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救済者の正体

視点:三人称

「何故なら……私は、貴女の事が――ぐっ……!」


 いざミカゲが正直な気持ちを伝えようとした瞬間、急な眩暈(めまい)が彼女を襲う。


 連日徹夜という最低の体調だったことに加え、無茶苦茶なスキルの使い方をしていたため――身体も精神も限界に来ていたのだ


「ミ、ミカゲさん……?」


 様子に気づいたリアナが心配そうに声を掛けるが、既にその声は彼女には届いていなかった。


(くそぉ……なんでこのタイミングで。これじゃあ、リアナちゃんから呆れられてしまう……)


 ミカゲはなんとか意識を保とうと必死に踏ん張るも、急速に訪れる疲れには勝てるはずもなく。


(ダメだ……もう意識が。せめて……せめてこの気持ちだけでも)


 もはや一刻の猶予もないと思ったミカゲは、ゆっくりとリアナに近づきながら自分の想いを伝えようとする。


「私は……初めて貴女と会った日から、ずっと貴女を見守っていたんだ」

「えっ? は、初めて会った日って……」


 意識朦朧(いしきもうろう)としながら話しているのか、普段ならストーカー認定されてしまいそうな事をベラベラとリアナに話し出す。


「わたし、てっきりミカゲさんには嫌われているとばかり思っていて」


 初対面の頃に鋭く睨みつけて来た彼女から、まさかこんな言葉を聞かされるとは思いもしなかったリアナは、近づいてくるミカゲを驚いた表情で見つめる事しか出来ない。


「ち、がう……嫌ってなど、いない。だって、私は――」


 ――貴女の事が、好きだから。と、続ける事は叶わなかった。


 またしても肝心な部分を伝えることが出来ず、そのままミカゲは意識を失ってしまう。


「あっ……! ミカゲさん、危ない!」


 意識を失い、そのまま前のめりに倒れ込んだミカゲを咄嗟にリアナは抱きとめた。その際、ミカゲの顔はリアナの胸に優しく包まれるように支えられたのだが、その事を本人が知る事は無いだろう。


「そんな、いきなり倒れて……ああ、どうすればいいの」


 軽くパニックとなり、リアナはどうしようかと途方に暮れそうになる。

 しかし、ミカゲの様子をよく見るとある事が分かった。


「あれ……ひょっとして、眠ってる?」


 そう、彼女が小さく寝息を立て眠っていることに気づいたのだ。

 一先(ひとま)ず大事が無いことが分かり、ホッと胸を撫でおろす。


「大丈夫そうなのは良かったけど、これからどうしよう……」


 いつまでもこの状態でいるわけにもいかないと思い、部屋を見渡したがベッドまでは距離があった。倒れて来たミカゲを支える事くらいならリアナにも出来たが、流石にこのまま寝ている彼女をベッドまで運んで行くのは非力なリアナの力では無理だ。


 少々悩んだ様子を見せたリアナだったが、納得したかのようにコクリと頷くとすぐに行動を開始した。慎重に彼女をその場に寝かせはじめる。


 そして、ミカゲが頭を床に打ち付けないように後頭部を自分の太ももの上へと乗せ――簡単に言うと、膝枕をしたのだ。


「ふぅ、とりあえずミカゲさんが起きるまではこうしていよう」


 一仕事したような顔をしたリアナは、額の汗を拭い一息ついた。


「それにしても……いきなり倒れるくらい疲れていたんですね」


 そう言ってリアナはミカゲの顔を覗き込む。

 よく見れば、目の下には(くま)が出来ており、彼女がいかに疲れた状態であったのか分かる。


「こんなになるまで、わたしを探してくれてたのかな……」


 そう呟いて、リアナは倉庫にミカゲが助けに来てくれた時の事を思い出す。

 もうダメかと思われた瞬間、分厚い扉を両断し助けに来てくれた。自分を傷つけた悪党に対して、本気の怒りを見せてくれた。そしてなにより――錯乱しそうになった時に優しい言葉を掛けてくれた。


