服をください
視点:ミカゲ
今思い出しても、鼻血が吹き出てしまいそうだ。
どこぞのお店のサービスみたいな洗われ方をして、意識が飛びそうになった後の事はよく覚えていない。一緒に湯船に浸かって、さらなるスキンシップをされたような気がしたけど――オボエテナイヨ。
スタミナと倫理観を大量に消費してしまったので、お風呂上がりと同時にリアナちゃんに少し横になると言って自室のベッドに猛スピードで倒れ込んだ。そして、今に至るというわけだ!
だけど、思い出すのは背中に押し付けられた生の感触――液体石鹸をたっぷりと塗り込んだであろうアレは、柔らかくてヌルヌルと気持ち良くて……女の子の――あああああああああ!
何を考えているんだッ! 馬鹿か私はッ!? 変態じみた思考はやめろッ!
これだから、童貞は……! いや、童貞関係ないのかなこれは!
「あぁぁ……ごめん、リアナちゃん……私は、最低だ」
リアナちゃんは暴漢共から酷い目に合わされ、親友からも見捨てられて、心が弱っているからあんな行動を取ってしまっているだけだというのに。
そんな彼女に対して、邪な感情を抱いてしまうなど言語道断である!
大事にするって決めたじゃないか、男が何度も二言を破ってどうするんだ!
拳をグッと握りしめて、決意を新たにした。
二度と、私は煩悩などに惑わされたりはしないッ!
「あの、ミカゲさん……部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
そこに丁度良く、ノックと共にリアナちゃんの声が部屋の外から聞こえてきた。
決意を固めた私は、凛々しいと自分では思っている声で「構わないよ」と声を掛けた。
キリッとした表情を部屋の入口へと向ける。
先程はリアナちゃんにだらしないところを見せてしまったが、これからは頼れる好漢の復活だよ!
「失礼します」
「ッ!?」
だが、そんな決意は2秒で消えてしまった。
部屋に入ってきたリアナちゃんは、何故か下着姿だったのだ。
「えっ……? えぇっ!? リアナさん、その恰好は一体」
「落ち着けよボーイ」と自分に言いたくなるほど慌てふためいてしまう。
というか、あまりジロジロ見れないけど結構大胆な気が……? しかも見たことないやつだ。私はあんなヤバそうな下着買ってないぞ?
「あの、私……荷物ほとんど取られちゃって、手持ちにこれしかなかったんです」
少し赤くした表情で――端的に言うと、色気がヤバい表情でそう告げてきた。
言ってくれれば用意したのに!? でも、これは気が利かなかった私が悪いかも知れない。そういえばやけに荷物が少なかった気がしたしなぁ。服とかも全部あいつらに奪われちゃってたのか。許せん‼
「すまない……気が利かなくて。私の服で良ければ、すぐに用意するよ」
「えっ、良いんですか?」
「もちろんだよ。あんまり種類はないけど、どんな服がいいかな?」
俯いた表情から、笑顔に変わる彼女を見ると私も嬉しくなる。
はぁ、ダメダメだな私は。こんな肝心な部分にも気づかず、彼女に抱き付かれた事で本質を見失っていたとは。もっと気配りのできる男子にならないとモテないと前世で言われたことを思い出した。
「それじゃ、あの……着てみたい服があるのですが」
「何でも言ってくれ。あっ、でも可愛い服はちょっと無いかも知れないよ」
フリルの付いたような服とかは残念ながら置いてない。何度も言うが、私の精神は男性だからな。女性用の下着も普通の中の普通の様な物しか用意してない。ピンク色の服とかもないからな!!
サイズ合うかなとか、ワンピースくらいは買ってたかな? と、過去に買ったであろう服類や着心地を心配していた私だったが。
「あの! ミカゲさんが今着ている服を、貰えませんか?」
リアナちゃんの一言で、思考は中断され、私はまた意識が飛びそうになった。
「えっ?」
「今着ている、その服が……いいです」
「こ、これ?」
「はい……」
え、脱げと? 脱いで女の子に自分の着た服を渡せと言うのだろうか?
……えーーと。
「あ、ああ……いいよ」
「ホントですか!? ありがとうございます」
まあ、好きな子に頼まれたら――断れないよね。
何か間違ってる気がするけど、私はそのまま服を脱ぎ彼女へ渡した。




