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第2話 すごくおっきいです

 虎縞腰巻男が自分の味方だと認識した熊ちゃんは、狡猾な計略を用いて、緑色の小さなオッサン達の動揺を誘っている。……ように見える。


 ともあれ、これで、「幼女&熊ちゃんズ+腰巻男 VS 緑色の小さなオッサン団」の図も固まったようだし、もういいだろうか。そろそろ、幼女と話を通しときたい。


『なあ、お嬢ちゃん。そろそろ落ち着いたか? ちょっと話がしたいんだが』


「うっ、うん。大丈夫よ、落ち着いてるわ。私はいつでも冷静よ」


 あれ? なんか思ってたのと違う、なんか大人びてるような。いや別に「ふぇぇ」とかを期待してたわけじゃないけどもさ。


 ふーむ。で、本当に落ち着いてるのかどうかは微妙な所だな。しかし受け答えは、しっかりしていると。なるほど、わからん。


 はて? この子は何歳くらいなんだろう。身長は幼女で間違いないのに、頭脳は幼女じゃないような? 気になるよなこの違和感。


 うーむ。この子の顔つきも、幼女とは思えないもんなあ。ロリの者じゃない俺が幼女にときめくはずがないわけで。


 お姉さんは、むかし謎の組織に不思議な薬を飲まされて、身体だけ幼女に戻っちゃったのよ、とかなら是非ともその話を詳しく聞いてみたいんだが、その辺りは仕事の後でのお楽しみにしておくか。



『よし、そんじゃ、お嬢ちゃんに質問だ。俺をここに呼んだのは、お嬢ちゃんなのか? 「誰でもいいなら俺でもいいのか」って言ったのは俺なんだ。オーガを呼ぶつもりだったならスマン、謝る。呼び出されてゴメンナサイだ』


 まずは、これを聞いておかんとな。頼むぞ、お嬢ちゃんであってくれ。


「あっ、それなら私! 「大歓迎よ」って言ったのは私よ、召喚されてくれてありがとう!」


 おぉ! 助かった、俺を呼んだのはこの子だった、サンキューだ。緑色の小さなオッサン達じゃなくてマジでよかった。どっちにしろ、幼女&熊ちゃんズにつくつもりだったけど、裏切り者の名を受けルートはあんま良い気がしなかったんだ。


「オーガは私の勘違いだから謝らないで。あなたの種族が分からなかったから、それで、そのパ……腰巻きがそれっぽかったし、すっごくおっきかったから、この人オーガさんなのかなって」


『そっ、そうか。なら謝らん、ゴメンナサイは取りかっ、取り消しだ、取り消し!』


 いかん、ちょっと噛んだ、取り乱すなよ俺。ほら、あれだあれ身長だ、身長の事なんだよ、おっきいってのは! 俺この子の倍以上あるしな!


 それに、この子がガン見してたのは、見せちゃダメな何かじゃなくて、黄黒虎縞タオルの腰巻だったんだ。言われてみると確かに、鬼が履いてる虎柄パンツっぽいからな。これは朗報だ。あれは事案じゃなかったんだ。



 おっと、そんな小市民的な問題よりも、もっと重要な情報があった。この子には、俺の種族が分からなかったって所だ。つまり、この子は今までに人間を見た事がない。それはつまり、この子は人間じゃないって事だよな。


 そうだよな、気づくの遅いぞ俺。この子は、どう見ても人間じゃない。いや、形は完全に人間だけども、縮尺が全く人間じゃない。


 おそらくだが、小人族みたいな感じの種族があるんじゃなかろうか。トマトとプチトマトみたいに、見た目とかほぼ同じなのに、大きさだけ違う種族みたいなの。


 そう意識して観察したら見えてくる。この子、身長は幼女だけど、体型は10代後半くらいなんだ(日本人基準で)。今なら分かるわ。この子、既に手足は伸びきってて、ささやかながらも乳がある。


 さっきは、将来は美人になりそうだな、とか言って自分を誤魔化したけど、既に可愛い系の美人さんだったんだな。これが幼女だなんてとんでもない。なるほど、納得した。


 よし、謎はたぶん解けた。問題も解決し……。あ、まだ解決してない。緑色の小さなオッサン達に囲まれたままだ。これが理由で呼ばれたんだろうし。確認しとかにゃ。


『だいたい分かったよ。そんで俺は、何をどうして誰を助けたらいいんだ?』


 聞くまでもないが一応な。


「ありがとうオーガさん(仮)。このゴブリン達を追い払って、私達を助けてほしいの」


『オーガじゃないが了解だ。任せとけ』


 突っ込んどいて何だが、まだ名前も名乗ってないし、オーガさん呼びでも仕方ないか。お嬢ちゃんも分かってて言ったんだろう。


 そんで、このゴブリン達を「追い払って」、なのは都合がいい。今まで、なるだけ人畜無害に生きてきてる手前、殺生には少なからずの抵抗があるんだ。


 相手さんの中にも、明らかに逃げたそうにしている奴が数体いるし、こいつらを皆殺しにして、とか言われなくてよかった。



 しかしゴブリンか。この緑色の小さなオッサンて、ゴブリンだったのな。俺がイメージしてたゴブリンより、だいぶ小さいよこれ。これなら踏み潰せそうな気さえするし、比喩的な意味じゃなくサイズ的な意味で。


 武装したゴブリン10体くらいに囲まれてるけど、公園でパン食ってたら鳩に囲まれてた、程度の感覚でしかない。いや、鳩だとさすがに過小評価か、鶏くらいの体重はありそうだし。


 あ、鶏か……。鶏でも、モロに噛まれた時、わりと痛かったよな。あいつら、あれでも地味に攻撃力があった。ゴブリンは、どんなもんなんだろ? 


