新たなる決断
視点:ミカゲ
疲れてしまって、ロクに素振り訓練も出来ないまま私が家に戻ると、玄関にいたリアナちゃんに突然抱き付かれた。幸せ過ぎる感触に昇天しそうになってしまったが、ふと彼女の顔を見ると――泣いていたのだ。
「リアナさん?」
「朝起きたらっ! ミカゲさんが隣にいなくて……ひっぐ、もしかしてわたし、また捨てられちゃったのかと思って……っ」
「そんな事はしないよ。ずっと傍にいるから」
「……ミカゲさんだけなの。もう、わたしには何も残ってないんです」
「ごめんね、勝手にいなくなって。一言、言っておくべきだったね」
私の胸で泣く彼女の頭を優しく撫でながら、傷つけてしまった自分を恥じた。
今のリアナちゃんの状況を誰よりも分かっていたはずなのに、寂しい思いをさせるなんて、つくづく至らない。
もっと人生経験が豊富だったならば、ここで気が利く一言でも言えたのに。
無駄に歳ばかり食って、人とのコミュニケーションを拒否してきたツケが回って来たという事なのだろうか。
しっかりしろ‼ 年上の私が彼女を支えてあげなくて、誰が支えてあげられるというのだ。ウダウダと考え込む前に、やるべきことがあるはずじゃないか。
「リアナさん。落ち着いたらで良いんだけど、今後の事についてそろそろ話さないか?」
「こんごの、こと? えっ、ミカゲさん、まさか、わたしと別れ――」
「いや、そういうことではなくて! 冒険者として、これからどうしたいのか聞くつもりだったんだ。不安になるような聞き方をしてすまない」
「冒険者として、ですか?」
「冒険者になるくらいだから、何かやりたいことがあったんじゃないのか?」
「村が貧しかったから。お金を一杯稼ぎたくて冒険者になったんです」
なるほど、そう言う事なら私一人でクエストをこなしても大丈夫そうだ。
稼いだお金をリアナちゃんに渡していけば、リアナちゃんの目的も果たせるし、私もリアナちゃんと一緒にいられてwin―winという奴じゃないか?
元々私の様にうだつの上がらない元男が、こんな美少女と無償で生活できるなどおかしかったのだ。リアナちゃんのためならいくらでも払うよッ!
ちょっと自分を卑下しすぎの様な気もするが、なんだっていい。一緒に居られるなら全然構わない‼
「それなら心配ない。お金の方は私が何とかするから、大丈夫だよ。今後は家でくつろいでいてくれ。貴女を危ない目には二度と合わせないから安心して欲しい」
あくまで、私の家でというところがミソだ!
さりげなく、家に留めようとする自分の浅ましさを実感しちゃうが気にしない。
何なら、このままリアナちゃんのパトロンになっても構わない気持ちだった。
真剣な面持ちでリアナちゃんを見つめている裏で、実は彼女のパトロンになりたいなどと思いを馳せている事に、絶対に気づかれてはいけない。それこそ見捨てられてしまう――私が!
そんな緊張感もあり、今までの人生でもした事がないくらい真剣な声色となってしまった。
「いや、です」
「えっ? な、なぜ?」
だが、リアナちゃんの口から出たのは否定だった。
完璧だと思っていた薔薇色計画を拒否られた私は激しい動揺に襲われてしまう。
「だって、わたしがミカゲさんと一緒に居たいのは、お金のためなんかじゃないから。そんなの、いらない。ただ、傍に居てください。寂しいのは、もういや……」
「…………」
ぎゅっと私に抱き付く力を強めた彼女を見て、私はまたしても間違ってしまった事に気付く。何がパトロンだ、馬鹿じゃないのか。
お金で彼女の時間を買おうと無意識に思ってしまった証拠ではないか。
汚い大人のような思考に、嫌気が差してくる。
人間関係に、お金の問題を持ち込んだら――純粋では居られなくなってしまう。
こんな簡単な事にすら気付かなかったなんて。
ごめん、リアナちゃん……貴女の気持ちを、踏みにじって。
傍に居て欲しいのは、私も一緒なんだ。リアナちゃんとずっと一緒に居たい。
じゃあ、私が取る行動は一つだけだ。
「なら、一緒に行こう」
「えっ……?」
「冒険者ならば、自分の食い扶持は自分で稼ぐものだ」
危ない目に合わせたくないとか、家にいて欲しいなど、籠の鳥のように彼女を扱うのはもうやめよう。危険があるなら、全部私が対処すれば良いだけだ。大事なのは、一緒に居る事なんだ。
だから。
「リアナさん――私と、パーティを組まないか?」
私は、決意した。




