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寝取られなど、言語道断である

視点:ミカゲ

 リアナちゃんを見失い、私は焦っていた。

 彼女はまだ目覚めたばかりで、調子も万全ではない。またいつ倒れるかも分からないのだ。だからこそ私が常に見守ってなくてはいけなくて――


 ……いや、本当はこんな事がおかしいのは分かってる。

 実際のところ、彼女は私の恋人でもなければ肉親でもない……こんな風に付け回すなんてダメに決まってるんだ。彼女もいい迷惑な事だろう。


 だけど、だけどね――私の気持ちは本物なんだ。あの時、彼女を一目見た瞬間、これが恋だと自覚した。男だった前世の頃でも成し得なかった初恋というものを、彼女はいともあっさりと私に授けてくれたんだ。


 彼女が美少女だから気になっていたのは確かだ。けど今は違う。

 彼女じゃなければダメなんだ! 私を満たしてくれるのは彼女しかいない!


 今ならハッキリとそう言える。

 なればこそ、私は彼女を見守ることを決してやめるわけにはいかない。

 嫌われても構わない。彼女が私を愛してくれるまで、私は彼女のために行動し続ける! もう決めたんだ。


 出来れば嫌われたくはないけどね……。


 よし、気持ちの切り替えは完了した。そうと決まれば、冒険者ギルドに向かおう。彼女もきっと、あれからどうなったのか知りたいはずだ。


『瞬歩』を使い、ギルドまで一気に移動する。

 くっ、二日間徹夜で宿屋を見張っていた所為か、動きが若干鈍いな。




 ギルドに到着した私が扉を開けると、そこは相変わらず冒険者でごった返していた。神経を研ぎ澄まし、辺りを見渡すがリアナちゃんの姿はない。なんだか私と目が合った冒険者の人たちがやたら目を逸らして避けられたが、おそらく徹夜明けのこの酷い顔を見て気を悪くしたのだろう。


 埒が明かないと感じたので、いつもの受付嬢さんの元へと駆け寄った。


「ふんふふーん♪ あっ、冒険者の登録ですか――ぶっ! ミ、ミカゲ()()……ど、どうしたんです?」

「神官服の……いや、リアナさんを見なかったか?」


 心に余裕がないからか、それともリアナちゃんを想う心がそれだけ強いからなのか、少し言葉が荒くなるもののいつもは上手く話せない私の口が流暢に動く。やはり、恋は人見知りを治すのかも知れない。


「え、またリアナちゃん……? 本当にどういう関係で……あ、ええと。そういえばさっき来ましたよ」

「やはり、ここに来ていたのか……」

「ええ、何だか一緒に居たパーティの二人が来てないかって聞きに来たわ。いないって答えたらそのままギルドから出て行ったけど」

「……そうか、ありがとう」


 入れ違いになったか……今の話だとまだそう遠くには行ってない筈だ。

 私は受付嬢さんに背を向け、彼女を追いかけようとした――その時。


「ああ、そう言えば……リアナちゃんが出て行くとき、近くにいた冒険者パーティが彼女に話しかけて居たわね」

「なに……?」


 不穏な言葉を呟き始めた受付嬢さんに、私の足が止まる。


「入り口辺りで急に話し始めてね。何だか、リアナちゃんも真剣な様子で聞き入ってたわ」

「どの、パーティだ?」


 冒険者パーティ……どこだ、どこのパーティなのか。それが重要だ。

 評判の良いパーティならそれでいい、ただの親切という事で安心できる。


 だけど、もし――もしも私が知っている中で、最悪な部類の奴らだったら。


「確か、『白銀の棘(シルバーソーン)』の人達だったかしら」


 ――――最悪な予想は、なぜこうも当たってしまうのだろうか。


白銀の棘(シルバーソーン)』――パーティ人数10名、全て男性で構成されているC級冒険者パーティだ。ランクの割に実力が高く、連携が得意なテクニカル型のパーティというのが一般的な評価であろう。


 だが、裏では全くいい話を聞かない劣悪な集団である。

 最も良く聞くのは、女癖が非常に悪いという事だ。


 リーダーの男を私も一度だけ見たことがあったが、外見はホストのような優男、金髪の髪に赤のメッシュを入れている典型的なチャラ男のような印象だった。


 絶望的な心境となった私に、受付嬢さんの次の言葉が更なる追い打ちをかける。


「そうだ! 確か一緒に出て行ったのよ、あの人達と」

「――――」


 なんて、ことだ……あんな奴らに、付いて行ったのか。

 何を言われたのか知らないけど、ロクな事になるはずがない。


 チャラ男、美少女、悪い噂、男性パーティ……絶対ヤバいだろッ!?

 安心できる要素が皆無じゃねぇか! ふざけんじゃねぇぞ!


 このままでは私のリアナちゃんが、寝取られる……! いやだっ!


 いやまあ、寝取られるも何もまだ恋人でも何でもないわけだが、チャラ男の女となったリアナちゃんなんか見た日には私の精神は完全に砕け散る、むしろ死ぬ! 即死技すぎるでしょ。


 くそ! 前世でも目障りな存在だったが、現世でも私を苦しめると言うのか。

 おのれ……おのれ、チャラ男! 貴様に大事なモノを奪われてたまるか。


 これだけは、使いたくなかったが仕方がない。

 私は、封印していたある剣豪スキルを解放する。


「我が宿敵――今定めん!」


 これぞ――『宿敵感知』

 自らが生涯で一番の強敵だと定めた相手を絶対に逃さない、宿命スキル。

 故に、一度定めてしまったら二度と使えないスキルでもある。


 その相手を倒した時、スキルは消え去り剣豪への更なる道が開ける……らしい。

 しかしそんなの関係ない、私は生涯の相手にリアナちゃんを選ぶ。


 けど、決して間違った選択じゃないだろう。

 何故なら彼女こそ、生涯付き合っていく強敵といっても過言ではないからだ。

 ふふふ、これで彼女の顔を思い浮かべるだけで居場所が分かるぞ。


 正直、常時監視出来るような関係にはなりたくなかった。

 彼女のプライベート空間まで侵しかねないし、そんなのは私としても嫌だ。

 こんなことしたくなかったんだよ私は……全てはチャラ男が悪い。


 あの糞野郎が、私からリアナちゃんを寝取ろうとしたのが全て悪いんだ!

 彼女は私のモノだ、私だけのモノなんだ! 誰にも渡すものかッ!!


 NUuuuu(ぬううう)、見える! 見えるぞ!

 今の私にはリアナちゃんのいる場所が手に取る様に分かってしまう。


「待っていろ……人のモノに手を出す輩には、天誅を喰らわせてやる」


 私は愛刀、圧切長谷部(へしきりはせべ)に手を這わせ……静かに瞑想する。

 そうか、お前もヤリチン共を斬りたくて仕方がないか。


 ならば共にゆこう! 悪漢共を切り伏せ、我が最愛の姫を取り戻さん!!

 敵は――ん、どこだここ? まあいいや、行こう。

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