表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

エルとヴァ Day1

 ――1年前の雨の日の夜。


 ミアに連れてこられて、ミアの屋敷に……来たの。わたし。

 だけれど、あの方をなくした悲しみが――心を支配され――すべて満たされてしまって……。


 ミアに何を言われても「ほっといて」としか言えずにいたの。


「……ぇ! ……いて……!? 何が……か……」


 すぐ、そばにいる私に、何かを話しかけてくれているの……。


「……丈……な……の?」


 ――ミアの言葉が、耳に残らず、通り過ぎていくの。


 死にたい。

 ……連れていって欲しかったの、わたし。


「……アリエル」


 あの日。

 ……そればかりを思っていた。



 ピピピピ――ピピピピ――ピピピピ……。


 あ……さ、……か。


 時計を見ると6時30分。

 目覚ましを止める。わたし。


「ふっ……うぅん……!」


 ……さむい。

 もうちょっとだけ……お布団(フトゥン)とぬくぬくしたいの……。 

 けれど、起きなきゃ……。

 まだ眠い……けど、寝床台(ベッド)から()い出る。

 ……わたしは、ゆっくりと起き上がるの。


 木漏れ日の様な遮光布(カーテン)を開け。

 朝の光を部屋に取り入れるの。

 窓も開けて空気も入れ換える。


 ――ビュウ!


 わっ! 外の風を感じる……気持ちいいの。


 寝床台ベッドの横の台に飾ってある、写真立てを見る。


「おはようなの」 


 アリエル(あの方)に朝の挨拶をする。わたし……。

 1年経っても、まだ落ち着かないけど……。

 大丈夫だから……ね? 


 視線を、その横の祭壇に目を向け。

 精霊さんに、祈りを捧げるの。

 今日、1日も、よい日でありますように。


 ねぇ、アリエル。

 これが、この1年の。

 わたしの新しい生活習慣なのよ。


「さっ、朝の支度をしなきゃね……」


 衣服収納棚(クローゼット)から服を取り出し。

 ひとりで寝間着(パジャマ)から中世少女使役服(ゴスロリメイド)に着替える。わたし。


 顔を洗いに1階の洗面所に行くの。わたし。


 床の上に揃えてある上履靴(シューズ)()く。

 じぶんの部屋の扉を開け。

 この部屋を出る。


 ――パタン 



 廊下に出ると、1階に降りる階段を目指して左に向かって歩いて隣の部屋を通り過ぎようとすると、その部屋の扉からミア(あの子)の声が、盛大に漏れ聞こえてきたの。


「喰らいやがりなさいですのよっ!!!」

魚人(サハギン)真空(バキューム)手裏剣(シュリケン)ハートをシャドウケーン!!」


 隣のお部屋は、ミア(あの子)高遮日光棺部屋(プライベートルーム)


「ふふっ。ミアったら」


 ミア(あの子)可愛(かわい)い。

 ここに来て、わたしのお部屋を決める時に……。


「べっ! 別に! アナタが死んでしまうかも……とか! そんな心配で、アタシの隣にした訳じゃないじゃないっ! そ! そうよ! 偶然……! そこしか使える部屋が開いてなかったんだからぁっ!!」


 ……だなんて。

 しどろもどろで喋っていたのも、つい最近かな……って感じてしまう程に。


「また、ミアったら。Vsummonr(ブイ サモナー)っていうの? してたのかなぁ?」


 吸血人(ヴァンパイア)は朝になったら寝ないと身体に良くないのよ! って、本人(ミア)()ってたのに……。


 ま、いっか。

 ミア(あの子)のお部屋の前を通りすぎ、階段を降りる。


 それにしても……。

 この屋敷は広い。

 今でも、どこにどんな部屋がいくつあるのか、まだわからないの……。


 玄関大広間(エントランス)を抜けて、1階の洗面所に着く。

 顔を洗い。歯をみがき。髪を結わえる。

 ひと通りの身支度を整え終わると、鏡の中にきれいになったわたしが映っている。

 

「今朝は嫌な夢……見ちゃったなぁ」


 この屋敷には、ミア(あの子)とわたししかいない。

 でも、ミア(あの子)が教えてくれた話だと、わたしがここに連れて来られる前に、執事の人と2人で暮らしていたみたい。


 だけど……。

 それ以上は、何があったのか分からない。

 執事の人について、詳しい話を聞こうとすると、ミア(あの子)は固くなに「……ごめん」しか()わない。


 こっちこそ、アリエル(あの方)の事は、ミア(あの子)になにも()えてない。

 今度、ちゃんとアリエル(あの方)の話を、ミア(あの子)にしておかなきゃ……。

 

 屋敷にいる時のわたしは、中世少女使役服(ゴスロリメイド)を着ている。

 あの日の夜。

 ここに連れて来てくれた恩を、少しでもミア(あの子)に返したい。

 そう思って、何か出来ることはないかと……わたしからミア(あの子)に願い出たの。


 そうしたら……ふふっ。ミア(あの子)は……。


「アタシは、家政婦淑女(ハウスキーパー)の真似ごとをさせる為に、アナタをここへ連れてきたわけじゃないのよ! ただ……少しの間だけ、いっしょにいてくれれば…あぅ」


 だなんて。

 そんな事をしなくてもいいって、すごい剣幕でわたしの願い出に反発していたの。


 でも、試しに中世少女使役服(ゴスロリメイド)に着替えて、その姿をミア(あの子)に見せてみると、まんざらでもない反応だったの。


 あの時の、ミア(あの子)が顔を赤くした顔……可愛かったなぁ。


 屋敷内の掃除と洗濯を簡単に済ませて。

 屋敷にある厨房に足を向け、歩く。

 わたしの朝御飯(ゴハン)の食事の準備と。

 ミアが朝寝から起きた時の、お昼御飯(ゴハン)の支度と。

 わたしのお弁当を作ってから、厨房の中で、1人で朝食をとる。わたし。


 今日のわたしの朝御飯(ゴハン)三日月麦食(クロワッサン)2つ。

 カリカリに焼いた塩漬豚燻製肉(ベーコン)かき混ぜ卵焼き(スクランブルエッグ)