 噛み付き攻撃は勘弁願いたいなあ。ダメージ云々よりも、気分的に、なんか嫌だ。ゴブリンって歯磨きどうしてんだろ?


 まあ、わざわざ武器を持って行動してるんだし、攻撃は武器メインで来るとは思うけど。えーと。右回りに、石斧、石斧、棒、竹槍、石斧、石、棒、竹槍、石斧、石、と。


 石斧は小さくて軽そうだし、竹槍の先は潰れてて、あんま尖ってないな。攻撃力は高くないと見える。石と棒は、壊れた石斧だろうな。


 服装は、竹槍の2体が貫頭衣ぽいボロ布の服で、他は同じ素材の腰巻き姿か。これは竹槍の2体の方が、他の奴らより、仲間内での身分が高いとかだろうか? 


 まあ、貫頭衣も腰巻きも、防御力に大差はないだろう。どっちにしたって紙装甲……。あぁ、そうだった。俺も腰巻き一丁の紙装甲だった。


 ぐぬぬ、ゴブリンとお揃いだよ。しかも貫頭衣のやつと比べたら、俺の方が露出度高いし。うわー負けた、ゴブリンに負けた。やるなあゴブリン、ははははは。って、ふざけてる場合じゃないな。



 真面目に考えよう。いくら俺が半裸でも、あのゴブリンの武器で、俺に大きなダメージを入れるのは難しいだろう。怖いのは目を狙われる事くらいか。


 それなら、姿勢を低くしないように、足技メインで踏むなり蹴るなりするのが安全策かな。余裕があるようなら、大怪我させないように加減しつつで。


 あ、武器に毒とか塗ってある可能性もあるか。それだとマズイな、毒だと普通にダメージを受けるかもし――


「グオオオオオオーン!」


 うおっ!? な、なんだ? 物凄い音したぞ。これあれか、耳栓してないと動けなくなる系のあれか。ゴブリンてこんなの使うのかよ。 やべえ、こらアカン、ゴブリンを嘗めて……へ?


「グオオオオオオーン!」


 熊ちゃん、お前だったのか……。


「グオオオオオオーン!」


 森中に響き渡るような咆哮の発生源は、熊ちゃんだった。そして二発目三発目と、景気よく叫び声を上げる熊ちゃん。その隣では、お嬢ちゃんが耳を押さえてる。


 お嬢ちゃんには、熊ちゃんの咆哮に驚いたり、戸惑ったりしてるような素振りが無い。なるほど。お嬢ちゃんは、熊ちゃんが、これやるの知ってたんだな。


 うん。そうだよな、当然だよな。仲間の能力くらい把握しておいて当然だよな。ははは、できれば俺にも一言、教えといて欲しかったかなあ。スゲーびっくりしたんだぞ、鼓膜にガツンときて耳がおか――


「グオオオオオオーン!」


 うぉぉ、またか。俺からの抗議の視線を気にする事もなく、熊ちゃんは四発目の咆哮。さっきモロにくらった一発目とは違って、今度は両耳をしっかりと押さえてるけど、それでも腹にズシンとくるし、全身がビリビリする。


「クウッ」


 そんで数秒後。叫び終えた熊ちゃんは、何気に俺に目線を向けて、今度は可愛いらしく「クゥッ」と鳴いた。いやなあ熊ちゃんよ、今更そんな可愛いふりされてもな。


「やった。オーガさん(仮)ありがとう」


『へ?』


 熊ちゃんにジト目を向けてたら唐突に、お嬢ちゃんから礼を言われた。俺なんかしたか? と思って、お嬢ちゃんの方を見たら、満面の笑みだ。そんで、その隣の熊ちゃんはドヤ顔だった。これは……え?


『あ……』



 終わってた。もう全部が終わってた。熊ちゃんに、全部持って行かれてた。今ここにいるのは、お嬢ちゃんと、熊ちゃんと、虎縞腰巻男だけになってた。他には誰もいない。


 そう、ゴブリン達がいない、奴らはもう逃げていた。そら、あんなの聞かされたら逃げもするわな。ハナから逃げたそうな素振りの奴もいたんだし。


「クゥッ」


 おい、熊ちゃん。「クゥッ」じゃねえよ。俺まだ何にもしてないだろ。これで、けっこう色々と考えてたんだぞ、年甲斐もなくワクワクしてたんだぞ?


 俺は何をしに来たんだよ、これだと半裸で立ってただけじゃねえか。熊ちゃんボイスで、ゴブリン達は逃げ出した。これにて一件落着って……。


「あははっ。お疲れ様でした」


 あぁ、お嬢ちゃん、いい笑顔しやがって……。いいよもう。俺は、その笑顔を見るために、ここへ来たんだろうさ。理由はそれでいい。


『おう、お疲れさん。お嬢ちゃんも、熊ちゃんもな』


 こんな中肉中背の小市民が、可愛い女の子の目の前で、バケモノ相手に大活躍してみたかったとか、そんな贅沢を言っちゃバチが当たる。


 珍しい物が見れて、可愛い女の子にも出会えたんだ。俺は充分に楽しんだよ。

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