「どうして……どうして……わたしにここまで」


 それは当然の疑問。

 命を懸けてあそこまでしてくれるような事をリアナはミカゲにした覚えなどない。それどころか、二度と関わらないとまで思っていたのだ。


 とはいえ、A級冒険者足るミカゲの深い考えなど分かるはずも無いと、頭を左右に振って疑問を振り払った。当人に聞くまで解けない問題を考えるのは不毛である。


「はぁ……それにしても、やっぱりミカゲさんって綺麗な人ですよね」


 疲れ果て、目を閉じているミカゲの寝顔を間近で見ると、(くま)こそ酷かったがやはり美しい顔立ちをしていた。


 リアナは良く可愛い可愛いと他人(ひと)に言われることはあったが、ミカゲは可愛いというよりは美人と言った感じである。大人の魅力に欠けていると自覚しているリアナはそれに少し嫉妬する。


「こんなに綺麗なのに、強いなんて……何かズルいです」


 美貌も名声も強さも兼ね揃えている女傑(じょけつ)

 それに比べ、自分は子供っぽい顔立ちと貧弱な戦闘力、更にはスキルの詐称に近い状態と散々である。


「やめよう、わたしとは全然世界が違う女性(ひと)なんだから……」


 (おのれ)と比べたことをすぐに後悔し、反省するリアナ。

 そもそもミカゲが強くなければ、リアナは今頃あの男達から食い物にされているのだから、それに対して醜い嫉妬をするなど愚かな事だ。


「うん、あんな分厚(ぶあつ)い扉を真っ二つにしちゃうような凄い人なんだから……わたしなんかと比べる事がまちがっ……て」


 うんうんと、納得するように頷くリアナだったが――ふと、今の言葉を呟いたことによりずっと頭の中で引っ掛かっていたある疑問が(ほど)けていくような気がした。


 最初に思い出すのは、受付嬢の言葉。


『それがね、真っ二つだったらしいの』


『あの巨大なオーガを一刀両断だなんて……信じられないわよねぇ』


 あの時は、心当たりがまるでなかったその言葉をふと思い出したのだ。

 オーガを一刀両断出来るような逸脱した人物、当時は心当たりなどなかった。


 だが、重厚な扉を真っ二つにしてしまうような人物ならどうだろう?

 きっと、あの扉を剣で切断したなど人に言っても誰も信じてくれないだろう――オーガを真っ二つにしたと聞かされた自分のように。


「も、もしかして」


 点と点が線で繋がるような、ひとつの答えがある人物に結びついていくような感覚がリアナを襲った。更に思い出すのは宿屋で自分を介抱してくれていたアメリアの言葉。


 ――いえ、一人だったわ。すっごい無愛想でヤバそうな感じの人。


 アメリアから聞いたその情報から、ずっと助けてくれたのは大柄の男性なのだとリアナは思っていた。だけど初対面でミカゲを見れば、あんな感じの感想が出てくるのではないか?


 事実、リアナも怖い人であると疑っていなかったのだから。


「あのときオーガから、わたしを助けてくれたのも……?」


 これは、あくまでリアナの推測だ。

 当人に聞くまでは、所詮はただの妄想でしかないのだが――リアナは自分の考えが間違っていないのだと、限りなく確信に近いものを感じていた。


「……わたしは、何か大きな勘違いをしてたのかも」


 ミカゲがあの時も自分を救ってくれていたのなら、彼女は二度もリアナを救っていた事となる。もしも、そうだとするならば――


「何が、怖い人よ……」


 その言葉はミカゲの事を周りで噂している人達に向けたものか、あるいは自分に向けた言葉なのか。彼女自身にも分かっていないのかも知れない。


 受付嬢の話では、ミカゲは恐ろしい人間だと聞かされていた。

 しかし、今ならばそれは大きく(あやま)った情報であるとリアナは思う。

 恐ろしいどころか、ミカゲはとても優しい人間なのだと分かったからだ。


「ミカゲさん……ありがとう」


 寝ているミカゲに、聞こえないであろう感謝の呟きが部屋に静かに響く。

 一筋の涙を、彼女の寝顔に落としながら――優しい時間が過ぎていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 18/18 ・追いついた~ ・面白かったです~ [気になる点] ・次が気になる~ [一言] 小説書くのって、大変ですよね。おつかれさまでした。
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