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第1話 偽オーガ

 俺の名前は大岡忠相。関西在住の独り者。中肉中背で顔は普通、身体能力も頭脳の方も、その他諸々も、まとめて普通なナイスガイだ。


 これは、そんな普通のバーゲンセールな人だった俺が、スペック据え置きのままで、普通じゃなくなった時の話だ。


 季節は6月の下旬頃で、やたらと暑かった日の風呂上がりだった。居間で枝豆やらをつまみつつ、野球観戦を楽しんでいた俺は、謎の女の子の声を聞いた。


 そんで、なんやかんや。キラキラしたのに包まれたと思ったら、くらっとしてピカッときて、そんな感じの始まりだっだ……。



 軽い目眩の後に視界が真っ白に染まって、それに続いたのが一瞬の浮遊感だった。そんで気がつけば、俺は森の中にいた。


 おお、スゲエぞこれ。これ召喚ってやつか、これファンタジーってやつか……って、おい! いきなりピンチなんだが。


 さっきまで家の中にいたはずだ! とか、さっきまで夜だったのに昼になっている! とかは、この際どうでもいいわ。きっとファンタジーなアレがアレしてファンタジーなんだから、たぶん。


 問題なのは、小さな女の子と、小さな熊と、半裸の俺が、緑色の小さなオッサン達に囲まれてる事と、その小さな女の子が、黄色と黒の虎縞タオル一丁を腰に巻いただけの俺を、足元から見上げている事だ。


 待て、落ち着け俺、冷静になろう。これは不運なる偶然の産物であって、事案ではない……よな? なんか凄い見られてる気がするけど、これは事案とか事件ではなく……。うん。とりあえず早急に、3歩ほど後ろに下がっとこう。



 よし。これでいい、問題の一つは解決した。解決したんだ。それに、俺の方も被害者なんだ。風呂上がりに半裸なのは自然な事だし。むしろ全裸でなかった事に感謝されてもいいくらいだ。


 それよりもだ。まだ思う所はあるが、ここは気持ちを切り替えて、次の問題の対処に移るべきだ。今するべき事は、緑色の小さなオッサン達への対応だろう。


 彼らはおそらく、ある程度の知性を持った危険生物みたいな類いだろう。石斧とか竹槍ぽいのを持って、幼女を囲んでる時点で、こいつらを有罪にしていいと思う。


 あ、なんか俺を見て、びびってるぽいな。身長は俺の膝くらいまでしかないんだし、びびって当然か。こいつらから見たら、俺は超大男なんだろう。


 こんだけの体格差があるし、このまま襲われても、俺が負ける可能性は低いな。でも幼女や小さな熊さんにとっちゃ、こいつらでも充分な脅威だったんだろうな。


 ……あ、まさか俺を呼んだのって、あっち側じゃないよな? 緑色の小さなオッサン達に混じって、幼女に襲い掛かるなんて、絶対に嫌だぞ。だとしたらオッサン達には悪いけど、幼女&熊ちゃんズ、に寝返るぞ俺。


 ん。よく見たら、この小さな熊さん、脚を怪我してるのか。幼女の方は、ぱっと見だと怪我とかは無さそ……あ。


『…………』


「…………」


 はい、幼女と腰巻男の目が合いました。でも腰巻男には、こんな時どんな顔をしたらいいのかが分からない。とりあえず笑いかけたらいいのか? 通報しますよ、とか言われたらどうしよう……。え?


 何だこれ? 何だこの感覚は。どうしよう、この幼女、すごく可愛いんだが……。俺はロリの者じゃないはずなんだが。この子の持ってる、歳に不相応な魅力は何なんだろうか?


 この子、将来はもっと凄い美人さんになるんだろうか? それなら10年後くらいにも、また会わにゃならんな。いや、いっそ自分好みに育てて……って何を考えてんだ俺は。


 ふぅ、ここは冷静になろう。いくら可愛くても、この子は幼女だ、この子は幼女だ。俺は巨乳が好きだ、俺は巨乳が好きだ。幼女に巨乳は無い、幼女に巨乳は無い。よし、落ち着いた。


 うーむ。でも、この子を見てると、なんか違和感があるな。幼女のような、少女のような……。いや、違うか。もっと何かあれで、その、なんというか……。


 おっといかん。あんま見つめてたら不審者だと思われる。腰巻き一丁で幼女に見とれてる奴がおる、とか通報されたら社会的に死ねる。


 えーと。ここはあれだ、ほらあれ……。あ、これだ。とりあえず、俺を呼んだ声が、この子の声なのかの確認が必要だろ。……てな事を考えてたら、先に幼女から声をかけられた。


