王命
前書きを一言書くだけなのに、もうネタが尽きかけています。
「ぐっ……」
――――速い。
リアナはアルカット王に仕える者として、王の側に立つ事を自分の使命としてきた。
それは、その場が戦場であろうとも変わらない。
その為の鍛錬は怠らなかった。
実際、戦場ではアルカット王の側には常にリアナが居た。
だが今は、それが叶わない。
少女となり、以前に比べて体格がかなり小さくなったアルカット王。
普通に考えれば追いつけないはずがない。
しかし、一歩、また一歩と地面を蹴るたびに王の背中が小さくなっていく。
――――『神々の剣』で得た肉体とはこれ程のものなのか。
リアナの視界からアルカット王が映らなくなるまでそう時間はかからなかった。
−※−※−※−※−※−
「こ、これは……」
村に着いたリアナが見たもの――――
崩れた小屋。
燃える家屋。
そしてそこらじゅうに転がる死体。
とても村とは呼べぬ光景が広がっていた。
「王は!?王はどこに!?」
アルカット王もこの場にいるはずだ。
王を探してリアナは惨劇の中を進んでいく。
「王!王!」
しばらく進んだ先――恐らく広場だったのだろう――開けた場所で膝をついて佇むアルカット王を見つけた。
「王!」
うつむいた王の視線の先、王の足元に何か大きなもので潰された肉塊、僅かに残った赤いブレスレットを付けた小さな右手があった。
「王……」
いつの間にか雨が降り始めていた。
それでもアルカット王は時が止まったかのように動かなかった。
どれほどそうしていただろうか。
実際には1分も無かっただろう。
だがリアナには1時間とも2時間とも思える長い時間だった。
「リアナ……」
アルカット王の押し出すような声で時間が動き始めた。
「お前は生存者が居ないか確認した後、急ぎ城へと戻り兵を連れてここへ戻り、村の者を丁重に弔え」
「王は……どうされるのですか?」
「ワシは、この始末を付ける」
「王お一人でですか!?危険です!」
「リアナ、これは――」
アルカット王が立ち上がり、顔を上げ、視線が合う。
「ッ……」
分かっている。
今、王が向けている視線、感情は私に向けられているものではない。
それだというのに、以前の王には無かった凄まじい圧力に息が詰まる。
「――王命である」
続きます。