第4話 タダスケ
『さてと。次は俺でいいか?』
「うん、お願い。あ、もしよかったら、種族も教えて」
種族か。そういや、人間を見た事がないんだったな。問題ない、もちろんOKだ。
『いいぞ。じゃあ、まず名前からな。俺は忠相、大岡忠相だ。苗字がオオオカで、名前がタダスケな。タダスケって呼んでくれ』
ふぅ、ようやく自己紹介でき――
「そっ、それってもしかして、オーガの上位種なの?」
『へ?』
なんだろ。お嬢ちゃん、瞳がキラキラしてるが、急にどうしたんだ?
「オオーガ……オオーガ……あ、大オーガ? オオーガ……あっ、まさか王オーガ!」
あ、これ勘違いしていらっしゃる? オオーガじゃなくて大岡なんだが……。しかも、ハイなオークとかキングなスライムのオーガ版みたいなの想像されてるぽいし。
てか、大岡とオーガって、空耳るほど近い音じゃないような? うーむ。この子やっぱり、オーガ大好きっ子だったんじゃなかろうか。とにかく訂正しとかねば。
『お嬢ちゃん、スマンが、そうじゃない。オオオカは、家の名前でだな……』
「え? 家の名……オーガの王家!? すっ、すごい……。わっ、わたし、そんな凄いオーガさんを呼び出せちゃったの!?」
いや、違うから。いかん、さらにこじれた。ああもう、なんだか大興奮って感じだなあ……。こんなの見てたら、真実を告げるのが申し訳なくなってくる。
こりゃどうしたもんか……。なあ、クマコさん、何か策はないか?
「…………」
おい。目ぇそらすなや、この熊。
うーん。ここはもう、この子の夢を守るためやと割りきって、実は僕オーガです、で通すか? いや、さすがに、それはダメだよな。
はぁ、どないしょ……。
◇◇◇◇◇◇
それから数分後。なんやかんやで、まあ、なんとかなった。精神力をけっこう消費したが、誤解は解けた。
「ご、ごめんなさい。恥ずかしい所を見せちゃったわね」
『い、いや、お嬢ちゃんは悪くねえよ。悪いのは、紛らわしい名前をしてた俺だ』
ここは、そういう事にしておこう。被害者のいないトラブルなんざ、過ぎてしまえば笑い話よ。
「そんなことないわ。それに、オオーカタダッケってすっごく良い名前だと思うわ」
うん。舌足らずっぽいの可愛いけど、微妙に言えてないぞ、お嬢ちゃん。
『そっか。あんがとさん』
「いえいえ」
とは言え、この名前を、他人に褒めてもらえたのは久しぶりだな。俺がガキの時分の年寄り共には、やたらと好評だったんだけどなあ、俺の名前。
ジジババたちに、「ええ名前もろたんやから、名前に負けへん男にならなアカンぞ」とか言われてたのは、いつの日か……。
つーか、この名前に勝つの無理じゃね? 多少の出世をしてもKO負け確定だろうに。
「それじゃ、これからは、タダツケって呼べばいいのよね?」
たった一文字の発音が違うだけなのに、とても貧乏な人になった気分になるのは何故だろう……。
『あー。タダスケなんだが、言いにくいなら、それでいいぞ』
「タダスケ、タダスケね。言えてるかしら?」
お、言えてる。ちょっと片言っぽいけど、さっきのタダツケよりは、ずっと好ましい響きだ。
『ああ、言えてるよ。やるなあ、お嬢ちゃん』
「やったあ。じゃあ、よろしくね、タダスケ」
ははっ、無邪気な笑顔が眩しいな。また幼女っぽく見えてきた。
『おう。こっちも、よろしくな、お嬢ちゃん』
ふぅ。予想外に苦戦したが、これでようやく、自己紹介タイムも終了だ。しかし俺の名前って、ここでも珍名の類なのかよ。
思えば、中坊に上がった頃からだったかな、自己紹介がスムーズに終わった記憶がほとんどないんだよな……。
「うん。それでタダスケ、タダスケの種族。すごく気になるんだけど、聞いてもいい?」
あ、そうだった。オーガじゃない事は、もう分かってもらえたけど、俺が人間だとは、まだ言ってなかったな。
『あぁ、種族な。俺の種族は人間だよ。人間、見たのは初めてか?』
「またまた、ご冗談を」
ん? 冗談なんか言ってないんだが、なんか猫みたいなモーションで流された。
『いや、本当に人間だぞ俺』
うーむ。まさか、お嬢ちゃんはまだ、忠相オーガ説を、捨てきれていないんだろうか?
「何を言ってるのよタダスケ。人間が、こんなに大きいわけないじゃない」
『いや、人間は俺くらいの大きさだぞ?』
人間が俺くらいなのは間違いない。俺は中肉中背だ、日本人の男なら、だいたい俺くらいのサイズだ。アメリカ人さんとかなら、もっとデカイぞ。
しかし……。これは、どう言う事だ? お嬢ちゃんが嘘を言ってるとは思えない。でもそれなら……。
「もぅ。人間は、私くらいの大きさよ?」
『え?』
「え?」
なにこれ、どゆこと? いや、なんとなく想像はつくか……。