乗り切った危機
視点:ミカゲ
正体不明の黒いコートを纏った黒サングラスの男と変な拮抗状態となる。
さっきは気付かなかったけど、こうして冷静に見ると――この男、やばいかも知れない。
こんな寝間着で勝てるような相手では無さそうだ。
ホントに、どこまで迂闊なんだろうか私は。
「そう睨むな。別に戦いに来たわけではない」
睨んでるんじゃなくて、元々こういう眼なんですが。
ともかく、戦う気があちらにない事が分かり一安心だ。
力量差は正確には分からないが、少なくとも私の倍は強そうだ。
それくらいの差があるような気がした。
「だれだ?」
私には、初対面の相手に対してぶっきらぼうに話しかけなきゃいけないルールでもあるのだろうか。最近はこういう事も少なくなってきたんだけどね。
やはり、リアナちゃんが傍に居なきゃこんな奴なんだ。
「俺の名はカイン。お前が危険分子かどうか判断するため、ギルド支部から来た」
「危険分子……?」
「お前は同じギルドに所属していた連中を殺した。例えどんなクズであっても、仲間だった者を平気で皆殺しに出来るような人物を手放しで解放したりするはずがないだろう?」
「…………」
おそらく、あの事を言っているのだろう。
テルラーズと、その部下たちの殺戮。
ギルド所属にも関わらず、仲間殺しをするような人間は警戒される。
あの場では釈放されたが、何かしらの対策は打たれていると思っていた。
それに……リアナちゃんを助けるためだったとはいえ、殺したのは事実だ。その事に反論するつもりなどない。
「今までお前達をずっと観察していた。もしも、危険だと判断したら始末するためにな」
「私はともかく、リアナさんは関係ないだろう……」
「いや、そうとも言えないだろう? あの女がお前を扇動し奴らを殺させたとも考えられる」
「リアナさんは、そんな事はしない」
「ふっ、冗談だ。だが俺は見極めなきゃならない。ミカゲ、お前が今後――人殺しをしないのかどうかを、な」
今後もと聞かれ、私はリアナちゃんが再び危険な目に合う事を想像した。
また奴らのような人間が、リアナちゃんに乱暴していたとして――殺さないなどと言えるのだろうか?
「お前は――二度と人殺しをしないのかと聞いてるんだ」
「……わから、ない」
保身を考えるなら、しないと答えるべきだったのかも知れない。
だけど、私にはそう言えなかった。
リアナちゃんを酷い目に合わせるような奴らを、許せるはずがない。
だからこそ嘘は付けなかった。
「彼女に危害を加えるような奴らがいたら……どうするのか、わからない」
「そうか」
一陣の風が吹き、しばらくお互いが沈黙する。
もしかしたら、ここで殺されるかもしれない。
そんな事をボンヤリと考えていると、男が背を向け。
「今回は見逃してやる。ギルドの方にも、問題ないと報告してやろう」
「……良いのか?」
「お前が連れを大事にしているのは良く分かった。殺害理由も報告書の通りだろうと判断したまでだ……それに――」
こちらを振り向き、男がサングラスを取ると――なんとオッドアイの眼だった。
紅と金の瞳が私を見据えている。
「死に装束を着て、俺の前に立つような良い女を殺すのは惜しいからな」
「……えっ?」
そう告げると、男は風の様な速さで去って行った。
何か、勘違いしたまま。
「これ、寝間着なんだが……」
私の呟きは、掻き消されるように風に流されていく。
こうして何だか分からないけど、危機を乗り切ったのだった。




