砕け散る友情
視点:リアナ
「ぷっ、リアナぁ……アンタ今、滅茶苦茶ブサイクな顔になってるわよ?」
「ごめん、リアナ。でも、これがウチらの本当の気持ちなんだ」
あからさまに嘲笑するレイちゃんと、謝罪こそしてくれているけど、しっかりとわたしを嫌いだという意思を伝えてくるカリンちゃん。レイちゃんの言う通り、今私の顔は涙と鼻水で酷い顔となっているのでしょう。
「ふ、二人共……ごめんね。わたし、何にも気づいてあげられなくて」
元の関係に戻るのは、無理だと流石に馬鹿なわたしにも分かりました。
だからせめて、二人を苦しめてしまった事を謝りたかったんです。
「謝らないでって言ったでしょ? こんなときでも良い子ちゃんでいたいわけ?」
「違うよ。二人の事を親友だと思ってたのに、何も分かってなかったから」
「あーウザいなぁ。てか、アンタみたいなのが親友とか気安く呼ばないでよ」
「……ごめんなさい」
それでも、わたしは謝る事しか出来ませんでした。
他に、出来る事なんてないんですから。
「まっ、どうでもいいわよ。どうせアタシ、もうアンタと別れて別のパーティに入るんだから」
「……このパーティを、抜けるの?」
「なにショック受けてんの? バカ? 嫌いな奴といつまでも同じパーティにいるわけないじゃない。そもそも、アンタが死んだと思ってた時点で、目的は達成したと思ってたからね」
「そう、だよね……」
「ちなみに、アタシが入るのはB級冒険者パーティ。リーダーの人がアタシみたいな可愛い子に入って欲しいって頼み込んできたのよ。ほら、これでアンタが居なきゃ、アタシはみんなからチヤホヤされるくらい可愛いって事がわかったでしょ?」
そんなに高いランクの人達から声を掛けられたんだ……。
だったら、嫌いなわたしのいるパーティなんか抜けるのは当たり前だよね。
レイちゃんの言う通りでした。わたしが傍にいた所為で、彼女達の人生を狂わせていたのだとすると、とんでもなく惨い事をしてきたんだと思います。
「今日の昼頃にパーティ抜けてあっちに移籍するって約束してんのよ。だからぁ、アンタみたいなのに構ってる時間はもうないわけ、分かる?」
「……はい」
「ってことだから、カリン。アタシはもう行くわ。カリンも元気に頑張ってよ」
「うん、レイも……気を付けてね」
「わかってるわよ! 実力はまだ足りてないけど、アタシにはこの美貌があるんだから!」
レイちゃんはカリンちゃんと笑い合いながら握手をしていました。
そして、荷物を持つとそのままわたしの横を通り過ぎて――行くかと思ったら突然立ち止まり、わたしにこう囁きました。
「あ、そういえばアンタの持っていたお金とか荷物はさ、全部カリンと折半しといたから、アンタの私物とかもう何もないわよ。でも別にいいわよね? 今までアタシ達を苦しめた悪行を思えば、貰って当然だと思うし」
「ふ、服とかも、全部……ですか?」
「当たり前じゃない。アンタにはそんな立派な神官服があるし、別にいいでしょ? あと、今後アタシをギルドで見かけても話しかけないでね。知り合いだと思われたくないから」
「……はい。わかり、ました」
「話はそれだけ。じゃあね、ブス」
憎しみを込めたかのような低い声でそう告げると、レイちゃんは部屋を出て行きます。無一文になった事よりも、最後までわたしの顔を見て話してくれなかった事に傷つきました。
「それじゃ、リアナ。私も、もう行くよ」
「カリンちゃんは、どこのパーティに入るの?」
おそらく、レイちゃんと同じくカリンちゃんもどこかのパーティに誘われているのだろうと思いました。
「ううん、私は村に帰るんだ」
「えっ?」
「あの時、リアナがデカい化け物に襲われている時にね……分かったんだ。私には冒険者は無理だって」
「……」
「ホントごめんね。まさか、その服を着せた所為であんな事になるなんて思わなかった。レイも口ではあんな態度だったけど、リアナが死んだと思った時は複雑そうな顔をしてたんだ」
「レイ、ちゃんが?」
「多分ウチらはさ……本当はリアナの事が好きだったんだと思う。けど、心が捻じ曲がっちゃったんだ。リアナが悪いわけじゃないのは分かってる。分かってるけど……それでも、憎いのよ」
身体を震わせるカリンちゃんを見ても、慰めの言葉ひとつ思い浮かびませんでした。きっと二人は長い間、葛藤していたんです。
わたしを好きな気持ちと、わたしを憎む気持ち……そんなものをずっと抱えている内に、混ざり合って戻れなくなってしまったのだと思います。
だとすると、そうさせてしまったのは――わたしじゃないのでしょうか。
「カリンちゃん、謝るのはわたしの方だよ……二人がずっと苦しんでいたのに、気づかなかった……」
「いや、私とレイの心が弱かっただけ。リアナは悪くないよ」
「ねぇ、カリンちゃん。わたしも一緒に、村に戻って――」
「やめて。これ以上、リアナの事を嫌いになりたくないの」
「カリンちゃん……」
「レイじゃないけど、私もリアナの付属品には戻りたくないから」
「あっ……」
「だから――さよなら、リアナ」
カリンちゃんへと伸ばした手は、払われました。
それは明確な拒絶でした。そして寂しそうな様子で、カリンちゃんも部屋を出て行きました。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
それを見送ったわたしは。
謝罪の言葉を呟きながら、ただ頭を垂れて泣くことしか出来ませんでした。
わたしにはもう、何も残ってません。
村に帰る事も出来ず、かけがえのない親友二人も失ってしまいました。
こうして静かな部屋に残されたのは、二人を不幸にした女だけ。
わたしが傍にいると、みんな不幸になるんです。
よく考えれば、ミカゲさんの件もそうでした。
余計なトラブルばかり起こして、わたしは彼女に迷惑以外の何を与えて来たのでしょうか。
ひょっとしたらミカゲさんも、優しいから態度には示さないだけで、内心ではあの二人のように……わたしを嫌っているかも知れません。好かれる要素なんて、何もないんですから。
そんな女、一人ぼっちになって当然なんです。
人を不幸にしかしないような女なんて――誰が受け入れてくれるというの?
しんどい部分は、もう終わりです。




