光と闇の戦い
視点:ミカゲ
窓から暖かな日差しが降り注いでくる。
新しい朝が再び来たようだ……だが気分は優れない。
何故なら私は寝てないからだ! やばい、マジで寝てないわ~!
いや、自慢してる場合じゃないッ!!
朝になったにも関わらず、なおも私の背中に柔らかな肉体を押し付けているリアナちゃんをどうしたらいいのかわからないのだ。
すりすりと小刻みに動かれる所為で、私の睡眠力が煩悩力に負けてしまったじゃないか!
返せよ……私の睡眠時間を、返してくれ!
いかん、変なテンションになってるな。朝から私は何を考えてるのだろうか。
あとこんな状況で何なのだが、実は真面目にリアナちゃんとの今後を考えていた。
リアナちゃんがどうしたいのか。
今の態度を見るに、私と一緒に居ても嫌じゃないのは明らかだろう。
明らかって言うほど、自信があるわけでもないが。まあ、大丈夫のはずだ。
だけど、現状では私と彼女は同居しているだけに過ぎない。
ハイカラな言い方をするならルームシェア? いや、ちょっと違うな……馬鹿なんだからあまりオシャレな言い回しは止めよう。
とにかく、だ! あの二人がパーティを解散したと周りの冒険者たちに言うのも時間の問題だろう。その時、私の傍にいるリアナちゃんに対して皆がどう思うか……真剣に考えていたんだ。
実情はともかく、A級とD級が一緒に行動するというのは非常に目立つ。
まあ、私の悪名の所為もあるのだけどね……! くっ、私が何をしたというのか。
そこで、私には二つの選択肢が出て来る。
ひとつは、リアナちゃんには家で留守番をさせて、私は通常通り冒険で稼いでくる人妻スタイル!! これは、まさに昔俺が求めた……ごほん! 私が求めた、理想的な形だろう。
危険な冒険から家に帰れば、温かい料理を準備した妻と子供たちが私を出迎えて……くぅ、泣けてきた。まさに男の本懐‼ 子供作れねーだろとか細かい事なんてどうでも良くなるくらい、凄まじく魅力的なプランだ。
でも、これは私の一方的な願いだから、ひとまず保留だ。
大体リアナちゃんは冒険がしたくてこの街に来たと考えると、家にずっと居ろという亭主関白スタイルを押し付けるのはあまりに非道ではないのだろうか?
新妻になって欲しいけど、欲望を押し付けるのは違う気がする。
うーん、難しい……‼
いや、直接聞けば良いだけの話だから難しくもないんだけどね。
人に聞くというのを後回しにしてしまうから、毎回こんなに時間を無駄にしちゃうんだろうな私は。
おっと、考え事をしてたら日課の素振り訓練を忘れる所だった!
朝に少しだけ刀を振らないと、戦闘での調子が掴めんのだよな……あんなに父から仕込まれたというのに、微妙に不出来な息子で本当にすまない。
リアナちゃんを起こさぬよう、ゆっくりと私は部屋の外へと出た。
そして刀を取り、玄関を出ていつもの素振りエリアまで移動した際に、大変な事に気付く。あっ、しまった。リアナちゃんに気を張り過ぎて、着替え忘れてしまった!
真っ白で無地の着物のような姿で外に出るのは割と恥ずかしい。
しかも動きずらい……!
いや、待て。これは逆に良い訓練になるのではないだろうか?
それに着物っぽい服を着て刀を持つと、時代劇の登場人物になった気分になれてテンション上がるな。男にはたまらんシチュエーションじゃないか。
「いるのだろう? 出てこい」
こういう時代劇の登場人物のような台詞を言ってみたかったんだよなぁ。
……いや、待て。朝から何やってるんだマジで。
冷静に考えると白い着物着て刀持って自宅の庭でぶつぶつ何か言ってるアホ女じゃないかこれ? うわああああああああああ! 中二なんて卒業したつもりだったのにいいい……!
自分のやっていることのアホさ加減に、後悔し始めていた。
だがその時、奇跡が起こったのだ。
「クックック。流石はA級冒険者ミカゲ――この俺の存在に気付くとは、な」
「……えっ?」
なんと私の糞恥ずかしい発言をカバーするかのように漆黒の服を纏ったサングラスの男が木の裏から出て来たのだ。なんですか、その恰好……カッコいいんだけど。
「ここで俺達がやり合えば――街が消えるぞ?」
しかも、台詞が……アニメキャラみたいだね、貴方。
キャラが濃すぎる漆黒の男と朝から白い着物を着た私は、光と闇のような構図となってしばらくお互いを見つめ合っていた。
えっ、なんなのこの展開!?




