表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/38

美少女と仲良くなりたい

視点:ミカゲ

 私は意を決して冒険者ギルドの扉を開ける。


 毎回そっと入ろうと思うのだが、何故かこの扉……開くときの音がデカいんだよね。案の定、入って来た私をガン見してくる冒険者達。


 そんな目で見ないでくれよ、居心地悪いんだよ!

 視線を合わせない様に、そのまま進んでいく。うっかり周りを見渡して知らない誰かと目が合った日には精神が削られる。今日は美少女と仲良くなるために、なるべく精神力を温存したいところ。


 こんな苦労をしてるのも、A級冒険者とか言うのになってしまったからだ!








 私の事を少し語らせてほしい。


 ここから離れた異国の地で転生した私は、剣豪などと言われていた凄い父から刀の使い方をみっちり教え込まされた。私も案外乗り気で、どんどんとのめり込んでいったのもあってか、中々に強くなったと思う。


 別に私の精神が男だから、刀とか銃とかそういう武器に惹かれていたわけじゃないんだ。ある理由から、刀には強い憧れのようなものを私は持っていたのだ。


 それは、私がまだ男だった時に、【ロストサムライ ~人間性を捧げよ~】と言う、洋画なのか邦画なのか判断に困る映画を見て、物凄くハマったからだ。サムライなのに外人しか出ず、心折れたサムライが途中で退場(ロスト)してしまい、最後には西洋の甲冑を着た男達が「これが(マコト)の、ブシドースタイル!」とか言って突っ込んで終わる。


 うん、まあ駄作なんだけどね。私は何か好きだったんだ、あれ。

 もうサムライ関係ないじゃないか! と突っ込みながら楽しく観るのが好きだったよ。世間の評価は最悪でも、私にとっては最高のクソ映画だったんだ。


 父から刀の訓練を受けているとき、私は彼らになりきって練習したもんだね。

 そのたびに父は顔を引きつらせていたけど……。


 そんなこんなで、そこそこ異国の地での生活を堪能してたんだけど。

 ある日、気づいてしまった。


 私が男だったとき、一番やりたかった事は何なのかを。


 "美少女と イチャイチャ したい"

 この言葉が頭の中に思い浮かんだ時、私は悟ったよ。


 ああ、美少女と触れ合えない生活なんて糞だなって。


 思い立った私は、異国の地で美少女を探したんだ。

 だけど、何か、その……あそこはやけにご年配の方々が多くて……。

 少女と呼べるような歳の子は、大抵幼女くらいの歳で、ね。


 良さげな子も居たんだけど、既に結婚してたりしてまして。流石にいくら美少女と言えど、人妻に手を出すほど私は駄目な奴じゃない。まあ、話そうとしても声が出なかったんだけどね。


 美少女の殆どいない故郷に絶望した私は、父と母に「ヤりたい事があるから、旅に出る」と素直な気持ちを伝えた。反対されることもなく、二人は快く私を送り出してくれたよ。


 お土産でも買っていつか戻りたいものだ。もちろん美少女を連れて。


 とりあえず美少女と接点を作るべく、冒険者という者になって同じ冒険者の美少女を探す作戦を思いついた。パーティを組めば、自然と良き関係を築けるはずだと思ったんだ。


 そして、私はこの地に流れ着いたのだ。


 お金のために報酬が一番高い仕事をどんどん受けていったら、いつの間にかA級冒険者などと呼ばれ、視線を集めるようになり、挙句先ほどようやく解放された三人の筋肉達からゴリ押し勧誘され、つい私は頷いてしまい三か月の時間を筋肉達と謳歌した。


 あ、でも良い人ばかりだったよ。つい筋肉達とか言っちゃったけどね。

 緊張して返事もロクに出来ない私に対しても、とても親切にしてくれたんだ。


 人生の先輩と言う意味では、あの人達との時間は無駄じゃなかったはずだ。同じ男として尊敬できるよ。あんな筋肉っぽいのにコミュ力も凄かったし。初対面の私に、何故あんなにアットホームに話しかけられるんだろうか。


 コミュ力……そう、私とは大違いだ……はぁ。

 い、いや! 落ち込むのはもうやめたはずだ!

 私だって彼らと共に活動し、コミュ力もアップしたんだ!


 その証拠に今日、彼らのパーティを抜けたいと流暢(りゅうちょう)に告げることが出来た!!

 私はやれる! やれるんだ! この勢いのまま、美少女と仲良くなってやる!


 気合十分となった私は、初級クエストボードを眺めてる新人冒険者達をチラッと見ていく。上の階級になればなるほど何故か筋肉率が上がっていくので、美少女を探すなら冒険者になりたての方を探すのが一番良いのだ。


(結構一杯いるな……やはり冒険者と言うのは稼げるものなんだろうか?)


