゃ、この場にて極刑に処す!」

続きます。

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