………その時、俺たちの夏は終わった。
「試合終了」
その声を聞いた瞬間、俺たちの野球が、夏が、俺の『夢』が終わった。
その後の高校生活は何かが抜け落ちたように過ごしていたことを微かに覚えている。それはそうだろう。何せ一度しかない高校生活、その一番の目標としていたものがなくなってしまったからだろう。
俺はもとから心の強い人間ではなかった。それは高校最後の夏、地方大会決勝戦にサヨナラ負けを決められた側のキャッチャーだった俺にはあまりにも大きな荷を背負わせた。
チームのみんなはみんな口をそろえて「お前だけのせいじゃない」だとか「頑張ったよ」とか俺を慰めるような言葉をかけてきてくれた。だが逆にそれがより俺の心を締め付けた。
最初から最後まで投げぬいたピッチャー、鉄壁の守りだった内野陣、すさまじい足や肩で何度もピンチを救ってくれた外野陣、そのすべての頑張りをこの俺が最後の最後に壊してしまったんだと思うと…………。
そんな俺は野球なんて自分からする気も起きず、かといって勉強に身が入るわけでもなく、就職する気もなかったために、とりあえずは大学に行っておけば大丈夫だろうという謎の信頼をもって大学に進学した。大学といってもろくに勉強なんてしてこなかったので、一応持っている実績から推薦を受けて入学した。
「大学デビュー」という言葉があるように、こんな抜け殻のような自分でも変われる何かが大学にはある。そう信じていた大学生活は自分が想像していたものとは全く別物のようだった。自分の高校時代を知った人からちやほやされるのが毎回、自分の失敗を引きずり出されているように感じて苦痛で、嫌で仕方なかった。だから距離を置きだした。
すると今度感じる感情は「孤独」そのものだった。何をするにも自分のみの生活。自分から近づこうにも前のように自分の過去を知った人から同じようにちやほやされるのが恐ろしくて足が動かなかった。
そんな俺だったが一つの楽しみが増えた。
前々からやっているゲーム「グラウンドスタジアム」。これは本格的な野球ゲームなのだが、操作するキャラクターが可愛げがあり操作もさほど難しくないために幅広い層から人気の野球ゲームらしい。高校までは練習の時間もあってなかなか遊ぶことができなかったが、大学生となり自分の体で野球をすることが嫌になってきた俺にはうってつけのゲームだった。そしてこのゲームには最大の特徴がある。「世界中のプレイヤーでチームを組んで“甲子園”という大会に出れることだ」。
ここで俺の第二の野球人生がこのバーチャルな世界で幕を開けようとしていた。