「まさか……。オーガ?」


『オーガ?』



 幼女にオーガとか言われた。ふむ、俺は幼女にオーガだと思われたのか。


 オーガってアレだよな。ファンタジー物の定番で、ゴブリンやオークより格上の、デカくて角あって、たまに中ボスやってたりもする、わりと強いやつ。これはなんと言うか、ちょっと嬉しい。


 男の子はいくつになっても、大きくて強い存在に憧れるんだよな。それは、俺もまたしかりだ。長らく中肉中背で生きてきた性でもあるかな。


 でも、俺のどこにオーガの要素があったんだろうか? 体格とか、見事なまでに中肉中背なんだがなあ、もちろん角なんかもないし、それっぽいM字ハゲでもない……ぞ。うーん。まあ、幼女の視線から見たら俺もデカいか。


「あの、オーガさん」


『あぁ、ごめんな、お嬢ちゃん。俺はオーガじゃないんだわ』


「……え?」


 どうしたんだろう。幼女の様子がおかしい、これは驚いてるぽいな。オーガじゃない事を伝えたら、この子はひどく驚いたと。もしかして、この幼女はオーガ大好きっ子で、憧れのオーガさんに会えたと思って、感動してたとかか?


 それなら悪い事をしちまったかなあ。メンチカツだと思って食べたのがコロッケだったらショックだよな。でもコロッケも美味しいんだぞ。キャベツはどうした? いや、現実逃避はよくないな。


 はぁ、そう言や最初に俺の事をガン見してたもんな。オーガ大好きっ子がオーガを召喚したなら、そらあガン見もするわなあ。


 何と言いますか、ガッガリさせてスマン。偽物のオーガでスマン。俺に罪は無い気がせんでもないがスマン。コロッケもおいしいよ?


『…………』


「…………」


 俺からの衝撃のカミングアウトを受けて、しばし幼女は混乱中。でも、この状況での俺の放置はちょっと困る。緑色の小さなオッサン達に囲まれてる手前、のんびりしてもいられない。


 などと考えながら視線を動かしてたら、今度は幼女の隣にいる小さな熊と目が合った。中型犬サイズの茶色のモフモフで、胸の辺りには船っぽい形の白い模様がある。


 月の輪熊の子供かな? 色が違うような気がするけど、生で本物を見た事ないからなあ。太った猫のようにも見えて、これ無性に守ってやりたくなるな。脚の怪我も痛々しいし


「グゥゥゥ」


 あらら、唸られた。ちょっと警戒されてるな、まあ当然か。逆に、急に目の前に現れた半裸の男を警戒しないようなら、この小熊の将来が心配だ。


 よし。そうだな、こいつに協力してもらおう。「会話に詰まった時にゃペットでも褒めときゃいいべ」って遠山も言ってたし。


『大丈夫だ。俺は敵じゃない』


 俺は、小熊に優しく声をかけた。本当に敵じゃないと思う。俺を呼んだのは、女の子の声だった。その俺を呼んだ声と、小熊の隣にいる幼女の声は似ていた……と思う。


 それにあの声は、少なくとも緑色の小さなオッサンに出せるような物じゃない。いや、緑色の小さなオッサンが出していい声じゃない。そんな事をされたら俺の価値観が崩壊してしまう。


「…………」


 小熊からの返事はなかったけど、警戒は緩んでる気がするな。これならいける。



『そうだ、賢いな。俺は味方だ、守ってやるよ』


 俺はそう言って、小熊に笑顔を向けた。これ、顔は小熊に向けているが、メッセージは、ほぼ幼女に向けている。ペットをダシにするナンパのテクニックのモドキだが、幼女は引っ掛かってくれるだろうか。


「クゥ」


 よしよし。ダシの小熊の方は、俺を味方だと認識した……と思う。声がグゥからクゥになったのは、たぶんそれだ。チョロいな熊ちゃん。


 そんな熊ちゃんは、しばらく俺の身体を見分するように眺めた後で、頭を大きくあげ、俺を見上げるようにしてから。


「クーン」


 次に、幼女の顔をちらっと見てから。


「クーン」


 その次に、俺達を囲んでいる、緑色の小さなオッサン達の方へ視線を向けたかと思ったら、うーむ。これはなんだろう……。笑顔でいいんだろうか?


 可愛いんだけども悪い顔だ。まるで、ぬいぐるみに邪悪な魂でも憑依したかのような、そんなお顔を見せた後。


「グルルルルー」


 えーと、これはなんと言いますか……。虎の威を借る狐ならぬ、虎縞腰巻男の威を借る小熊、の出来上がりだこれ。


 この大きいのはボクの友達だぞ、ボクをイジメたらどうなるか分かってるのか? とか言ってそう。あ、端っこの緑色の小さなオッサンとか泣きそうな顔してる。やるなあ熊ちゃん、あんた策士だ。

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