掴みたい
少女はそこにいた。
霧が立ち込める下界と隔絶する山頂。
小さな水鏡に囲まれた孤島がある山頂。
孤島に浮かび舞う厳かな夜桜がある山頂。
少女はそこにいた。
シャラン、シャララン、シャラララン。シャラン、シャララン、シャラララン。
鈴が水面で哭く。高く激しく踊る舞が哭く。
眼は哀しく閉じられ、何処を定めてるのか知らず。
しかし激情に感慨に亢進し、狂恋に激越に乱舞する。
何を思っているのか、何を訴えるのか。
分からない。解れない。
ただ、哀しく、哀しく、悲しみが溢れる。
ただ、苦しく、苦しく、苦しみが零れる。
少女は躍る。舞う。乱舞する。
夜桜は躍る。舞う。乱舞する。
切実に手を伸ばすように、何かを掴むように、離さないように。
焦がれて焦がれて焦がれてる。
彼方へ流る記憶のように、遠くに去るように、溶け込むように。
落ちて落ちて落ちていく。
艶やかに鮮やかに揺らぐ水面。朧月。
艶やかに鮮やかに揺らぐ水面。花筏。
物憂げに囁く鈴の音は、花の音は、水の音は。
詠う。詠う。詠う。
シャラン。
少女が一つ。願い佇む。
ひらり。
花舞が一つ。願い巡る。
シャララン。
少女が二つ。願い祈る。
ひらひらり。
花舞が二つ。願い伝う。
シャラララン。
少女が三つ。願い恋う。
ひらひらひらり。
花舞が三つ。願い廻す。
優し気に哀し気に微笑むその眼。
何を照らすのか。
分からない。解れない。
鏡花を掴めぬように。
水月を掴めぬように。
分かることはなく、解れることもなく、ひたすらに藻掻く。
藻掻く。藻掻く。藻掻く。
近づけることはなく、近づくこともなく、ひたすらに足掻く。
足掻く。足掻く。足掻く。
そしてそれから。
請願う。恋願う。希う。
それでもやはり。
夜は掴めず。
夢は掴めず。
そしてやはり。
請願う。恋願う。冀う。
天の足夜はほど遠く、現にすらほど遠い。
春夜。
儚さに溢れ満ち、夢に心映え。
夜桜。
けれど、けれど、けれど。
夜は明ける。
朝焼けが満たす。
朝露が満たす。
されど。
少女の掌は何も掴めず。
春を永久巡る。
ある曲にインスピレーションを受けて。