寂しがり屋
前半視点:リアナ
後半視点:ミカゲ
ミカゲさんから貰った服を着ると、彼女の匂いがわたしを包み込みました。
シャンプーと体臭が混ざった、甘く爽やかな匂い。
ミカゲさんの匂いを嗅ぐと、なんだか落ち着きます。わたしは一人なんかじゃないって実感できるような気がしました。だけど……まだ足りないんです。これだけじゃ心がすぐに寂しくなっちゃいます。
「サイズは大丈夫かな? 特にその……む、胸とか」
顔を僅かに赤くし、目を逸らしながらわたしにそう言ってくる彼女がとても愛おしく見えました。ふふっ、ひょっとしてミカゲさんは胸にコンプレックスがあるのかも知れません。
そういえば、お風呂の時もやたら見ないようにしていましたからね。ひょっとしたら、気分を害してしまっていたのでしょうか。確かにミカゲさんのは大きいとは言えませんでしたが、わたしみたいに何の取り得もなく、胸が大きいだけの女にそこまで引け目を感じなくても良いのに。
でも、そんなところも可愛いです。
不思議なものですね。当時は怖いとさえ思えていた彼女にこんな気持ちを抱くなんて。だけど、今のミカゲさんを見たら、誰もがそう思ってしまうでしょう。
怖いと思われる原因である鋭い目付きが和らぎ、顔を赤くしている今のミカゲさんを見たら、きっと男性の人達も彼女に対する印象が変わると思います。
「はい、大丈夫ですよ! とっても、良い着心地です♪」
「そ、そうか……それは良かった。じゃあ、私は少し休むから」
ミカゲさんは疲れた様子でそう言うとそのままベッドに倒れ込み、まるで私に背を向けるかのように横向きとなって寝てしまいました。
それは、彼女にして見たら何気ない動作だったのでしょう。
だけど、その光景を見たわたしは――拒絶されたような気がしました。
――わたしの顔、ホントは見たくないのかな?
――もしかして迷惑ばかりかけた所為で、嫌われた……?
あり得ないとは思いつつ少しでもそう思ってしまうと、血の気が引いてしまうほどに怖くなりました。ミカゲさんも、わたしを捨てるの? あの二人のように。
そんなの、いやです。そんなの――許しませんから。
わたしに手を差し伸ばしてくれたなら、最後まで面倒を見てください。ずっとずっと一緒にいてください。何でもしますから、お願いします……。
居ても立っても居られなくなったわたしは、ミカゲさんの部屋から出ずにそのまま扉を閉めました。そして盗賊スキルの『気配遮断』を使用し、ベッドまで近づきゆっくりと入り込みます。
疲れているのか、ミカゲさんはまったく気づいていませんでした。
目の前には彼女の綺麗な背中が見えます。うっすらと見える首筋もとても色っぽくて――同性にも関わらず、なんだか少し嫉妬すると同時に、いけない気持ちになってしまいそうでした。
――ミカゲさん……この寂しい気持ちを、慰めてください。
不安で我慢できなくなったわたしは、そのまま後ろから彼女に抱きつきました。
きゅっと手を前へと回して、離れられないように足を絡めながら貪欲にしがみ付きます。戦闘で鍛えられているとは思えない程、ミカゲさんの身体は柔らかくて落ち着く抱き心地でした。
いつまでもいつまでも離れたくないと、心から感じてしまいました。
もう、ずっとこのままで居たいです。
「ひぁう!? えっ? いきなり柔らかなっ――て、リアナさん!?」
ミカゲさんが凄い慌てた様子で動揺しているのが分かりました。
でも彼女は優しいですから、わたしを振りほどいたりなんかしないって信じてます。
「ねぇ、ミカゲさん」
「な、なにかな? それより、少し離れた方が……これでは動けな――」
「今日は、ずっとこのままで過ごしませんか?」
「……リ、リアナさん?」
「2人で一緒に、くっついて過ごすんです」
お互いが離れないように、お互いの存在と匂いが忘れられなくなるように。
強く強く彼女に抱き付きました。
……お願いします、ずっと傍に居てください。
わたしを、捨てないで下さい。
***
『血流操作』! 『血流操作』!
Oh shit‼ 油断するとすぐに鼻血が出てしまうッ! くっ、いっそ殺せ!
冗談はともかく、何でこんな事になってしまったんだろうか。
割と真面目に疲れて寝入っていたら、いきなり背中に柔らかな感触が発生して、さらに滑々と気持ちの良いリアナちゃんの脚がいつの間にか絡まっていて。
なんなのだこれはッ! どうすればいいのだ!?
いきなりこんなイベントが来るなんて聞いてないぞッ!
というか、ああ胸がッ! 胸がッ!! 集中できないぃ。
あっ、やめて、お腹に回した手を動かさないでッ! 撫でないでくれえええ。
私は果たして、明日まで生きていられるのだろうか。
死ぬほど嬉しいとは、まさにこの事……。
甘えた声で私の背中にスリスリと色んなものを押し当ててくるリアナちゃんに対して、私が出来る事など何もなかったのだ。
童貞が、美少女に勝てるわけないだろッ!
スキル説明 『気配遮断』
シーフなら誰でも使える隠密系初歩スキル。
通常であるならば実力差のある相手には通用しないが、リアナが神官だと思い込んでいる事、ミカゲ自身が凄まじく疲れていたこともあり、なんと通用してしまった。仮に周りにバレたらA級冒険者としてのメンツは丸つぶれとなるであろう。