 A級とか言われてるけど、正直冒険者の基本的な事とか殆ど分からないんだよね。だって誰にも聞けなかったし、教えてくれる人もいなかったんだ。


 来たばかりの頃、受付嬢さんですら説明を何もしてくれなかったとかちょっと酷いよ。一応、命の危険のある職業なのにね。説明責任はあるんじゃないかなと思うのだが。


 ……ショックだったのは私以外にはちゃんと説明してたという事だ。

 普段は私に対して愛想よく振舞ってくれるが……知ってるんだぞ。


 おそらく、あの頃の私が無口で無愛想だったから呆れて見捨てたんだろうね。まあ思う所はあるけど、未だに生きてるのでよしとしよう。今では受付嬢さんとの付き合いも長いし、もう友達みたいなものだよ、うんうん。


 なに、もう気にしてないさ。今でも無視された事を鮮明に覚えてるけど、決して気にしてなんて……気を取り直して美少女を探そう。これ以上考えると、メンタルがブレイクしてしまう。


 暗い葛藤を抱えたまま、新人冒険者達を眺めていくと、ふと三人の少女達が目に()まった。クエストボードを眺めている為、後ろ姿だけしか見えないが……私の美少女センサーがビンビン反応している。絶対可愛いだろ、と。


(おお、これは……ようやく当たりを引いてしまったかも知れないな)


 周りの目を気にしてチラ見するのも忘れて、つい三人の後ろ姿をガン見してしまう。今が女で良かった。男の頃だったら、こんなじっと女性の後ろ姿を見つめていたらヤバかっただろう。


 時間も忘れてガン見していると、三人の少女たちがこちらへと振り向いた。



 ――――そして、私は真ん中にいた神官服の少女と目が合った。



 頭に被っているベールから僅かに見える、美しい金の髪。

 翡翠色の綺麗で優しい瞳。清らかさを際立たせるような透き通った白い肌。

 可愛らしい顔立ちから感じる、幼さと大人の狭間にあるような仄かな色気。


 私は見た瞬間心を奪われてしまった。これが、一目惚れと言うものなんだろう。

 左右の二人もとても可愛らしいはずなのに、私の目には神官少女しかもう映らない。ああ、彼女こそ私の運命の少女……いや、美少女だったんだ!


(はぁはぁ……胸が苦しい……このまま目を合わせていたら、確実に死ぬ)


 ずっと見続けていたいのに、私の身体はそれを許してくれない。

 割とガチで命の危険を感じたので、私は神官少女から視線を外した。


(痛いくらいに胸がなってるよお! あんな可愛い子がこの世にいたなんて)


 このままでは、あの()の前で醜態を晒しかねない。

 好きになった子から嫌われる事に耐えられない私は、精神統一すべく目を瞑る。


(落ち着いて行こう。まずはどうアプローチするかだ。『私はA級冒険者なんだが、手伝おうか?』 とか言って話に入って行くのは……いや、何か自分のランク自慢してる嫌な人間に見えないかそれ? ダメだ! ああ、女性の気を引くにはどうしたら良いんだよおおおお)


 女性経験が皆無な私には、あの神官少女に何を言って気を引けば良いのかわからない。神官なら教会関係の事でも話せばいいのか? ……教会とか一度も通ってねーからわかんねぇよ!!


 はぁはぁ、焦るな! 焦るんじゃない! まだ、慌てるような事態ではないはずだ。とにかくあの少女と何としても仲良くなりたい! イチャイチャしたい! あわよくば、あのダボッとした神官服の上からでも分かる豊満な乳房を揉みしだきたい! どれくらいあるんだろうか、アレは。


 私は冷静に大混乱していた。


 すると。


「あ、あの? わたしに何か御用でしょうか?」


 鈴を転がすような声が私のすぐ近くで響く。

 天使のような声だ。神官少女もきっとこんな美しい声をしているんだろうなぁ。


「あの! 聞こえていますか? 何故、目を閉じてるんです?」


 あ、話しかけられていたのは私だったのか、目を瞑ってた所為で分からなかったよ。おかしいな、最近じゃ私に話しかけてくる人なんて誰もいないんだぞ! ……それはそれで悲しいなぁ。


 とりあえず、話しかけられてるのに何時までも目を瞑っているのも失礼だ。

 私はゆっくりと瞼を開け、話しかけて来た人の顔を見る――と。




 ――――神官少女が、私の目の前にいた。



 そして再び目と目が合い……私の頭は完全にフリーズしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