再会を約束して
お暇なときにお読みください。
(王、王)
(なんじゃ?)
巻き込まれて荷運びを手伝うリアナが周囲に聞こえぬようアルカット王に耳打ちをする。
アルカット王は「お姉ちゃん凄い力持ちだね!」という言葉に気を良くして、徐々に運ぶ荷の大きさが大きくなっていき、今では脚以外正面からでは見えない程の大きさの荷を抱えていた。
(王ともあろうお方がこの様な雑務を……)
(ミナがあの様に頑張っておるのだ、多少手を貸してもバチは当たらんじゃろ?)
そう言ってアルカット王が送る視線の先には懸命に荷を運ぶ少女の姿があった。
確かに、今更「小さいのに頑張ってるね、じゃあ我々はこれで」というのも心苦しい。
仕方なくリアナは王のお節介に付き合うことにした。
−※−※−※−※−※−
手伝いをしながら親子は様々な事を話してくれた。
少女の名はミナ、父親はルカーンである事。
母ミレーナは病気がちで、ルカーン1人で仕事をこなす事も珍しくない事。
見かねたミナが手伝いを申し出た事など様々だ。
街を回りながらコミュニケーションを取る内に、ミナはすっかりアルカット王に懐き、後ろから小さな荷を抱えて付いてきている。
傍から見たら仲の良い姉妹の様に見えただろう。
……いつだっただろうか。
アルカット王がいつの間にかお忍びで街に出かけた事があった。
それに気付いたリアナが慌てて探していると、子ども達から「熊のおじちゃん」などと呼ばれながら一緒に遊んでいたアルカット王を見つけた。
その後、自分の子どもが王と遊んでいたと知った親たちが、そのまま地面に埋まるんじゃないかと思う程の平身低頭の謝罪を見せ、王とリアナがそれを必死になだめた。
……あの時は本当に大変だった。
姿形こそ少女になってしまったが、やはりアルカット王アルカット王なのだ。
自分が仕える王は変わらずここに居る。
リアナの口から自然と笑みがこぼれた。
−※−※−※−※−※−
全ての納品を終え、荷車には空のカゴだけになった。
仕事を終えた親子を街の南口まで送り届ける。
「本日は本当にありがとうございました」
「お姉ちゃんありがとう!」
「なに、気にするでない」
アルカット王はミナの元気な姿を見て満足そうに微笑んだ。
「お姉ちゃん!こんどお家に遊びに来てよ!」
「すみません、うちの娘が……でも、もし来ていただけるのなら、いつでも歓迎します」
「うむ!では近い内にそちらへ出向くとしよう!」
「え、あ、ちょっと……!」
またそんな事を即決で……。
本当にアルカット王はアルカット王だ。
そんなリアナの内心とは裏腹に、ミナは大いに喜んだ。
「やった!やった!お姉ちゃん!約束だよ?」
アルカット王の返答を聞いたミナが嬉しそうに跳ね回った。
「じゃあお姉ちゃん、これ、約束のおまじない!」
そう言ってミナは右の手首にはめていたブレスレットをアルカット王に渡した。
紐で編まれ、青い石付いているが特徴的だ。
編み込みが甘いところから見るに、ミナが作った物だろう。
「それをちゃんと付けて来てね!」
ミナの手首にはもう1つブレスレットがはめてあり、こちらには赤い石が付いていた。
「うむ!約束じゃ!」
アルカット王は渡されたブレスレットを右の手首に通すと、笑顔でそれをミナに見せた。
−※−※−※−※−※−
数日後、アルカット王とリアナは先日の親子の住む村へ向けて南の道を進む。
小綺麗で育ちの良さそうな服を着たアルカット王は、右の手首にはめたブレスレット時折眺めてはご機嫌な様子で、以前ならしなかったであろうスキップなどしながら歩いていた。
「王……この様な事はなるべく控えて頂いて……」
「またそれか?言ったであろう?視察だと思えと」
ならばせめて「この少女が新しいアルカットの王である」と言う事を示す式典の後にしてもらいたい。
ひょっこり現れた少女が後になって実は王だと分かった時の村の人々が心配だ。
後々になって面倒な事になりそうだと思うと、リアナは小さく長いため息をついた。
「あいも変わらず真面目なヤツじゃのぉ」
「王はもう少し真面目にして下さい」
「こういうのはの、メリハリというものが……」
「王……?」
アルカット王が歩みを止め、じっと空を見た。
リアナも視線の先にを追う。
南の空に黒い煙が見えた。
場所は恐らくこれから向かう村。
2人の表情が険しくなる。
お互い有事となれば戦場に身を置く者。
故に分かる違い。
――――あれは生活によって出る煙では無い。
「リアナ」
「はい」
2人は煙の元へと駆けていく。
続きます。