 野菜盛(サラダ)赤茄子果汁(トマトジュース)なの。

 故郷の国(エルフィンランド)で暮らしていた時には、こんな料理は食べたことなくて、すごくおいしいの。


 ――もくもくもく。


 はぁ……。

 ミア《あの子》に、アリエル(あの方)の事を……。

 どうやって伝えればいいかなぁ?


 1年前のあの日。

 大切なアリエル(あの方)をなくしたの。わたし。


 アリエル(あの方)とは、この国(ヴァンパニア)隣の国(ワウガリー)で出逢ったの。

 故郷の国(エルフィンランド)のしきたりで、真に愛する伴侶となる殿方を見つける旅の途中で出会ってしまったアリエル(あの方)と過ごした10年は、長いようで短くて。


 とても楽しかったの。


 だけれど、やっぱり人族の殿方は寿命が短く、身体も脆くて。

 療養の為に、この国(ヴァンパニア)に来たとたん。

 アリエル(あの方)が病で死んでしまうなんて……。

 私には想像が出来なかった。

 真に愛する伴侶となれたかもしれないアリエル(あの方)……。


 大切なアリエル(あの方)がいない失意と後悔と故郷の国(エルフィンランド)へ帰る事が出来ない喪失感。

 何より形を失ってしまったこの心が、絶望の底へとわたしを叩き落としたの。


 アリエル(あの方)には身寄りがなかったの。

 遥か遠い海の向こうからやって来た、島国(エルビス)人の方だったアリエル(あの方)の亡骸を、わたし1人で弔い、火葬し、共同墓地に墓を建て埋葬したの。


 その時の事を、ミア(あの子)に話すと、 ミア(あの子)も 大切な人を亡くしていて……。

 わたしは、そうとは知らずにアリエル(あの方)のお墓の前でずっと立っていたんだけれど……。


 どうやらその隣が ミア(あの子)もの大切な人の墓だったから、 ミア(あの子)はそれで何があったのかと思い、わたしに声をかけてくれたそうなの。


 ……本当(ほんと)ミア(あの子)って、気の毒なくらい素直じゃなくて……優しい人なんだから。


「どうせ行く宛がないって言うんだったら、誰も住んでいないこの屋敷に入ればいいじゃない……。ふ、ふん! 好きにすればぁ!?」


 あの日の夜。

 ミア(あの子)が掛かけてくれた言葉は、今も、わたしのこの心から片時も離れたりしないの。


 ――ぺろり。

 さて、朝御飯(ゴハン)も食べちゃったし、後片付けをして、今日のお仕事(アルバイト)は朝の勤務(シフト)だからそろそろお外に行く準備をしなくちゃね。


 朝御飯(ゴハン)の器を洗う。わたし。

 器を乾燥機に掛け、乾いたら布巾で水気を拭いて、片付けを終える。

 そしてわたしの部屋へと戻り、お気に入りの中世少女使役服ゴスロリメイドを脱いで、衣服収納棚(クローゼット)に戻してから、外へ出かける用のお洋服。軽装服(カジュアル)に着替える。わたし。


「さっ、アルバイトに行く前に、おやすみと行ってきますの挨拶をミアに()わなきゃ」


 ミア(あの子)の部屋の前へ行き、外から声を掛ける。

 ――トントン。


「ミア? おはよー。わたし。アルバイトに行ってきますなの」


 ミア(あの子)が眠たそうな声で、お部屋の中から返事をしてくれる。


「うー、ティアー なにー? もう行っちゃうのー?」


 そして部屋から出てきて、わたしに顔を覗かせてくれる。


「うん、行ってくるね。あ! いつも通りにお昼御飯(ゴハン)を食堂に用意しておいたから、お腹空いちゃって起きたら食べてね」


「わかった……それよりもティアー」


 ミア(あの子)の顔が近づいてくる。

 ミア(あの子)の唇がわたしに近づいてくると……。


 ――ちうう。


「……ん」


 チクリと痛みが首元に伝わる。わたし。


「もう、ミアっていつも急なんだから!」


「ありがとう、ティア。今日も美味しかったよ」


 そういって赤面するミア(あの子)

 本当(ほんと)積極的なんだか、そうでないのか、よくわからないの。


「お粗末様。じゃあ行ってくるね。ミア」

「ティア、行ってらっしゃい。気を付けるのよ」


ミア(あの子)と顔合わすのはいつも決まって、この時だけだ。


――バタン


「さぁーって、行きますか。」


 今日もいい天気。

 お日様も気持ちいいし、風も綺麗。

 こういう日は、外でポカポカ日向ぼっこでもしていると気持ちいいよね。


 そんなことを思いつつ、わたしはお世話になっている喫茶店(カフェ)に足を向け歩いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