一人にしないで
前半視点:ミカゲ
後半視点:リアナ
親友達から見捨てられ、孤独に打ち震えている彼女を救いたかった。
そして、私が差し出した手を彼女は取ってくれたんだ。
もう二度と離すまいと――決意したよ。
確かに、決意したんだけど……。
「リ、リアナさん、そんなにくっ付かれると歩きにくいのですが……」
「嫌ですッ‼ 離したら、ミカゲさんもどこかに行っちゃうんでしょ? お願いします、わたしを置いて行かないで下さい!」
「そんな事は絶対にしないよ。それにほら、周りの目もあるからね?」
「……ミカゲさんは、わたしより周りの人達の方が大事なんですか?」
そんな縋るような目で見ないで。何も言えなくなるじゃないか。
そう、逆に離してもらえなくなった。
確かに二度と離さないよ‼ とか心の中で思ったけどね。
こういう意味じゃないんだ。
もちろんこんな風に抱き付かれるのは、凄い嬉しいよ? 現に私の左腕は今、人生最高の喜びを覚えているに違いない。色々柔らかいモノも当たってるし、凄く良い匂いはするし。
抱き付きながら私の肩に頭を傾け、もたれ掛かるところなんか鼻血出そうになるほど可愛いよ。いや、実際何度か出しそうになった。その証拠に『血流操作』を使いすぎて今滅茶苦茶疲れてるからね‼
周りから見たら、「完全に出来てんだろこいつら……」みたいな引かれた視線で見られる位には強烈な体勢だと思う。ぶっちゃけて言えば、嬉しいけどキツイ。
ぎゅってされるのは、男だったら嬉しくないはずない。
それが、好きな子だったら尚更だ。
けど。
「ミカゲさんの身体、あったかいです。こんなわたしでも、受け入れてくれるような優しい人だからかな? なんだか、落ち着く匂いがします」
ちょっと私には、この猛攻は厳しい。
女性に対する免疫なんて、こちとらゼロに等しいんだよ。
そりゃ今の私は性別的に見れば一応、女だ。免疫なんて自分の身体とか見てりゃ付くだろと思われるかもしれない。だがハッキリ言って、全然付かん‼
というか、私の身体とは明らかな別物‼ こんな柔らかくて気持ちいいモノなんて、私には付いてないぞ? 極殺兵器にも程があるだろ。
それに加え、周りの目も頂けない。
美少女をコマしてる最低女だと言いたそうな目がちらほら私に刺さってくる。いやまあ、確かに性的にリアナちゃんが好きだからその視線、間違ってないよ!!
軽蔑したような目でこちらを見てるそこの君は正しい。
ヤバい、頭が働かない。たぶん女の子に触れすぎた所為だ。過剰摂取による中毒症状に陥りそうになっている。すぐに処置しないと命に関わるかもしれん。
こんなに好かれて本当に嬉しいんだけど、ほんの少しだけ――距離感を‼
「リアナさん、その――」
「やっぱり、迷惑ですか? そうですよね……わたしみたいな、無自覚に人を傷つけるような女から馴れ馴れしくされるなんて、嬉しいはず、ないよね」
「い、いや! それは違う‼ 貴女を迷惑だなんて、考えたこともない」
「……ホントですか?」
「言ったじゃないか、貴女の傍に居る、と。その言葉に二言はないよ」
「だったら、ミカゲさん……わたしから離れないで下さい。もう、わたしには頼れる人なんて誰もいないんです。何も、残ってないんです……」
あああああ、無理だぁ‼ 無理ゲーすぎる‼ こんな風に泣かれそうになるのに、どうして引き離す事なんて出来ようか。
そんな事したら、人間じゃないだろ!?
当然こんな状態でギルドに戻れるはずもなく、結局そのまま私達は自宅へと向かった。リアナちゃんは多分、少し疲れているだけなんだ。
今日一日は、ゆっくりさせてあげよう。
唯一の心配すべき点は、私の理性が持つかどうかだが。これでも精神は男だからね。野獣のようにリアナちゃんに襲い掛かり、求めないか心配だ‼
ごめん嘘です、そんな度胸ないです。
ちょっと見栄を張りたかっただけなんだ……。
こんなんだから、いつまでも童貞だったに違いない。
***
ミカゲさんの家に着いた後も、わたしはひたすら彼女に抱き付きました。
……迷惑であるのは、理解してます。困った顔をしているミカゲさんですが、それでもわたしに離れて欲しいとは言って来ません。
ホントに優しい人。
こんなにも良い人に迷惑なんて……掛けたくないよ。
だけど、怖いの。手を離したら、あの二人のようにわたしから離れて行ってしまうんじゃないかって――どうしても、頭から離れないんです。
カリンちゃんが故郷へと戻った以上、わたしが帰ることは出来ません。
ようやく、わたしみたいな疫病神から解放されたのだから……村で幸せに暮らして欲しいです。
でも、そう決めた後に気付いたの。
それじゃあ、わたしの居場所はどこにあるのって。
いくら考えても、居て良い場所なんてどこにもなかったんです。
強くもないし、取り得もない……何の価値もない女。
――そんなわたしに、ミカゲさんは手を差し伸べてくれた。
ずっとそばにいるって……離れないって、言ってくれたんです。
ねぇ、ミカゲさん。あの言葉がどれだけ嬉しかったのか分かりますか?
貴女の言葉で、わたしは救われたんですよ?
でもね――それと同時に、わたしはダメにされちゃったんです。
あんなに優しい言葉を、わたしに掛けてくれたのが間違いだったんですよ。
もう、離れられないじゃないですか。
だってわたしには、ミカゲさんしかいなくなっちゃったんですから。
「リアナさん。少し、お風呂に行ってくるよ」
「それじゃあ、一緒に入りませんか? それなら、離れなくても大丈夫ですよね」
「えっ!? いや、風呂というのは一人で向き合うものであって、そこはキチンと守らねばいけないと言いますか……えーと、その」
慌てたような様子でわたしから離れようとしますが、ダメです。
優しい毒を、わたしの身体に入れたのは貴女なんですよ?
だから、逃がしません。わたしを受け入れてくれたミカゲさんだけは、手放しません。二人で仲良く暮らしていくんです。ここがわたしの居場所なんだから。
ずっとずっとずっとずっとずっと――――傍に居てください。
お願いします。わたしを、一人にしないで。




