断罪せし天秤
視点:ミカゲ
こうして、私とリアナちゃんは無事にパーティを組むこととなった……のだが、その際に深刻そうな態度で彼女からある事実を聞かされた。
「あの! ミカゲさん、その……ずっと、言いそびれていたんですが。実は、わたしっ……神官じゃないんですっ!!」
私にしがみ付き、震える声で。
本当は盗賊の職業だという事、あの2人から説得され神官の服を着てクエストに出かけてしまった事など……最後の辺りでは涙を流しながら、話してくれた。
「嘘を付いていて、本当にごめんなさい! 話す機会は、いくらでもあったのにっ……怖かったんです。こんなわたしを受け入れてくれたミカゲさんから、失望されてしまうのが」
リアナちゃんはそう言って何度も私に謝って来たが、正直な話、彼女の職業などどうでも良かった。何故なら、私のやる事は変わらないからだ。
――――命を懸けて、リアナちゃんを護る。
共に行くと決めてから、とっくに決意していたことだ。
故に、その程度の事で彼女を嫌いになるなどあり得ない。
だから、「気にしてない、大丈夫だよ」と彼女の頭を優しく撫でながら慰めると、心が落ち着いたのか、彼女は安心したように身を寄せてくれた。
これで何の憂いもなく、全てが解決したのだと思った。
しかし、次の日になり別の問題が出て来る。
なんとギルド登録の際、リアナちゃんの職業は神官となっており、知らぬ間に彼女は職業を詐称してしまっていたのだ。
冒険者の間において、職業詐称というのは非常に悪質な罪となっている。
例えばアテにしてパーティを組んでいた者が全く使えない人物だった場合、下手をすれば皆全滅してしまう危険もあるのだから、重い罪となるのも無理はない。
本来なら、そう言った事実に気付いたらすぐギルドに報告すべきであったが、私はその事を話さなかった。本人に騙す意思があるなし関わらず、詐称した人間は確実に牢の中へ入ることになる。
リアナちゃんを冷たい牢獄へ入れるなど……絶対に認められる事ではない。
私はすぐにリアナちゃんに事情を話し、誰にも言わないように釘を刺した。
日々膨大な数の冒険者達が新たに入ってくる都合上、いちいち個人の持つ職業などを確認することはない。
嘘でも何でも付いてやる。あらゆる脅威から、彼女を護ると決めたのだから。
その日以来、周りを騙しながら二人で暮らしていけるだけのお金を稼ぐ日々を過ごす事となった。それでも、楽しく生活する事が出来たんだ。
好きな人と一緒に居られるだけで、幸せだったから。
彼女の笑顔が私に向けられるたびに、心が温かくなった。
***
「今日は何のクエストにしようか? リアナさんは何か希望はあるかい?」
「ふふっ、ミカゲさんったら」
「え? なにかおかしなことを言ったかな?」
「だって、なんだか今日の献立はなにが良いみたいな聞き方をしてくるので……少し面白くて」
「そういうつもりで言ったわけではないのだが……すまない」
「あ、いえ! 別に変じゃないと思うんです。わたしの方がおかしいのかも!」
「いや、私の方が……」
「いえ、わたしが……」
「…………」
「…………」
しばらくお互いの顔を見つめ合い、どちらからともなく笑い合う。
最近は、こういう風に砕けた調子で彼女と過ごしている。
最初に会った時の畏まった様子も消え、自然体となった感じだ。
私も一緒に居る時間が増えたおかげで、大分素の自分を見せられるようになったと思う。
色々な困難はあったが、私達は優しい空気の中で穏やかに過ごしていた。
だけど――
ギルドの中へ入ると、いつもと様子が違っていた。
受付嬢さんのいるカウンターには、大勢の騎士と、高位の神官らしき男が詰め寄っており、異様な雰囲気を発していたのだ。
受付嬢さんと何かやり取りをした後に、神官らしき男が大きな声で宣言した。
「聞け冒険者共! 私の名はレドラス! 国王の命令で王都から来た、大神官である。今日ここに来たのは他でもない――諸君らの職業を確認しに来た!」
その言葉でビクリとリアナちゃんの肩が震え、怯えた表情でこちらを見た。
彼女の身体を優しく支えながら、心の中で舌打ちをする。
――なぜ、このタイミングで?
運命は一体、どこまでリアナちゃんを苦しめれば気が済むというのだろうか。
ようやく彼女の心も落ち着き、平穏が戻って来たと思っていたのに。
「従わぬ者は、国に逆らう反逆者として扱う! さあ、こちらに並べ冒険者共!」
そう言うと、レドラスと名乗った大神官は懐から何かを取り出した。
「これは王家に伝わる、真実の天秤と言われる聖遺物だ! この聖遺物の前では、どのような偽装魔法も通じぬことを覚えておけ。では、検査を始める」
そう言って、大神官と言われるものが天秤を一人の冒険者にかざすと、その者の職業が上に浮かび上がった。最悪な事に、その聖遺物の効果は……その人の職業が全員に見えるような代物だったのだ。
「ぁ……あぁ、ミカゲさん……わ、わたし、どうなっちゃうの……?」
目じりに涙を浮かべ、縋る様に助けを求めるリアナちゃんに……私は。
――何も言葉を返す事が出来なかった。




