お忍びのアルカット王
今回、区切りのいいところまで書いてからまとめて投稿する方式を採用したので
この話を書いたのは結構前だったりします。
「ランバルト様、式典に使用する……」
「南通りの鍛冶屋に依頼済みです、納期は……」
「ランバルト様、南方で盗賊が現れたとの知らせが……」
「その件に関しては、まず……」
玉座に座るアルカット王から少し離れたところで、ランバルトと呼ばれている若い男が多種多様な報告を受け、指示を出していく。
ランバルトの指示で補佐役たちが次々に動いていく。
かつてのアルカット王は国を守るために尽力した結果、あれよあれよという間に齢60を過ぎ、次期アルカット王を考えねばならない時期になってしまった。
しかしアルカット王は伴侶を持つことなく、子を設ける事も無かった。
さて困ったとリアナに次期王にならないかと言ってはみたが
「私は王に仕える者、自身が王になるなど考えられません」
と、あっさり断られてしまった。
ならばとランバルトに同様の話をしたのだが
「僕は今の職が一番気に入っております、もし本気で僕を王にしようというおつもりなら……国外へ逃げます」
と、爽やかな笑顔で言ってのけてきた。
彼に逃げられては困るので、これも諦めた。
仕方ないので、せめて自分が亡き後も国が維持できるような仕組みを少しずつ取り入れる事にした。
そういった取り組みが軌道に乗った後は、自分に代わる戦力を確保する必要があった。
それが"神々の剣"だった。
結局、アルカット王は"神々の剣"をその体に宿し、新たな少女の肉体を得た事で跡継ぎを探す必要が無くなってしまった。
だからといって王不在でも国が回る仕組みが元に戻る事は無く、今なお絶賛稼働中である。
つまり、何が言いたいかと言うと……
「……暇じゃ」
アルカット王はものすごく暇だった。
あの頃は「これで自分が居なくなる時が来ても安心だな」と頼もしく眺めていたのだが……。
「よし、街へ行く」
「え?お、王!?」
玉座を立ち、スタスタと歩き始めるアルカット王にリアナは驚きの声を禁じえなかった。
「王!勝手に行かれては困ります!」
「ならばオヌシも来ればよかろう、丁度良い、外行きの服を用意せい……ちゃんとした服じゃぞ?」
そう言われてリアナは渋々、アルカット王と街へ繰り出す事となった。
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「ん〜、やはりココのフルーツの砂糖漬けは美味いのぉ!」
アルカット王は大通りに面した食事屋のテラスで甘味を一口、また一口と頬張っていく。
アルカット王は国内の甘味を出す店とそのメニューを全て暗記している程の甘味好きだった。
王という立場とその体格故にやたら目立つため少し遠慮していたが、少女の体となり国民に自身が王であるという事もまだ知られていないので、今はそういった事を気にすることなく食べられると言うものだ。
今のアルカット王は小綺麗な服を着ており、ちょっと育ちの良い町娘のような格好で、リアナもそれにならった服を着ている。
机を挟んで2人が座る姿は人によっては歳の離れた姉妹に見えただろう。
「特にこの橙色のベリーが良い!これはなんと言ったかの?」
「確かオレンジベリーと言って、ここから南方の村で採れるベリーだったかと」
「そうかそうか!この国の甘味は安泰じゃな……うん?」
ふと視線を店の横に向けると、店の横の荷車から荷を下ろすまだ肩まで伸びた栗色の髪が特徴的な小さな女の子が見えた。
荷であるカゴはそこまで大きくないが、流石にあの様な子供には無理があるようで危なっかしい。
「よい……しょ……」
バランスを崩し、カゴがグラリと地面に向けて傾き始める。
「あっ……!」
「よっと」
見かねたアルカット王が駆け寄ってカゴを支える。
「ありがとう!お姉ちゃん!」
「なに、気にするでない」
「あぁ!どうも、家の娘が……ありがとうございます!」
食事屋の裏手から男性がやってきた。
笑顔の似合う、優しそうな男性だ。
どうやらこの少女の父親らしい。
「この歳で手伝いとは、なかなか無茶をするの」
「ははは……手伝うって聞かなくて……」
男性がどこか喜びの感情を混ぜながら申し訳なさそうに答える。
「ん?中身は……オヌシ達が作っておったのか!」
カゴには橙色の小さな果実がぎっしりと詰まっている。
オレンジベリーだ。
「ええ、オレンジベリーは我が家の生産品の1つです」
男性がそう答え、少女が「えへん」と胸を張り「私もしゅーかくを手伝ったんだよ!」と続けた。
荷車にはまだいくつもの荷が乗っている。
「どれ、ワシらも手伝おう」
久々の甘味を味わい、気に入った果物の生産者に会って気分が良かった事、「ここで会ったのもなにかの縁だ」そうアルカット王はこの家族の納品を手伝う事にしたのだった。
続きます。