王者の風格
視点:ミカゲ
あれから色々とあったけど、まだ生きているよ。
結局、リアナちゃんとお風呂には、その……。
し、仕方ないじゃないかッ! 引き剥がせなかったんだから!
不可抗力というものだ、私は悪くない。
抗えない運命というものは、誰にでもあるだろ?
私はそれに立ち向かい、必死に戦った。それだけだ!
……結論を言うと一緒に入りました!!
今、頭がクラクラしてるのは湯あたりではなく、鼻血を抑え込み過ぎた弊害だというのが悲しいところだけどね。
――あれは、地獄だったよ。
♡♡♡
脱衣所まで着いた私がいそいそと服を脱いでいると、すぐ後ろから衣擦れの音が聞こえてきた。この場には私とリアナちゃんしかいないわけだから……つまり、今、彼女が―――してるわけで。
心臓が破裂せんとばかりに、鼓動が早くなっていることが自覚出来た。
「……っさ、先に入ってるから!」
この状況に緊張しすぎて気持ち悪くなりそうだったので一言告げ、そのまま風呂場へと入った。緊張すると吐き気がしてくるタイプなんだよ、私は!
お湯を頭から被り、目を瞑る。
「落ち着け……たかが、風呂に入るだけじゃないか。何を恐れる事がある? この世界に来てから、もっと危険な事だって体験して来ただろう」
思い浮かべるのは、筋肉3人組と共に体験してきた数々の死闘。
ゴブリンキング、コボルトキング、オーガキング――キング多いな。
お、ムキムキのあの逞しい人達を思い浮かべたら、何だか気分が良くなってきたぞ。ありがとう……こんな時にも私を支えてくれて。
精神統一が終わり、不整脈からも解放された。
ふっ、今の私は無敵といってもい――
「綺麗な黒髪ですね……濡れると、普段より色っぽいです」
「ひゃうっ!?」
無敵から、一転して貧弱と化してしまった。
ぞくぞくする様なリアナちゃんの声が耳元でしたせいで、身体が震える。
一体、いつから後ろに……? 私に気配を悟らせないとは、成長したな?
Dランクどころか、もう立派な――
「ミカゲさんの髪、サラサラでとっても気持ちいいです」
「はぅっ!?」
や、やめてくれ‼ 今髪を触られると、鳥肌が出てしまう。
別にリアナちゃんから触られるのが嫌なわけじゃない。でもね、この状況でそんなことするのは、いけない事だと思うんだ。平時ならいくらでも触って良いから、今はやめて……。
「リ、リアナさん……」
なんとか抗議しようとするも、この場に居るという事はリアナちゃんも装甲解除状態である事は明白だ。そんな彼女を見ても良いものかどうか。
私が躊躇していると、さらなる猛攻を彼女は仕掛けてきた。
「お肌も白くて……触ってると、すごく気持ちいいです」
指先でつーと、私の背中に触れてくる。
背中もゾクゾクしっ放しだよ! ひぃ、堪忍してくれ!
おそらく、リアナちゃんの方が綺麗な肌なんだろうけど、私は見ることが出来ないから褒めようにも褒めれないのがもどかしい。
「すまないが、そろそろ身体を洗いたいので……その、やめて――」
「あっ……それなら、わたしに洗わせてくれませんか?」
「えっ、いや、それはちょっと」
何だろう、幸せなのにツラい。
ちょっとね、性急過ぎなわけですよ。仲良くなってからの距離の縮まり方に問題がある。
そりゃ転生した当初は、女の子になったんだから美少女と裸のお付き合いし放題とか思った事はあったよ。でも、実際に体験すると――これ無理だ。
精神の方が持たない。嬉しいけど、圧し潰されそう。
変な罪悪感が半端じゃないし、アレが付いてないだけで殆ど変わらん。
いずれこうなるのが目的だったとはいえ、女性経験が足りていない現状ではどうしようもない。ヘタレと罵ればいいさ。
どうせ、未経験者だよ私は! 未経験者歓迎なんて、職業安定所の宣伝くらいでしか見たことないからね。分かってるよ……。
もう、なにを考えてるのか分からなくなってきた。
現実逃避もいい加減にしろよ。逃げちゃダメだ!
リアナちゃんと、ちゃんと向き合わなきゃ……‼
彼女はきっと、寂しくてこんな事をしているだけなのだから‼
「リアナさん、無理しなくてもいいよ。こんなことしなくても、私は」
落ち着いた声で、安心させてあげよう。
私はちゃんと傍に居るから、このような真似しなくてもいいのだと。
「貴女の傍に――」
決め台詞を言おうとした瞬間、むにゅっという音でも聞えてきそうなほど、柔らかい感触が背中にぶつけられてきた。
えっ、なにこれ? なんか柔らかいんだけど、それにヌルヌルしてるような。
「こうやって洗えば、ミカゲさんを感じたまま……身体も一緒に洗えますよね?」
あ、ダメだこれ。勝てない。
――――この娘、強すぎる。




